
「不在」彩瀬まる 255頁
まるさんの6月末の新刊長編です。
僕にとっては意外なのだが、この新作物語は今までのまるさんの印象で感じる空気感のホラーでも幻想小説でもなかった。
ミステリーともサスペンスとも違うのです。
売れ筋商品となるかどうか?は正直微妙な方向性です。
では、この本の本質や正体は、というと、一言「純文学。」
純文学、芥川賞でよくある主人公の内面を丁寧に、或いは
しつこく執拗に描写してゆく小説的手法。
つまりこの本は彩瀬作品でありながら又吉火花や若竹おらおらの隣席に架する類の本だったのでした。
あれらの種の作品と比することによりまるさんの意図する方向性が読めてきます。
選考委員の方たちもこういう本にも気を留めた方がいいです。この作者が掘っている穴の深さが如何ほどか分からないようでは選考なんか今すぐやめた方が良い。
主人公の明日香はややハイミスの少女漫画作家、幼少時に両親が離婚し母親と出来の良い兄と育った。
父親は二代続いた開業医で院長として立派な屋敷に暮らし孤独死したと連絡が入る。
遺言として娘の明日香にのみ土地と屋敷の相続権を与え、明日香以外の家族には屋敷への立入りを禁じる。
父親に愛された記憶も無く、遺言の意図もわからぬまま明日香は恋人の冬馬と遺品整理を続ける。
その作業はかつてのこの家と父親との愛情の在処を掘り起こし断捨離することであった。
物を処分することは時に気が滅入る作業でありながら、時に過去の人生の意味を見出すことにも繋がります。
家族、家、親子、夫婦、兄弟、愛憎、仕事、。。。
延々と積もった遺物と一緒に明日香を拘束していた感情や記憶のこだわりも解きほぐされ整理されていくようでした。
傍目で見れば只の遺品整理の話です。
カタルシスも多幸感もありませんが、なぜか自分に近いとろで静謐に演じられている舞台の様に感じられました。
「俵さんはもっと観てて楽しくなるような舞台を作らないんですか?」
「そういうのは得意な人がやればいいのさ。僕の芝居は活力にはならない。だけど幸せじゃないまま生きてく人の一定期間の伴走者にはなる。そういうものが好きなんだ。」

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