植物のふしぎ

植物をはじめ、生物のふしぎな生態をレポートします。
🌷ガーデニング・家庭菜園・草花と自然🌷

ツユクサ・なぜ雄しべの形が3種類もあるの?

2024年10月10日 | 植物の生態

今回はツユクサの話題。ツユクサは大変身近な草花なので見過ごしがちですが、詳細に観察すると美しく興味深い構造をしています。庭の片隅に生えていたツユクサは以前道ばたで見たものより花が小型で若干様子も違っていました。でも今回はこれで観察することにします。

写真の番号順に各部位の名称 

1:花弁(青色2枚)2:π字型雄しべ(3本) 3:人字型雄しべ(1本) 4:柱頭 5:花柱 6と7:O字型雄しべ(2本 6:葯 7:花糸) 8:花弁(白色1枚) 9:萼片(白色3枚)

少し様子が違う花もありました。それが・・

白矢印の先に雌しべが短くくるりんと巻いていました。巻かずに短い突起になることもあるようなのですが、これは雌しべの機能が失われた雄花なのだと思います。今回観察した区域ではおよそ4割が雄花でした。花序の中で雄花になりやすい花の位置があるようなので開花の進み具合でもその割合は変わるのでしょうね。


次に雄しべのタイプ(O 人 π)別に詳しく見ていきたいと思います。まずはO字型雄しべから・・

雄しべのうち花糸が一番長く雌しべと同じくらいの長さです。この雄しべが花粉を一番多く出しており、受粉の中心的役割を担っています。花粉は黄色で葯は地味な感じです。花糸は色素を持っておらず白です。

花粉を顕微鏡で見てみると・・

ゼリービーンズみたいな形です。ややべとつく性質のため花粉同士がくっついていました。花粉表面には細かな突起が覆っており写真ではざらついたようにも見えます。


次に人字型雄しべの観察・・

左の写真が花の前に面する側、それをひっくり返して花の後ろに面する側から撮ったのが右の写真です。この雄しべの花糸は薄紫に染まっており葯の黄色と補色の関係になっていました。また葯には赤紫色の模様もついておりO型雌しべより綺麗で存在感があります。

花粉は葯の淵の溝からでていました。花粉の大きさはO字型雄しべと同じでしたが色がオレンジがかっていました。


最後にπ字型雄しべです・・

最も特徴的な形をしておりそれも3本並んでいるので大変目立つ雄しべです。今回調べた葯には模様が無かったし花糸の色素も無いように見えました。個体差、あるいは地域差があるのかも。過去別の場所で撮った写真も載せておきますね。π字型葯に模様があることと花糸が濃い紫色をしているのがわかります。

次に花粉の所在ですが、「脇の下」!?のオレンジ色の部分から花粉が出そうな雰囲気があるのですが・・

O型、人型で見られるようなゼリービーンズが見当たりません。スライドグラスに押しつけて付着している粒子を出してみたところ・・

こんな感じ。なんとも・・形がいびつで雰囲気的に受精できそうにありません。


なぜツユクサは雄しべのタイプを3種類もつ必要があるのでしょうか。形が異なればそれぞれに役割があるはずです。

まず、π字型は青色の花弁の前で鮮やかな黄色のため非常に目立ちます。ポリネーター(訪花昆虫)へのアピールを専門に担当していると考えられます。

長い雄しべのO字型は花粉量が一番多く、顕微鏡で観察した限り健康的な花粉でした。なので受粉の中心的役割を担っていると考えられます。

では人字型はどんな役割があるのでしょうか。実はこの花は蜜を出していません。ポリネーターの中心は花粉をなめ取るハナアブです。人字型雄しべの花粉はその時のエサの役割があるのではないかと考えています。人字型花粉をなめている間に虫のお尻にO字型花粉を付着させるという具合です。それを考えるとO字型雄しべは地味であっても虫の体長に合った長さになっていることのようです。

まとめるとツユクサは、π字型雄しべの看板で虫を引き寄せ人字型雄しべで餌を与えている間にO字型雄しべの花粉をくっつけて運ばせるという戦略をとっている植物でした。


ツユクサは開花時、既に柱頭に自分の花粉をつけていることも多いのですが、花を閉じる時にも自家受粉をする工夫があります。インターバル撮影で動画を撮ってあるので近日報告しますね。

