第6話-17

　「お前なんて、今まで恐い思いなんかしたことないんだろう？子供の頃に母親におもちゃを取り上げられて、暗い物置に閉じ込められて、心にもない謝罪をさせられて、子供なりのプライドがズタズタになったなんて、経験ないんだろ？」
　田村は息を切らしながら、藍原を睨み付けて怒鳴った。
　「ちょっとした楽しみのために人を騙すなんて、誰でもするだろ？僕は子供だったし、本当はもう大人になってる息子が溺れてるって言ったら、頭のおかしい婆さんは川にすっ飛んで行ったんだぜ。婆さんがそのせいで風邪を引いて死ぬのが少し早くなったからって、日本の経済にとっては何も問題ないだろ？
　それなのに母は、まだ小学生だった僕を」

　お年寄りにそんなひどいことをしたのだから、母親が怒って子供を懲らしめるのは当たり前だ。詳しく聞かなければ本当のことはわからないが、これは田村の逆恨みで、田村は精神的には子供のまま成長していないように見える。

　「僕は婆さんに謝りに行かされて、父が帰ってくるまで子供部屋で泣いていたんだ。
　父が『大事な長男になんてことをするんだ！』って助けてくれるまで、大好きなテレビも見せてもらえず、どんなに辛かったかわかるか？」

　この男にはお婆さんがどんなに苦しかったか分かってない。