limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㊽

2018年09月27日 15時13分02秒 | 日記
艱難辛苦の末にサウナへ逃げ込んだKとDBは、早速服を脱ぎ捨てて大浴場へ雪崩れ込んだ。「まて!K、まずシャワーを浴びないと湯が臭くなってしまう!」DBが慌ててKのダイブを止めた。依然として2匹の体からは、親父臭とともに微かな異臭が発せられていた。「そうだな、まずは洗濯だ!」KとDBは、シャンプーとボディソープを大量に使い、臭気を洗い流した。それから浴槽の端へと進み、首まで湯に浸かった。ゆっくりと手足を伸ばして、まずは体を温める。「あー、生き返るな。想定外の“追いかけっこ”をやらかしたから、身体の芯から疲れが抜けていく様だ」Kはようやくリラックスしていた。だが、DBは湯を手ですくい上げて鼻で嗅いでいる。「K、湯が匂い始めている!あまり長時間浸かっていると危険かも知れない!」DBは真剣な顔つきで言った。「何!それはヤバイぞ!DB、直ぐに再洗濯だ!」Kは慌てて浴槽を飛び出そうとするが、DBは腕を掴んで「K、ゆっくり動かないと匂いが拡散してしまう!そーと出るんだ!」と言って静かに浴槽から出た。2匹は直ぐにシャワーを浴びて臭気を振り払ったが「これでは“イタチごっこ”だ!浴槽全体が臭くなるのはマズイ!身体から“異臭の素”を駆逐しない限り、俺達には異臭が付きまとうだけだ!」DBは語気を強めて言った。「これまでに体外に排泄した分以外にまだ異臭の素があると言うのか?」Kはヤケクソになってボディソープを使っている。「多分だが・・・、血液中に“異臭の素”があるんじゃないか?」DBは一心に考えつつ言った。「だとすれば、高温室で絞り出す以外にないぞ!しかもリスクがある。また、臭くなると言う事だ!」Kの言う事は最もだった。だが、他に道は無い。「幸いと言っては何だが、今は客が少ない。今のうちに高温室を占拠して“異臭の素”を排出しよう!それしか手は無い!」DBは高らかに言った。「他に道が無いとすれば、やるしかあるまい。DB覚悟はいいか?!」Kが確認する。「ああ、どんなに臭くても我慢して見せよう!」DBは腹を括った。2匹は、高温室の中でも最も温度の高い部屋を選んで、中へと足を踏み入れた。暫くすると、2匹の体内から異臭を含んだ汗が多量に噴き出した。中はむせ返る様な異臭に包まれた。「息が苦しい、熱さより臭さの方がキツイ・・・」Kは高温室の扉に手をかけたが、DBが必死になって止める。「今、扉を開けると異臭が充満して大騒ぎになるだけだ!まだ、我慢だ!もう少し我慢すればきっと“異臭の素”は抜ける!K、我慢だ!」DBも室内に充満している臭気に気が遠くなりそうだったが、必死に堪えた。2匹の身体からは“ガマの油”の様に臭い汗が流れており、高温室からは微かに異臭が流れ出していた。

“スナイパー”の運転する車は、いよいよ第三京浜へ入った。こちらも艱難辛苦の末の到着であった。「ここまで来れば、庭先へ入ったも同然だ。後、1時間半でPホテルの司令部に着くぞ」“スナイパー”が言う。「ボチボチ連絡を入れて置くか」F坊が携帯を取り出して、短いメールを打つ。“第三京浜へ入った。司令部到着は1時間半後の見込み”時計の針は午後3時を指していた。「後ろからベンツがぶっ飛んでくるぜ」N坊が言うと右側を猛然とベンツが走り去った。「馬鹿め!この先は覆面の待ち構えているポイントだ。またしても警察の餌食になるな!」“スナイパー”が言った。暫くするとサイレンが聴こえて、シルバーのクラウンが前に躍り出た。急加速でベンツを追い詰める。「そう言えば前から気になっていたんだが、どうして覆面パトなんかは、みんな“クラウン”を使ってるんだ?」F坊が何気なく聞く。「それは、“クラウン”が開発段階から警察車両として使われる事を前提にして、設計・製作されてるからだ!」“スナイパー”が答える。「警察仕様ってのは、前提条件が厳密に決められているんだ。