のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「神の国を侵略した龍」5

2017-08-25 09:57:19 | 小説
 ここは郊外の病院、いや、診療所です。小さい個人経営の診療所のようです。今ここの病室のベッドで1人の女が目覚めるところです。
「うう・・・ こ、ここは?」
 女は怪獣に変身してた女でした。まだかなりきついようです。それでもなんとか立ち上がろうとしました。しかし、立てません。
「くっそー・・・」
「どうした?」
 その突然の声に女ははっとしました。ドアのところに医師らしき人影があります。男性にも女性にも見える医師。髪はショートだけどポニーテールなところを見ると女性のようです。年は30歳未満。女医さんらしく、メガネをかけています。女はその女医さんにぶっきら棒に話しかけました。
「あんた、誰?」
「小林クリニックの医者」
「なんで私はここにいる?」
「昨日うちに運ばれてきた」
「なんで?」
「覚えてないのか?」
 女はうなずきました。
「まあ、覚えてないだろうなあ・・・ 昨日渋谷で怪獣が出た。これは覚えてない?」
「覚えてる」
「あんたはガレキの中から発見された。これは覚えてない?」
「なんとなく覚えてる」
「ここからかな、覚えてないのは? あなたは救急車に乗せられた。でも、他の病院はすでに満ぱいで、ここまで運ばれてきた」
「そして一晩ここで過ごしたのか?」
「正解」
 女医さんはここでちょっと時間を置き、発言しました。
「あんた、地球人じゃないよね。内臓の構造が私たちとまるっきり違う」
 女は特に反応しません。
「残念だけど、私はテレストリアルガードか警察に通報する義務がある」
 女は今度は不快な顔を見せました。
「やめて」
「やめてって言われてもねぇ、これは義務なんだ。もし通報しなかったら、私、医師免許取り上げで、明日っから喰っていけなくなるんだ」
「やめてったら、やめて!」
 女は怒鳴るように発言しました。ちょっと時間を開け、今度は女医さんが質問しました。
「じゃ、訊くわよ。あんた、いったいなんなの?」
「私は・・・ 私は昨日渋谷で暴れたドラゴン・・・」
「はぁ?」
 女医さんは唖然としてしまいました。女医さんはこの女は5年前地球を襲ってきたユミル星人の兵隊の生き残りだと思ってたからです。でも、すぐに納得しました。
「そっか、これであなたの創傷の意味がわかった。あの創傷の原因はミサイルだったんだ。でも、巨大化する宇宙人は知ってたけど、巨大な怪獣に変身する人間がいたなんてね・・・」
「別に巨大化してたんじゃない。今が小さくなってるだけだ」
「そっか・・・」
「通報するのか?」
「しない」
「なんで?」
「宇宙人だったら通報義務があるが、怪獣に変身する人間は通報する義務はないから」
 それを聞いて女は、ちょっと笑いました。

 渋谷で怪獣が暴れた事件をいつの間にか人々は渋谷怪獣事件、またはただ単に渋谷事件と言うようになりました。その渋谷事件から2日後、小林クリニックに入院中の女は今ベッドの上で半身起こされてます。上半身は包帯でぐるぐる巻き状態です。女医さんがその包帯を解いてます。包帯が解かれると、背中にいくつかのガーゼが出てきました。そのガーゼを外すと、その部分の皮膚は裂け、中の肉もえぐれてました。女医さんがその傷に霧吹きのようなもので薬を吹きかけました。その瞬間、女にひどい傷みが走りました。
「いた・・・」
「我慢しろ。お前、ほんとうは巨大なドラゴンなんだろ?」
 再び包帯を巻いて、今日の治療は終了。ここで女が女医さんに質問しました。
「なんで私を助ける?」
「きまぐれ」
「私はお前の同胞を1000人以上殺したんだぞ」
「別に私の親族が殺されたわけじゃないんだ、無関係」
 この件に関しては、女医さんから明確な答えは得られないようです。女は質問を替えることにしました。
「この国には神がいるのか?」
「いたな、昭和20年、西暦1945年までは。あまり役に立つ神じゃなかったが」
「今はいないのか?」
「いない」
「一昨日巨大化して私と闘った女は、女神と言われてた」
「女神?・・・ ヘルメットレディのことか?」
「あいつ、ヘルメットレディというのか? 私は女神と聞いたぞ。ヘルメットレディてなんなんだ?」
「地球の守り神みたいなものだ」
「守り神? やっぱり神じゃないか」
 女医さんは「それは比喩的表現だ」と言おうとしましたが、話がややっこしくなりそうなので、やめておきました。
 女はふとマガジンラックに入ってる新聞を見ました。
「あっ、それ取って」
「これか?」
 女医さんは女に新聞を取ってあげました。女がその新聞を広げると、その1面には、大病院のエントランスの前で子どもたちに囲まれてる女神隊員の写真が。女医さんはそれを横目で見て、
「そいつがヘルメットレディだよ」
「あは、やっぱり人気があるんだ・・・ とっても凛々しくて、みんなに尊敬されてるんだろうなあ・・・」

 一方こちらは大病院に入院してる女神隊員です。女神隊員はドクターストップがかかってるとはいえ、元気いっぱい。医師にそれをアピールするため、医師が診断に来る時間に合わせストレッチ体操を始めました。で、医師がやってきて、やっぱり怒られました。
「困りますねぇ・・・」
 女神隊員はとても小さくなりました。
「あは、すみません・・・」

