250円牛丼登場
吉野家の円相場は1ドル=60円
編集委員;田中陽 稿
2012/12/7 7:00
関連記事
・11月24日 日経新聞朝刊1面 「吉野家 250円牛丼店」
・11月29日 日経新聞朝刊11面 「小売り、外食 値下げ競う」から
吉野家ホールディングスが米国で展開している
「YOSHINOYA」の牛丼並盛りの価格をご存じだろうか。
答えは4ドル19セントだ。
最近の為替レート(1ドル=82円30銭)で
日本円にすると345円になる。
ちなみに日本の並盛りは380円だ。
原材料となるコメも牛肉も日本より安いから、
米国の牛丼が日本に比べて安くなるのは当然と言えば当然だ。
■地域によっては、牛丼価格が日米逆転
しかし、その吉野家の牛丼の価格が日米逆転する現象が局地的ながら起きている。
11月24日の日経新聞朝刊に
「吉野家、250円牛丼」と報じた。
現在、東京都内の2店舗で実験をしており、
100店舗の出店を目指すという。
安さを実現できたのはメニューを並盛りと大盛りに絞り、
従来の店舗なら店員数も3、4人体制のところを
実験店では2人で切り盛りする。
店舗の内装も簡素化している。
筆者は先日、
そのうちの1店、江戸川区にある瑞江駅前店に出向いた。
店に入ると、あの吉牛独特のタレのにおいがしていた。

写真:東京都内の店舗で実験的に
並盛り250円を始めた吉野家のポスター
この店の雰囲気をグルメ漫画「孤独のグルメ」の主人公、
井之頭五郎風に表現すればこうなる。
「最近の吉野家の店舗はメニュー数が多くなり、
タレのにおいが目立たなくなってきたような気がするが、
牛丼しか出さないこの店は吉野家の『原点』のような存在なのかもしれない」。
コンビニエンスストアのおにぎりが2個買えるかどうかの水準で
牛丼が食べられるというのはいかにも安い。
この250円がどれほど安いのか、
吉野家が海外展開している国・地域と比較してみたのが表(1)だ。

(1)日本生まれの吉野家の牛丼だが海外で食べた方が安い
(各国・地域の吉野家の牛丼並盛りの価格)
現地の並盛りの価格を日本円に換算した値段だ。
日本円で最も安く並盛りが食べることができるのが北京の吉野家の224円。
フィリピンでは231円、香港では233円などとなっている。
グローバルなメニューとなった吉野家の牛丼。
調理方法や食材は基本的には同じだ。
経済学には購買力平価という考えがあり、
理論的に全く貿易障壁のない世界の場合、
国が異なっても、同じ製品の価格は一つであるという
「一物一価の法則」が成り立つはずだという発想に基づく。
もし、購買力平価に従えば、
どこの国・地域でも牛丼の価格は万国共通になるはずだが、
表(2)のように価格が違ってくる要因のひとつは為替相場だと考えられる。
こうした比較は英エコノミスト誌が毎年行う、
マクドナルドのビッグマックによる価格比較が有名で、
今回もほぼ同様な手法でやってみた。

(12月5日午後の為替相場)
4ドル19セントの牛丼が
日本の通常の吉野家で出てくる並盛り380円と価値が同じなら、
そのときの円ドル相場は、1ドル=90円69銭だ。
現在の円はドルに対して価値が高いことになる。
総じて380円牛丼の場合、各国・地域の通貨に比べて日本円は過大評価されている。
■コメや牛肉の輸入が完全に自由化されたら……
逆に4ドル19セントと250円が同等なら1ドルは59円67銭だ。
1ドル=60円という猛烈な円高になって
やっと日米の牛丼の価値が同じになるのだ。
現在は高い貿易障壁があるのに250円牛丼を実現している吉野家。
現実味は乏しいが、
米国からコメや牛肉などの輸入が貿易障壁がなくなり、
完全に自由化されたら、ありうる世界なのかもしれない。
そのときはもっと仕入れコストが下がっているだろうから
為替相場次第では並盛りが250円以下になっていても不思議ではない。
田中陽(たなか・よう)氏

