もう二度と見る事は無いかもしれない。
旅先ではそう思いながら眺める風景もある。
下手な腕前で写真など何枚取ってみた所で、
後から見ればそれは自分がそこに行ったと言う証拠でしか無く、
カメラを向けた事で、なにかその神聖な美しさを冒涜したような気にさえなる。
幻を見ているのかと思う程の風景を眺めながら、
一人の人間が一生のうちに出会える美しい景色の少なさにため息が出て来る。
私はあと幾つ見ることが出来るのだろうか?
何も答えてはくれない写真を見ながら、ふと思う。
私は幻を見ていたのかと。
ところが!良い事を思い出したぞ
写真は下手でも私には味覚 が有るじゃないか
だてに長年食いしん坊をやって来たんじゃないぞ。
私の味覚は幻などではない。
旅先で出会った様々な味は、
いつでもその時の全てをまざまざと目の前に再現してくれる。
今宵は丁寧にあのコーヒーを入れて、
幻について語りましょうか。
思い出は、どんな時にも心を支えてくれるものです。
経る時