家の中はとても静かでした。2004年5月31日月曜日。
賑やかだった週末が終わり、子供は学校へ、夫は仕事へ。私は散らかし放題の家の中を片付けながら、部屋から部屋へと行ったり来たり。ネコはソファでいぎたなく眠り、動くどころか目を覚ます気配もありませんでした。そんな時に電話の音。出てみるとNZの移住エージェントでした。
"Hi Mikoto, How are you?"
すっかり聞き慣れた彼の声を聞いたとたん、やり残した宿題に気付いた時のように、急に気持ちが萎むのを感じました。
私たちは前週木曜日の27日に、移住申請に向けたすべての追加書類をウェリントンの移民局に送っていました。移民局が書類を受け取るのは提出期限だった翌28日のはずで、そこから再審査が始まる予定でした。27日のエージェントとの最後の電話では、
「これから1週間は電話しないよ。どうせ動きがないから報告することもないし。」
と言われ、お互いしばらく話さないことを前提に、"Have a nice weekend!"と言って電話を切ったのです。
それが週明けの月曜早々に、再び電話がかかってくるとは!さらに追加で何かを出すよう言われるに違いありません。それまでの2週間は平均睡眠時間ほぼ3~4時間で、来る日も来る日も英文での文書作成、会計士が作成する文書の校正や訂正に明け暮れる日々でした。それから解放されただけでも、結果はどうあれひとまずホッとしていたところだったのに、再び予期せぬエージェントからの電話。彼の声に身じろぐのは致し方ないことでした。
「今度は何が欲しいの?」
そう思いつつ、"I'm fine"と、思わずぜんぜんfineではない声が漏れてしまいました。
「決まったよ。ビザがおりたんだ!」
「・・・・・・?」
「おめでとう!」
「・・・本当?こんなに早く?」
「そうさ!」
「だって書類が届いたのって金曜でしょう?」
私はなんともトンチンカンでした。「信じられない!」という気持ちが先走り、まるで事実を否定するかのような受け答えでした。エージェントはそんな顧客の狼狽には慣れ切っているのか、
「ビザを張るから家族全員のパスポートが要るんだ。メールに詳しく書いてるから、そっちを読んでくれ・・・」
と、おろおろする私の気持ちなど置き去りにして、どんどん事務的な話を進めていきます。それに追いつけないまま、会話の半分は上の空で電話を終えると、私は真っ先に神棚に向かって感謝の気持ちを捧げました。
「あぁ、神棚を作っておいて良かった。間に合った。こんな時には祈る場所が絶対必要。でも、シャンペンを冷やしておくのだけは間に合わなかった・・・」
"I'm in 7th Heaven or on cloud 9!"
その時の気持ちを表すとしたら、まさにそんなところでした。天にも昇る夢見心地なのですが、そこを" 第7"天国とか"第9"積雲と限定してくれると、なんだか天国でもずっと上の方、入道雲だったらモクモク伸びた一番高い頭の部分という気がしてピッタリな気分でした。'
「やった~!不可能が可能になった。私たちの主張がとうとう聞き入れられた。夢がかなったんだ!ありがとう、NZ!」
私は一足遅れて、誰もいない家の中で飛び上がりました。そして吉報を夫に知らせるため、電話の受話器を鷲づかみにしました。
(※私のイメージの中の「天国の特等席」@オークランドの友人宅)
移住計画を思い立ってから3年4ヶ月。実際の移住申請を済ませてから1年2ヶ月。長かった西蘭家の移住計画はひとまず成功を収めました。その間、条件は厳しくなる一方でしたが、なぜか私たち夫婦は一度たりとも、「行かれない」と思ったことがありませんでした。こう言うと、いかにも傲慢に聞こえてしまうかもしれませんが、それ以外のことが考えられない以上、どんな方法でも、どれだけ時間をかけても行くつもりでした。運命と言うしかない理屈抜きの選択ゆえの、幸せな思い込みでした。
そうは言っても落胆したり、焦ったりと、気持ちのさざなみはいろいろありました。しかし、移民局からのネガティブな所見を一読した後、私はなぜかやる気が出てきました。ここまで言われたら、こちらも徹底的に反論できるというもの。沸々と反論の文章が頭の中に湧き上がってきたものです。しかし、夫は一枚も二枚も上手でした。
「良かったじゃん。これで思ったより早く行けるね!」
と、なんとも嬉しそうなのです。所見の内容など一切お構いなしに、移民局からとうとう反応があったということで、さっさと勝算を募らせていました。
「行けると思う?」
「もちろん!」
お互いの気持ちは二言で確認できました。お気楽ノー天気もここまで極められれば、それはそれで幸せなことです(笑)
7月24日にはオークランド入りする予定です。今回のメルマガでこの成功をご報告できることを、本当に幸せに思います。願をかけるような思いで始めたメルマガも222号という縁起のいいぞろ目に当たり(2=中国語で「易」 "簡単、容易"の意)、幸先も悪くなさそうです(笑) この2年間、本当にたくさんの方からご連絡をいただき、お目にかかった読者の方も少なくありません。まったく無名の者が書いたメルマガを読み、私たち一家を見守り、応援して下さったみなさまの善意に心から感謝いたします。そして、これからもよろしくお願いいたします。
みなさまの夢も、きっとかないますように。
後日談「ふたこと、みこと」(2022年7月):
自分のHPからこのブログへのメルマガ移行を2019年5月に決意したものの、遅々として進まず💦 今回のメルマガがオリジナルの連番で222本目だったとは 移行すべきメルマガはゆうに700本以上あり、移行が終了したのは今回で54本目。気が遠くなりそうですが(笑)、ぼちぼちやろう。
賑やかだった週末が終わり、子供は学校へ、夫は仕事へ。私は散らかし放題の家の中を片付けながら、部屋から部屋へと行ったり来たり。ネコはソファでいぎたなく眠り、動くどころか目を覚ます気配もありませんでした。そんな時に電話の音。出てみるとNZの移住エージェントでした。
"Hi Mikoto, How are you?"
