幻想小説周辺の 覚書

写真付きで日記や趣味を書く

アートコラム フランスの風景樹をめぐる物語

2022-06-30 11:13:00 | アートコラム
フランスの風景、樹をめぐる物語 
新宿損保ジャパン日本興亜美術館 を観ました ★★★★

お友達に招待券をいただいたので新宿のビル上美術館へ参ります。今回のテーマは樹をめぐる物語、ということで主に印象派前後のフランスの近代風景画の展開を観てみようというもの。
この頃だと絵画も宗教の束縛を離れ風景は風景、樹木は樹木。と近代的に観られるようになりました。テーマも戦争や裸婦とは異なり実にこころ落ち着いて安らかに見ることが出来ます。出品も個人藏のものが割りと多く、成る程個人オーナーが自分の楽しみのために所蔵して日々眺めては慈しんだのだろうなあと思いました。

とはいえ画家というものは恐ろしいもの、技巧についても迫力についてもちょっと異常なパワーを持った絵が時々唐突に紛れ込んでいて、ややッ!て目を見張ってしまいました。
 
超絶技巧で嵐の後の山々の木々や葉の濡れて光乱反射する一大パノラマをCG並みに再現してしまう「ドレ、嵐の後スコットランドの急流」

 樹なのに風景なのに何故か奇妙で影が今にも動き出しそうな、ジョジョ第4部に出てきそうなヴァロットン、オンフルールからの眺め」
 怖い、怖いです。こんな絵を寝室に飾ったら怖くてねむれましぇん。地面も背景も真っ赤です。「ポールセリュジェ、森の中の焚き火」



 やっぱり良いわあ🎵この絵の前だけマハワールドが広がってます。印象派ってのが何となくお行儀の良い美術商御用達の絵ってイメージ先行して損してるけど、この絵を見ると印象派が映画で言うとレオンみたいな硬派の武闘系だってことがわかるという「モネ、ヴェトイユ川岸からの眺め」


他の安らかな樹の絵の中に思いもよらないパッションに満ちた原色の樹「ロールフス、春の樹」どこが春じゃ?



中でもイチオシは、あの神曲の挿絵でお馴染みのドレの油絵です。あの天使と悪魔を描き出したあの指先が原色の絵の具で雲間から照射する光や木々の反射、激流の煌めきなどをキャンバスに再現してしまいます。スゴいです(>ω<。)

ああこの感想で万一、観たいと思った方、ごめんなさい。
今日までなのでした。(/≧◇≦\)

アートコラム ユトリロとヴァラドン 母と子の物語展

2022-06-30 11:02:00 | アートコラム



「ユトリロとヴァラドン 母と子の物語 展」の感想  2015年6月
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

パリの風景を丹念に描いたユトリロと母親ヴァラドンの絵画展を、新宿の高層ビルの最上階の美術館で観るというのも、この展覧会に更なる筆の一色を加える様な妙があると思います。

ユトリロは精神的にも家庭生活にも幸福ではなかったのですが、そのリハビリのために街並みを描くことで当初の白の時代の傑作群を残します。確かにその時期の彼の描く街並みの壁は重い重い精神性の絵の具に塗りこめられ街ゆく人々は皆、作者の人間関係を表すように遠くに陰鬱な衣をまとって不安の肖像(諸星大二郎)の様に佇んでいます。




展示は時系列で後記色彩の時代の作品を続けて提示することにより、絵画や彼の不器用ながら築き上げた人間関係によりユトリロが救済されていった様子を見せてくれます。何よりも変わったのは画中の人々で服装も体型も明るく丸みを帯びて不安の対象からコミュニケーション可能な対象として存在するようになります。僕らは苦しむ芸術家が救われる様子を見てホッとする反面、絵としての物足りなさを感じ観覧順路をまた以前の病んだ絵の前に立ち戻り、奇妙な満足感を抱くことになってしまいます。アートとは不思議なモノでありますね。




