Wolfgang Sawallisch(ヴォルフガング・サヴァリッシュ、1923-2013)が、
ザルツブルクの西約50kmにある南ドイツ・バイエルン州Grassau(グラッサウ)の自宅で
去る2月22日に亡くなったそうである。
オペラ指揮者時代のヴァーグナーやリヒャルト・シュトラウス、
ベートーヴェン、シューバート、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス
などが主たるレパートリーだったようだが、なぜか
チャイコフスキーの「白鳥の湖」は好きだったようである。
フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督時代にも、その全曲を録音してる。
チャイコフスキーの「白鳥の湖」はその2幕を仕切る
第10曲と第14曲(じつはこのふたつは同一曲)の「白鳥のテーマ」
♪ミー・ーー・・>ラ<シ・<ド<レ│<ミー・ー>ド・・<ミー・ー>ド│
<ミー・ー>ラ・・>ド>ラ・>ファ<ド│>ラー・ーー・・ー♪
が、クラ音のクの字も知らないむきにも
知られてるほどポピュラーなものである。しかしながら、
バレエとチャイコフスキーの音楽の実体となると、
クラ音の専門家やバレエ関係者の誰一人分からない、という
ミステリアスなものなのである。
(cf;拙ブログ「瓢湖不充分白鳥の湖舞イアーリンク泡沫事件」カテゴリー)
バレエも音楽もズタズタに改竄されてしまったからである。
その災禍のひとつが「設定」「あらすじ」である。現在、
バレエを専門にやってる人でもその大多数が、
"オデットは悪魔によって白鳥の姿に変えられてしまった"
と本気で信じ込んでる。自国のウソの歴史を信じてる
どこぞの民族とおなじくらいに。結末も、
"「悪魔」ロートバルトに打ち勝ってめでたく結ばれる"
という認識である。
チャイコフスキーの生前、「白鳥の湖」全曲のフルスコアは出版されなかった。
モスクワ音楽院創設時からのチャイコフスキーの同僚教授である
Николай Дмитриевич Кашкин
(ニカラーィ・ドミータリィヴィチ・カーシキン、いわゆるニコライ・ドミトリエヴィッチ・カシキン、
1839-1920)がピアノ独奏用に編曲した全曲版のみが
初演の年1877年にユルゲンソンから出版された。フルスコアのほうは、
チャイコフスキーの死後のプティパ=イヴァーノフ&弟モデスト改竄版は出されず、
1895年にやはりユルゲンソンから"元の"総譜が出された。が、
2幕の第13曲(7枝番)中の枝番6のヴァルスが、そこでは、
チャイコフスキーのオリジナルでは「フラット記号4つの変イ長調」から
「シャープ3つのイ長調」に改竄されてるのである。だからか、
「白鳥の湖」の全曲録音を行ったもののうちの過半数が
このナンバーを「イ長調」で演奏してる。チャイコフスキーの作品において、
調性をむやみに変じることは、その作曲意図を
まったく考慮にいれてない所業である。そんな中で、
サヴァリッシュがフィラデルフィア管弦楽団と残した録音は、
正しく「変イ長調」である。サヴァリッシュは、
ズィークフリート王子の教育係と名が同じ
ヴォルフガングなので、そこらへんのことは
しっかりとわきまえてたのかもしれない(※)。
「白鳥の湖」2幕第13曲(7枝番)は、
a;3/4拍子テンポ・ディヴァルス(3♯=イ長調)→
b;6/8拍子モデラート・アッサイ(4♯=ホ長調)→
c;3/4拍子テンポ・ディヴァルス(3♯=イ長調)→
d;4/4拍子アッレーグロ・モデラート(3♯=嬰ヘ短調)→
e;4/4拍子アンダーンテ(無調号=嬰ヘ音から開始)
→6/8拍子アンダーンテ・ノン・トロッポ(6♭=変ホ短調/変ト長調)
→2/4拍子アッレーグロ(3♭=変ホ長調)→
f;3/4拍子テンポ・ディヴァルス(4♭=変イ長調)→
g;/8拍子アッレーグロ・ヴィーヴォ(4♯=ホ長調)
という成り立ちである。この中で、
枝番5の調性が"異質"であることを、
巷の指揮者といわれる者は気にしない。
破毀されたオペラ「ウンヂーナ」からの転用だから、
というエクスキューズをする者はいる。
まだ"まし"な程度である。ユルゲンソンですら、
チャイコフスキーの死後全曲を出版する際、
