十三番台の悪魔
よく晴れた日曜日のことだった、妻が子供を連れて出かけたのをみはからっって、俺は、すかさずいつものパチンコ屋へ出かけた。給料は貰ったばかり、いつもの決まった額の小遣いをもらったばかりなので軍資金は豊富だった。目指すのは数日前に痛い目にあわせられた十三番台だ。俺は開店前から店の前に並び、晴れた空に向かって小さく歌を歌っていた。そして開店と同時に十三番台を目指したのだ。俺が十三番台を見つけ、そこに座ろうとするとその台に向かって煙草の箱をを投げつけたやつがいた。煙草をその台の前に置き、先にその台の権利を取ろうとするやつだったのだ。
「何だ、このやろう!そこは俺の台だぞ!」
俺はそいつの顔をゆっくりと見た。目つきの悪いその男は俺の顔を見てにやりと不敵な笑いを見せつけたのだ。
「けっ、でれでれしてるおめえがわりーんだよ」男はそう言った。
すぐさま俺はその男の下に回りこみ、やつの顎に向けて全身の力をこめて頭突きを見舞ったのだ。男は歯が何本か折れ、「ぐふっ」という変な声を出し、鼻血を出してその場に倒れこんだ。
「俺の唯一の楽しみを邪魔するんじゃねえんだよ」
まじめな銀行員の俺はパチンコ屋に来ると、家や職場では絶対使わない言葉使いをしたりそんな態度になった。自分でも不思議だった。不況の波に襲われた銀行は例に漏れず、リストラが盛んで、仕事はできるのに運が悪いのか俺自身も確実に窓際に追い込まれていた。自分に気付いてくれない上司に対して俺はストレスに満ち溢れていた。
十三番台を取るのに俺は手段を選ばなかった。一撃必殺だった。俺はすぐさま店員を呼び寄せ、倒れている男を排除させたのだ。
「けっ、おめえ、今日も渋い顔していやがるなあ。そんなに無理して釘、閉めたって、おれの腕じゃそんなもの関係ねーよ」
俺は十三番台に向かってそうつぶやいた。
「バーカ、今日の俺は特別なんだよ。おめーごときに俺から玉、搾り出せるのかよ。てめーの金、全部、俺が飲んでやっからよー。また泣くことになるからな。玉が抜かれるのはてめーの方なんだよ」
十三番台のスピーカーからそんな声が響いた。
俺は給料をもらったばかり。いつも以上に金をポケットに詰め込んでいたので気持ちには大いに余裕があった。
「好きなだけほざけ、ばか。おめーのハラんなかの玉、全部、俺が吐き出させてやるわ。おめーも今日でお払い箱ってコト。明日になったら新台に変わってるってのがわかんねーのかね」俺は台をにらめつけながら大いに笑った。
俺はあらかじめ百円玉に崩しておいた金を台の前に無造作に置き、ハンドルに手をやり銀色の玉を打ち始めた。俺の唯一の生きがいだ。俺はその快感に酔いしれた。そしてしばらくの時間が過ぎた。デジタルの液晶画面は回ることは回るのだが、どんなに金をつぎ込んでも、大当たりは出ないでいた。気がつくと俺の一ヶ月の小遣いは半分になっていた。
「どうなってんだ、このやろう?いい加減にしろよ」
「(笑)だから言っただろ。おめーにおれは倒せねえんだよ。おめーのモチガネ全部とってやっからよ。明日からカップラーメンでもすすってろ。一家心中か?(笑)」
辛抱の時が過ぎていた。そして俺はキレた。こういうことはよくあることなのだが、その日だけはどういうわけだか、俺の怒りは早くも頂点に達していたのだ。
「ざけんじゃねーぞ、俺をなめてんのか、また俺に昼飯抜きにしろっていうのか!このやろう」
「どんなにあがいたって今日のおめーに俺から玉、出せねーよ。なんならもっと釘、閉めてやっか?」
おれはその言葉に逆上し、足で台の下を思いきり蹴飛ばした。
「ぐわっ」
十三番台からあえぎ声が響いた。
店全体を揺るがすようなその衝撃は、十三番台にも大いに影響を与えたようで、今まで全くそろいもしなかったデジタルの数字がリーチ目を示すようになってきたのだ。
「わかりゃあいいんだよ、わかりゃあ」
最初からそんな態度を見せていれば良かったのだと俺は小さく口元に笑みを浮かべた。その時だ。賑やかに点滅を繰り返していた十三番台の電飾が急に光る事を止め、暗くなったのだ。そしてデジタルの回転をスタートさせる入賞口に全く玉が入らなくなったのだ。台があきらかに釘を閉め始めたのは確実だった。微妙に釘の角度を変えて玉の流れ方を変えてしまっている事は確実だった。俺はさっきよりももっと激しく逆上した。