 渋谷事件から3日目・4日目・5日目・・・ そして7日目。今日も怪獣の女は治療を受けてました。今その治療が終わったところです。
「今日から包帯はいらないな」
「出てってもいいのか?」
「おすすめできないな」
 おすすめできない=命の保証はできないが、退院しても構わない。女はそう解釈しました。女は女医さんに質問ました。
「もう1度訊かせて欲しい。なんで私を助けた?」
「きまぐれ」
 やっぱり真面目に応えてくれそうにないようです。女は黙ってしまいました。すると今度は女医さんの方から質問してきました。
「じゃ、私から訊いていいかな? なんで渋谷を壊した?」
「壊したかったから」
 女も真面目に応える気がないようです。女医さんはちょっと気分を害したようです。いや、そのふりをしたようです。
「私はあなたの命を助けたんだ。少しは見返りがあってもいいんじゃないか?」
「わかった」
「じゃ、もう一度訊くよ、なんで壊したんだ?」
「壊したかったからさ。私はいろんな次元に行って、その土地の町を破壊して、その土地の軍隊を潰すことに興味があった」
「すごい趣味だなあ、おい。今まで負けたことはなかったのか?」
「なかった。今まですべての町を破壊できた。もちろん、逆襲されたこともあったが、それでも最後は屈服させた。こんなに逆襲されたのは初めてだ」
「そんなに破壊して、何が楽しいんだ? 最終的には何をしたかったんだ?」
「神の国を壊したかった」
「はぁ?」
 女は視線を上の方に向け、
「私が住んでた次元では、生物の頂点は我々ドラゴンだった。人類は数が少なく、力が弱かったから、相手にすらならなかった。が、人類はあっという間に増えて行き、科学技術も向上させ、いつの間にか我々を脅かす存在になっていた。
 ついに一部地域で我々と人類が衝突し、それがきっかけで全面戦争に突入した。戦況は我々に有利だったが、神が人類に協力するとあっという間に形勢が逆転し、結局我々のリーダーが敗北を宣言し、我々は片隅に追いやられた。私はそれに納得しなかった。私は時空に穴を開けると、別の次元に逃走した。
 その次元では人類が平和に暮らしてた。私はその光景が許せなかった。怒りを爆発させた私は、人類の町を破壊して破壊して破壊しまくった。ある程度破壊し尽すと、私は納得し、別の次元に飛んで行き、その町も破壊しまくった。その町を破壊し尽すとまた別の次元に飛んで行き、その町も破壊し尽くした。
 でも、どんなに破壊しても、私の心は晴れなかった。いつかは元の世界に戻って、あいつらを屈服させたい。あいつらを屈服させたら、今度は神の国に行って、あいつらに協力した神をぶっ潰したい。それが今の私の夢だ」
「ほんとうに神の国なんてあるのか?」
「あるじゃないですか、ここに」
 女医さんは少し笑いました。
「そっか」

※8月26日このページの最後の部分を大幅に添削し、再UPしてます。

女神「神の国を侵略した龍」4

2017-08-22 07:25:49 | 小説
「おい、しっかりしろ! しっかりしろ!」
「うう・・・」
 彼女は目を醒ましました。怪獣に変身してた女です。今は人間体になってます。女は身体のあちらこちらから出血してたようで、全身血だらけです。ただ、今は出血のほとんどは止まってるようです。女はガレキの中に倒れていました。自分が壊した街のガレキです。それを2人の捜索隊員が発見したところです。
「安心しろ。いますぐ病院に連れてってやるからな。しかし、変わった格好だなあ。劇団員か?」
 女は一瞬何が起きてるのかわからないようですが、すぐに理解しました。そして手を差し伸べた男の手をパシリと叩きました。
「いらん!」
「えっ?」
 2人の男はその行動に驚きました。女は立ち上がると、
「ほっといて!」
 と言って、歩き出しました。2人の男は、
「お、おい!・・・」
 が、2人は諦めて、
「しょうがないなあ・・・」
 と言って、別の方向に去って行きました。女は重い足取りで歩いてます。かなりきつそうです。
「くそーっ、痛い、全身が焼けるように痛い・・・ こんなに痛めつけられたのは、いつ以来だ?・・・
 どうやって帰ろう。ふふ、神の国を侵略した罰かな・・・」
 女の耳にふと異音が聞こえてきました。女が顔を上げると、ヘリコプターが飛んできました。報道用ヘリコプターです。そのヘリコプターが女の頭上を通り過ぎて行きました。
「くそーっ、ヘリを飛ばすなと言ってんだろ! ぜんぜん心音が聞こえないじゃないか!」
 突然の怒鳴り声。女ははっとしてその声の方向を見ました。すると数人の捜索隊員が集まってました。捜索隊員たちは何か機械を持ってます。女は思いました。
「この次元の世界には、微細な心音を聞ける魔法の機械がるのか?」
「いたぞーっ!」
 女はその声の方向も見ました。ここにも数人の捜索隊員がいます。すでに穴が掘られてる状態です。その穴の中から死体が出てきたようです。
「だめだ、死んでる・・・」
 捜索隊員が女性の死体を引きずり出しました。すると別の捜索隊員が叫びました。
「赤ん坊だ! 赤ん坊がいるぞ!」
 その男は赤ん坊を抱き上げましたが、すぐ顔色を変えました。
「だめだ、こっちも死んでいる・・・」
「かわいそうに・・・」
「母親が身を挺して赤ん坊の命を守ろうとしたのに、その苦労は水の泡か・・・」
 女はさらに進むと、不思議な光景を見ました。先ほどと同じユニホームの捜索隊員数人が、手を合せ、祈ってるのです。
 その反対方向を見ると、女性とその幼い息子とさらに幼い女の子がいます。女性と幼い男の子は祈ってますが、幼い女の子は理解してないようです。母親と兄にしつこく訊いてます。
「ねぇ、お父さんは? お父さんは?」
 それを見て女は愕然としてしまいました。女は今までいろんな次元の国を侵略してきました。そしてたくさんの町を破壊してきました。彼女にって町を破壊する行為は、最高の娯楽だったのです。しかし、自分が破壊した町がその後どうなったのか、一度も確認したことがありませんでした。初めて見たその光景は、あまりにも残酷でした。女は思いました。
「ひどい・・・ 私は今までこんなひどいことをしてきたの?・・・」
 と、女はふらっとし、立っていられなくなり、その場にへたり込んでしまいました。
「あは、ついに天罰がきた。ここまでか・・・」
 女は自分に駆け付ける2人の男を見ました。しかし、ここまで。女は気を失ってしまいました。

