さて、前回のお話の続き。
ご両親のお気持ちをひと通り聴いた私。以下のようにお話を進めていきました。
私 「今日はいろいろとお悩みの中、訪ねてくださってありがとうございます」
父 「はい。前置きは良いですから。早いとこ特効薬的なアドバイスを願います」
母 「そんないきなり…。トニーさん(私)だって困りますよ」
父 「何を言ってる!忙しい中仕事を休んで来てるんだこっちは」(喧嘩ごし)
母 「またそんなこと言って。主人いつもこうなんです」
しばらくご夫婦で口論。止むまでトニーは待っている。
父 「ああ、すいません。みっともないこと見せちゃったね」
私 「いえ!そんなことはありません。ご両親のご苦労を少し垣間見た気がいたしました」
父 「そこでねトニーさん~」
私 「ところで、Aさんは今、どんなお気持ちなのでしょうね」
父 「い、いやだから私はそうじゃなくて」
私 「もう一度お尋ねします。Aさんは今、どのようなお気持ちで過ごしていらっしゃるのでしょう」
父 「そ、それが解ったら苦労しませんよ」
私 「その通りです!」(ニッコリ)
母 「トニーさんは、まずAの気持ちから知ることが大事だと…」
私 「はい。確かにAさんのお気持ちを知ることは難しい。ですが、こうなんじゃないかと推しはかる
ことはできると思うのです。その手がかりは、これまでずっと一緒に過ごしてこられたご両親
だからこそ探ることができるのではないかと」
父 「なるほど…」
私 「ちなみに、特効薬的なアドバイスはありません」(ニッコリ)
父 「えっ!!じゃあ意味がないじゃないか」
私 「そうかもしれません。ですが、『急がばまわれ』とも言います」
母 「お父さん、トニーさんにはお考えがあるのよ。まずはそれを伺いましょうよ」
(なんと聡明なお母さん!)
父 「う・・・。(しばし沈黙)わ、分かった。じゃあ聞くとしようじゃないか」
私 「では改めて。Aさんのお気持ちを考えていきましょう」
父 「あんな奴、何も考えちゃいませんよ。毎日毎日、夜中に起きてきて食ってテレビ見て寝るだけだ」
母 「私たちはAが何を考えているのかさっぱり分からないんです」
私 「では、想像してみてください。毎日毎日、日中は存在を消すかのように過ごしている時。家族が
寝静まった頃、足音を立てずにリビングへ行く時。独りで食事をしてる時。テレビを見ている時」
父 「そんな、なんも考えとらへんわ」
母 「…。こう何か息苦しさを感じます」
私 「はい。僕もそう思います!」(ニッコリ)
父 「苦しい?それはこっちのセリフだ!」
私 「でもAさんも苦しい」
父 「あいつが苦しいのは自業自得です」
私 「そうでしょうか。Aさんは生まれた瞬間から『将来ひきこもりになりたい』と思っていたでしょうか」
父 「そんなこと、あるわけないじゃないか」
私 「そうです。お父さん、Aさんのお気持ち分かっていらっしゃる」(ニッコリ)
父 「バカにせんといてください。それくらいのことは分かる」
母 「そう言えば、中学生の頃、何かモジモジして言いたいことがあるようなことがあったじゃない?」
父 「そうだったか?」
母 「ひょっとして、何か相談したかったんじゃ…」
とまあ、ああでもないこうでもないと対話が続いた結果、どうやら精神的に苦しいのは我々夫婦だけではない
ということを理解いただくことができました。
父 「もうええかげん話してください。Aさんの考えを。どうやってひきこもりを治すのかを」
私 「ひきこもりが『治る』というのは違和感があります。治療するわけではありませんから」
父 「じゃあ何て言うんだ」
私 「う~ん、何て言うでしょう。『抜け出す』というのが、私のかろうじての表現です」
母 「では抜け出すにはどうしたら…」
私 「まずは私からAさんにハガキを出します」
父母「ハガキ!?」
おおいに拍子抜けした表情のご両親。
私は相変わらずニコニコしていました。
続きはまた次回。
今回も最後まで読んでくださった貴方に感謝。