かつては、色々な車種があったが、警察仕様に改造する手間が意外と難しくてな、今じゃ“クラウン”だけが要件を満たす開発・設計をしてるからだよ。4ドアのセダンってのも必須条件だしな」「そう言う事かい?昔はポルシェとかもあったよな?」N坊が言う。「ああ、そうだが2シーターでは犯人確保に問題がでる。パトカーってのは移動する取調室でもあるからな。覆面にしろ普通のパトにしろ後席のドアは、内側から開かないようにしてあるしな」“スナイパー”は流れるように言ったが「えっ!そうなのか?!」とN坊とF坊は驚いた。「親切で警官がドアを開けてくれる訳じゃない。取り逃がさんように細工してあるから、外から開けるんだ」“スナイパー”はにやけながら言った。「ほれ、丁度取っ捕まってる」先程のベンツがバス停に追い詰められていた。「免停は免れないな。罰金も30万は喰らうだろう。ただ、ベンツで飛ばす金があるから、罰金何て屁でもあるまい」“スナイパー”は右車線へ出て、スピードに乗る。その時、F坊の携帯にメールが届いた。「何々、“Z病院へ向かえ。ランデブーの手配完了。証拠品を手渡して司令部へ帰還せよ”だとさ。どうやら時間を稼ぐつもりらしい」「県警だって明日までに検証しなきゃならない。時間はあるに越したことは無しか」N坊は後方を伺いながら言った。「Z病院でランデブーする相手は分かっているのか?」“スナイパー”が心配そうに聞く。「多分、昨日の秘書課長さん達だろう。そうでなきゃ俺達だって分からないし」F坊が言った。「そうだな。闇雲に“証拠物件”を渡す訳にはいかないし、面の割れてる相手出ないと信用に関わる」N坊も言う。「よっしゃ!Z病院までぶっ飛びと行くか!」“スナイパー”の車は、覆面を尻目に先を急いだ。心地よいエンジンの咆哮が一段と響き渡った。

Y副社長は、会議を閉じて自室へ引き揚げて来たばかりだった。“秘密の第2携帯”が震えたのは、椅子に手をかけた直後だった。この携帯の番号とアドレスを知る者は限られている。秘書課長すら知らないのだ。着信していたのは暗号メールだった。発信者は無論、ミスターJである。あらかじめ打ち合わせてある乱数表から解読すると、“ご所望の証拠物件の確保に成功。秘書課長殿を至急Z病院へ派遣されたし”と読めた。Y副社長は、直ぐさま内線で秘書課長を呼んだ。「お呼びですか、Y副社長?」30秒もしない内に、彼は半分開いたドアから声をかけた。「ドアを閉めて来い」とY副社長が言い、応接席へ座る様に誘った。「これから大至急、Z病院まで車を飛ばしてくれ!大変重要な品が届く。それを出来る限り目立たぬように、ここへ運び込んで貰いたい。車は君が運転するんだ。私の専用車を使って構わんから」と手短に秘書課長へ指示を与える。「分かりました。誰と会えばいいんですか?」と秘書課長が問うと「昨日、1日付き合ってもらった2人が来る。彼らが運んで来たモノをそっくりそのまま受け取って来てくれればいい」とY副社長が言った。「荷物の詳細は私も知らない、だが、これでKとDBは確実に葬り去れる。1昼夜あれば県警も検証できるだろうし、明日にもKとDBはZ病院で逮捕されるだろう」Y副社長の顔には安堵の表情が伺えた。「では、直ぐにZ病院へ向かいます!」秘書課長は一礼すると部屋を辞して行った。「いよいよだ。ミスターJが全力で搔き集めた情報を無駄にする訳にはいかん!」Y副社長は“秘密の第2携帯”を手にすると県警の後輩へ電話をかけた。「Wか?私だ。今、大丈夫か?折り入って頼みがある。大至急、私のオフィスへ来て貰いたい!Z病院に関わる件と暴力団に関わる件で、君に見せたいモノが手に入った。大変貴重な品だ。品定めに来てはくれんか?!」県警のW氏は「午後5時以降なら何とか行けます。必ずお伺いしますよ先輩!」と言って了承した。「済まんが頼む。明日の昼前までが勝敗の分かれ目だ!一応腹は括って来い!」と言って電話を切った。「やってくれるな!ミスターJ!確かに“バトン”は受け取った!後はWに県警を動かして貰えば鉄壁だ!」日は西に傾いていたが、まだ外は明るい。Y副社長の胸の内にも光明が差し込んでいた。