「おのれ、どういうつもりだ!俺をばかにしてるのか!」
「コレでも食らえ!」
十三番台はそう叫んだ
先制攻撃は十三番台の方からだった。右手で握り締めているハンドルにちくっとした痛みを感じた。俺は必要以上に力がこめられている右手に疲れがたまっているのだろうと思い、一度手を離して休めようとしたのだ。しかし、なんという事だろうかそのハンドルから右手が離せなくなっていたのだ。
「なんだ、手が離れねーぞ?」
その直後だった。十三番台はそのハンドルに三万ボルトの電流を流してきたのだ。高電流は俺の脳髄までしびれさせ、俺は声にならない声を出し、もだえ苦しんだ。
「これで、おめーもおわりだな、大したことのねーやろーだ。おれからドル箱とるなんて百年はええんだよ、おら!」
「ぐわっ、このやろーなにしやがる!ううっ、やめろ、やめてくれ」
このままではやられるなと思った俺は最後の力を振り絞って台の硝子めがけて強烈な頭突きを食らわせたのだ。
「思い知れ!」
三回目の頭突きでその硝子は砕け散り、ハンドルから流れる電流も止まった。同時に俺の額からも少し血が流れ出ていた。そんな事はどうでも良かったのだ。あと数分、電流が俺の体を通りぬけていたら俺の命はなかった。危機一髪だったのだ。しかし痙攣している俺の手はハンドルから離れないままでいた。俺はそれを気にせず、ガラスが無いままに俺は夢中になって球を打ちつづけた。十三番台も観念したらしく、派手な電飾は再び点灯し、デジタルに7が二つ揃い確率変動型のリーチ目に突入したのだ。
「ちくしょうやっと来やがったか、最初からそうしていれば痛い目にあわなくてすむんだよ」
俺は間違いなく大当たりになると確信してそれまで我慢していた煙草に火をつけたのだ。これで7が出れば大当たり、連チャンの期待が多いに高まり、これまでこの台に飲みこまれてきた大金の一部を取り戻す事ができる。しかし右手はいくら踏ん張っても取れないままでいた。
「まあいいか、大当たりが来るまでの辛抱だろ」
右手をあきらめ、俺はゆっくりと左手で煙草をふかし店員にコーヒーを注文して飲んだ。これから充分にこの台から玉を搾り取ってやろうという気分になっていた。一番最後の数字は7を目指してゆっくりと回りそのスピードを落としていった。その動きは百%の確立で訪れる大当たりの合図だった。
その時だ。台の一番上の四本の釘が、わずかに動いたと思うのも束の間、ビシッと音を立て俺の額めがけて発射されたのだ。
「うわっ!」
よける間もなく四本全ての釘が俺の額に突き刺さった。そしてそこから四本の筋となって血が流れ始めたのだ。俺はうなり声を上げながら一本ずつその釘を抜いた。手についた血を見ていると、そろうべき7はあざ笑うかのようにゆっくりと6で止まった。俺の怒りは再び頂点に達した。
「おめーの腕ではせいぜいそこまでだ。おめーに俺の大事な7が三つ揃えられると思ってのか、甘いんだよおめーは。そこまでよくやったよ。ほめてやりてーぐれーだよ。それよりよ、おめーのくる
「よくもやりやがったな、俺を怒らせたらどうなるかわかってるのか!」
台に唾を吐きかけ、いつも護身用として懐に持っているマイナスドライバーで液晶の画面をめがけて突き刺そうとした。俺がそうする直前になって、今度はその画面から強烈な閃光が発せられたのだ。
「うわっ」
まともにその光を見てしまった俺はあろうことか、一瞬にして網膜を焼かれてしまったのだ。
「な、なんだ、この光は?うわっ、目が、目が見えねー、なにしやがった?」
目の前が真っ白になった。額からあふれ出る大量の血、ほとんど見えなくなってしまった俺の右目、かすかに見える左目、ハンドルにへばりついている俺の右手、俺は相当のダメージをおっていた。しかし、それでも俺の戦闘意欲はまだ萎えてはいなかった。俺の振り上げたままの左手のドライバーを液晶画面の上に鋭く突き刺したのだ。外れた液晶画面はそのまま床に転がり落ち、同時に中の部品がばらばらと落ちてきた。
「どうだ、俺を怒らせるとこうなるんだ、わかったかこのやろう」