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西洋アサガオの青い花・閉じる前に赤くなる変化

2024年10月09日 | 植物の生態

10月に入ってからも庭のフェンスに絡みついた西洋アサガオはたくさんの花を咲かせています。

毎年こぼれタネで勝手に生えてくるアサガオなので品種は?園芸ノートを見返したら2016年にヘブンリーブルーの種を買って育て始めたとなっていました。でも普通よく見るヘブンリーブルーとはちょっと雰囲気が違いますよね。曜の色が濃くてやや赤紫が勝っています。タネの袋は捨ててしまったし最初の年からこんな花だったかは覚えていません。写真撮っておけばよかった。

この写真は10月1日 7時52分に撮影。朝の花は青色でした。それが花が萎む少し前になると花の色が変わってくるのですよ。

13時13分の写真が次です。

花が萎み始めています。光線の違いで撮影の色温度は異なるものの明らかに花の色が赤っぽくなっていました。

これはどういうことなのでしょうか。

花弁をちぎって観察してみると・・

左の瓶は花弁をちぎっただけのもので右の瓶は花弁をすりつぶしたものです。すりつぶして1分くらいで赤紫になり、花が萎む時と同じような色の変化をしました。

次に花弁の断面を顕微鏡で観察しました。

アサガオの花弁は非常に薄く弱々しいため切片が作りにくくて苦労しました。ややしっかりしている曜の付近からどうにか切片が作れました。写真の左側に見える白い塊は曜に走る条の部分です。

色素が貯められているのは表側(写真の上側)と裏側の表皮細胞でした。表側に比べて裏側の細胞は平らで非常に薄い層に見えます。

表側の表皮細胞を拡大してみると・・

このように表側の表皮細胞は鋭角円錐形をしています。色素が貯められているのはその一層であり、その下の組織には色素は観察されませんでした。

花弁裏側の表皮は非常に弱く、ピンセットで触れるくらいで簡単に剥がれます。次の顕微鏡写真は、そのようにして試料を調整した後に透過光で観察したものです。

この写真は朝9時に撮影。青い色素で埋め尽くされていました。所々の赤い細胞は、裏側の組織を剥がした時に表皮細胞も壊れてしまったところです。無理に剥がして観察しているので仕方がない点ではあります。赤くなった細胞はその後間も無く色素を失い透明になりました。

次に、午後になり花の色が変化し始めた頃に同じように観察しました。

すると細胞ごとに青から赤紫に微妙に色が異なった色素を持っていました。これは色の変化は全細胞一律ではなく細胞ごとに行われていることを示しています。

写真は載せませんが、この後、萎む前に花が完全に赤紫色になった時は全ての細胞で赤紫色になっていました。

以上の観察から、

  1. 西洋アサガオは開花から午前中は青色を保つが午後になると次第に色が変化し萎む前には赤紫色になること
  2. 色素は花弁の表皮細胞が持っており、特に表側の表皮細胞は鋭角円錐状で貯蔵している色素の量も多いこと
  3. 色を変化させるタイミングには表皮細胞ごとに微妙なずれがあるが最終的には全ての色素が赤紫色になること
  4. 細胞が傷つくなどした時も青い色素は間もなく赤く変わること

がわかりました。


アサガオの色素については研究が進んでいますので分かっている事を以下にまとめておきますね。

西洋アサガオの青い色素はヘブンリーブルーアントシアニンで1987年に名古屋大学で構造が決定されたそうです(T. Kondo et al. Tetrahedron Lett., 28, 2273, (1987))。そして花の色が青から赤に変化する理由が1995年に同じ研究室で明らかにされました(K.Yoshida et al. Nature 373,291(1995))。簡単にいうと、花が蕾から開き始めると表皮細胞中の液胞のpHが7.7に上昇し青色になること、そして赤紫色の花弁ではそれが6.6であったこと、そして色素を持たない表皮以外の細胞では花弁が青色の時でもpHが約5.5であったこと。さらに、エネルギーを消費しながらpHを高く保っているのでそれが失われた時には周囲の細胞に影響されてpHが下がり赤くなるということ。

驚くのは、この実験に1個の細胞に挿入できる微小pH電極を用いたということです。ちっちゃ〜い電極作るのも大変だったろうし、それを生きた細胞に挿入してpHを調べるのはもっと大変だったのではないかと想像してしまいます。美しい切片を作るのもままならない私としては、すごい!としか言いようがない感じ。


西洋アサガオではpHを高く保つことで青色になっていましたが、他の植物では別の方法で青色を得ています。有名なところではアジサイの青はアルミニウムが関係しています。ツユクサでは、アントシアニン+フラボンにマグネシウムが結合した錯体で青の色素にしているんですね。同じように見えて三者三様で複雑なんですね。