 病院の1人用の病室です。
「ありがとうございました」
 ベッドに寝かされてる隊長に、女神隊員は立って頭を深々と下げました。彼女の衣服は入院服で、頭にはウィッグなど単眼を隠すものはありません。自動翻訳機のヘッドセットがあるだけです。隊長は立ち上がることができないようで、そのまま首を横に倒し、女神隊員を見ました。
「よせよ。お前だって医者に寝てろと言われてるんだろ。自分の病室に帰って、すぐに横になれよ。これは命令だ」
「はい」
 女神隊員は振り返り、出て行こうとしました。が、隊長が、
「あ」
 と言うと、立ち止まり、振り返りました。
「はい?」
「その眼、隠しておけ。どこにカメラ持ってるやつがいるのか、わからんぞ」
「はい」
 女神隊員は再び振り返り、出て行こうとしました。が、また隊長が、
「あ」
 と言うと、また立ち止まり、また振り返りました。
「今度はなんですか?」
「テレビつけてってくれ」
「はい」
 女神隊員はテレビのメインスイッチに手を掛けました。するとテレビがつきました。
「ありがと」
「もう用事はないですか?」
「ないよ」
「それじゃ」
 女神隊員はドアを開け、出て行きました。隊長はぽつりと言いました。
「ちゃんと寝てろよ。脳震とうと言っても、後遺症が出る場合があるからな。しかし、あいつが脳震とうで、助けに行ったオレがひざとろっ骨の骨折て、なんかバランスが悪くないか? ちっ、しゃべるだけで痛いや・・・」
 隊長はテレビを見始めました。テレビの中では廃墟となった渋谷スクランブル交差点が映ってます。今レポーターがしゃべってるところです。
「今日渋谷に出現し消滅した怪獣ですが、現在自衛隊とテレストリアルガードが捜索してますが、いまだに発見にいたってません。どこに行ったのか、まったくの謎です。
 死者の数ですが、すでに800人を越えてます。行方不明者はまだ200人以上いる模様です。今必死の救出活動が行われてるところです」
「死者1000人以上か・・・」

 夜になり、朝になりました。女神隊員は病室の中でテレストリアルガードの隊員服に着替えてる途中です。実は女神隊員はドクターストップがかかってるのですが、もう出動する気でいます。しかし、ここでいきなりドアがノックされました。
「へっ?」
 女神隊員はちょうどヘルメットをかぶってるところでした。
「ど、どうぞ!」
 ドアが開き、看護師さんが入ってきました。女神隊員は勝手にテレストリアルガードの隊員服を着てるので、これは怒られるなと覚悟したのですが、
「ちょうどよかった!」
 看護師さんは女神隊員の手首を握りました。
「ちょっと来てください!」
「へ?」
 女神隊員は看護師さんに手を引かれてエレベーターに乗り、1階へ。そしてエントランスへ。エントランスの外には人だかりができてます。女神隊員はそれを見てびっくり。
「な、何、これ?」
「すみません。みなさんにあいさつしてください。さっきから玄関が使えないんですよ」
「あ、はい」
 女神隊員はとりあえずエントランスの外に出ました。人だかりは100人くらいの小学生でした。その小学生たちが一斉に「うわーっ!」と声を上げました。女神隊員はちょっとびっくりです。
「ええ?・・・」
 女神隊員の最も近くにいる小学生の男の子が、声をかけました。
「ヘルメットレディさん、もうお身体は大丈夫なんですか?」
「う、うん、大丈夫。見ての通り」
「よかった」
 子どもたちはわーいと叫びました。それを子どもたちのさらに外側にいるカメラマンたちが撮影してます。
「ヘルメットレディさん、これ」
 別の小学生の女の子が、女神隊員に箱を渡しました。縦30cm、幅45cm、高さ10cmくらいの紙製の箱です。女神隊員はそれを受け取りました。が、何がなんだかわからず、頭に?を浮かべてます。するとそれを渡した女の子が、
「箱を開けてみて」
 女神隊員が箱を開けてみると、中身は千羽鶴でした。と言っても、実際は百羽鶴ぐらい。おまけに、地球にやってきたばかりの女神隊員はその意味がわかりません。とりあえず女の子にこう言いました。
「ありがと」
 女の子は満面の笑みを浮かべました。女神隊員はふと海老名隊員に言い放った緊迫のセリフを思い出しました。
「もしバレたら、巨大化して、できるだけたくさん壊して死ぬ! もうその覚悟はできてるから!」
 そして思いました。
「あのとき、暴走しなくってよかったあ・・・」
 もう登校の時間は過ぎてます。子どもたちは三々五々消えていきます。
「それじゃ、またね~」
 小学生たちが女神隊員に手を振って去って行きます。その小学生に女神隊員は手を振って応えました。
「ありがとう、またね!」
 小学生たちが去って行きました。が、カメラマンたちの撮影は続いてます。
「ヘルメットレディさん、身体の具合は?」
「ヘルメットレディさん、ヘルメット取って、顔を見せてください!」
 なんて声も響いてきました。女神隊員は慌てます。
「ええ・・・」
 女神隊員は逃げるように慌てて振り返りました。するとそこには、2人の男性医師が立ってました。
「困りますねぇ、あなたは今重度の脳震とうで入院中なんですよ」
「おとなしく病室に戻ってください」
 2人の男性医師に言われ、女神隊員は恐縮しました。
「あは、すみません・・・」