さてこのようなユトリロ君の葛藤の作品群の中に、なんというかプリミテイブで迫力と自信に満ちた絵が代わる代わる掲げられています。力強い輪郭線でモデルと真正面から対峙して迷いの無い色使いでオラオラアッと描かれた絵。これがユトリロ坊やの母親ヴァラドンの絵です。




とても親子とは思えない絵との距離感:先ほど文に出た、遠くからしか人物を描けなかった白の時代の息子の絵が隣に並んでいます。この対比だけでこの親子の関係や人付き合い、暮らしぶりが解るようになってるのです。
自分の気持ちに嘘はつかないわっ。的な愛情相関図を展開する芸術家の母親、その近くで淋しく、やはり芸術に縋るしかない息子。不幸なわけではないけれども、何とも言いようのない孤独。一番つながりあいたい対象にとって自分がいちばんではない淋しさ。そんなどこかで見てきたような一篇の映画を見たような気にさせてくれる、巧い展覧会です。




漫画レビュー 荒木飛呂彦 岸辺露伴ルーブルへ行く

2022-06-29 16:06:00 | 書評 読書忘備録
#荒木飛呂彦  #岸辺露伴ルーブルへ行く

ジョジョ4部の岸辺露伴のスピンオフの更にスピンアウト作品です 
どうスピンアウトかっていうと この話だけコミックス未収録 A4サイズ単行本全編オールカラー愛蔵版のみでしか読めないというもの

この本の企画は巻末にあとがきがあるが ルーブル美術館のジャパンポップカルチャー展覧会に合わせてバンドデシネのスタイルでフランスでも人気の高いジョジョアラキに一冊作ってもらい 原画を展示しようというもの。 
モナリザやニケと同じ屋根の下にジャパンマンガが展示されるわけだから、感無量であります

さて肝心の物語。 岸辺露伴のデビュー前の初の女性経験の相手の謎めいた人妻との挿話から始まるが、 彼女が語る、この世で最も黒い色で描かれた絵、を訪ねてルーブルの見捨てられた13番倉庫で露伴が体験した恐怖、ホラー談に話は移り 意外な因果的結末を迎えるもの。
なるほど、 荒木飛呂彦ファンにも、パリの美術愛好家にも ズキュンと刺さる スリリングでアンニュイでメルシーなスピンアウトストーリーでござった。












漫画レビュー 荒川弘 銀の匙

2022-06-29 15:59:44 | 書評 読書忘備録


「銀の匙 1巻」  荒川 弘   192頁

このシリーズ読み直し中ですが 初めて読んだ時とだいぶ感想が変わってきた
最初は「鋼の錬金術師の作者が意表をついて農業高校のユーモア漫画を持ってきた!」と思い、週刊サンデー連載で毎回呑気に笑わせていただいていた

だがこの物語も主人公八軒も実はハガレンのエドワードエルリックとなんら変わることなく、真剣に(と書いてマジ、と読む)闘っているように見えてきた

そりゃあそうだ、自分だって高校ボーイズの頃は毎日が一杯一杯で、いつもなにかに苛立ち、なにかをぐるぐると探し回り、
常に愚にもつかない真理めいたことを考え求め続けていた
自分だって八軒だって、いや全世界の若者はその時、闘っているのである
相手がホムンクルスか?勉強か?人間関係か?自分の人生か?が異なるだけなのだ

高校受験前に両親の期待に過剰に応えようとして燃え尽き症候になってしまった主人公は逃げるように寮付きの蝦夷農高校に入学する。
体力測定で一周20kmあるキャンパスを走り、世紀末覇者が乗るような巨大な馬に遭遇し、モビルスーツもかくやというような多機能コンバインが往来している。
このテーマパークのような高校の環境であるが授業は生き物の生死に直面する畜産酪農のシビアな世界であるし、集まった級友たちも多くは斜陽の家業の後継者であった。自ずから彼らは将来や自分の目標や仕事に常に直面してゆくのだ。

