幻想小説周辺の 覚書

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読書レビュー 一度きりの大泉の話

2022-09-19 21:28:00 | 書評 読書忘備録
#萩尾望都
#一度きりの大泉の話

竹宮さんの本「少年の名はジルベール」も読んだが 
この萩尾さんの本の方が真相に近いのだろうなと思う 

トキワ荘と同じように少女漫画でも萩尾望都と竹宮恵子
の2大ビッグネームが練馬区大泉の借家で共同生活を二年間
行い、その場所で風と樹の詩とポーの一族が生まれ、そして
突然共同生活が解消され、それ以降二人は一切交流を断って
いることは、一時期それなりに話題になっていた。

だが、その絶縁の真相は当人のみが胸に秘めていればいい
ものであり、それが特にトラウマのように痛みを伴うもの
であるならば、興味本位で我々が詮索するべきではない。
ましてや、勝手にトキワ荘やまんが道みたいな勝手な理想郷
やサクセスストーリーを思い込みで作り上げ、ワレワレこそ
善意の思い出発掘人だ!と独善独裁者になるなんて論外だ。

創作者の世界には嫉妬も共鳴もあり得ることであろうし 
そこでの心情も結論も外野が口を出すべきではないのだ。

この本で繰り返し登場する 勘違い親切正義感で
あわよくば糞でお手軽な企画書で一発決めたいと迷惑振り撒く
マスコミ新聞社テレビの輩には嫌悪感しかない 

もうこの心やさしい天才をこれ以上煩わさないでいただきたい




読書レビュー ホラーがここに ぞぞのむこ

2022-09-11 06:33:00 | 書評 読書忘備録
ほら ホラーがここに
#井上宮 #ぞぞのむこ #じょかい

あまり有名になっていないが、久々にのめりこんだホラー小説でござる。
澤村氏のぼぎわんが好き? そんなあなたにピッタリっすよ!!
小野不由美の残穢にビビった? ああっ!この本からもう逃れられんよ!
DINNERが気持ちヨイ? やれやれ中毒症状だねコレで人間やめようか? 
まあこんなホラー短編集が「ぞぞのむこ」長編が「じょかい」ってわけ

順番はどっちからでもいいが おすすめはフレンチフルコースのように ぞぞのむこでシェフの腕前とセンスをアラカルトのように味わい、
じょかいでじっくりとメインディッシュを堪能する、という読み方がホラーグルメの方々には常套だと思う。
まあ 口に合わなかったり、これ以上ワタシにはムリっ!って場合でもリタイヤはこれのほうが容易い。
(だが、たぶんアナタはそうはしないと確信してるけどね 笑)






ぞぞのむこは獏市なる架空の地方都市が舞台の連作で時系列は先週の奇談からはじまり徐々に過去のエピソードに時を移してゆく。
この獏市というのが一見普通のちょっと陰気な住宅地で宅急便も配達されるし店もあるのだが、その町を知っている近くの住民は絶対足を踏み入れない、ヤバい町なのだ。いわゆる忌み地、入らずの禁足地、のような土地なのである。
杜王町みたいですねぇ。
実際gooogleで探したくなっちゃいます♪

やむおえず宅急便業者には獏市アタサワMAPなる内密資料が担当に伝わり、定期的に担当配置替えをして安全確保しているという。
(アタサワは当たらず障らずの意味 店や通りなど特に絶対避けるべき危険スポット、地雷源かトラップ設置場所みたいな場所でMapには赤く❌と名称が書かれてる。このMAP興味深い。誰か作ってくれないかな笑)

ぞぞのむこ
じょっぷに
だあめんかべる
くれのに
ざむざのいえ(これがじょかいにつながる感じ)

どれもざわつく、意味よくわからないタイトル
読むにつれ物語の後半の悲劇になってくると
その意味が薄々と嫌な予感がだんだん判明、確定
されてくる





そしてもう悲劇は手遅れで、どれも救済不能状態になってしまっている。
読者の自分なら安心だろうと思って読んでいるのだが 
あ オレあぶないかも。。。。と思わず石鹸で手を洗ってしまう不穏な、不条理な感染力がこの本には宿っている。残穢みたいな印象ですわ。
さあ あなたもざわつきに獏市を覗いてみませんか?






読書レビュー ぜんぶ本の話

2022-09-08 03:36:00 | 書評 読書忘備録
ぜんぶ本の話 池澤夏樹 池澤春菜(語り下ろし対談)

この本の出版は某ラジオ番組でこの二人の出版記念対談(番宣)で知った。
その番組のほうが、語り下ろしのこの本書よりも二人の距離感とか興味とかのライブな呼吸がつかめて面白かったと思い返す。
なんたって 娘が「ザリガニの鳴くところ」を意気揚々とプレゼンしてると横から父親が、もっとその本とか背景について深い蘊蓄とか評価をする始末。
場をさらってしまう父親に、娘から「わたしの プレゼン本を 盗らないでよッ!!(怒)」と ブチ切れられる場面など、なかなかこの二人ならではの場面だった。