女神「神の国を侵略した龍」3

2017-08-21 10:46:13 | 小説
 隊長は寒川隊員に命令です。
「おい、降ろしてくれ!」
「は、はい!」
 ストーク号が空中停止。腹から真下に淡い光が放たれました。エレベーターシャフト代わりの光です。そこから隊長の身体が降りてきました。怪獣はその光景を見て、
「ん、天使降臨?・・・」
 隊長は地面に降りると、女神隊員の身体に向かって駆け出しました。
「くそーっ、死んでないよな? 女神よ・・・」
 その発言は独り言でそれゆえ小声でしたが、聞き耳を立ててた怪獣の耳にははっきりと届きました。
「女神だと? あいつは女神なのか? じゃ、今駆け付けた男は天使ではなく、神? ここは神の国だったのか?・・・」
 ちなみに、ヘロン号はこの時点でも怪獣の後頭部にビームを浴びせてますが、それにはまったく反応してません。橋本隊員は焦ってます。
「くそーっ、何かやつに効く兵器はないのか?」
 地上では隊長が女神隊員の両肩を握り、その身体を半身起こしてるところです。
「おい、しっかりしろ!」
 しかし、女神隊員は何も反応しません。隊長は女神隊員のヘルメットを取りました。そして自分の右手のグローブの中指の先っぽを噛み、そのグローブを取り、その手を女神隊員の首筋に当てました。
「脈はある・・・」
 そこに寒川隊員から連絡が。
「隊長、自衛隊機が来ます! F2です!」
 上空はるか、5機のF2戦闘機がV字に編隊を組んで飛んできました。
 隊長は女神隊員の身体をお姫様抱っこで抱き上げました。
「くっそーっ! こんなときに・・・」
 と、隊長は後方からの視線を感じました。横目で後ろを見ると、怪獣がじーっと自分たちをにらんでました。隊長は焦りました。
「なんだよーっ! こっち見んなよーっ!」
 隊長は女神隊員を抱いたまま駆け出しました。怪獣はその女神隊員の単眼に注目しました。
「サイクロプス? この世界にはサイクロプスがいるのか? 女サイクロプスに神、ふふ、これは真っ先に消しておくべき存在だな!」
 怪獣は口の中に炎を溜め込み始めました。この瞬間5機のF2戦闘機が2発ずつミサイルを発射。ぶ厚い雲を突き抜け、10発のミサイルが飛んできました。怪獣が火焔を吐こうとした瞬間、そのミサイルが怪獣の身体に全弾命中。大爆発。怪獣は悲鳴を上げました。
「ぎゃーっ!」
 その爆風が隊長と女神隊員の身体を吹き飛ばしました。
「うぐぁーっ!」
 2人の身体はガレキの上を転がりました。それを見てストーク号の寒川隊員は唖然としました。そして次に悲鳴に近い声を上げました。
「隊長ーっ!」
 隊長は目を醒ましました。
「うう・・・」
 隊長は立ち上がろうとしてます。しかし、右ひざに激痛が走り、うまく立てません。
「くそーっ・・・」
 隊長が顔を上げると、目の前に女神隊員の身体が転がってます。彼女の特徴的な単眼が丸見えです。隊長はそれを見て、女神隊員のヘルメットを取ったことを悔やみました。こんなところを新○や文○や東○ポなどのカメラマンに発見されたら、女神隊員の単眼が撮影されてしまいます。いや、今は素人のカメラマンさえ怖い状況です。それだけは絶対避けないと。隊長はなんとか立ち上がると、再び女神隊員の身体を抱き上げました。
 一方10発のミサイルを一度に喰らってしまった怪獣は、若干きつそうです。口の中には炎を溜めてます。
「くそーっ、へんちくりんな魔法弾を使いやがって!」
 怪獣は空を見上げました。しかし、雲がぶ厚く、敵が見えません。
「雲に紛れて攻撃するなんざ、小賢しいわ!」
 怪獣は火焔を吐きました。その火焔にさらされ、その部分の雲が吹き飛びました。その透間からこっちに向かってくるF2戦闘機5機が見えます。今F2戦闘機が再び2発ずつミサイルを発射。怪獣はそれを見て、口の中に炎を溜めました。
「へへっ、丸見え!」
 怪獣が火焔を吐きました。それがミサイル10発を爆破、さらにF2戦闘機5機までもが一瞬で消え去ってしまいました。
「ふははは、こんなもんなの? この世界も全部私のものよ!」
 と、2発のミサイルが飛んできて、怪獣の首筋にヒット。怪獣は再び悲鳴を上げました。
「ぐはっ!」
 そのミサイルを撃ったのはヘロン号でした。橋本隊員が喜びながら、
「ふっ、こいつ、ミサイルは効くぞ!」
 倉見隊員がそれに応えました。
「光学系兵器は一切効かないクセにミサイルは効くなんて、へんなやつですねぇ」
 橋本隊員が本部に連絡です。
「上溝、聞こえるか?」
 テレストリアルガードオペレーションルームの上溝隊員がそれに応えました。
「はい!」
「ストーク2号にありったけのバンカーバスターとジェイダム爆弾を積んで来てくれ!」
「了解!」
 その上溝隊員に海老名隊員が話しかけました。
「私も行く!」
 海老名隊員はまだ中学生。本来なら連れてってはいけないのですが、上溝隊員はあまりストーク号を操縦したことがない上に、操縦しながらミサイルを撃つことはほぼ不可能。ここは海老名隊員に助けてもらうことにしました。

