「遠野昔話村」の横を流れる川沿いに歩いていくと
川岸には色鮮やかに紅葉した木々と昔懐かしい水車が
いかにも遠野の秋らしい美しい風景を醸し出していた。
川縁まで下りて行くと、川底の水草まで透けて見える
澄んだ水面を数羽の鴨が気持ちよさそうに泳いでいた。
遠野の町には昔話にまつわる様々な観光施設があり
そのどれもが、手入れが行き届いていて感心する。
ここは展示品が美しくライトアップされた「昔話資料館」。
昔話の里には似つかわしくない豪華絢爛な打掛。
結い上げた日本髪を美しく飾る鼈甲細工のかんざし。
雅な王朝絵巻が色彩豊かに描かれた風流な貝合わせ。
これらが展示されているのは「遠野城下町資料館」。
こうした展示品を見て、初めて遠野がその昔城下町
だったんだ…ということに気づかされた私。
そして、ここは遠野の昔話を地元の語り部さんから
生で聞くことができる「語り部館」。一階は土産物店。
ここでは毎日、決まった時間に語り部ボランティアさんが
遠野の昔話を語って聞かせてくれる。
この日の語り部は、菊池さんという方で「オシラサマ」
「座敷童」「豆腐とこんにゃく」の三話を語ってくれた。
前の晩、宿で聞いた語り部さんと同じ話もあったが
語り手によって雰囲気が微妙に違い味わい深かった。
菊池さんは、遠野物語の中に収録されているという
明治の頃に起きた大地震と津波の話も語ってくれた。
津波にのまれた家族の帰りを待ちわびる人の話だが
百年後の今また同じような光景が現実に起きている。
おそらく今回の大震災も、被災地の悲惨な状況や
多くの大切な人を失った人々の悲しみとともに
いつまでも語り継がれていくことだろう。