limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ㊾

2018年09月29日 23時53分18秒 | 日記
“スナイパー”の運転する車は、副社長専用車の後方へハザードを点けて止まった。咆哮を続けていたエンジンが止まると、F坊とN坊が車から降りて秘書課長と握手を交わした。「ご苦労様です。副社長さんへの荷物をお渡ししますね」とF坊が言い、N坊がトランクを開けた。2人は手術用の手袋へ手を滑り込ませると、慎重にダンボール箱と分厚い封筒を手に取った。秘書課長は、副社長専用車のトランクを開ける。そこへ2人は神妙な手つきで2つの荷物を入れた。N坊は静かにトランクを閉じると「荷物は今の2つです。後は頼みましたよ」と秘書課長に言った。「何が入っているんです?」と秘書課長は怪訝そうに聞くが「何が入っているかは、知らない方がいいですよ。後々貴方に災禍が降りかからない為にもね」とF坊が釘を刺す。「そうか、知らない方がいいと言うのは、相当険悪か危険なものなのですね。貴方達もわざわざ手袋をして指紋を残さないようにしているくらいだ・・・。とにかく確かにお預かりしました。ミスターJに宜しくお伝えください」秘書課長は深々と一礼すると、副社長専用車に乗り込み、エンジンをかけた。「頼みますよ!」F坊とN坊が手を振る。秘書課長は軽く一礼しながら、横浜本社へ向かって帰って行った。「はい!よし!よし!よし!任務は半分片付いた。Pホテルの司令部へ向かうぜ!」F坊とN坊はハイタッチをすると、“スナイパー”の車に再び乗り込んだ。「司令部へ!」「おうさ!」3人の乗った車は、心地よいエンジンの咆哮を響かせてZ病院を後にした。ゴールは目の前であった。

Z病院から10分。午後4時20分に秘書課長は、横浜本社の車庫に副社長専用車を滑り込ませた。トランクを開けて、あらかじめ用意してあった台車に2つの荷物を慎重に移す。車に鍵をかけてから、台車を押して物流庫へ向かう。“目立たぬように”とY副社長に厳命されていたので、秘書課宛ての荷物を台車に積み増して、カモフラージュを図ったのだ。プリンターのトナーや封書を積み込み、何食わぬ顔で3階へ向かう。秘書課の課室へ入ると、荷を区分けして直ぐさまY副社長の部屋へ向かう。課員は幸い出払っていて誰もいない。ドアをノックすると「入りなさい」とY副社長の声が聞こえた。素早くドアを開けると台車を滑り込ませてドアを閉める。「荷物が届いております」秘書課長が言うと、Y副社長が直ぐに歩みより、ダンボール箱と分厚い封筒を応接テーブルに移した。「彼らは何か君に言ったか?」とY副社長が問う。「私は、何が入っているかを知らない方がいいと聞いているだけです」と秘書課長は答えた。「よし!それでいい。ここへ運んだ事も口外するな!あくまで君は“何も知らない”で押し切るんだ。間もなく県警のW氏が来るはずだが、彼の来訪はあくまで“私用”で通せ。W氏が来たら、ここへは誰も通すな!私は急用で今日は退社したと言って、用件だけをメモに残しておいてくれ!」Y副社長が指示を出した。「分かりました。W氏以外、全ての訪問者は差し止めます」そう言うと秘書課長は部屋を辞した。外へ出るとドアの在否を「不在」に切り換え、自席へ戻った秘書課長は、大きく息を吐いて呟いた。「何が始まのだろう?」彼には想像もつかない展開が幕を開けようとしていた。そして、否応なしに彼もその舞台へ昇る事になるのだが、まだ彼は知る由も無かった。

KとDBは、腹の痛みに耐えながら、必死になってトイレを探していた。陣痛の様な痛みは徐々に強さを増しており、耐え抜くにも限界があった。フロアをフラフラになりながら1周し終わろうとした時、漸くサウナの入り口付近にトイレを発見した。看板が小さすぎて見落としていたのだ。足元も覚束ない足取りでトイレに入ると、2部屋の空きがあった。最早、言葉を発するのも危険な状態の2匹は、目で合図をすると個室へ雪崩れ込んだ。「・・・!」奥歯を食いしばり、絶叫を抑えながら用を足す。見る見るうちにトイレの中は悪臭が充満していった。だが、ここで2匹に天祐神助があった。1つ目は“消臭スプレー”が置いてあった事だ。