 再び渋谷周辺です。ヘロン号がビルとビルの隙間を飛んで行きます。怪獣が火焔を短い間隔で連発しますが、ヘロン号にはまったく当たりません。怪獣は悔しがってます。
「くっそーっ、ちょこまかちょこまか動き廻りやがって!」
 怪獣はいかにもドラゴンて感じの翼を広げ、はためかせました。すると怪獣の身体が浮きました。それを見て倉見隊員はびっくり。
「あ、あいつ、空を飛べるのか?」
 飛び始めた怪獣が空中で火焔を連射。ヘロン号はそれを次々と避けていきます。橋本隊員はそれを横目で見て、
「ふっ、おもしろいじゃないか! ついてこい! ついてこい!」
 ヘロン号はビルの谷間をスラロームで飛んで行きます。怪獣がそのあとを追い駆けます。が、怪獣の翼がビルに接触し、バランスを崩してしまいました。
「うわっ・・・」
 怪獣の身体は道路上をスライディングするように落ちました。怪獣は飛行するヘロン号を見て、
「くっそーっ!」
 怪獣が口の中に炎を溜めて行きます。そして思いっきり火焔を吐きました。その火焔が高いビルに命中。その瞬間ヘロン号はそのビルの真後ろを飛んでました。火焔を浴び、そのビルがボキっと折れます。ヘロン号はその火焔を寸前で交わしました。その火焔ですが、やはり数百m先の建物まで壊して行きます。倉見隊員はそれを見て、
「くわーっ、なんて火焔なんだよ!」
 橋本隊員がそれに応えました。
「くっそーっ、応戦したくても、残るミサイルはあと2発。上溝、早く来てくれ・・・」

 一方ストーク号ですが、ビルの陰で空中に留まってます。腹からは2本の光を地面に照射してます。エレベーターシャフト代わりの光です。その下では寒川隊員が女神隊員の身体を負ぶってます。その背後には隊長がいますが、立ってるだけでもきつそう。今転びました。寒川隊員は振り返り、
「隊長!」
「ばかやろーっ! 早く行けっ!」
「しかし・・・」
「早く行くんだよっ!」
 寒川隊員は光の中に入りました。隊長も足を引きずりながら、なんとか光の中に入り、浮上しました。

 ヘロン号はまだ怪獣から逃げ回ってました。と、その上空にストーク2号が現れました。それを見て、橋本隊員も倉見隊員も笑顔になりました。
「よし、来た!」
 ストーク2号のコックピット。上溝隊員が海老名隊員に命令です。
「ジェイダム爆弾発射!」
「了解!」
 ストーク2号の腹のハッチから4つのミサイルが発射。それが怪獣の身体に着弾。大きな火花が散り、怪獣が悲鳴を上げました。
「ぐわーっ!
 こっのーっ、ぶっ殺してやるーっ!」
 怪獣は口に炎を溜めてます。橋本隊員がそれを見て、
「させるかーっ!」
 ヘロン号がミサイル2発発射。それが怪獣のうなじに命中。
「うぐっ!」
 怪獣は火焔を吐くものの、それは足下にでした。怪獣はその反射熱を思いっきり浴びてしまいました。
「うわっ・・・ くっそーっ!」
 上溝隊員が再び海老名隊員に命令。
「バンカーバスター発射!」
「了解!」
 ストーク2号はまたもやミサイル4発発射。そのミサイルすべてが怪獣の身体にに突き刺さりました。ワンテンポ置いて大爆発。これはそうとう強烈だったらしく、怪獣は今までにない悲鳴を上げました。
「うぎゃーっ!」
 もうもうとした爆煙が晴れると、そこには何もありませんでした。それを見て橋本隊員は驚きました。
「消えた?・・・」

女神「神の国を侵略した龍」2

2017-08-20 18:36:11 | 小説
 4人は部屋に入り、カラオケ開始です。まずは海老名隊員が歌いました。リアル中2で中二病患者の海老名隊員が歌う歌は当然アニソンです。寒川隊員は「またかよ」という顔。隊長はふつーに微笑んでいます。女神隊員はタンバリンではやし立ててます。
 次は隊長の番。隊長が歌う歌はZONEのsecret base、スピッツの空も飛べるはず、スキマスイッチの奏など。寒川隊員は「よかった、隊長はふつーの歌を歌うんだ」と心の中で安心しました。隊長はいつも海老名隊員とアニメ番組を見てるから、隊長もきっとアニソンばかり歌うんだろうなあと思ってたのです。でも、出てくる映像はみんなアニメばかり。なんなんでしょうねぇ・・・
 次は寒川隊員です。寒川隊員が歌う歌は尾崎豊一本やり。海老名隊員は呆れてます。でも、女神隊員はやっぱタンバリンではやし立ててます。しかし、15の夜や卒業てタンバリンではやし立てる曲じゃないっすよねぇ・・・
 で、女神隊員ですが、彼女は歌いません。彼女が地球上の歌を知ってるはずがありません。もし知ってたとしても、自動翻訳機を介すると、どうしても微妙なタイムラグが発生してしまいます。それゆえカラオケに歌を載せることができないのです。でも、女神隊員はとてもうれしそうに見えます。
 寒川隊員がまた尾崎豊の曲を歌い始めました。
「ええ~」
 海老名隊員は呆れてます。スマホを取り出して尾崎豊を検索してみることにしました。で、驚愕の事実を知りました。寒川隊員が生まれた年に尾崎豊は亡くなってるのです。なんで寒川隊員は尾崎豊を知ってるんでしょうか?
「もう、尾崎豊なんか飽きた~」
 ついに海老名隊員が駄々をこね始めました。隊長がその海老名隊員を見て、
「じゃ、次は一緒に尾崎○香の歌を歌おっか」
 海老名隊員は急に笑顔になり、
「ぱないの!」
 と応えました。で、2人で頭にけもの耳を付けてドッタンバッタン大騒ぎ。50過ぎたおっさんとは思えない隊長の行動に、寒川隊員はただひたすら苦笑するしかありませんでした。
 ところで、問題の隊長の食事ですが、歌に夢中で乾きもの、つまりお菓子しか頼んでません。これなら塩分は大丈夫なようです。

