先週はちょっと気分にムラがあった。
たぶん自分はすでに双極性Ⅱのラッピッドサイクラー(急速交代型)に近いのではないかと思っている。
風邪もひいてしまい、免疫力が低下するとうつ症状や不安焦燥は増加する。台風が近づいていたり、天候が急激な変化をすると事前に自律神経系がおかしくなる。
で、心身の体調は万全ではないが、数日ぶり今日の午後に少しだけ散歩をした。
コンビニでスイーツを買う。ちょっとがんばった自分を適度に甘やかすのもうつ病や双極性障害の人には大事だと思う。
古典的なうつ病の病前性格ではないが、うつ病を含む気分障害群のひとたちは頑張り屋さんだし、自分に「OK」を出せない。
帰り道にある家の窓に黄色い旗が大きく飾ってあった。
「サッカーチームのフラッグにしちゃあ、変なデザインだなぁ???」と思った。
近づいてよく見ると「ATOMKRAFT? NEIN DANKE」と書かれている。「原子力? ノーサンキュー」って訳でいいんでしょうかね?
家に戻ってネットで調べるとドイツの反原発団体のロゴだと判る。同時に浜岡原発操業中止要請を中部電力が受け入れたというニュースが流れていた。
今日NHK教育でTVシンポジウム「うつ病と躁(そう)うつ病を知る」というのがやっていた。
前半では精神科系脳科学研究で有名な加藤忠史氏の映像もあったが、パネリストは名古屋大の尾崎紀夫氏, 対人療法の水島広子氏, 漫画家の藤臣柊子氏という3人でちょっと迫力にかける感じであった。
漫画家の藤臣氏を除けば、前出の加藤氏を含む3人の精神科医はうつ病学会双極性障害委員会の主要メンバーである。そう考えるとこの番組は双極性障害の特に2型を意識したメンバー構成だと思った。
2009年のNHKスペシャル「うつ病治療~常識が変わる」は本当に一般にとってはスペシャルな爆弾番組だった(興味のあるひとはアーカイブや専門家ブログを参照してください)。
あまりにもこのスペシャルな番組の影響力が強かったためか、その後NHKは「ためしてガッテン」などでその火消に必死だった。「ためしてガッテン」に脳内物質薬推進者だった精神医学界の大物研究者が「薬は万能ではない。効くまで3ヶ月はみて」と出てきたときにはちょっと驚いた。
話を戻すがNHKスペシャルを前後して(たしかNHKだけでなくどこかの新聞社の記者が精神科クリニックの問題や薬、誤診を特集していたが)、厚生労働省やうつ病学会が脳内物質薬の副作用や多剤処方について注意喚起をしたのも同年だったと思う。
今回のシンポジウムでもうつ病や特に躁鬱病における精神療法や対人療法の有効性をとくに水島氏が指摘していた。
確かに認知行動療法あるいは医者の立場からいう精神療法はうつ病や双極性障害に有効な患者さんもいる(だたし以前ブログで触れた神田橋先生は双極性障害への精神療法、特に自省を促す精神療法には否定的である)。
けれど出演している水島氏のクリニックも含めて、対人療法や認知行動療法の健保適応の病院は非常に少ない(ちゅうかいまの厚生労働省の規定だと医師指導下しか適応でないし範囲も狭い)。
したがって自由診療になるので費用も非常にかかる(通常60分1万円~位)。
また自分にあった有能な精神科医を見つけるのが難しいのと同様に、自分にあった対人療法あるいは認知行動療法をしてくれる有能な臨床心理士やカウンセリング可能な病院を見つけるのはなかなか難しい。
シンポジウムで語られている理想が実際の巷ではなかなか見つけることはできない。それは現場の医療従事者たちはよく知っているはずだと思う。もちろんパネリストもだ(オンタイム情報ではないが加藤氏HPによれば「水島氏クリニック予約は慢性的にいっぱいだ」と書いていた)。
「絵に描いたもち」をいくら放送しても、それで「徒労」と「幻滅」を経験しても「希望」は与えられないと思う。
ボクの担当医の立場からだと、自分はDSM-4等の「気分障害」区分の「双極性障害のⅡ型」になるそうである。