枝番6を「4♭=変イ長調」から他の枝番と
"調和"させるために「3♯=イ長調」に改竄してしまった。
その後の舞踊関係者やバレエ指揮者は何の疑いもなく、
[枝番6=3♯(イ長調)]
と鵜呑みにして、その前の枝番5の調性にも
立ち止まることはしない。
この枝番の主部は[6♭(変ホ短調/変ト長調)]という
奇天烈な調号の上で書かれてる。そして、
主部の中間では、この調号を維持したままで、
第1幕第5曲コーダの♪ソ<ド♪という動機を、
「ホ長調」そして「ロ長調」で刻むのである。
第13曲は、その側面においては、
第1幕で王子をとりまいてたシャープな調性が
フラットな調性の磁力にのみこまれてしまうさまが描かれてる、
のである。
ともかくも、[6♭(変ホ短調/変ト長調)]は、
この第2幕でオデットが登場したときのはじめの
「無調号(イ短調)」の対極にあたる調性(五度圏概念)である。
この枝番がどの登場人物によって踊られたかも
現在では不明であるが、おそらくは、
ズィーィフリート王子とオデット姫であろう。とすると、
第1幕第3曲で王子の母である王妃による
[王妃の(王子がしかるべき花嫁を迎えてほしい、という)希望]
の[無調号(ハ長調)]とも正反対な行為場面、
ということになる。オデットは本来は
[無調号]で王子に相応しいのだが、さまざまな障害で
その調性を維持できないさだめの娘だったのである。だから、
次ぐ枝番6がシャープ度がもっとも強い[3♯(イ長調)]ではおかしい、
と懐疑心をもたないようではチャイコフスキーをやるのは無理である。
次幕を支配するフラットな磁場におけるメイン・キーである
[4♭=変イ長調]という、[2♯(ニ長調/ロ短調]の対極調でなければ
意味をなさないのである。
♪ミ・ー・ー│>レ・<ミ・>レ│>ド・ー・ー│ー・ー、・ド│
<ファ・ー・ファ│>ミ・<ファ・<ソ│ソ・ー・>レ♪
(TwitSoundに、第13曲の1(イ長調)の冒頭8小節のあとに
第13曲の6の冒頭9小節を続けて繋げたものをアップしておきました。
http://twitsound.jp/musics/tsFPqYv20 )
ザルツブルクの西約50kmにある南ドイツ・バイエルン州Grassau(グラッサウ)の自宅で
去る2月22日に亡くなったそうである。
オペラ指揮者時代のヴァーグナーやリヒャルト・シュトラウス、
ベートーヴェン、シューバート、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス
などが主たるレパートリーだったようだが、なぜか
チャイコフスキーの「白鳥の湖」は好きだったようである。
フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督時代にも、その全曲を録音してる。
チャイコフスキーの「白鳥の湖」はその2幕を仕切る
第10曲と第14曲(じつはこのふたつは同一曲)の「白鳥のテーマ」
♪ミー・ーー・・>ラ<シ・<ド<レ│<ミー・ー>ド・・<ミー・ー>ド│
<ミー・ー>ラ・・>ド>ラ・>ファ<ド│>ラー・ーー・・ー♪
が、クラ音のクの字も知らないむきにも
知られてるほどポピュラーなものである。しかしながら、
バレエとチャイコフスキーの音楽の実体となると、
クラ音の専門家やバレエ関係者の誰一人分からない、という
ミステリアスなものなのである。
(cf;拙ブログ「瓢湖不充分白鳥の湖舞イアーリンク泡沫事件」カテゴリー)
バレエも音楽もズタズタに改竄されてしまったからである。
その災禍のひとつが「設定」「あらすじ」である。現在、
バレエを専門にやってる人でもその大多数が、
"オデットは悪魔によって白鳥の姿に変えられてしまった"
と本気で信じ込んでる。自国のウソの歴史を信じてる
どこぞの民族とおなじくらいに。結末も、
"「悪魔」ロートバルトに打ち勝ってめでたく結ばれる"
という認識である。
チャイコフスキーの生前、「白鳥の湖」全曲のフルスコアは出版されなかった。
モスクワ音楽院創設時からのチャイコフスキーの同僚教授である
Николай Дмитриевич Кашкин
(ニカラーィ・ドミータリィヴィチ・カーシキン、いわゆるニコライ・ドミトリエヴィッチ・カシキン、
1839-1920)がピアノ独奏用に編曲した全曲版のみが