 渋谷のスクランブル交差点です。平日の昼日中だというのに、たくさんの人がゼブラゾーンを渡ってます。その中に不思議な格好をした女がいます。年は18~20歳くらい。フードを被ってます。なんか古代からやってきたて感じの不思議なファッションです。身体はスリムですが、胸はかなり豊かなようです。
 女はゼブラゾーンで立ち止まり、思いました。
「なんだ、この街は? 平和ボケしているじゃないか。私が今まで侵略した国の中でも、ダントツに平和ボケしてる。ふふ、これは壊しがいがある! 壊して壊して壊してやる!」
 と、突然女の身体が巨大化しました。そしてとてつもなく大きな影がスクランブル交差点に現れました。クルマの中の人たちは唖然としました。道歩く人々の顔は恐怖に引きつり、たくさんの人が悲鳴を上げました。

 テレストリアルガードサブオペレーションルーム。緊急通報を聞いて、上溝隊員が振り返りました。
「隊長! 渋谷で巨大な怪獣が暴れてます!」
 それを聞いて隊長は驚きました。
「ええ、巨大な怪獣だと?」
 その隊長に橋本隊員が話しかけました。
「怪獣ですか? 我々の担当ではありませんが?」
「いや、宇宙人が侵略の先兵に連れてきた怪獣かもしれないし、怪獣そのものが宇宙人かもしれないし・・・ ともかく出動しよう!」
 全員がそれに応えました。
「了解!」

 ここはテレストリアルガード滑走路。上空にはかなりぶ厚い雲が出ています。その下、すでにストーク号とヘロン号が宙に浮いてます。そしてここはストーク号のコックピット。いつものように隊長と寒川隊員が横に並んで座っており、後ろの補助席には女神隊員が座ってます。まずは隊長の発言。
「ジャンプの用意はできたか?」
 それに寒川隊員が応えました。
「いつでもできます!」
 隊長は今度はヘルメットに備え付けの無線でヘロン号に呼びかけました。
「そちらは?」
 ヘロン号のコックピット。いつものように橋本隊員と倉見隊員がマスクとシールドを装着して座ってます。橋本隊員が応えました。
「いつでもOK!」
 再びストーク号のコックピット。隊長の命令です。
「よし、ジャンプ!」
 ストーク号とヘロン号がふっと消えました。