俺ははあはあと肩で息をしながらとどめをさしたと確信した。やつの心臓部を貫いたのだ。勝利を確信し目を閉じて上を向いてその喜びに浸った。その時だ。床に落ちた液晶画面にリーチがかかりこの後に及んで7の数字が3個あっけなくそろったのだ。そして大当たりした時に開く台の下の大きな入賞口がぽっかりとその口を開き、次々と玉がそこに飲みこまれて行き、下の払い出し口に大量の玉が出てきたのだ。いたんだ俺の目から今度は涙が出てきた。俺は勝ったのだ。
「確変だ、連チャンだ」
この勝負に勝ったのだ。それだけで嬉し涙があふれてきていた。うれしさのあまりひるんだその時だ。その大きな入賞口から甘い香りのする白い煙が俺の顔めがけて噴出してきたのだ。
「うわ、毒ガスだ!」
俺はひるんだ。そしてその台からすぐに離れようとしたがへばりついている右手がそうはさせなかったのだ。
いきなりの事だったので俺はその煙をまともに吸い込んでしまった。
「ごほっ、ごほっ、…なにしやがる…なにしやがるんだ…」
おれは意識がもうろうとし、その時になってようやく開放してくれた右手もろとも、ついにその場に倒れこんでしまったのだ。予想もしなかった毒ガス攻撃で俺はくたばったのである。
俺の負けだった。きょうこそ勝ってやると意気込んでいた俺の完全なる負けだったのだ。
俺は横たわったまま台を見上げた。
「いいか、今日のことは絶対忘れねーからな、おぼえてろよ、ごほっごほっ」
俺は体を引きずるようにしてその店から出た。ぼろぼろになった体で店から出た。俺はつぶやいた。「早くこの傷を癒して金を稼いだらもう一度あの台と勝負だな、今度、この店に来て十三番台と勝負をする時は、もっと強力な武器と武装、作戦が必要だな」
独り言を言いながら、十三番台の悪魔に復讐を誓い、家に向かってよたよたと歩いていった。その時だ。俺の背後から轟音が聞こえた。
俺はふと空を見上げた。するとなんということだろう、よく晴れた空に、北側から飛んできたであろう黒光りの攻撃ミサイルが俺をめがけてまっしぐらに向かってきていた。
「やろう!ついにやりやがったな!!!!」 終
2002年 茨城県鹿嶋市 初演
よく晴れた日曜日のことだった、妻が子供を連れて出かけたのをみはからっって、俺は、すかさずいつものパチンコ屋へ出かけた。給料は貰ったばかり、いつもの決まった額の小遣いをもらったばかりなので軍資金は豊富だった。目指すのは数日前に痛い目にあわせられた十三番台だ。俺は開店前から店の前に並び、晴れた空に向かって小さく歌を歌っていた。そして開店と同時に十三番台を目指したのだ。俺が十三番台を見つけ、そこに座ろうとするとその台に向かって煙草の箱をを投げつけたやつがいた。煙草をその台の前に置き、先にその台の権利を取ろうとするやつだったのだ。
「何だ、このやろう!そこは俺の台だぞ!」
俺はそいつの顔をゆっくりと見た。目つきの悪いその男は俺の顔を見てにやりと不敵な笑いを見せつけたのだ。
「けっ、でれでれしてるおめえがわりーんだよ」男はそう言った。
すぐさま俺はその男の下に回りこみ、やつの顎に向けて全身の力をこめて頭突きを見舞ったのだ。男は歯が何本か折れ、「ぐふっ」という変な声を出し、鼻血を出してその場に倒れこんだ。
「俺の唯一の楽しみを邪魔するんじゃねえんだよ」
まじめな銀行員の俺はパチンコ屋に来ると、家や職場では絶対使わない言葉使いをしたりそんな態度になった。自分でも不思議だった。不況の波に襲われた銀行は例に漏れず、リストラが盛んで、仕事はできるのに運が悪いのか俺自身も確実に窓際に追い込まれていた。自分に気付いてくれない上司に対して俺はストレスに満ち溢れていた。
十三番台を取るのに俺は手段を選ばなかった。一撃必殺だった。俺はすぐさま店員を呼び寄せ、倒れている男を排除させたのだ。
「けっ、おめえ、今日も渋い顔していやがるなあ。そんなに無理して釘、閉めたって、おれの腕じゃそんなもの関係ねーよ」
俺は十三番台に向かってそうつぶやいた。
「バーカ、今日の俺は特別なんだよ。おめーごときに俺から玉、搾り出せるのかよ。てめーの金、全部、俺が飲んでやっからよー。また泣くことになるからな。玉が抜かれるのはてめーの方なんだよ」
十三番台のスピーカーからそんな声が響いた。
俺は給料をもらったばかり。いつも以上に金をポケットに詰め込んでいたので気持ちには大いに余裕があった。