双極性障害というと昔でいう「躁鬱病」の一種であるのだが、アメリカ精神医学会やWHOの最近の考え方では「気分障害」の中に「うつ病」も「躁鬱病」も区分される。そしてはっきりとした「躁鬱病=双極性障害-Ⅰ型」ではない波の小さいものを「双極性障害-Ⅱ型」と区分している。
うつ病学会・双極性障害委員会ではこの新しい気分障害-双極性障害Ⅰ及びⅡ型を「双極性Ⅰ型障害」「双極性Ⅱ型障害」と表記している(以下からその表記)。
この病気は一見するとうつ病としか見えない。
なぜならばいわゆる「躁状態」はわずかであり、しかも極端な躁ではない。だから長い間観察していかないと「双極性Ⅱ型障害」という診断はつかないこととなる。
もう一方でこれはNHKも特番で報じたことであるが、最新の脳内物質型抗うつ病薬(SSRI等)を不用意に使い続けると、もともと双極性Ⅱ型の傾向をもっていた人はそれが悪化させるはめとなる(経験の浅い精神科医、心療内科医でよく起る)。もともと双極性Ⅱ型を持っていなかったうつ病の人でも、安易に医者がSSRI等を多量投与すると双極性Ⅱ型障害の症状が発症してしまう。このことはすでにうつ病学会でも厚生労働省からも注意喚起がだされている(って、いままでSSRIが「安全だ」といっていた同じ学者が「注意喚起」というお粗末さだが)。
双極性障害研究者加藤忠史氏は「元々うつ病と診断された潜在的双極性障害の人が抗うつ薬によって躁転しているだけ(要約)」と自著で言及している。ただもしそうだとしてそれで躁が酷くなったり、間違った抗うつ薬投与によって急性交代型に進展するならやはり医者にも多少の責任があると思う(5/20追記)。
自閉症・発達障害でもそうだが、双極性障害でもスペクトラム(光等の分散・虹色)概念を用いる。つまるところ、双極性症状も人によってⅠ型の人からⅡ型あるいは違った症状(グラデーション)の出方があり、それはひとつの型に特定することはできない、という立場だ。これも病理学がアメリカのDSMの統計学的分類によって頓挫してしまった証でもあるし、方便でもある。つまりはっきりとした病名などつけられないのだ。
一方で、双極性Ⅱ型障害自体が日本の医療者や一般にある程度注目注意されたのは「うつ病新時代-双極性2型という病/内海健(精神科医・病理学者)」の本のお陰だと思う。この本出版の前後には悪意はなくとも「誤診」的なSSRI等の投薬が開業クリニック等で行われた。つまり便利なDSM等の統計学的なチェックシートだと「うつ病」と「双極性障害Ⅱ型」を見分けることはほぼ不可能である。うつ病との診断下でおこった軽躁時に、本人もまた医療者も「うつ症状が改善した」と考えても、「軽躁である」との注意をしない。
結果、ボク自身もそうであるが運が悪いと「双極性Ⅱ型障害」と診断がつくまで、長い間「うつ病」として治療を受けることとなる。「病名が変わること=今までの治療時間・努力の無駄=適切な薬物療法ではなかったこと」を考えるとそれを受け入れることに自分自身非常に時間がかかった。
従来の躁うつ病の立場でいくなら、双極性障害の遺伝的な傾向はうつ病よりも強い。
ただ元帝京大の内海健先生の様に現代社会病理学的な立場から、「物語(理想・目的)の喪失」によってこうした病気が発症しやすい社会環境が起こっている」と指摘する立場もある。ちょっとニーチェの予言した「ニヒリズム」やポストモダンを思い起こさせるところはある。
一方で現場主義的な九州大学教授だった神田橋條治先生の様な「双極性障害に内省してもどうか」という立場もある。
ただ中井久夫先生と同じで神田橋先生もある種の「天才」であるので、じゃあ誰でも神田橋先生の様にクライアントと対応できるかといえば疑問も残る。
神田橋先生の双極性障害は「おじいちゃんとかおばあちゃんとかもそうじゃない?」と前置きした上での「体質だよ」という言い方、「気分屋的に生きれば、気分は安定する」という言い方は名言であるとは思う。
なんにしても医者や周囲の病気に対する「眼差し」で患者自身の病識もかなり変化するのだと思う。