ミスターJとリーダーは、機動部隊の報告を受けていた。「遠望した限り、NPO法人の面影はありません。外壁は完全に塗り直されています。建物は、そのまま利用している様ですが、内部で何が行われているかは、窺い知る術がありませんでした」大隊長はありのままを報告した。「警察の張り込みは予想以上に厳しく、徹底しておりましたので、徒歩での観察も不可能でした。ただ、手前の集落での聞き込みは、既に報告した通りです。遠望からの情報としては、宅配便のトラックの出入りが非常に多いと言う点です。写真にも写っていますが、小包が数多く出入りしておりました。表札は写真では不鮮明ですが、青竜会系列の物産会社の物流センターと書かれておりました」写真の山から伺えるのは、警察の強力な張り込みと物資の出入りの多さであった。運送会社も多岐にわたっており、発送元と発送先でランダムに使われている様だった。「ふむ、とにかくNPO法人は壊滅しているようですね。中で何が動いているかも不明。使用用途も不明か・・・」リーダーは写真をひっくり返しながら考え込む。「後は、NとFが戻るまで待たねばなら様だ。恐らくZZZは、ここからKの自宅へ配送されたはずだ。Kのパソコンに証拠が残っていればいいが・・・」ミスターJも推測するしかなかった。「大隊長、これ以外に何かあるか?」ミスターJが問うた。「1つだけ、青竜会系列の物産会社の名前で、薬剤師募集のチラシが近隣に撒かれた形跡がありました。ハイカーに変装させた隊員が、道端で見つけたものです」と言ってくたびれ切った紙をミスターJに手渡した。「うーん、益々分からん。確かに薬剤師の募集だが、麻薬に薬剤師か?辻褄が合わんぞ」ミスターJも今回ばかりはお手上げの様だった。「大隊長、ご苦労だった。配置に戻って休憩してくれ。何かあれば、追って指示は出す」リーダーは大隊長にそう言うと「任務は予備隊に任せて、休んでくれ。今日は恐らく何も無いと思う。だが、悪臭には気を付けろ!この辺一帯に漂ってる」と警告した。「分かりました。どうりで外が匂うと思いました。嗅いだことも無い異様な臭気ですね。鼻が変になりそうだ・・・」リーダーと大隊長は鼻を摘まんで笑った。その時、ミスターJの携帯に着信が来た。「NとFからだ。“後1時間半後に司令部着”と言って来た。流石はAの子供達だ。さて、どうするか?だな」「と言いますと?」「大分時間を稼いでくれた。Y副社長の元へ一刻も早く届けたい。ランデブーの場所を変更しよう!司令部よりは、Z病院の方が近い。リーダー、NとFにZ病院へ向かう様に指示を出せ!Y副社長には、私から暗号メールを打電する!」2人は、それぞれの携帯からメールを打った。「これで県警を動かすのにも余裕が出る。NとFと“スナイパー”の3人は賞金ものだな。これで元NPO法人のベールも剥げるだろう」ミスターJは安堵の表情を浮かべていた。そこへ、今度は予備隊から連絡が入った。リーダーがオープンマイクに切り換えると「KとDBはサウナへ逃げ込みました。消臭に必死になっている模様です」と言って来た。「他に何か情報はあるか?」とリーダーが誰何すると「悪臭被害に遭ったコンビニの店員の話では“3ヶ月前にもまったく同じ悪臭事件に見舞われている。その時の犯人は外国人で、警察に連行されたものの嫌疑不十分で釈放されている。警官とのやり取りには英語で話していたが、外人同士ではスペイン語らしき言語で話していた”と言っています。その被害を克服した矢先にKとDBが、また悪臭を撒き散らした様です」と報告して来た。「分かった。悪臭には十分に注意して監視を続行してくれ」「了解」電話は切れた。「3ヶ月前にスペイン語だと?!まさか・・・」ミスターJの視線が泳いでいる。「どう言う事です?」リーダーは只ならぬ雰囲気に緊張した。「3ヶ月前、ニカラグアの麻薬組織のトップが密かに来日して、青竜会と接触を持っているんだ。まさかとは思うが・・・、ジミー・フォンが絡んでいるとしたら、ただの悪臭事件で済んだ筈が無い!元NPO法人の関係者が生贄にされていなければいいが・・・」ミスターJは何かを一心に考えている。