12月はびっくりするようなニュースが立て続けでした。
雲ひとつない青空に綿帽子が舞う中で美香さんを見送り、
その足でOMS戯曲賞の最終選評会に行き、はしけんの脚本が佳作に選ばれて
あぁ、スタッフとして関わった芝居が選ばれる嬉しさと、
自分が出演した作品が選ばれる嬉しさは全然違うのだなと
初めて感じ、哀しいことの後には嬉しいこともあると、つくづく思った一日で、
お祝いの会でひとしきり飲んで、たくさんの演劇人が集まっている風景を眺めながら、演劇というものに出会えて良かったと心の底から思ったのです。
少し飲み足りなかったけれど、早めに家路につき、この二日間の出来事を相方に報告していると一通のメールが来ました。
なんだかかしこまった始まりのメールで、そんな風に普段話す人じゃないのにどうしたのかなと。
読み進めていくと、それは彼女本人からではなく、一緒にお店をやっている旦那さんからのメールでした。
美香さんが亡くなったその日の晩、犬の散歩中に、車が歩道に突っ込んで来て二日後に逝ってしまったと書かれていました。
昔から、美容院に行くのが苦手でした。
どんな髪型がいいのか説明出来ないし、胡散臭い美容師の人が多くて、少し勇気を出さないと行かれないのです。
玉造に引っ越してすぐに、面倒で伸ばしっぱなしの髪に嫌気が差して、前から少し気になっていた美容院にドキドキしながら入りました。
店内は緑に囲まれ、天井が高く、明るくて、入った瞬間に、居心地の良さを感じました。
受付には寡黙だけど優しそうな男性の美容師さんがいます。
瞳が大きくて、笑顔の可愛い女性が奥から出て来て対応してくれました。
彼女は気さくに話しかけてくれて、どんな風にしたいかをきちんと聞いてくれました。
シャンプーもカットも、丁寧でいて素早く、今までなら、切り終わった後になんとなく納得のいかない感じで店を後にするのに、彼女に切ってもらうと、ものすごくいい気分になれるのでした。
もともと、美容にあまり関心がないので、一度バッサリ切ったらそのまま放置して、芝居の公演前にその役に合わせて切りに行くか、長い髪に耐えられずに行くかなのでひどい時は半年ぶり!みたいなこともあって、いつも彼女に叱られていました。
お互いの家族の話をしたり、彼女は犬、私は猫の話をして行くうちに、芝居の話にもなったり。
劇団☆新感線が好きだと言う彼女と維新派の大阪公演のトイレ待ちで遭ってお互いにびっくりしたり。
彼女に髪を切られながら、悩み事を相談したり、されたり。
いつもひまわりみたいな笑顔で、ケラケラと笑って、その度に私の心は軽くなるのでした。
最近は、現場が続いたり、色々続いてしんどい時に、彼女に会いに行くことを自分が頑張ったご褒美にしていました。
「出来るだけ期間を空けずに来ないとダメですよ。そうだな、白髪が気になり始めたくらいでね」
「自分でちゃんとワックスでセットしていつも可愛くしていてね」
っていつも言われていたから、今年はちゃんと行くって約束して。
新感線のチケットが取れなかったと残念がっていたから、友人にチケットを取ってもらったら、すごく喜んでくれて。
そのことがきっかけで、彼女のプライベートなアドレスがわかって、タイ好きな彼女がタイ料理を作りに家に来るって約束をしました。
その時のために、と言うわけではなかったけれど、パクチーの種を蒔いて。
観に行ってくれた後にものすごく楽しかったと言うメールが来たのに、それに返信するのがなんだか照れくさくて、今月の現場が終わったら、また彼女に髪を切ってもらおうとメールをしようと思っていたのです。
すでに身内のみで葬儀が行われたこと。
一緒にいた彼女の愛犬は、一晩街をさまよい、保護され、左足の打撲で済んだこと。
マジでタイ料理を作りに行くと言っていたこと。
旦那さんのメールで知りました。
次の日、彼女の美容院を覗きに行くと、明かりがついていました。
「まだ無理かもしれないけど、今日から店を始めます」
と。
事故現場にはたくさんの花が供えられていました。
車が突っ込んだ生垣の一部はその衝撃を伝えるようにバラバラになっていました。
立ち入り禁止の黄色いテープが風で揺れていました。
ほんの少し、時間が違っていたら、巻き込まれることはなかったかもしれない。
突然の事故で大切な人を失うのは大竹野さん以来で
なんだか、まだふわふわとしています。
大好きな大好きなみきちゃん。
7年のうちの数日間しか会ってないけど、本当に大切な人。
まだお別れは言えないので
大好きなタイの真っ青な空の下で、ひまわりみたいに笑っていると
しばらくの間は思うことにするね。