初演の年1877年にユルゲンソンから出版された。フルスコアのほうは、
チャイコフスキーの死後のプティパ=イヴァーノフ&弟モデスト改竄版は出されず、
1895年にやはりユルゲンソンから"元の"総譜が出された。が、
2幕の第13曲(7枝番)中の枝番6のヴァルスが、そこでは、
チャイコフスキーのオリジナルでは「フラット記号4つの変イ長調」から
「シャープ3つのイ長調」に改竄されてるのである。だからか、
「白鳥の湖」の全曲録音を行ったもののうちの過半数が
このナンバーを「イ長調」で演奏してる。チャイコフスキーの作品において、
調性をむやみに変じることは、その作曲意図を
まったく考慮にいれてない所業である。そんな中で、
サヴァリッシュがフィラデルフィア管弦楽団と残した録音は、
正しく「変イ長調」である。サヴァリッシュは、
ズィークフリート王子の教育係と名が同じ
ヴォルフガングなので、そこらへんのことは
しっかりとわきまえてたのかもしれない(※)。
「白鳥の湖」2幕第13曲(7枝番)は、
a;3/4拍子テンポ・ディヴァルス(3♯=イ長調)→
b;6/8拍子モデラート・アッサイ(4♯=ホ長調)→
c;3/4拍子テンポ・ディヴァルス(3♯=イ長調)→
d;4/4拍子アッレーグロ・モデラート(3♯=嬰ヘ短調)→
e;4/4拍子アンダーンテ(無調号=嬰ヘ音から開始)
→6/8拍子アンダーンテ・ノン・トロッポ(6♭=変ホ短調/変ト長調)
→2/4拍子アッレーグロ(3♭=変ホ長調)→
f;3/4拍子テンポ・ディヴァルス(4♭=変イ長調)→
g;/8拍子アッレーグロ・ヴィーヴォ(4♯=ホ長調)
という成り立ちである。この中で、
枝番5の調性が"異質"であることを、
巷の指揮者といわれる者は気にしない。
破毀されたオペラ「ウンヂーナ」からの転用だから、
というエクスキューズをする者はいる。
まだ"まし"な程度である。ユルゲンソンですら、
チャイコフスキーの死後全曲を出版する際、
枝番6を「4♭=変イ長調」から他の枝番と
"調和"させるために「3♯=イ長調」に改竄してしまった。
その後の舞踊関係者やバレエ指揮者は何の疑いもなく、
[枝番6=3♯(イ長調)]
と鵜呑みにして、その前の枝番5の調性にも
立ち止まることはしない。
この枝番の主部は[6♭(変ホ短調/変ト長調)]という
奇天烈な調号の上で書かれてる。そして、
主部の中間では、この調号を維持したままで、
第1幕第5曲コーダの♪ソ<ド♪という動機を、
「ホ長調」そして「ロ長調」で刻むのである。
第13曲は、その側面においては、
第1幕で王子をとりまいてたシャープな調性が
フラットな調性の磁力にのみこまれてしまうさまが描かれてる、
のである。
ともかくも、[6♭(変ホ短調/変ト長調)]は、
この第2幕でオデットが登場したときのはじめの
「無調号(イ短調)」の対極にあたる調性(五度圏概念)である。
この枝番がどの登場人物によって踊られたかも
現在では不明であるが、おそらくは、
ズィーィフリート王子とオデット姫であろう。とすると、
第1幕第3曲で王子の母である王妃による
[王妃の(王子がしかるべき花嫁を迎えてほしい、という)希望]
の[無調号(ハ長調)]とも正反対な行為場面、
ということになる。オデットは本来は
[無調号]で王子に相応しいのだが、さまざまな障害で
その調性を維持できないさだめの娘だったのである。だから、
次ぐ枝番6がシャープ度がもっとも強い[3♯(イ長調)]ではおかしい、
と懐疑心をもたないようではチャイコフスキーをやるのは無理である。
次幕を支配するフラットな磁場におけるメイン・キーである
[4♭=変イ長調]という、[2♯(ニ長調/ロ短調]の対極調でなければ
意味をなさないのである。
♪ミ・ー・ー│>レ・<ミ・>レ│>ド・ー・ー│ー・ー、・ド│
<ファ・ー・ファ│>ミ・<ファ・<ソ│ソ・ー・>レ♪
(TwitSoundに、第13曲の1(イ長調)の冒頭8小節のあとに
第13曲の6の冒頭9小節を続けて繋げたものをアップしておきました。
http://twitsound.jp/musics/tsFPqYv20 )
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