夏は来ぬ 小山作之助生誕150年
先週から東京でも寒い日が続いてる。私は
デブでハゲながら寒さが苦手なこともあって
冬よりも夏が好きである。だから、
大江戸探検隊でも副隊長の私は、
冬場はあまり外を歩くことはしないように
隊長に要請してる。その隊長は幕臣の子孫で、
先祖は大番組に配されてた。その
大番組の屋敷があったのが現在の千代田区
番町(一番から六番まで)である。戦後、
戦前の「一中→一高→東京帝大」を継承した、
「番町小→麹町中学→日比谷高→東大」
というルートが日本のエリート・コース、という時期があった。
ちなみに、都立ながら日比谷高は、
新年度に2年の担任教師が各自自分の旗を校庭に立てて、
生徒が好きな担任の旗のもとに集まってクラスを決める、
いわゆる「旗立て方式」という、
生徒が担任を選ぶ高校として知られてた。実際は、
人気のない教師の旗には、担任など誰でもいいという生徒が移って
全クラスがだいたい同じくらいの生徒数になるような
"配慮"が自主的にされてた。それが知れ渡り、
越境入学的に日比谷高に入ろうとする者が増えたこともあって、
「学校群制度」が敷かれて同校の人気が下がり、
東大合格者数も急激に低下して、
灘や開成や武蔵ラ・サールといった私立校からの東大入学者が増加した。
現在はまた日比谷高のレヴェルは上がってるようである。反対に、
武蔵やラ・サールは、聖光学院、渋谷教育学園幕張(共学)、
女子の東大進学増加による桜陰、女子学院など、
他の私立受験新興進学校に人気が分散し凋落した。いずれにせよ、
故ネルソン・マンデラの目がなぜ細い(瞼が分厚い)のか
説明できない拙脳なる私などが入学できない
レヴェルの高偏差値校であることに変わりはない。
ともあれ、
「番町小学校」の校歌の作者としても一部では知られてるのが、
今日、生誕150年の日にあたる、
明治政府の文部省で唱歌の作曲・選定に深く関わった
小山作之助(こやま・さくのすけ、文久3年12月11日-昭和2年6月27日)
である。ちなみに、
昨年を同人の生誕150年としてる記事もネットで見受けられるが、
旧暦の年=現行暦の年
だと誤認してるむきの所業である。
文久3年12月11日は現行暦換算では1864年1月19日なのである。
同人は現在の上越市潟町で生まれた。公的には
"作者不詳"ということになってる唱歌
「海」(松原遠く、消ゆるところ)でその故郷の海を詠ったらしい。
♪ド<レ・<ミー・ミー│<ソソ・>レー・ーー│
>ド<レ・<ミー・<ファー│>ミミ・>レー・ーー♪
クラ音と唱歌・童謡で育った私の、好きな唱歌のひとつである。が、
それ以上に好きな唱歌が、同人が作曲して、
歌人佐佐木弘綱の倅の佐佐木信綱に詞を書かせた(*)のが、
「夏は来ぬ」である。
♪ソー・>ミ<ファ・・<ソー・ーソ│<ラ<ド・>ソ<レ・・>ド>ラ・>ソー│
<ラー・<ド>ラ・・>ソー・ーソ│<ラ>レ・レ<ソ・・>ミ>ド・<レー│
>ドー・<ミー・・<ソー・ーソ│<ラ>ソ・<ラ<ド・・>ソー・ー、ソ│
<ドー・ー<ミ・・>レー・レー│>ドー・ーー・・●●・●●♪
明治33年(1900年)6月に、
「新選国民唱歌」(第二集)(小山作之助編)の中の
一曲(ハ調四拍子)として発表された。
その翌年には別の版元から出され、
「夏」という題名で、歌詞は"無名子"による
別のもの(**)があてられたという。おそらくは
小山自身が作詞したのだあろう。が、さらにまた
タイトルも「夏は来ぬ」、詞も佐佐木信綱のものに戻された。
(*)
[1)うの花の にほふ垣根に 時鳥(ほととぎす) 早もきなきて 忍音(しのびね)もらす 夏はきぬ
2)さみだれの そそぐ山田に 賎(しづ)の女(め)が 裳裾(もすそ)ぬらして 玉苗ううる 夏はきぬ
3)立ばなの かほる軒ばの 窓近く 蛍とびかひ 怠(おこたり)いさむる 夏はきぬ
4)棟(あふち)ちる 川べの宿の 門(かど)遠く 水鶏(くひな)声して 夕月すずしき 夏はきぬ
5)夏はきぬ 蛍とびかひ 水鶏なき 卯木(うつぎ)花さき 早苗うゑわたす 夏はきぬ]
のちに、
2番の「賤の女(しづのめ)」が「早乙女(さおとめ)」に、
5番の(冒頭の)「夏はきぬ」が「さつきやみ(五月闇)」(=五月雨の頃の暗い夜)に、
同番の「卯木花さき」が「卯の花さきて」に、
それぞれ変更された。
1番の「うの花」は「ウツギの花」、
「忍音」は「特許許可局の許可を得てその年初めて鳴くホトトギスの声」、
2番の「山田」は「山あいの傾斜地を切り開いた田(棚田)」、
「賤の女」は「江戸時代に士農工商外の身分だった者の子孫の女性」、
「裳」は「着物」、「玉苗(たまなえ)」は「早苗」、
3番の「立ばな」は「橘(柑子)」、「いさむる(終止形=いさむ)」は「注意を促す」、
4番の「棟(あふち)」は「栴檀(センダン)(白檀ではない)」
(端午の節句の日に魔除け邪気払いや健康成長を祈って
