SSF 光夫天 ~ 詩と朗読と音楽と ~ 

◆ 言葉と音楽の『優しさ』の 散歩スケッチ ◆

2月29日 夕日のひかりの最後の波が・・・

2016-02-29 18:25:03 | 「尾崎喜八を尋ねる旅」

夕日のひかりの最後の波が・・・

今、陽が沈む。
いとおしく想う。

2016年(平成28年)2月29日(月)閏年 日の入り 17時53分(大阪府豊中市)

夕日の歌」(2016年2月23日掲載)*よければ、ご覧ください。

東の空

南の空

北の空

西の空


「雪山の朝」 ~瞬間の生涯回顧と孤高の心~ パイプを口に、蠟マッチをはげしく擦った・・・

2016-02-27 17:00:54 | 「尾崎喜八を尋ねる旅」
「美ヶ原の山本小屋」でヒントを得た、尾崎喜八は、「孤高(ここう)の心」を持って『雪山の朝』を書きました。

この詩は、富士見へ帰る汽車の中で書き上げたものです。

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第一聯 「きれいな純粋孤独の歌」

第二聯 「空は世界の初めのような・・・」

第三聯 「まるで虹いろの波」

第四聯 「孤高の心」

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【孤高(ここう)】 孤独で超然としていること。
ひとりかけはなれて、高い理想をもつこと。「―を持する」

美ヶ原の山本小屋へは、2014年(平成26年)夏に、「演奏会の後の一人旅」で訪れたことがありますが、冬の時期に訪れたことがないので、「雪山の朝の景色」を残念ながら見たことはありません。ネット検索で引用させていただきました。


富士見駅(JR中央本線:2015年8月29日撮影)




「雪山の朝」 自註 富士見高原詩集(尾崎喜八)より

服装をととのえて 小屋を出て

小屋から遠く 堅い靴で

堅い雪を踏みしめて行った。

クラストした雪面はきしんで鳴り、

強くぱりぱりと放射状に割れるが、

その響きやその呟きが

その皓々(こうこう)たるしじまの中では

きれいな純粋孤独の歌だった。


空は世界の初めのように

まろく 大きく あおあおと、

晴れわたった積雪の高処のながめは

透明に燃えて 結晶して

きびしく寒くよこたわっていた。


薄赤い朝日の流れ、紫の影、

きらきらと木花に重い樅、唐檜、

はるかに向うにも同じ氷雪の山々が

まるで虹いろの波だった。


瞬間の生涯回顧と孤高の心ーーー

パイプを口に、

私は蠟マッチをはげしく擦った。


【自註】
美ヶ原の山本小屋でヒントを得て、富士見へ帰る汽車の中で書き上げた詩である。

今でこそ立派なホテルになっているが、美しの塔で私の詩と背中合わせになっているあのリリーフの肖像は現在のホテルの主人の父親であり、その頃はまだぴんぴんしていた。そして泊まる処と言えば彼の小屋がたった一軒、言わば観光地美ヶ原草分けの人でもあれば宿でもあった。

その雪山の朝の景色は書いたとおりだが、「瞬間の生涯回顧と孤高の心」は、その時の私の心境を煮詰めたようなものである。

外観は平静のようでも内面は波瀾に富んだ過去の思い出と、それを乗り切って孤独に強く生きている現在の自覚。

パリパリに氷った早朝の山の雪の上で、
しっかりと口にくわえたパイプのために、

蠟マッチを「はげしく擦った」私の気持は、
或はわかってもらえるかと思う。





「雨氷の朝」 ~朝の散歩の目を喜ばせた・・・~

2016-02-26 16:10:14 | 「尾崎喜八を尋ねる旅」
「雨氷の朝」を読み、『雨氷とは』を調べてみて、私自身まだ一度も見たことがない、ということがわかりました。

尾崎喜八のこの詩は、「一夜の魔法」でできた「一面クリスタルの世界」が朝の散歩の目を喜ばせたことを書いています。

「クリスタルな世界」を一度は、味わいたいと思った次第。

雨氷 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%A8%E6%B0%B7
写真:ウキペディアより引用

「雨氷の朝」 自註 富士見高原詩集(尾崎喜八)より

終日の雪に暮れた高原に

夜をこめて春のような雨が濛々(もうもう)と降った。

すると雨は夜あけの寒気に凍結して、

広大な枯野幾里の風景を

かたい透明な氷のフィルムでくるんでしまった。


まるで一夜の魔法にかかって

きらきらと痺(しび)れたような今朝の自然、

白樺は玉のすだれも重たげに

微風にゆれて珊々(さんさん)と空に鳴るかと思われ、

朝日をうけた落葉松(からまつ)は

繊維硝子の箒のように

まっさおな空間を薄赤く掃いている。


どんな小枝も一本のこらず玲朧(れいろう)と磨かれ、

枯草の葉っぱさえ一枚一枚

氷の真空管に封じこまれた。


そして万能の自然がたった一夜でつくり上げた

こんな燦爛(さんらん)世界を嬉々として歩き廻れば、

ルビーかサファイアの薄板を張りつめたような氷の面は

鋭い金かんじきの下にぱりぱりとひび割れて、

薔薇の花がたや幾何図形の

虹のスペクトルを噴くのだった。


【自註】
冬には雨氷の現象がしばしば見られて朝の散歩の目を喜ばせた。

藪も林も木々の枝という枝がすべて透明な氷に包まれて、まるで鋭い槍の穂先をつらねたようだった。

初めのうち私はこれを「花ボロ」だの「木花」だのと呼ばれる「霧氷」と同じ物にように思っていたが、だんだん調べているうちに両者の違いがわかった。

「霧氷」には過冷却した霧の粒が地物に接して氷結した無定形な氷層から成るものと、氷点下に冷却している地物に水蒸気が付着して美しい六方晶形の結晶を作ったものあるが、雨氷のほうは比較的温暖な上層の空気中で生じた雨滴が氷点下の温度をもった下層の空気中を通過する際に、凝結しないで過冷却のまま地表に達し、樹木その他に接触してその周囲に氷結したもので、透明で結晶形を持たないのがその特徴である。

こんな時には地面の低い処もまた氷の板のようにつるつるなので、詩にもあるとおり、金かんじき(アイゼン)をつけて歩かなければならなかった。


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【濛々(もうもう)】
霧・煙・砂ぼこり・湯気などが一面に立ちこめるさま。

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【珊々(さんさん)】
1.下げた玉などの鳴る音。 「孔子の車の玉鑾(ぎよくらん)が-と鳴つた/麒麟 潤一郎」
2.輝いて美しいさま。

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【玲瓏(れいろう)】
1.美しく照り輝くさま。 「―たる朝空」
2.玉などが、さえたよい音で鳴るさま。 「―、玉をころがすような声」

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【燦爛(さんらん)】
光り輝くさま。また、華やかで美しいさま。「―たる美華と光輝を発すると同時に」



芝生にとげのように形成された雨氷。

木の枝全体に形成され垂れ下がった雨氷。