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アサガオのつるの巻き方

2024年10月08日 | 植物の生態

つる植物のうち、アサガオをはじめとして茎が巻きつく植物には右巻きと左巻きがあります。右巻き(右ねじ型・Z字型)の代表はアサガオで、左巻き(左ねじ型・S字型)の代表が先日レポートしたヘクソカズラです。左巻きになる植物種は右に比べて少ないのですが、自宅の庭を調べたらスイカズラも左巻きでした。

右巻きと左巻きはどのように決まるのかが疑問でした。以前、イタズラで、右巻きのつるを左巻きに組み直してみたことあるのです。すると、翌日には全て解かれて右巻きに戻っていました。だから植物にとって巻き方はどうしても譲れないことのようです。

どのように巻きつくかを見るために、5分間隔のインターバル撮影をして動画をYouTubeにしておきました。風と光線の影響が出ないように室内で電灯をつけたままで観察、カーテンを閉めて外の光ができるだけ入らないようにしました。30秒ほどの動画です。良かったらみてください。→ 「アサガオの回旋運動とつるの巻き方」

ここでは、動画チャプターの静止画で説明しますね。まずは支柱は設置せずに観察。

HTMLタグのonmouseoverが使えれば2枚の写真の微妙な差も分かりやすかったのですがね。gooブログではそれが使えないらしいので画像を重ね合わせ合成で・・

白黒画像の5分後のアサガオがカラーになっています。奥から手前に動いていることがわかります。5分間で予想以上に動いていました。

それから約40分後の写真が・・

最初の写真から茎の先が右回りに半回転ほどしました。平均をとると、約85分で1回転していたことがわかりました。

回転の中心は、頂芽から数えて2番目と3番目の節の間ににあるようです。この辺りの細胞増殖スピードを順番に変化させていくことでアサガオは茎の先端を大きく旋回させているものと考えられます。すなわちオーキシン濃度が高まった茎の下側の成長スピードが増すこと(側面重力屈性)で茎の姿勢が変わり、新たに下側になった細胞でオーキシン濃度と成長スピードが増すというように順番に細胞の成長スピードを変化させることで茎が旋回していきます。それにより周りに絡みつけるものがないか探しているのです。この動きを回旋運動といいます。

次に支柱を立てて巻きつき方を調べました。

 

上の左の写真で茎の先端付近が支柱に触れてからは回旋運動しなくなりました。ここから支柱に巻きついていきますが、回旋運動が右回りだったため茎の先端の左側を内側に支柱に巻きついていき右の写真のようになりました。巻きつきには茎が支柱に触れてから2巻きするのに約10時間もかかっていました。茎の先端が大きく動く回旋運動とは違い つるの巻きつきは主に先端近くの細胞増殖と伸長に影響を受けているので比較的長時間かかるものと思われます。

以上のことから、アサガオが右巻きになるのは回旋運動が右回転しているからと考えてよさそうです。だから左巻きの植物では回旋運動も左回転しているはずです。いずれヘクソカズラでも調べておきますね。来年以降になるかな?

ここで、茎の先端が物に触れたのが茎の右側だった場合、その触れた側を内側に左巻きになるのか?という疑問が当然出るかと思います。しかし、無理やり左巻きにしようとしても元の巻き方に戻ることから、そうはならないはずです。茎先端が触れた位置によって巻き方が変わる植物種がないとは言えませんけれども。。。


つるの巻き方と植物種がまとめられたサイトがあったのでリンクしておきます。→ 日本の野生植物検索表

回旋運動について。2005年に「つる植物が支柱をよじ登るために必要な遺伝子の発見」という論文が発表されました{Kitazawa, D. et al. (2005)  Proc. Natl. Acad. Sci. USA (DOI) 10.1073}枝垂れアサガオの研究から、SCRタンパク質に変異があると重力感受細胞が正常に分化できず重力屈性と回旋運動が正常でなくなるとのこと。モデル植物のシロイヌナズナのscr変異体にアサガオの正常SCRを導入すると回旋運動が復活するなどの結果により「重力感受細胞がアサガオのよじ登りの原動力である回旋運動に必須であること」を結論づけていました。やはり回旋運動を起こす側面重力屈性とつるの巻きつきには大きな関係があったということでした。

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ペチュニア 日光量と成長の関係

2024年09月30日 | 植物の生態

植物を日向で育てた時と家の中で育てた時の成長の違いを観察しました。今回採用した植物はサフィニア(ディープブルー)です。

二つの鉢に同じくらいの草勢になるように育てて観察に供しました。左の鉢は部屋の窓際の観葉植物が置いてある位置に置きました。直射日光は当たらない位置です。右側の鉢は外に出して天気の良い日は十分に日光に当てて育てました。写真の色温度と露出がやや不適ですが、いつも同じ条件で撮影したため補正せずに載せることにします。