85年日本経済新聞入社。
90年編集局流通経済部記者、2002年流通経済部編集委員。
日経ビジネス編集委員などを経て消費産業部編集委員。
小売業、外食企業、流通行政・消費者行政などをカバー。
主な著書に「セブン-イレブン 覇者の奥義」「百貨店サバイバル」。
たしかに世界物価比較を行うのに、マクドナルドのバーガーが指標として使われる。
新たな指標として「吉野家」の牛丼も比較してみるとおもしろい。
田中陽記者、おもしろい記事をありがとうございました。
吉野家の円相場は1ドル=60円
編集委員;田中陽 稿
2012/12/7 7:00
関連記事
・11月24日 日経新聞朝刊1面 「吉野家 250円牛丼店」
・11月29日 日経新聞朝刊11面 「小売り、外食 値下げ競う」から
吉野家ホールディングスが米国で展開している
「YOSHINOYA」の牛丼並盛りの価格をご存じだろうか。
答えは4ドル19セントだ。
最近の為替レート(1ドル=82円30銭)で
日本円にすると345円になる。
ちなみに日本の並盛りは380円だ。
原材料となるコメも牛肉も日本より安いから、
米国の牛丼が日本に比べて安くなるのは当然と言えば当然だ。
■地域によっては、牛丼価格が日米逆転
しかし、その吉野家の牛丼の価格が日米逆転する現象が局地的ながら起きている。
11月24日の日経新聞朝刊に
「吉野家、250円牛丼」と報じた。
現在、東京都内の2店舗で実験をしており、
100店舗の出店を目指すという。
安さを実現できたのはメニューを並盛りと大盛りに絞り、
従来の店舗なら店員数も3、4人体制のところを
実験店では2人で切り盛りする。
店舗の内装も簡素化している。
筆者は先日、
そのうちの1店、江戸川区にある瑞江駅前店に出向いた。
店に入ると、あの吉牛独特のタレのにおいがしていた。

写真:東京都内の店舗で実験的に
並盛り250円を始めた吉野家のポスター
この店の雰囲気をグルメ漫画「孤独のグルメ」の主人公、
井之頭五郎風に表現すればこうなる。
「最近の吉野家の店舗はメニュー数が多くなり、
タレのにおいが目立たなくなってきたような気がするが、
牛丼しか出さないこの店は吉野家の『原点』のような存在なのかもしれない」。
コンビニエンスストアのおにぎりが2個買えるかどうかの水準で
牛丼が食べられるというのはいかにも安い。
この250円がどれほど安いのか、
吉野家が海外展開している国・地域と比較してみたのが表(1)だ。

(1)日本生まれの吉野家の牛丼だが海外で食べた方が安い
(各国・地域の吉野家の牛丼並盛りの価格)
現地の並盛りの価格を日本円に換算した値段だ。
日本円で最も安く並盛りが食べることができるのが北京の吉野家の224円。
フィリピンでは231円、香港では233円などとなっている。
グローバルなメニューとなった吉野家の牛丼。
調理方法や食材は基本的には同じだ。
経済学には購買力平価という考えがあり、
理論的に全く貿易障壁のない世界の場合、
国が異なっても、同じ製品の価格は一つであるという
「一物一価の法則」が成り立つはずだという発想に基づく。
もし、購買力平価に従えば、
どこの国・地域でも牛丼の価格は万国共通になるはずだが、
表(2)のように価格が違ってくる要因のひとつは為替相場だと考えられる。
こうした比較は英エコノミスト誌が毎年行う、
マクドナルドのビッグマックによる価格比較が有名で、
今回もほぼ同様な手法でやってみた。

(12月5日午後の為替相場)
4ドル19セントの牛丼が
日本の通常の吉野家で出てくる並盛り380円と価値が同じなら、
そのときの円ドル相場は、1ドル=90円69銭だ。
現在の円はドルに対して価値が高いことになる。
総じて380円牛丼の場合、各国・地域の通貨に比べて日本円は過大評価されている。
■コメや牛肉の輸入が完全に自由化されたら……
逆に4ドル19セントと250円が同等なら1ドルは59円67銭だ。
1ドル=60円という猛烈な円高になって
やっと日米の牛丼の価値が同じになるのだ。
現在は高い貿易障壁があるのに250円牛丼を実現している吉野家。
現実味は乏しいが、
米国からコメや牛肉などの輸入が貿易障壁がなくなり、
完全に自由化されたら、ありうる世界なのかもしれない。
そのときはもっと仕入れコストが下がっているだろうから
為替相場次第では並盛りが250円以下になっていても不思議ではない。
田中陽(たなか・よう)氏

85年日本経済新聞入社。
90年編集局流通経済部記者、2002年流通経済部編集委員。
日経ビジネス編集委員などを経て消費産業部編集委員。
小売業、外食企業、流通行政・消費者行政などをカバー。
主な著書に「セブン-イレブン 覇者の奥義」「百貨店サバイバル」。
たしかに世界物価比較を行うのに、マクドナルドのバーガーが指標として使われる。
新たな指標として「吉野家」の牛丼も比較してみるとおもしろい。
田中陽記者、おもしろい記事をありがとうございました。