海底美術館 Caribbean Underwear Museum
ジェイソン・デカイレス・テイラー
日経ナショナルジオグラフィック社 2400円+勢
誰もがこれらの写真はどこかで見たことがあるに違いない
写真は何枚も何枚も見つかることだろう。
海中の青い光線の中に浮かび上がる裸婦や踊る少女、考え込む少年,互いに手をつなぎ輪を作る群像、海底の砂の中に頭を突っ込んで膝まづく男たち
それらの彫像は、
あるものは大理石のような滑らかな白い肌を持ち、
あるものは表面に薄く色とりどりの水草や苔をまとい、
またあるものは奇怪な珊瑚の枝を身体中から生やして異形の樹怪のように変貌している。
共通しているのは、静謐な青い光線と、海中に存在しているための沈黙だ。
更に、集中して画像を見ていると、自分の水中の呼吸音や潮の流れを肌に感じはじめる。
いずれもが美しい、
そして奇妙な情動:エナジーを内から放射しているように見る者の視線を捉えて離さない。
SF映画のワンシーンのセットのようでもあり、
太古の海中遺跡のようでもあるが実はこれらはカリブ海の海中に実際に存在する現代アートの海底美術館なのである。
制作者は、イギリスの現代彫刻家で水中写真家でもあるジェイソン・デケアレス・テイラー(en:Jason deCaires Taylor)
2006年に西インド諸島南東部にあるグレナダ沖に世界初の海底彫刻公園を開設した。
以後、2010年にメキシコ南東部にある観光都市であるカンクンの沖にカンクン海底美術館を開設し、
2014年には、バハマ諸島にあるナッソーの海底に、高さ5.5メートル、重さ60トンの少女像を設置した。
2016年にはモロッコ沖にあるカナリア諸島のひとつ、ランサローテ島沿いにアトランティコ美術館と呼ばれる海底美術館を開設している。
作品は、テイラーによって実際のモデルを型取りし、中性のコンクリートや不活性のファイバーグラスを使って制作された。
素材は環境に優しく海の生物が発育しやすいものを考慮している。
作品の固定は海上の大型クレーンを使い、海底に台風や海潮によって転倒したり破損しないようしっかりと固定される。
最初はつるりとギリシャ神話の女神の大理石の彫像のような滑らかさを持った作品は、ジョジョに海中の環境に融和しサンゴや海藻が表面に、最初はおずおずと、そして途中からは暴力的なまでに大胆に像を覆い尽くすように繁茂する。
その繁殖経緯も素材の劣化も含めた時間的な側面を含んだアートなのだ。
作品群は海中の植物の苗床となると共に、魚や生物たちの生殖する棲み家となる。
これも含めてのアートなのだ。
更にこれらの作品群は、既存の珊瑚礁の場所から考慮深く位置を離して設置される。
観光客やダイバーによる生態系へのダメージをそらし、彼らの興味を引く新たな名所、アートスポットをこちらに持ってくることにより、珊瑚礁を守る、というコンセプトなのだ。
実に確固として、芯が通っており、環境保護とはなんぞや、という命題に毅然として答えている。
しかも美しい、最高だ。
どこぞの国の民族ヘイトトリエンナーレ、とかレジ袋ストロー廃止のポーズだけのエコロジー環境大臣とかとは遥かに次元の違う、性根の通った芸術であり、思想だ。
まったくこの作品群の苔のひとかけでも押し頂いて煎じて飲め、といってやりたいところであります。
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