香料や薬草を錦の袋に詰めて作る薬玉(くすだま)にその実も入れた)、
「水鶏」は「ヒクイナ」、
の意味である。
3番の「窓近く」に4番の「門遠く」が対比されてる。
1番から5番まで、「五七五七七」+「夏はきぬ(五)」というパターンを貫いてる
(曲が先にできてたのだから当然だが)。
1番は「橘の にほへる香かも ほととぎす 鳴く夜の雨に 移ろひぬらむ」
「春の苑 紅匂ふ。桃の花 下照る道に 出でたつ乙女」
という万葉集の大伴家持の歌、そうした古歌などを本歌とした
「山里は 卯の花垣の ひまをあらみ 忍び音もらす 時鳥かな」
という江戸時代後期の国学者加納諸平の歌、などを下敷きにしてる。
「にほふ」はもともとは「丹(に)覆ふ」(niohofu→nihofu)で、
赤い花の色が反射して一面を覆ったさまを表した。のちには
白い花(この歌のウツギのように)が一面に咲いてるだけのさまも意味するようになった。
ちなみに、ウツギは幹が中空だから「空木(ウツギ)」という名が附いた。
2番は「君がため 山田の沢に ゑぐ(=オモダカ)摘むと 雪消の水に 裳の裾濡れぬ」
という、やはり万葉集の作者不詳の歌と、それを本歌とした
「五月雨に 裳裾濡らして 植うる田を 君が千歳の みまくさにせむ」
という「栄花物語第19巻・御裳着(おんもぎ)」の中の歌を引いてる。
3番は中国の「晋書・車胤伝」の「蛍雪の功」、つまり、
「蛍の光、窓の雪」を夏だけヴァージョンにアレンジしたものである。
小さな昆虫の蛍でさえ頑張って生きてるんだから、
怠けないで勉学に励みなさいよ、ということである。
4番は「叩くとて 宿の妻戸を 開けたれば 人もこずえの 水鶏なりけり」
という拾遺和歌集の作者不詳歌を引いてる。また、
1番のホトトギスと合わせて
「玉に貫く 棟を家に 植ゑたらば 山ほととぎす 離(か)れず来むかも」
という万葉集の大伴書持(ふみもち。家持の弟)の歌の言葉を引いてる。
5番はそれまでのまとめ的な歌詞となってる。
いっぽう、「夏」としての歌詞は、
(**)
[01)あたらしく ほりたる池に 水ためて 金魚はなさん。夏こそ今よ いざ来れ。
02)手をうてば 群くる鯉を 数へつつ 橋を渡らん。夏こそ今よ いざ来れ。
03)おとどひが 作りあひたる 築山に 苔をはやさん。夏こそ今よ いざ来れ。
04)葉桜の 若葉すずしき 下蔭(したかげ)に 釣床(つりとこ)つらん。夏こそ今よ いざ来れ。
05)そよ風の ふきくる夕べ ぶらんこに のりて遊ばん。夏こそ今よ いざ来れ。
06)紫に 菖蒲花さく 公園を そぞろあるかん。夏こそ今よ いざ来れ。
07)蓮の葉の 丸く浮べる 田の水に 目高(めだか)すくはん。夏こそ今よ いざ来れ。
08)ここかしこ 蜻蛉おひつつ 疲るれば 草にねころぶ。夏こそ今よ いざ来れ。
09)夜に入れば 手に手に笹を 持ちいでて ほたる狩せん。夏こそ今よ いざ来れ。
10)凉しくも 出でくる月を 松に見て 唱歌うたはん。夏こそ今よ いざ来れ。
11)とく起きて 咲き初めたる 朝顔の 花をかぞへん。夏こそ今よ いざ来れ。
12)玉よりも 清く光りの 朝露を ふみ心地よき。夏こそ今よ いざ来れ。
13)朝毎に 父を助けて 庭はきて 草に水やる。夏こそ今よ いざ来れ。
14)学校の 休みにならば 父上と 山のぼりせん。夏こそ今よ いざ来れ。
15)登山する 富士のふもとに わらぢをも はき習ふべき。夏こそ今よ いざ来れ。
16)谷がけの 瀧に打たれて 心まで 清く洗はん。夏こそ今よ いざ来れ。
17)あら波の 寄せ来る磯に 潮あびて からだ鍛はん。夏こそ今よ いざ来れ。
18)海原に 盥うかべて 海士の子と 遊びくらさん。夏こそ今よ いざ来れ。
19)うちつれて ボートすすめて 海国の 男児ならはん。夏こそ今よ いざ来れ。
20)学校の 休みのひまに 国のため 身を固むべき。夏こそ今よ いざ来れ。
と、お世辞にも感嘆してみせれない出来の詞である。いずれにしても、
「夏は来ぬ」
は発表後からたちまちその節が評判の歌となったらしい。
佐佐木信綱は著名な万葉集・新古今和歌集研究者となったが
この作詞当時はまだ若輩だった。で、
その"不出来"さ加減に自身も自信喪失となってしまったらしい。が、
結局は信綱の詞のほうに戻されて、明治の唱歌の名曲として残ったのである。
後世、コーセーではないがカネボウの
「夏は絹」などというしようもないオヤジギャグ的コピーの石鹸CMが作られたほどである。
(小山作之助オリジナルの「夏は来ぬ」に続けて私が アレンジしたもの
……ともにスキャットのアカペラ4声混成合唱……を
https://soundcloud.com/kamomenoiwao-1/koyama-s-kamomeno-iwao-natsu
にアップしました)
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