2匹は手当たり次第にスプレーを乱射して、悪臭を消しにかかった。2つ目は“強力な換気扇”が備わっていた事だ。コンビニの様な貧弱なモノでなく、扇風機並の能力を備えていた。これにより、悪臭はビル外へと排気され続け、サウナに達するまでには至らなかった。3つ目は“冷たいジャスミン茶”だった。ある時を境に急激に悪臭が薄まったのだ。乱射し続けた消臭スプレーの効果と扇風機並の換気扇の力で、トイレ内部の悪臭は一気に駆逐された。ただ、冷たいお茶は“下剤”としても働いたので、これまでで最長不倒となる20分あまりに渡り腹は下り続けた。ゲッソリとした顔で2匹がトイレから這い出す頃には、腹の張りはすっかり萎んでいた。冷や汗を洗い流すべく2匹は再度大浴場へ行き、ボディソープを大量に使って身体を洗った。浴槽の端へ滑り込み身体を温めながら、DBは湯を手ですって嗅いでみた。異臭は感じなかったし、湯気も臭くなってはいなかった。「ふー、どうやら“異臭の素”は駆逐できた様だ。K、嗅いでみたらどうだ?」DBに言われてKも鼻を使う。確かに異臭は感じられない。「やっと消臭完了か・・・、酷い目にあったものだ」Kはゲンナリとした顔で呟いた。「腹も引っ込んだし、もう次の段は来ないだろう。あれだけ出たんだ。腸にはもう残りはないだろうよ。異臭も収まったし、これで安心して外を歩ける」DBもため息交じりに言った。「次の問題は、服に染みついた臭いだが、消臭スプレーは残っているか?」Kが静かに聞く。「ああ、あれは別口で残してある。吹きかけてやればある程度臭いは消せるだろう」DBが思い出したように言う。「となるとだな、次の次は胃と腸の方だ。大分負担をかけてしまった。何か手は無いか?」Kが更に聞く。「確か、ここの1フロア下に漢方専門の薬局があったはずだ。そこに相談して、処方して貰うのはどうだ?」DBが提案した。「処方箋が無いぞ!大丈夫か?」Kが現実的な点を突く。「いや、その点は大丈夫だ。飛び込みでも処方はしてくれる。多少の時間は要するかも知れないが」DBは説明をした。横浜でも有名な漢方専門の薬局で、個別の相談に応じて生薬を配合してくれると。「それなら、そこへ行こう。どうやら薬を入れないと胃と腸は暴れるだけのようだ。今晩の夕飯にも関わる」Kは腹を摩りながら言った。「K、そろそろ出よう。出たら服の消臭とお茶の時間だ」DBはゆっくりと浴槽から出ていく。「DB、お茶はマズイぞ!“下剤”になったらどうする?!」Kは心配そうに言う。「ホットなら問題あるまい。どの道、水分を補給しないと湯当りを起こしそうだ」DBは落ち着いて答えた。「ならば、ホットのジャスミン茶を注文だ!ゆっくり飲んでる間に服の消臭も仕上がるだろう」Kは真顔で言った。2匹は、ホットのジャスミン茶を注文すると脱ぎ捨ててあった服に消臭スプレーを念入りに吹きかけ、平らにならした。程なく届けられたジャスミン茶をゆっくりと味わって飲んだ。親父臭は相変わらずだったが、強烈な悪臭の素はどうやら駆逐された様だった。時計の針は午後4時を指していた。

“スナイパー”の運転する車は市街地へと入り、ノロノロと進んでいた。F坊は携帯を引っ張り出すと“ランデブー完了。司令部へ帰投する。”と短いメールを送信した。「あー、嫌だ。市街地走行はストレスの素だ!」“スナイパー”の表情が曇る。「まあ、そうゴネルな。もう直ぐ任務完了だ。そうすりゃあ、ゆっくり休めるぜ!」N坊が気休めを言って紛らわせにかかる。「おっと、返信が来た。なになに“Pホテル地下駐車場へ直接入れ。3人揃って司令部へ出頭せよ”って言って来たぞ」F坊がメールを読み上げた。「俺にもお呼びがかかったか。これは、何かあるぞ!」“スナイパー”の顔つきが瞬時に変わる。「多分、拳銃鑑定の件だろうよ。それ以外に何がある?」N坊が言うと「ミスターJが、俺も呼び出すのは“別件”がある時と決まっている。今夜、もう一仕事あると見て間違いは無いだろう」“スナイパー”は何かを予測している様だった。「今夜か?!何があるんだ?」N坊とF坊は首を捻る。「まあ、帰ってみれば分かる。お愉しみは取って置こう」“スナイパー”は車を走らせながら言う。Pホテルまであと少し。渋滞を掻い潜って車は進んでいった。