 上空です。ここにも分厚い雲が出ています。その雲の下に突然ストーク号とヘロン号が現れました。その眼下、渋谷のスクランブル交差点周辺は大きく破壊されており、壊れたクルマが歩道に積み重なってます。隊長は驚きました。
「な、なんだ、こりゃ?」
 道路の向こうで煙と炎が上がってます。よーく見るとそこには、巨大な生物がいます。
「あれが怪獣か?」
 テレビカメラが怪獣を捉えました。なんか西洋のドラゴンて感じの怪獣です。頭には二股の角が1対生えてます。身体には大きな翼が生えてます。眼光鋭く、まだまだ壊し足りないって顔をしてます。その映像に合わせ、テレビ局のアナウンサーの声が。
「10分前渋谷のスクランブル交差点に突如現れた怪獣は、現在代々木公園の方に向かっています。近くにお住いの方は、すぐに避難してください! もう一度お伝えします!・・・」
 どこからともなく報道のヘリコプターが集まってきました。橋本隊員はそのヘリコプターに眉をひそめました。
「邪魔だよーっ!」
 ヘロン号がそのヘリコプターを蹴散らすように進んで行きます。ヘロン号は腹のハッチを開け、ビーム砲の砲塔を出しました。そのまま道路に沿って飛び、怪獣の真下でビーム砲を発射。そのビームが怪獣の身体に命中。しかし、怪獣は平気な顔をしています。
「ふっ、そんなものが私に効くと思ってんの?」
 と言うと、怪獣は火焔を吐きました。それがヘロン号の背後に。が、ヘロン号は右旋回してその火焔を避けました。それを見てストーク号に乗ってる隊長が、
「なんだなんだ? あの怪獣は火を吐くのか?」
 隊長は道路の両側にそびえたつビル群を見て。
「しかし、このビル群・・・ 巨大なストーク号には不利だ・・・」
 怪獣は渋谷公園通りからNHK方向へ。ようやくビル群がなくなりました。
「よーし、今だ! ビーム砲発射!」
 隊長がトリガーを引きました。するとストーク号の下部の砲塔2基がビーム砲を発射。2条の光線が怪獣の顔の同じ個所を捉えました。が、やはり何も効いてないようです。
「うざいんだよーっ!」
 怪獣が再び火焔を発射。それがストーク号に。
「ショートジャンプ!」
 隊長の命令に寒川隊員が応えました。
「了解!」
 火焔がストーク号に届く寸前にストーク号が消滅。次の瞬間、怪獣の反対側にストーク号が出現。怪獣はそれを見て、
「魔法?・・・ ふふ、この世界の人間も魔法が使えるんだ。こいつはおもしろいじゃないか!」
 再びストーク号のコックピット。女神隊員が5点式シートベルトを外しながら発言しました。
「隊長、私が行きます!」
「大丈夫か? 相手は今までとは違うぞ」
「ふふ、軽く片付けますよ」
「じゃ、頼む!」
 女神隊員の姿は消えました。と、ストーク号よりはるかに高い空に巨大化した女神隊員の身体が現れました。女神隊員は自由落下で落ちて行きます。その脚は蹴る体勢で、さらに青白い光に包まれてます。
「てゃーっ!」
 女神隊員が怪獣の首を蹴りました。それで女神隊員の身体は弾き飛ばされましたが、それ以上に怪獣の身体は高く、大きく弾き飛ばされ、駐車場のアスファルトに叩きつけられました。それを見て隊長、寒川隊員、橋本隊員、倉見隊員は大喜びです。
「やったーっ!」
 怪獣は顔を上げ、犬のようにブルブルと身体を振りました。
「くはーっ! このーっ!」
 怪獣は口の中に炎を溜めてます。火焔を吐く気です。隊長が叫びました。
「やつは火焔を吐く気だ! 気を付けろ!」
 怪獣が火焔を吐きました。
「死ねーっ!」
 その火焔が女神隊員に向かいます。女神隊員はさっと横に避けました。するとその背後にあった巨大な建物に火焔が命中。建物はあっという間に炎に包まれ、吹き飛びました。火焔はそれで止まることなく、一直線に建物を次々と壊していきます。それを上空から見ていたストーク号の隊長と寒川隊員は唖然としてしまいました。
「な、なんて火焔だ。原宿駅どころか、千駄ヶ谷駅まで燃えてるぞ!」
 それを見て女神隊員は、「街が壊される。次は受け止めないと」と思いました。怪獣は口の中にまた炎をため込んで行きます。
「させるか!」
 女神隊員は一緒に巨大化したレーザーガンを発射。それが怪獣の額に的中しますが、やはり何も効いてません。
「だから、そんなものは効かないと言ってるだろ!」
 怪獣は火焔を吐きました。それに対し女神隊員はバリアを張りました。片ひざを付き、両腕を肩よりちょっと大き目なサイズで真っ直ぐ伸ばし、両手を目いっぱいに広げ、バリアを張ったのです。正直女神隊員はまた避けたい気分です。しかし、これ以上街を壊されてはいけません。自ら盾になることを選びました。
 でも、怪獣が吐いた火焔はいとも簡単に女神隊員のバリアを破壊、女神隊員の身体は火焔を浴び、大きく空に弾き飛ばされてしまいました。それを見て隊長、寒川隊員、橋本隊員、倉見隊員は大きな衝撃を受けました。
 女神隊員の身体ははげしく地面に叩きつけられました。その次の瞬間、女神の身体は縮小、等身化しました。怪獣はそれを見て、高笑いしました。
「はっはっはーっ、口ほどでもないわ!」

女神「神の国を侵略した龍」1

2017-08-19 13:07:49 | 小説
「ちわーす、猫猫弁当でーす!」
 お弁当屋さんがテレストリアルガードのサブオペレーションルームに仕出弁当が入った箱を持って入ってきました。部屋には海老名隊員以外のテレストリアルガードの隊員が揃ってます。インターネットにアニメ鑑賞に詰将棋と、もうみんな好き勝手にやってます。唯一真面目にレーダースコープを見ていた(と言っても、これもながらですが)上溝隊員が振り返り、お弁当屋さんのところに歩いて行きました。
「いつもいつもご苦労さん」
 上溝隊員はお弁当屋さんが持っていた書類にハンコを押しました。
「どうもどうも。あ、一番上の色の違う弁当箱が減塩弁当です!」
 と、お弁当屋さんはふと壁を見ました。ちょっと前に女神隊員が破壊した壁です。
「おや、壁が仕上がってる」
 それに上溝隊員が応えました。
「昨夜ペンキを塗ったのよ」
「へー。しかし、こんな頑丈な壁なのに、なんでぶっ壊れたんですか? ゴリラ星人でも暴れたのかな?」
 真犯人の女神隊員が困惑した顔でお弁当屋さんを見ました。と言っても、女神隊員は今フルフェイスのヘルメットをかぶっていて、どんな顔してるのかまったくわからない状態なのですが。上溝隊員は苦笑して応えました。
「あは、レーザーガンが暴発したの」
「へ~・・・」
 お弁当屋さんは去って行きました。
「んじゃ、また~」
 上溝隊員は別の色の弁当箱を隊長の前の前に置きました。
「はい、お弁当です」
 その弁当箱を見て、隊長は露骨に嫌な顔をしました。しかし、上溝隊員はそれに気づきません。上溝隊員はそれ以外のお弁当を他の隊員に配りました。次に上溝隊員はお椀にみそ汁のもとを入れて、それにポットのお湯を注いで、できたみそ汁を橋本隊員に渡しました。
「はい」
「ありがと」
 そして倉見隊員に、寒川隊員に、女神隊員に、そして最後に自分の席にみそ汁のお椀を置き、そのイスに座りました。隊長はその上溝隊員を見て、
「あ~ あの~ 上溝さん・・・」
「はい、なんですか?」
「オレのみそ汁は?」
「へ?」
 上溝隊員は最初不思議な顔をしましたが、次に諭すような顔をして、
「隊長、お医者さんに言われたでしょ。減塩しなさいって!」
 実は隊長は急性心筋梗塞でカテーテル手術を受けたばっかり。隊長は3泊4日で退院しましたが、退院の日、病院からレクチャーを受けました。その内容ですが、急性心筋梗塞の主な原因は塩分の摂り過ぎ。これからは塩分を控えること。具体的には、1日6g、1食2gまで。実はみそ汁には、塩分が1.5g以上入ってるのです。弁当だって通常2.5g以上の塩分が入ってます。つまり弁当+みそ汁で1食4g以上の塩分摂取になってしまうのです。
 隊長と一緒にレクチャーを受けた上溝隊員は、そのときから隊長の食事に異様に気を使うようになりました。みそ汁を抜いたのはそのせいです。しかし、それは隊長には苦行でした。ともかく減塩弁当は味が薄い。みそ汁は抜き。これが朝・昼・晩です。隊長はむしゃくしゃしてきました。
 だいたい隊長の胸の病気の原因は、あの赤い女の子が放った矢です。あれで心臓が止まったのです。それがなんで急性心筋梗塞になった? まったくの理解不能な状況なのです。