実際のこの本では、さすがに親子ゲンカは収録されず、しっとりと、親和的に対談が進められる。
最初読んだ児童書の話、からSF、翻訳もの、自分たちの書いた本、と順序たてて語り合われる。
その都度、膨大な量の本の名前や作者の情報が出てくるが、この対談はきっと彼らの本棚がいっぱいの自宅で行われたからだろう、本を採り上げてはその本と周辺の関連本を棚から一掴み手に抱えてきて、また対談に戻る・・といった光景が目に浮かぶ。

このような親子、家族の関係、実にうらやましい。
そして買わなくても勝手に本が届き、増えてゆく、そのような環境も実にうらやましい。笑
垂涎の的であります。

【もくじ】
まえがき
Ⅰ 読書のめざめ 児童文学1
Ⅱ 外国に夢中! 児童文学2
Ⅲ 大人になること 少年小説
Ⅳ すべてSFになった SF1
Ⅴ 翻訳書のたのしみ SF2
Ⅵ 謎解きはいかが? ミステリー
Ⅶ 読書家三代 父たちの本
エッセイ〈父の三冊〉
「福永武彦について」「ぜんぶ父の話」
あとがき

【登場する作家と作品(一部)】
E・ファージョン『ムギと王さま』、E・ケストナー『エーミールと探偵たち』、サンテグジュペリ『星の王子さま』、
R・アームストロング『海に育つ』、K・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』、
W・ギブスン『ニューロマンサー』、A・マキャフリー『歌う船』、松本清張『点と線』、
C・オコンネル『ゴーストライター』、J・ル・カレ『スマイリーと仲間たち』、福永武彦『死の島』、
『マチネ・ポエティク詩集』......






読書レビュー 装画 イラストレーター しらこ

2022-09-08 03:33:00 | 書評 読書忘備録



しらこ イラストレーター、画家
今一番推しの作家さんです

今読んでる本の装画がこの女性の手によるものでした
Google検索すると 鱈の白子居酒屋メニューばっかりで途方にくれるが ひらがなでしらこ あるいは しらこ 装画で探すとご本人の丁寧に作られたWEBサイトかtwitterにあたり この本以外の彼女の仕事を見ることができる

水彩画のような色合いなのに油彩?
よく近寄って観察すると荒目のタッチなのに写実的で繊細な表現
どれも物語性を持っていて 奥行きが感じられ 
画面から水音のような環境音が聴こえて来るような雰囲気
小説の装画にはピッタリの作品であり作家だ

若いのにいい作品をたくさん作っているようで 
これからギャラリーとか個展を追いかけてみたいと思っている












読書レビュー その2 ザリガニの鳴くところ

2022-09-08 03:29:00 | 書評 読書忘備録
ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンス
レビューその2

前回のレビューで御歳70で初の小説家デビューのことに触れたが、読書マニア父娘で
有名な池澤夏樹春菜、父娘の対談でこれに関連することを語り合っていた。

いわく ”初めて世に出す本は傑作じゃなくてはならない病”の話題である。

読んでそのまま意を得たり、の名コピーであるが、特に親が著名な作家、とか、この業界に長いのに小説を一冊も出さないまま20代半ばを過ぎてしまった人に、この法則、病状は顕著に現れるらしい。
他にも類語として”デビュー作にはその作家の全てが詰まっている”なんてのがあり、益々重圧を感じるはずだ。

ザリガニ作家のディーリアもこのプレッシャーを感じたに違いない。それはこの本の構成や中身を読めばわかる。
誰が殺した、何故、どうやって?のミステリーがあると思えば、黒人、貧困白人差別の人種問題があり、湿地の生き物や環境を生き生きと描写する自然小説の魅力深い描写があり、育児放棄家庭暴力の悲劇と少女が自らの資質と数少ないメンターの手で一流の学者に育つ成長小説の高揚感がある。

きっと作者が70年間溜め込んだ、あれも書きたい、これも外せない、の全てが思い入れたっぷりの
宝物のような(カイアが大切に集めた鳥の羽のような)品々なのだろう。

この、全部のせラーメン、てんこ盛り感に、この作品に品がない、とか統一性に欠ける、とかいった
批判、減点要素として上げる批評がごくたまに見受けられるが、以上のディーリアの初作への思いを
考えれば的はずれなものだと知れる。

書く者の立場に立ってみたまえ、初作であるからこそ、初作を世に出すためには、全部のせ、にせざる
負えなかったのだし、世にだせなかったのだ。
むしろ、これだけ盛り込んでも、破綻の無い骨格を作り、きちんとラストには物語をまとめ上げた
作者の苦労と、編集者たち協力者の確かな仕事ぶりをほめたたえるべきだ。
おそらく、本書の修正、校正、推敲には、とんでもなく時間と労力がかかったに違いない。

読者は知らず知らずのうちに、本書に込められたエネルギー、熱、を感じてこの本に惹かれ、
のめり込み、感動するのである。
本とか、映画とか、音楽というものはきっとそういうものに違いない。