気が付けば私の家の長女も早いもので中学三年生の1学期が終わろうとしている
日々の勉強や部活に邁進しながらも、進むべき行き先の学校を絞り込まなければならない時期になってきてしまった。
父親として自分も数多ある高校の中から彼女の人生にとってベストな選択は何処か?について色々調べることを始めた。

成績や偏差値ももちろん良いに越したことはないが、このシリーズの八軒のように良い出会い、良い学びが出来る場所を探してやりたいと思う。
できれば本人とも時間を取って、現地に行ってみて、この人生の選択について話し合ってゆきたいと思う。
学校での勉強以上に彼女にはこの選択には時間をかけ、考えを巡らす必要があると思うからだ。
内緒であるが自分としてはビブリオバトル部のモデル校になっていそうな国際色豊かな某都立高に進んでもらいたい、と思っている。
だがこればっかりは本人次第なので、これから徐々に見学なり視察を重ね彼女のモチベーションを高めてゆきたい。

今年受験なさる皆さんのご家庭はいかがだろうか?
一緒にあと半年、頑張りましょう。


読書レビュー  米澤穂信  満願

2022-06-29 15:55:54 | 書評 読書忘備録


満願  米澤 穂信著   読みましたよ★★★★ 
2022年の6月の終わりにこの本のレビューをいたします。
ハイ。遅まきながらです、いまさらです。でも面白かったです。

なんの予備知識もなくて、本屋大賞候補作に入ってた、賞もずいぶん貰っていて大層評判がいい、という噂と、
なんとなくですが、美しい表紙の灯篭の写真から、これは昭和初期の情緒豊かに紡いだ中年男女の愛情物語とか、
小津監督の撮る映画みたいに日常生活の機微を丁寧に描いた渋い佳品、みたいなイメージで読み始めてしまいましたが、全然外してしまって良い意味で裏をかかれました。
実体は既読の皆さん御存知の通りの奇妙なミステリ、またはプチホラーなのでした。

「夜警」から始まり「柘榴」「万灯」を経て「満願」で締めるいずれも暗示的な短い漢字のタイトルで表される物語。
それぞれが微妙にシチュエーションも事件も、人物像さえも
様々で、読み手はいつの間にか日常から登場人物の視点に同化して奇妙な事件に巻き込まれ、そしてそれぞれの章でその奇妙な事件の真相が判明します。
(解決ではありません。あくまでも真相がわかるだけで、
或る物語については、まだまだ悲劇が続いたりもします)

作者の文章力、描写力、心象の説得力は実に大したもので、実際だったらまず遭遇もしないし、動機づきもしないこれらの物語の設定に読み手はいつの間にか取り込まれてしまうのでした。ブラックで悲劇的なオチにも思わず、これしかないだろうな、と納得してしまうのです。

ですが、読み終えてしばらくすると、なんとも居心地が悪く、暗くにがい感覚が胸を這い登ってくるのです。
「この人たちは切実だし、真摯に切羽詰っている。
だけど何処かがいびつだ。歪んでいる。。。」と
事件モノやミステリとはそういうものなのかもしれません。
しかし書きこみがリアルで上手であればあるほど、読み手は登場人物たちが自分とは違うことに違和感と安心感という異なった感想を重ねるものなのでしょう。
そして良くできた作品ほど、その振り幅というか色相の違いが際立つのだと思うのです。

この作品のスピンオフを考えてみました。
映像化は。。ダメですね。世にも奇妙な物語、みたいになってしまいそうです。

朗読は。。結構イケるでしょう。「関守」なんか白石佳代子さんの百物語にぴったりです

そしておススメは漫画化!! あの萩尾望都先生に「柘榴」を描いていただきましょう。
トーマの心臓、残酷な神が支配する、のようなあの筆致、あの雰囲気。そしてこの物語。
どこかのマンガ雑誌編集者の方。無料でいいからこの企画、立ち上げちゃってくださいな。