 午後4時過ぎ、海老名隊員が中学校から帰ってきました。
「ただいま~」
 海老名隊員はさっそくノートパソコンを広げて、インターネット開始。それ以外はなんの変哲もない1日でした。
 いよいよ夕食の弁当を注文する時間となりました。上溝隊員が固定電話の前でみんなに質問です。
「みなさん、お弁当はいつものやつでいいですか?」
 それに対し橋本隊員は、
「ああ、いいよ」
 倉見隊員も、
「いいですよ」
 しかし、隊長は浮かない顔をしてます。寒川隊員はそれに気づき、
「あ、隊長、これからカラオケに行きませんか?」
 隊長の顔がぱっと明るくなりました。
「おお~ いいねぇ~!」
 海老名隊員もその言葉に反応しました。
「あっ、私も行く~」
 しかし、上溝隊員はあまりいい顔してません。
「ダメです、カラオケハウスに出てくる料理はみんな味が濃いんですよ。塩分も当然たくさん入ってるはず!」
 ここで海老名隊員が助け船。
「大丈夫ですよ。私が見張りますから」
 倉見隊員は食い下がります。
「あなた、歌いだすと歌に夢中になっちゃうじゃん。そのスキに隊長がこっそり食べたら・・・ やっぱりダメ!」
「それも大丈夫。私が熱中したら、女神さんが隊長を見張ってるから」
 女神隊員はええ~とした態度をして、自分を指さしました。上溝隊員はついに折れたようです。
「わかったわ。今日だけよ」
 海老名隊員は大喜びです。
「やった~っ!」
 隊長も、寒川隊員もうれしそうな顔を見せました。

 夜と夕方の中間の時間帯。遠くの空だけが赤身がかってます。ここはテレストリアルガード本部の車庫。今大きなシャッターが開き、SUV車が出てきました。テレストリアルガードのカラーリングが施されてないクルマです。実は寒川隊員の私用のクルマです。
 SUV車がゲートの前に来ると、ゲートが自動的に上りました。すると両側からカメラを持った男女が出てきて、SUV車を囲みました。で、車内をバシャバシャ撮影しました。助手席に座ってるサングラスをしている海老名隊員が、わざとらしく嫌な顔をしました。SUV車がカメラマンたちを無視して街道に出ました。
 車内です。海老名隊員はサングラスを取りました。
「もう、ほんとうにあいつら、迷惑なんだから・・・」
 ちなみに、今このクルマを運転してるのは寒川隊員。後部座席には隊長がいます。もちろん、みんな、私服です。
 先ほどのカメラマンたちは、新○や文○や東○ポなどに雇われたカメラマンです。巷では女神隊員は宇宙人で単眼てところまでバレてます。でも、その単眼をカメラに収めた人はだれもいません。だからマスコミは女神隊員の単眼を狙ってるのです。しかし、女神隊員はたくさんの秘密技を持ってます。その1つがテレポーテーション。
 街道の道端に白いワンピースにを着た女性が立ってます。実はこの人が女神隊員。テレポーテーションでここまで来てたのです。
 頭には大きなつばの帽子がありますが、いつもの白い帽子ではありません。これはす○○かのク○リが被っていた帽子。海老名隊員がアニメコスプレアイテムを販売するサイトで買ってあげた帽子です。女神隊員も大変気に入っており、今日初めての外出で被ることにしました。ちなみに、帽子の下には、いつもの前髪のウィッグがあります。
 先ほどのSUV車が女神隊員の側に停まり、女神隊員が後部座席に乗り込みました。
「海老名さん、どうです」
 女神隊員は帽子のつばを両手で触って、海老名隊員に呼びかけました。
「うん、最高!」
 海老名隊員は笑みで応えました。

 カラオケ店のフロントです。寒川隊員と店員のやりとり。
「4名様、2時間ですね」
「はい」
「それではこれにサインをお願いします」
 後ろで待っていた女神隊員の耳元にこんな会話が聞こえてきました。
「お、おい、あの帽子、す○○かのク○リの帽子じゃないか?」
「ほんとだ」
 どうやらヲタクの青年同士の会話のようです。女神隊員はその会話に興味を持ったようです。聞き耳を立てて、その会話を聞くことにしました。
「ク○リてたしか、精神崩壊しちゃうんだよな」
 それを聞いて女神隊員は唖然としました。
「そうそう、なんとか持ちこたえたけど、最終回でまた壊れちゃって、最後は蜂の巣になって、自爆しちゃうんだよなあ」
 それを聞いて女神隊員はびっくり。精神崩壊、蜂の巣、自爆・・・ いつかは自分もそうなるかもしれません。なんか、ものすごく嫌なものを聞いてしまいました。