「麻薬組織のトップがジミー・フォンの餌食にですか?」リーダーも不安そうに聞く。「いずれにしても、もう1手打たねばなるまい。リーダー、△珍楼へ予約を入れてくれ!私自ら食事に行くとジミー・フォンに伝えるんだ!」「えっ!本気ですか?!タダでは済みませんよ!命を狙われる恐れもあります!私が替わりに出向きましょう!」リーダーは必死になってミスターJを止めようとした。「いや、私は丸腰で行くつもりは毛頭ない!強力な護衛を連れて行く。NとFと“スナイパー”の3人だ。リーダー、これなら文句はあるまい!」「はい・・・、それでは△珍楼へ予約を入れます。ですが、くれぐれも用心なさって下さい」リーダーは携帯で予約を入れた。「ジミー・フォンは“最高のもてなしをする”と言っていました。何が“最高”なのかは疑問ですが」「それでいい。ジミー・フォンとは、いずれ真正面から対峙しなくてはならないと思っていた。それがたまたま今日になっただけだ。フォンの供述があれば、青竜会を叩き潰すのが楽になる。そうでなくとも、青竜会と言うハエを追い払うには、ジミー・フォンと言う殺虫剤がいる。扱いはむずかしいがな」ミスターJは腹を括った。“虎穴に入らずんば虎子を得ず”であった。

一方、“2匹の食用蛙”達は、全身を朱に染めて高温室で粘っていた。息も絶え絶え、身体は臭い汗で滑り、呼吸も困難になっていた。「いつまで・・・粘るんだ?」Kは今にも息絶えんばかりに言葉を絞り出す。「そろそろ・・・頃合いか・・・、片目が開かない・・・、K・・・脱出しよう・・・」DBも苦しさに耐えつつ言う。「よし・・・、素早く・・・出るぞ!力を・・・振り絞れ・・・」Kは扉のノブに何とか手をかけた。「せーの!」扉を開くと同時に、2匹は高温室から転がり出た。DBは素早く扉を閉じて、悪臭が流れ出すのを防いだ。しかし、2匹の身体からは強烈な悪臭が漂い始めていた。「シャワーだ!冷たくても構わん!この滑りを洗い流すんだ!」KはDBを引きずる様にして、シャワーを探し当てると、まずはコックを全開にして滑りを洗い流した。「あー、死ぬかと思った。我ながら酷い悪臭だ。DB、どうした?」DBは顔にシャワーを当てて目をパチパチさせている。「悪臭を含んだ汗が目に入った。痛くてたまらん。それにしても、この滑りが“悪臭の素”の様だな」滑りを洗い流しつつDBは断定した。「DB、急げ!俺達はまだ臭いままだ。大至急洗濯に行かねばならん!」Kが急き立てる。2匹は滑りを取り除くと、大急ぎで大浴場へ戻りシャンプーとボディソープを大量に使って、全身を洗い流した。2匹はその後、ジャクジーに浸かった。紫色の湯は微かに漢方薬の香を漂わせていた。DBは、またしても湯を手ですくって匂いを嗅ぎ始めた。「安心しろDB!ここは漢方の湯だ。悪臭は溶け込まんよ!」Kが自信ありげに言った。「今までの経過を思い出して見ろ!俺達は、化学薬物で悪臭を抑えようと躍起になった。だが、逆に悪臭は強烈になるばかり。俺達の身体の中の“悪臭の素”とは相容れないモノでは、悪臭は付きまとうだけだった。仮に、“悪臭の素”が生薬由来のブツだとしたら、ここに居る限り悪臭は漂わないはずだ。何故なら生薬が湯に混ざっているからだ!」Kはそう言い切った。事実、悪臭は抑え込まれたらしく、湯気も臭くなかった。「そうだ!間違いない。実際、臭気は感じられないし、悪臭も漂っていない。何故、今まで気づかなかったんだ!」DBは心底驚いた。「中華三千年の悪臭だとしたら、近代化学工業では消し去れない臭気もあるだろうよ。最も、俺達の発していた悪臭は、化学製品の香を飲み込んで、より強烈な悪臭へと変化し続けた化け物だったがな。漢方の悪臭には、漢方で消臭しないと根絶は不可能だったのかも知れんが・・・。どうだ?まだ、臭うかDB?」Kは腕を伸ばす。嗅いだDBは「何も感じない。消えている」と言った。「ここは気持ちがいい。暫くはここを動かない事だ。そうすれば、完全に消臭できるかも知れん」Kは首までどっぷりと浸かって目を閉じた。広いジャグジーには他の客も入りに来るが、誰一人異臭を感じない様だった。