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秋の詩「田舎のモーツァルト」

2015-09-26 11:21:02 | 「尾崎喜八を尋ねる旅」
尾崎喜八 「自註 富士見高原詩集」以外の、「秋の詩」を取り上げます。
*見出し写真は、大王わさび農場の水車小屋(2014年5月撮影)


田舎のモーツァルト

中学の音楽室でピアノが鳴っている

生徒たちは、男も女も

両手を膝に、目をすえて、

きらめくような、流れるような、

音の造形に聴き入っている。

そとは秋晴れの安曇平(あずみだいら)

青い常念(じょうねん)と黄ばんだアカシア。

自然にも形成と傾聴のあるこの田舎で、

新任の若い女の先生が孜々(しし)として

モーツァルトのみごとなロンドを弾いている。



【安曇野市立穂高東中学校】
信州安曇野穂高町穂高東中学校にこの詩を刻んだ碑がある。
尾崎喜八が詠んだこの詩は、この中学校での出来事だと言われている。
禄山美術館の裏、校門を入って左側の芝生の中に建立されている。

この「田舎のモーツァルト」初出は、
「文芸春秋」昭和三十八年十月号に次のように載っている。
初出では、8行詩であった。

田舎のモーツァルト
=====================
音楽室でピアノが鳴っている
生徒たちは両手を膝に、目をすえて、
流れるような、音の造形に聴き入っている。
そとは秋晴れの安曇平(あずみだいら)、
青い常念と黄ばんだアカシア。
自然にも形成と傾聴のあるこの田舎で、
新任の若い女の先生が孜々(しし)として
モーツァルトのみごとなロンドを弾いている。
=====================
*「尾崎喜八の詩による楽曲集」<発行者:牛尾 孝>より引用
(尾崎喜八研究会/寺澤俊司氏からの提供)



【男声合唱組曲『尾崎喜八の詩から・第二』】作曲:多田武彦

Ⅰ.雪消の頃
Ⅱ.郷愁
Ⅲ.盛夏の午後
Ⅳ.田舎のモーツァルト
Ⅴ.夕暮れの歌
Ⅵ.野辺山ノ原

=初演データ=
 演奏団体:神奈川大学フロイデコール
  指揮者:坂田真理子
   ソロ:千田 敬之
演奏年月日:1986(昭和61)年12月7日
     (於 東京都中央区立中央会館)

<メロス楽譜出版の男声合唱組曲『尾崎喜八の詩から・第二』巻頭の多田武彦氏のことば>
この組曲は、坂田真理子(本名・壽美)先生の、神奈川大学フロイデ・コール常任指揮者就任三十周年記念委嘱作品として1986年に作曲した。坂田先生は1945年に東京音楽学校(現・東京芸術大学)を卒業後、1983年まで幾つかの高等学校に勤務、永年にわたり音楽教育の分野で多大の成果を収められた。その傍ら1961年から1990年の間、母校の東京芸術大学の講師に招かれ、多くの人材の輩出に尽力され、同時に日本の合唱界の発展にも寄与された。作曲を依頼されて、どの詩人を選ぼうかと考えていたとき、ふと思い付いたのが第四曲の「田舎のモーツァルト」である。詩人尾崎喜八先生の詩群の中にあって永年にわたって多くの愛読者に支持されてきたこの「田舎のモーツァルト」の中の「新任の若い女の先生が孜々としてモーツァルトのみごとなロンドを弾いている」のくだりで、戦後すぐに教鞭を取られた若かりし頃の坂田先生の姿をオーバーラップさせながら作曲してみた。尾崎先生の清廉な詩情のおかげで、作曲後13年以上の間、多くの合唱愛好者の方々によって歌われてきたが、評判のいいのはやはり、「田舎のモーツァルト」である。

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