すっかり聞き慣れた彼の声を聞いたとたん、やり残した宿題に気付いた時のように、急に気持ちが萎むのを感じました。
私たちは前週木曜日の27日に、移住申請に向けたすべての追加書類をウェリントンの移民局に送っていました。移民局が書類を受け取るのは提出期限だった翌28日のはずで、そこから再審査が始まる予定でした。27日のエージェントとの最後の電話では、
「これから1週間は電話しないよ。どうせ動きがないから報告することもないし。」
と言われ、お互いしばらく話さないことを前提に、"Have a nice weekend!"と言って電話を切ったのです。
それが週明けの月曜早々に、再び電話がかかってくるとは!さらに追加で何かを出すよう言われるに違いありません。それまでの2週間は平均睡眠時間ほぼ3~4時間で、来る日も来る日も英文での文書作成、会計士が作成する文書の校正や訂正に明け暮れる日々でした。それから解放されただけでも、結果はどうあれひとまずホッとしていたところだったのに、再び予期せぬエージェントからの電話。彼の声に身じろぐのは致し方ないことでした。
「今度は何が欲しいの?」
そう思いつつ、"I'm fine"と、思わずぜんぜんfineではない声が漏れてしまいました。
「決まったよ。ビザがおりたんだ!」
「・・・・・・?」
「おめでとう!」
「・・・本当?こんなに早く?」
「そうさ!」
「だって書類が届いたのって金曜でしょう?」
私はなんともトンチンカンでした。「信じられない!」という気持ちが先走り、まるで事実を否定するかのような受け答えでした。エージェントはそんな顧客の狼狽には慣れ切っているのか、
「ビザを張るから家族全員のパスポートが要るんだ。メールに詳しく書いてるから、そっちを読んでくれ・・・」
と、おろおろする私の気持ちなど置き去りにして、どんどん事務的な話を進めていきます。それに追いつけないまま、会話の半分は上の空で電話を終えると、私は真っ先に神棚に向かって感謝の気持ちを捧げました。
「あぁ、神棚を作っておいて良かった。間に合った。こんな時には祈る場所が絶対必要。でも、シャンペンを冷やしておくのだけは間に合わなかった・・・」
"I'm in 7th Heaven or on cloud 9!"
その時の気持ちを表すとしたら、まさにそんなところでした。天にも昇る夢見心地なのですが、そこを" 第7"天国とか"第9"積雲と限定してくれると、なんだか天国でもずっと上の方、入道雲だったらモクモク伸びた一番高い頭の部分という気がしてピッタリな気分でした。'
「やった~!不可能が可能になった。私たちの主張がとうとう聞き入れられた。夢がかなったんだ!ありがとう、NZ!」
私は一足遅れて、誰もいない家の中で飛び上がりました。そして吉報を夫に知らせるため、電話の受話器を鷲づかみにしました。
(※私のイメージの中の「天国の特等席」@オークランドの友人宅)
移住計画を思い立ってから3年4ヶ月。実際の移住申請を済ませてから1年2ヶ月。長かった西蘭家の移住計画はひとまず成功を収めました。その間、条件は厳しくなる一方でしたが、なぜか私たち夫婦は一度たりとも、「行かれない」と思ったことがありませんでした。こう言うと、いかにも傲慢に聞こえてしまうかもしれませんが、それ以外のことが考えられない以上、どんな方法でも、どれだけ時間をかけても行くつもりでした。運命と言うしかない理屈抜きの選択ゆえの、幸せな思い込みでした。
そうは言っても落胆したり、焦ったりと、気持ちのさざなみはいろいろありました。しかし、移民局からのネガティブな所見を一読した後、私はなぜかやる気が出てきました。ここまで言われたら、こちらも徹底的に反論できるというもの。沸々と反論の文章が頭の中に湧き上がってきたものです。しかし、夫は一枚も二枚も上手でした。
「良かったじゃん。これで思ったより早く行けるね!」
と、なんとも嬉しそうなのです。所見の内容など一切お構いなしに、移民局からとうとう反応があったということで、さっさと勝算を募らせていました。
「行けると思う?」
「もちろん!」
お互いの気持ちは二言で確認できました。お気楽ノー天気もここまで極められれば、それはそれで幸せなことです(笑)
7月24日にはオークランド入りする予定です。今回のメルマガでこの成功をご報告できることを、本当に幸せに思います。願をかけるような思いで始めたメルマガも222号という縁起のいいぞろ目に当たり(2=中国語で「易」 "簡単、容易"の意)、幸先も悪くなさそうです(笑) この2年間、本当にたくさんの方からご連絡をいただき、お目にかかった読者の方も少なくありません。まったく無名の者が書いたメルマガを読み、私たち一家を見守り、応援して下さったみなさまの善意に心から感謝いたします。そして、これからもよろしくお願いいたします。
みなさまの夢も、きっとかないますように。
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後日談「ふたこと、みこと」(2022年7月):
自分のHPからこのブログへのメルマガ移行を2019年5月に決意したものの、遅々として進まず💦 今回のメルマガがオリジナルの連番で222本目だったとは 移行すべきメルマガはゆうに700本以上あり、移行が終了したのは今回で54本目。気が遠くなりそうですが(笑)、ぼちぼちやろう。