午後5時キッカリにW氏は横浜本社を訪れた。受付から秘書課長へ内線が繋がれる。「県警のW様が、Y副社長を訪ねて来られましたが、いかが致しましょう?」「直ぐに出迎えに行く」秘書課長は反射的に言うと、正面玄関へ急ぐ。W氏を伴ってY副社長の部屋へ直行すると、ドアをやや強めにノックした。「入れ」の声を確認してドアを開けると「W氏がお着きになりました」と言って、客を室内に通す。「秘書課長、後は頼むぞ」Y副社長が言い、彼は静かに部屋を辞した。「Y先輩、ご無沙汰しております」W氏は軽く一礼する。Y副社長は応接席の対面へW氏を誘った。お互いに着席すると「W、忙しい所を済まない。実は、大変重要な品が先程届いたばかりなのだが、君の“検分”を受けたいと思ってな。とにかくこれを見てくれ」と分厚い封筒を差し出した。「私の“検分”ですか?経営は私の領域ではありませんよ!」とW氏は笑いながら封筒の中身を取り出した。小さな青いビニール袋とDVD-Rが一枚。いずれも厳重に封印されている。それと数冊の書類の束。W氏は黙って書類に目を通し始めた。見る見るうちに彼の顔から血の気が失せていく。次々に書面を繰りながら、小さな青いビニール袋とDVD-Rを交互に見つめる。手はわなわなと震え出した。「Y先輩、これをどうやって手に入れたんです!これは、私達がずっと追い求めていた“ある組織”と密接に関わりのある大変な証拠品だ!どうして先輩の手にこんな詳細なモノがあるんです?!」W氏は蒼白となった顔を上げてY副社長に問うた。「やはり“そのものズバリ”だったか。青竜会とZZZに関する重要な証拠品。君に“検分”して貰ったのは、正解だった様だな!」Y副社長は静かに答えた。「恥を承知で言うが、Z病院に匿っている本体の社員を本体の元社員とウチ社員が、着け狙っていてな。あわよくば亡き者にしようと画策しているんだよ。それで、私の知り合いの“陰の組織”に協力を依頼したんだ。そして、彼らの手に寄って集められたのが、今、君が見ている情報だ。“陰の組織”がどうやってその情報を掴んだのか?は、私も知らない。具体的なやり方も含めて。だが、君達県警の手で精査して行けば、ウチも君達も大いに助かる事になりはしないか?」「助かるどころか、青竜会を壊滅させられる切り札になりますよ!Y先輩、どこまで知っているのですか?」W氏は改めて問うた。「さて、どう答えたものかな。私は匿っている社員に、危害が及ぶ範囲でしか詳細は知らないと言わせて貰うよ」Y副社長は慎重に言葉を選んだ。「昔から変わりませんね。確証に迫って置きながら、肝心な事は知らないと言われる。決して表立って動きはしないが、裏ではしっかりと糸を引いておられる。そして、手柄は私達が立てるけれど、キッチリ見返りは手にされている。今回もそうですね?」W氏はY副社長の腹の中を見通している様に言った。「いつの間にか鋭さを増したなW。そこまで分かっているなら、取り調べをする必要も無いだろう?」「ええ、そうです。ですが、この書類に記されている事を証明出来る物証はあるのですか?」W氏はY副社長を真っ直ぐ見つめて問うた。「そこのダンボール箱を開けて見るといい」そう言うとY副社長はカッターナイフをW氏に手渡した。W氏が箱を開けると、パソコンの筐体が現れた。「なるほど、電源ケーブル付ですか。抜かりはありませんね。では、これらは我々県警に提供されると言う事ですか?」「私の手には余る代物だ。煮るなり焼くなり、検証するのは自由だよ」Y副社長は微かに笑みを浮かべている。「分かりました。Y先輩の事は一切伏せてかかりますよ。念のためにお聞きしますが、Z病院の方のゼロアワーは?」W氏は時計を見ながら問うた。「明日の午後3時だ。少々キツイのは分かるが、何とか間に合わせて欲しい」「まだ、12時間以上ありますね。鑑識と科捜研に総動員をかければ、十分に間に合いますよ。既に下調べは付いていますから、再検証するだけですし。これだけの証拠品、無駄にはできません!」W氏は既にプランを練っている様だった。「分かっているだろうが“例によって・・・”」「“君若しくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は、一切関知しないからそのつもりで。