そして1週間後に比較したのが下の写真です。

1枚目と同じ色温度と露出で撮影。上からのアングルで比較すると・・

外で育てた方が葉の色が濃くのびのびと成長していました。

花の色の比較では・・

 

左側(1枚目)が室内の株、右側(2枚目)が外で育てた株です。室内では花色が薄くなり色むらも起きているように見えました。外の株の方が花の色がしっかり濃く出ており花の形も良いものでした。

それから花の香りについても違いが出ていました。撮影は夕方行ったのですが、外の株に咲く花の方が良い香りがしていました。本来ペチュニアは夕方から夜にかけて香りを出して主に蛾を呼ぶ性質があります。室内だと昼夜のリズムが崩れるためでしょうか、理由ははっきり分かりませんが香りがほとんど感じられませんでした。


今回のもくろみは日光量と花色の違いの観察だったのですよ。日光量、特に紫外線が強いと花色が濃くなる、というようなことが言いたかったのです。でも、採用した実験方法と植物種が良くなかったようです。室内と外の比較だと様々な環境に差があるので何が原因で違いが出たのかさっぱり分からないという結果に・・・。唯一分かったのはペチュニアは室内では元気に育てられないということくらい。栽培用ライトとか紫外線ランプを使用すれば、人工気象室でなくてもなんとかなったのかもしれません。採用する植物も開花期間が比較的長く開花中に花の色が変わらない植物にすべきでした。ペチュニアでは開花後の経過時間で微妙に花色が変わってしまうのです。

香りにも差が出たのは興味深い点でした。香りは研究室レベルでないとなかなか定量しにくいですし香りの内容も説明しにくい部分ですが、植物種と香りの日周変化についても今後観察していきたいテーマです。

 

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ダイヤモンドリリー・花びらがキラキラ輝くのはどうして?

2024年09月27日 | 植物の生態

ヒガンバナ科ネリネ属。私が買ったのは原種系のマソニオルムという品種です。この品種は他の園芸種と違って花がとっても小さいし葉が細く紐のような感じです。それに他に比べても咲くのが早い。野生味溢れた印象です。見栄えを優先させるなら園芸種の一択でしょう、でも咲き始めていた花があまりにも可愛いらしかったので思わず買ってしまいました。花被片に太陽光が当たり、花が風で揺れると宝石のようにキラキラ輝くのでダイヤモンドリリーとも呼ばれています。

今日は、その輝く理由について探っていきたいと思います。

マソニオルムはこんな花です。

花被片を拡大すると・・

こんな感じ。静止画ではわかりにくいのですが表面の粒々が光を反射してキラキラします。

その理由を探るために顕微鏡で調べてみます。まずは100倍

花被片の表面は透明感のある粒々でぎっしりと覆われています。

さらに拡大して400倍にしてみると・・

このように、表皮細胞の粒々を通り抜けた光が焦点を結ぶように輝いていました。

裏面も見てみます。

同じように裏もキラキラしていました。

次に花被片の断面を見てみると・・

上の面が花被片の表側です。表、裏ともに粒々とした細胞が並んでいますが、特に表側の方が球形に近く見えました。淡いピンク色の色素は、表裏 双方の表皮細胞中にありました。


次に比較のためにジニアの花弁でも調べてみました。

こちらはマット調でキラキラはしません。表側を100倍で・・

当てる光の角度を色々変えても全然キラキラはしませんでした。断面を見てみると・・

写真上が花弁の表側です。このようにジニアの表側の表皮細胞は、鋭角円錐型の突起となっておりネリネよりも一つ一つの細胞が詰まって並んでいました。多くの顕花植物ではこの形状を採用しているのではないかと思っています。というのも、表皮がこの形であれば、表面反射が抑えられ表皮細胞中にある色素の発色を良く見せられるから。むしろポリネーターにアピールするにはこちらの方にメリットがあるような気がします。ネリネには何か特別な事情があるのでしょうかね。

以上まとめると、ネリネの表皮細胞は球形に近く大きめの細胞のため、透過した光が凸レンズ効果で収斂し一層明るい光点として反射するためキラキラして見えることがわかりました。


チューリップに「ユニークデフランス」という品種があります。その売り文句に「通常のチューリップに比べて明らかに花のつやが違います」とありました。これもネリネと同じ理由なのかな?ちょっと興味があります。今年はその球根が手に入れられるかどうか。もし入手できたら調べてみたいと思います。

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