「好きなだけほざけ、ばか。おめーのハラんなかの玉、全部、俺が吐き出させてやるわ。おめーも今日でお払い箱ってコト。明日になったら新台に変わってるってのがわかんねーのかね」俺は台をにらめつけながら大いに笑った。
俺はあらかじめ百円玉に崩しておいた金を台の前に無造作に置き、ハンドルに手をやり銀色の玉を打ち始めた。俺の唯一の生きがいだ。俺はその快感に酔いしれた。そしてしばらくの時間が過ぎた。デジタルの液晶画面は回ることは回るのだが、どんなに金をつぎ込んでも、大当たりは出ないでいた。気がつくと俺の一ヶ月の小遣いは半分になっていた。
「どうなってんだ、このやろう?いい加減にしろよ」
「(笑)だから言っただろ。おめーにおれは倒せねえんだよ。おめーのモチガネ全部とってやっからよ。明日からカップラーメンでもすすってろ。一家心中か?(笑)」
辛抱の時が過ぎていた。そして俺はキレた。こういうことはよくあることなのだが、その日だけはどういうわけだか、俺の怒りは早くも頂点に達していたのだ。
「ざけんじゃねーぞ、俺をなめてんのか、また俺に昼飯抜きにしろっていうのか!このやろう」
「どんなにあがいたって今日のおめーに俺から玉、出せねーよ。なんならもっと釘、閉めてやっか?」
おれはその言葉に逆上し、足で台の下を思いきり蹴飛ばした。
「ぐわっ」
十三番台からあえぎ声が響いた。
店全体を揺るがすようなその衝撃は、十三番台にも大いに影響を与えたようで、今まで全くそろいもしなかったデジタルの数字がリーチ目を示すようになってきたのだ。
「わかりゃあいいんだよ、わかりゃあ」
最初からそんな態度を見せていれば良かったのだと俺は小さく口元に笑みを浮かべた。その時だ。賑やかに点滅を繰り返していた十三番台の電飾が急に光る事を止め、暗くなったのだ。そしてデジタルの回転をスタートさせる入賞口に全く玉が入らなくなったのだ。台があきらかに釘を閉め始めたのは確実だった。微妙に釘の角度を変えて玉の流れ方を変えてしまっている事は確実だった。俺はさっきよりももっと激しく逆上した。
「おのれ、どういうつもりだ!俺をばかにしてるのか!」
「コレでも食らえ!」
十三番台はそう叫んだ
先制攻撃は十三番台の方からだった。右手で握り締めているハンドルにちくっとした痛みを感じた。俺は必要以上に力がこめられている右手に疲れがたまっているのだろうと思い、一度手を離して休めようとしたのだ。しかし、なんという事だろうかそのハンドルから右手が離せなくなっていたのだ。
「なんだ、手が離れねーぞ?」
その直後だった。十三番台はそのハンドルに三万ボルトの電流を流してきたのだ。高電流は俺の脳髄までしびれさせ、俺は声にならない声を出し、もだえ苦しんだ。
「これで、おめーもおわりだな、大したことのねーやろーだ。おれからドル箱とるなんて百年はええんだよ、おら!」
「ぐわっ、このやろーなにしやがる!ううっ、やめろ、やめてくれ」
このままではやられるなと思った俺は最後の力を振り絞って台の硝子めがけて強烈な頭突きを食らわせたのだ。
「思い知れ!」
三回目の頭突きでその硝子は砕け散り、ハンドルから流れる電流も止まった。同時に俺の額からも少し血が流れ出ていた。そんな事はどうでも良かったのだ。あと数分、電流が俺の体を通りぬけていたら俺の命はなかった。危機一髪だったのだ。しかし痙攣している俺の手はハンドルから離れないままでいた。俺はそれを気にせず、ガラスが無いままに俺は夢中になって球を打ちつづけた。十三番台も観念したらしく、派手な電飾は再び点灯し、デジタルに7が二つ揃い確率変動型のリーチ目に突入したのだ。
「ちくしょうやっと来やがったか、最初からそうしていれば痛い目にあわなくてすむんだよ」
俺は間違いなく大当たりになると確信してそれまで我慢していた煙草に火をつけたのだ。これで7が出れば大当たり、連チャンの期待が多いに高まり、これまでこの台に飲みこまれてきた大金の一部を取り戻す事ができる。しかし右手はいくら踏ん張っても取れないままでいた。
「まあいいか、大当たりが来るまでの辛抱だろ」