なお、このテープは自動的に消滅する。成功を祈る!”でしょう?」W氏はY副社長のセリフを引継いで言った。2人の顔に微かな、そして不敵な笑みが浮かんでいた。「では先輩、確かに“バトン”は受け取りました。ここからは、我々の仕事です。必ず青竜会を叩いてご覧に入れましょう!」W氏は立ち上がって手を差し出した。Y副社長は強く手を握り返し「頼んだぞ!」と力強く言った。そして、秘書課長を呼ぶとW氏の車へ荷物を運ぶのを手伝う様に命じた。2人が相次いで部屋を辞すと、Y副社長は自席に座り大きく息を吐いた。「ここまでは上手く行った。次はDBの始末だな!」頃合いを見計らって、秘書課長を再び呼ぶ。「お呼びですか?」「ああ、君宛てにベトナム工場から封書が届いていないか?」と聞く。「はい、届いておりますが、私はベトナムへ送った記憶がございませんが・・・」「それを持って来てくれ。君にも見て置いて欲しい案件だ!」秘書課長は怪訝そうな顔つきで、封書を持って来た。Y副社長は封を開けて中身を取り出す。図面と写真が入っていた。「ふむ、ようやく整ったか。秘書課長、例の“個室”の完成図と写真だ」「DBを送る先ですね。少し高級過ぎませんか?」「多少の贅はやむを得ない。だが、ここへDBを送り込む手段が問題だ!」Y副社長は難しい顔つきで言う。「ご命令を受けまして、私は2通りの方法を考えました。1つは空路、もう1つは海路です。ですが、機密保持上、厄介な壁に突き当たっております」秘書課長も難しい顔に変わっている。「海路の場合、コンテナへ入れて輸送する事になりますが、随員も含めて体調管理が難しくなります。どうしても日数を要しますし、食事も考える必要に迫られます。従って、空路を選択する他ないのですが、DBが大人しく付き従うか、目的地をどう隠ぺいするかは、まだ思案中です」秘書課長の言葉は明らかに歯切れが悪い。「うむ、確かにその通りだ。目的地を悟られるのはマズイ。あくまで隠密裏に運ばなくてはならない。具体的にどうする?」Y副社長は、秘書課長の顔を伺う。「掟破りではありますが・・・、DBを睡眠薬で眠らせてから、車椅子で航空機へ乗せるしか無いかと・・・。無論、眠らせるだけでは不十分なので、目隠しと防音用のヘッドフォンを装着させる事も視野に入れていますが・・・、実現可能かの検証は出来ておりません」秘書課長は済まなそうに答えたが「いいじゃないか!それで行こう!」とY副社長は手を打って同意した。「ええ?!それでよろしいのですか?」「それしかあるまい。中々の名案じゃないか。さて、睡眠薬をどうするか・・・?」Y副社長は立ち上がり思案を巡らせた。「うーむ、やはり彼に一肌脱いで貰うしかあるまい」どうやら思案はまとまった様だった。「秘書課長、明日の朝、ミスターJの所へ行ってくれるか?」Y副社長は尋ねる。「はい、それで彼に何を依頼するのですか?」「強力で持続性の長い睡眠薬を調達して貰うのだ。今、君が言った計画を説明して、実現に向けて協力を仰いで貰いたい!DBを確実にベトナム工場へ送り込むには、それしかあるまい。陣頭指揮は、君が取るのか?」「はい、そのつもりで考えております」Y副社長は頷きながら「それでいい。トップとして、依頼を持ちかけるんだ。何なら、この図面と写真を公開しても構わん。その線で明日、調整に行って貰いたいが、試案をまとめられるか?」と問うた。「大枠は出来上がっていますので、ご許可いただければ直ぐにもまとめられます」秘書課長が答えると「よし、直ぐにかかってくれ!君の案で決定とする。だが、くれぐれも隠密裏に進めるのだ。他言は無用だ」Y副社長は断を下した。「はい、それでは明日は、朝から留守を致します。昼までには子細を決めて戻ります。午後にはZ病院の件もありますので、出社は昼前後とさせて頂きます」と秘書課長は答えた。「済まんが、宜しく頼む。秘書課長、昨日、今日と手を煩わせた。明日も苦労をかけるが、付いて来て欲しい。もう直ぐ全てが良い方向へ向く。ミスターJにも礼を伝えてきてくれ」秘書課長の右肩を叩きながらY副社長は言った。「分かりました。では、直ぐにかかります」そう言うと彼は部屋を辞して行った。夕焼けが眩しく部屋を照らしていた。「明日で全てが変わる。皆の努力が報われるのだ」Y副社長は窓辺に佇みながら呟いた。

