もやし 萌やし 上を下へと大騒ぎ
【動画作成】(2分43秒)
(本文)【読売新聞】 編集手帳 2020年4月21日より
◆詩人の、まど・みちおさんに、「もやし」と題する、極めて短い作品がある。
<うえを/したへの/おおさわぎ>
◆3行だけのこの詩はおおよそ、次のように解釈されている。
もやしは栽培時、規則正しく上向きに伸びている。だが、出荷されるときは、袋に入り、上を下への大騒ぎに見える――お店の棚にその野菜を見かけると、小学校の教室のにぎやかな風景を浮かべる。
◆子供たちはどんなにかそこに戻りたいことだろう。今はみんなで一緒に勉強することもなければ、合唱することもない。全国的な休校措置が取られて、ひと月半が過ぎた。
◆新型ウイルスの感染者の数に、気持ちの揺れる日々が続く。
きょうは何人だった? まだ減らないんだね。
なかなか、朗報の響かない空のもと、そんな親子の会話が無数に繰り返されているだろう。
「もやし」は漢字で「萌やし」と書く。
たまたま、歴史的な感染症の危機に、学齢期を迎えたばかりに、集団に身を置いて、草木のように芽吹く時期を、一日一日と失う、子供がいることを、胸にきざもう。
◆上を下への大騒ぎを、早くさせてあげたいものである。
先生は少し困りはするけれど。
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