右手をあきらめ、俺はゆっくりと左手で煙草をふかし店員にコーヒーを注文して飲んだ。これから充分にこの台から玉を搾り取ってやろうという気分になっていた。一番最後の数字は7を目指してゆっくりと回りそのスピードを落としていった。その動きは百%の確立で訪れる大当たりの合図だった。
その時だ。台の一番上の四本の釘が、わずかに動いたと思うのも束の間、ビシッと音を立て俺の額めがけて発射されたのだ。
「うわっ!」
よける間もなく四本全ての釘が俺の額に突き刺さった。そしてそこから四本の筋となって血が流れ始めたのだ。俺はうなり声を上げながら一本ずつその釘を抜いた。手についた血を見ていると、そろうべき7はあざ笑うかのようにゆっくりと6で止まった。俺の怒りは再び頂点に達した。
「おめーの腕ではせいぜいそこまでだ。おめーに俺の大事な7が三つ揃えられると思ってのか、甘いんだよおめーは。そこまでよくやったよ。ほめてやりてーぐれーだよ。それよりよ、おめーのくる
「よくもやりやがったな、俺を怒らせたらどうなるかわかってるのか!」
台に唾を吐きかけ、いつも護身用として懐に持っているマイナスドライバーで液晶の画面をめがけて突き刺そうとした。俺がそうする直前になって、今度はその画面から強烈な閃光が発せられたのだ。
「うわっ」
まともにその光を見てしまった俺はあろうことか、一瞬にして網膜を焼かれてしまったのだ。
「な、なんだ、この光は?うわっ、目が、目が見えねー、なにしやがった?」
目の前が真っ白になった。額からあふれ出る大量の血、ほとんど見えなくなってしまった俺の右目、かすかに見える左目、ハンドルにへばりついている俺の右手、俺は相当のダメージをおっていた。しかし、それでも俺の戦闘意欲はまだ萎えてはいなかった。俺の振り上げたままの左手のドライバーを液晶画面の上に鋭く突き刺したのだ。外れた液晶画面はそのまま床に転がり落ち、同時に中の部品がばらばらと落ちてきた。
「どうだ、俺を怒らせるとこうなるんだ、わかったかこのやろう」
俺ははあはあと肩で息をしながらとどめをさしたと確信した。やつの心臓部を貫いたのだ。勝利を確信し目を閉じて上を向いてその喜びに浸った。その時だ。床に落ちた液晶画面にリーチがかかりこの後に及んで7の数字が3個あっけなくそろったのだ。そして大当たりした時に開く台の下の大きな入賞口がぽっかりとその口を開き、次々と玉がそこに飲みこまれて行き、下の払い出し口に大量の玉が出てきたのだ。いたんだ俺の目から今度は涙が出てきた。俺は勝ったのだ。
「確変だ、連チャンだ」
この勝負に勝ったのだ。それだけで嬉し涙があふれてきていた。うれしさのあまりひるんだその時だ。その大きな入賞口から甘い香りのする白い煙が俺の顔めがけて噴出してきたのだ。
「うわ、毒ガスだ!」
俺はひるんだ。そしてその台からすぐに離れようとしたがへばりついている右手がそうはさせなかったのだ。
いきなりの事だったので俺はその煙をまともに吸い込んでしまった。
「ごほっ、ごほっ、…なにしやがる…なにしやがるんだ…」
おれは意識がもうろうとし、その時になってようやく開放してくれた右手もろとも、ついにその場に倒れこんでしまったのだ。予想もしなかった毒ガス攻撃で俺はくたばったのである。
俺の負けだった。きょうこそ勝ってやると意気込んでいた俺の完全なる負けだったのだ。
俺は横たわったまま台を見上げた。
「いいか、今日のことは絶対忘れねーからな、おぼえてろよ、ごほっごほっ」
俺は体を引きずるようにしてその店から出た。ぼろぼろになった体で店から出た。俺はつぶやいた。「早くこの傷を癒して金を稼いだらもう一度あの台と勝負だな、今度、この店に来て十三番台と勝負をする時は、もっと強力な武器と武装、作戦が必要だな」
独り言を言いながら、十三番台の悪魔に復讐を誓い、家に向かってよたよたと歩いていった。その時だ。俺の背後から轟音が聞こえた。
俺はふと空を見上げた。するとなんということだろう、よく晴れた空に、北側から飛んできたであろう黒光りの攻撃ミサイルが俺をめがけてまっしぐらに向かってきていた。
「やろう!ついにやりやがったな!!!!」 終
2002年 茨城県鹿嶋市 初演
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