DBも首まで浸かると目を閉じた。それから30分、2匹はジャグジーに居座り続けた。心地よい香りと泡の刺激が2匹を安心させたのだが、そこへ新たな危機が忍び寄っているとは、思いもよらなかった。ジャグジーから這い出た2匹は、ジャスミン茶を飲み始めた。「俺達は、酒とコーヒーしか飲んでいないから、酷い目に遭った。これなら胃の中から消臭してくれるだろう」とKが言い出したからだ。冷たいお茶を3杯おかわりして飲み干すと、2匹はトランクスを履いてデッキチェアへ転がった。まだ膨れている腹にはタオルを乗せた。「どうやら“追いかけっこ”のツケが回って来たらしい。暫く眠るぞ!」Kは直ぐに爆音を響かせ始めた。DBも油断したのかウッカリ爆音を立て始めた。だが、悲劇は突然やって来た。キッカリ15分後に2匹は、腹に鈍痛を感じて跳ね起きた。「DB!感じないか?悪夢の鈍痛を!」Kは無意識に腹を抑えた。「あー!マズイ兆候だ!しかも最悪の事態になるかも知れない!」DBは青ざめた顔で周囲を素早く見渡した。トイレは1か所しか見当たらない。個室は2か所必要だった。「折角消臭に成功したのに、また悪臭まみれになるのか!」Kの顔からも血の気が引いた。徐々に鈍痛は強くなり、まもなく激痛に変わるだろう。「どこかにトイレは無いのか?」2匹は腹を抑えてフラフラと歩き出した。コンビニでの悪夢が頭を過る。「第4弾か!トイレはどこだ?」2匹は途方に暮れた。もう間もなく強烈な悪臭が漂うのだ。消臭スプレーも無い。サウナが悪臭地獄になるまで、残された時間はわずかだった。

△珍楼の奥まった部屋で、ジミー・フォンはいら立っていた。部屋の真ん中には、マホガニーの1枚板でしつらえたテーブルが黒光りを放っていた。テーブルには便せんとペンホルダーとコードレス電話の受話器しか置いていない。毎日このテーブルは、30分かけて専属のスタッフに磨かせている。今、彼は総料理長を呼びつけていた。「食材、食器、茶器は、最高級のモノを用意しろ!ミスターJが自らやってくるのだ!下手なモノを出したら俺のメンツに関わる。スタッフも美人を揃えるんだ!△珍楼の総力を挙げて、もてなすのだ!」「はい、既に準備にかかっています」総料理長は神妙に答えた。「言うまでも無いが、例の“秘伝のエキス”は使用禁止だ。素材の旨味を最大限引き出す調理をしろ。ミスターJまで敵に回すと厄介な事になる」フォンは事細かに総料理長へメニューの指示を出して、最後に決めつけた。「今夜はジミー・フォンの意地を賭けた勝負に出る。他の客は適当に食わせて置けばいい。ミスターJを最優先しろ!」「はい。承知しました」と言うと総料理長は厨房へ戻って行った。「何故、今夜なのだ?何かを掴んだから来るのだろうが、青竜会が絡んでいるとしたら、俺もヤバイ橋を渡るハメになる」ジミー・フォンはミスターJの出方を計りかねていた。「用心に越したことは無い」と呟くと、彼はフロントを呼び出した。「今日の夜の予約状況はどうなっている?分かった。今夜はこれ以上の予約を打ち切れ!飛び込みは、満席だと言ってお断りしろ!とにかく厨房は手一杯になる。そうだ。丁重にお断りをするんだ!いいな!」そう決めつけると、フォンはフロントを封じ込めた。「そうだ!最高級の茶葉があったはずだ!お茶も手を抜く訳には行かない!」フォンは厨房へ向かいながら「金龍烏龍はどこにある?!誰か持って来い!」と言い出した。その後、テーブル配置から椅子のセッティングまで、口うるさく指示を言い渡し続けた。

秘書課長は10分で、Z病院に着いた。副社長専用車は、パーキングへは入れずに路肩に止めた。バス停の後方80m付近だ。彼は車を降り立つと、周囲を見渡した。「まだ、着いていないのか?」時計の針は午後4時を指している。暫くすると後方からエンジンの咆哮が響いて来た。“スナイパー”の運転するスポーツカーが到着したのだ。窓からF坊が手を振っている。「あれか!」秘書課長も手を振って答えた。午後4時5分キッカリに、N坊とF坊と“スナイパー”の3人はZ病院にたどり着いたのだ。“大返し”の完結だった。