Pホテルの地下駐車場に“スナイパー”の車が滑り込んだのは、午後5時を回った頃だった。咆哮を続けていたエンジンが静まると、3人は車から這い出して思い切り手足を伸ばした。「24時間ぶりのご帰還だ。まずは、コーヒーで乾杯したいよ」N坊が言うとF坊が頷いて「ミスターJに報告を終えたら、そうしよう」と同意した。“スナイパー”は車から銀色のアタッシュケースを引っ張り出すと「コーヒーでもお茶でもいい。とにかく1杯やりたい気分だ。スリリングな24時間だったな」とやはり同じことを言う。3人はエレベーターに乗ると司令部となっている部屋へ戻った。「おかえり、3人共ご苦労だった。リーダー、コーヒーを淹れてやれ!」ミスターJは1人づつ手を取り、肩を叩いて労った。「まずは、これを渡して置きます」F坊が分厚い封筒をミスターJへ手渡した。「おお、コピーだな。早速見せて貰おうか!正本は、Y副社長の元に送ったのだな?」「ええ、ちゃんと秘書課長さんに手渡してありますよ」N坊がコーヒーを飲みながら答えた。「お前、もう飲んでるのか?!報告を済ませるまで待て!」F坊がたしなめる。「まあ、いい。少し休め。暫くゆっくりと見させてくれ」ミスターJが報告書を繰りながら苦笑する。“スナイパー”はベッドにひっくり返ってくつろいでいる。司令部は束の間の静寂に包まれた。ミスターJは、時折頷きながら報告書を繰っている。リーダーも目を通している。「ふむ、リーダー、どうやら謎が解けたぞ!」「ええ、その様ですね。薬剤師が何故必要だったか?漸く分かりました!処方箋薬の密売か!」リーダーも頷いている。「青竜会は麻薬類だけでなく、精神科の処方薬やその他の処方薬までを大量に買い漁り、密売にかけています。裏サイトは“薬物のデパート”になってましたよ」F坊が見たままを報告する。「だから、薬剤師を雇う必要があった。薬の仕分けや発送には、薬剤の専門家がいなければ商売にならない。そう言うカラクリだったのか!」ミスターJが唸る「小包の山も、これで説明がつきます」リーダーも言った。「旧NPO法人の建物は、巨大な薬剤倉庫に変貌していると言う訳か。場所としても丁度いい立地だからな」ミスターJの疑問は、ようやく解けた。「3人共よくやった。これで青竜会壊滅の道筋も見えた。Z病院の件も明日には決着するはずだ。後は、県警がどこまで本気を見せてくれるかにかかっている。本件はこれで8割方解決したと言っていいだろう。今夜は前祝に繰り出すぞ!」ミスターJは微笑みを浮かべながら言った。だが「前祝ですか?!」「まさかとは思いますが、ジミー。フォンの店へ行くとか?!」N坊とF坊が蒼白になって聞き返した。「俺も止めたんだが・・・、ミスターJが自ら出向くと言いだされて、予約を入れてあるんだ」リーダーが苦り切った顔で言う。「正気ですか?!」「俺達もフォンと対峙するって事ですよね?!」N坊とF坊が真顔で聞く。「その通りだ。お前達と“スナイパー”が護衛役だ!これで安心してフォンと向き合える」ミスターJは本気だった。「だから俺も呼んだ。そう言うシナリオですか?」“スナイパー”が聞いた。「そうでなくては、困るからだ。“スナイパー”お前さんの“本領”を存分に見せてもらうぞ!」ミスターJはニヤリと笑った。「ならば、コイツの出番って訳だ」“スナイパー”はアタッシュケースを開けた。そこに入っていたのは“コルト・パイソン357マグナム”。「シティーハンター、冴羽遼の愛銃!」「マジか?!」N坊とF坊が固まった。「心配するな。許可は貰ってる銃だ。弾はマグナム弾じゃなくて、ゴム弾だよ。当たっても死人は出ない」“スナイパー”は、さらりと言った。「だが、フォンはそんな事は知らない。ヤツをビビらせるには、これくらいはやらんと本音は吐かんだろう」ミスターJも意に介す風ではない。本気だった。「アチャー!」「とんでもなく、きな臭い夜になりそうだ!」N坊とF坊は撃沈されてしまった。「さて、そろそろ繰り出すか」ミスターJは上着を羽織った。「仕方ねぇ」「ああ、やるしかねぇ」N坊とF坊は腹を括った。夜の中華街へ4人は繰りだして行った。狙うは、ジミー・フォンの腹の中。夜空には月が昇り始めていた。