翌朝、目が覚めると遠野の町は深い霧に包まれていた。
そのせいか、幻想的な雰囲気が漂う町を歩いていると
語り部から聞いた昔話が真実味を帯びて思い出される。
遠野観光の中心地である「遠野昔話村」の一角には
遠野物語を世に出した民俗学者、柳田国男ゆかりの宿
「柳翁宿」が、今は「遠野昔話館」として公開されている。
中に入ると、そこには一昔前の古き良き日本があった。
旅館だからか天井が高く、室内はとても明るく開放的。
吹き抜け天井の側壁には、「柳翁館」と銘打たれた
今では見ることも少ない昔懐かしい番傘が見られる。
二階には柳田氏などの著名人が泊まった客室があり
彼らもこんなふうに階下の部屋を眺めたのだろうか…。
「柳翁宿」の奥には「昔話蔵」という白壁の土蔵がある。
ここでは遠野に伝わる昔話が、映像やパネルなどの
様々な方法で、楽しく学んだり体験することができる。
もちろん、柳田の業績についても詳しく知ることができる。
展示品の中で面白かったのが、この大きな甕…。
フタに書いてあるとおり、ソ~っとあけて見た。
いったい何が入っているのかと思ったら…?
何と、甕の中には…、伝説の河童とお賽銭が…!
ユーモアあふれる演出だが、さて、その御利益は?(笑)
この「遠野昔話村」の見学を終え、帰りがけにスタッフの
中年女性から「どちらから?」と声をかけられた。
彼女は笑いながら、「大震災の後、全国からたくさんの
ボランティアさんが来られるようになって、ついつい
『どちらから?』と聞くようになってしまった」のだと言う。
さらに彼女は、ここ遠野でも地震で大きな揺れを感じて
怖かったことや、大震災直後に行ったボランティア体験
のこと、そこで実際に見た被災地の悲惨な様子などを
たんたんと語ってくれた。
そして、全国から本当にたくさんの支援をいただいて
心から感謝していると、私にまでお礼を述べられた。
義援金の支援だけで他に何もしてあげていない私は
かえって申し訳ない気持ちになってしまったのだが…。
震災から半年経った今、ボランティアさんも減ってきて
被災者には、今こそ心のケアが必要だと思う…という
彼女の言葉が、私の心にずしりと重く響いた。
「昔話村」を出て、振り返ると柳田国男の銅像があった。
柳田さん、もしあなたが今この時代に生きていたら
大震災の被災地にどんな支援をされるのでしょうか?