4月29日(日)伊藤 恵 ピアノ・リサイタル
~春をはこぶコンサート ふたたび~
「ベートーヴェンの作品を中心に」
紀尾井ホール
【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第21番Op.53「ワルトシュタイン」
2.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第23番Op.57「熱 情」
3.シューマン/アラベスクOp.18
4.ショパン/12の練習曲Op.25
【アンコール】
シューマン/トロイメライ
毎年4月29日に行われていた伊藤恵さんの「春をはこぶコンサート」のシリーズが、3年ぶりに再開した。「ベートーヴェンの作品を中心に」と題して始まった8回シリーズの第1回を夫婦で聴きに行った。
前半で演奏した2曲のベートーヴェンのソナタは、どちらもリサイタルのメインに置かれることも多い重量級の傑作。恵さんは、これらを内面まで掘り下げたうえで温かく全体を包み込んだ。
「ワルトシュタイン」は、一心不乱に突進するのではなく、冒頭の連打音の始めの方を、少しだけ溜めてペダルも使い、落ち着いて弾き始めた。この曲が最後に到達する華々しいシーンへの第一歩を落ち着いて踏み出したあとも、丁寧なディナミークとアゴーギクを施し、表情豊かな歌を散りばめ、優美で華麗に全体を仕上げた。第2楽章の沈思からハ長調の第3楽章へ入ると、毛細血管の末端に至るまで温かい血液が全身に行き渡り、脈々と息づく生命体の姿を感じ、生きる喜びを謳歌しているようだった。
続く「熱情」も、アプローチは基本的に「ワルトシュタイン」と同様に、激しさよりも内面的な深みや包容力が感じられる演奏。激流や激情をそのまま表現するのではなく、作品全体を俯瞰し、そこに刻まれた苦悩を一旦懐で受け止め、それに思いを寄せて包み込もうとする演奏者の思いが伝わってくる。明と暗の激しい対立や極限のテンションの表現ではない、むしろシューベルト的な寂寥や焦燥、憧憬がある。一見するとロマンチックな表現も、明確な意図の裏付けがある必然の表現だと感じた。
後半はショパンの作品25のエチュード集をメインに、シューマンの「アラベスク」を加えた構成。「アラベスク」は、恵さんのシューマンへの思いをリサイタルに添えたくてやるのかな、とも思ったが、「アラベスク」のあと、アタッカのようにショパンのエチュードを続け、アラベスクがショパンのエチュード集の一部のように演奏された。
その一方で、技巧が映えるショパンのエチュード集が、明晰で眩しい光よりも、柔らかな光と空気に包まれた春の情景を思わせる「アラベスク」色に染まり、全体が幻想小曲集とでも呼びたいシューマンの世界に通じるものを感じた。ダイナミズムは控え目に弾き進んできたが、最後の重量級の3曲では一気に緊迫度を高め、濃厚で熱く、苦悩する姿や闘う姿を強烈に印象付けた。終曲の豪放な「大洋」を聴き終わったとき、全体が一つの大きな絵巻物のように感じられた。そこには恵さんの音楽に対する熱く、大きく、深い愛が感じられ、恵さんならではのショパンが提示されていた。
伊藤 恵 ピアノ・リサイタル 2017.3.24 ヤマハホール
伊藤 恵/新・春をはこぶコンサートVolⅦ 2014.4.29 紀尾井ホール
ブログ管理人作曲によるCD
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~(MS:小泉詠子/Pf:田中梢)
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1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第21番Op.53「ワルトシュタイン」
2.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第23番Op.57「熱 情」
3.シューマン/アラベスクOp.18
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毎年4月29日に行われていた伊藤恵さんの「春をはこぶコンサート」のシリーズが、3年ぶりに再開した。「ベートーヴェンの作品を中心に」と題して始まった8回シリーズの第1回を夫婦で聴きに行った。
前半で演奏した2曲のベートーヴェンのソナタは、どちらもリサイタルのメインに置かれることも多い重量級の傑作。恵さんは、これらを内面まで掘り下げたうえで温かく全体を包み込んだ。
「ワルトシュタイン」は、一心不乱に突進するのではなく、冒頭の連打音の始めの方を、少しだけ溜めてペダルも使い、落ち着いて弾き始めた。この曲が最後に到達する華々しいシーンへの第一歩を落ち着いて踏み出したあとも、丁寧なディナミークとアゴーギクを施し、表情豊かな歌を散りばめ、優美で華麗に全体を仕上げた。第2楽章の沈思からハ長調の第3楽章へ入ると、毛細血管の末端に至るまで温かい血液が全身に行き渡り、脈々と息づく生命体の姿を感じ、生きる喜びを謳歌しているようだった。
続く「熱情」も、アプローチは基本的に「ワルトシュタイン」と同様に、激しさよりも内面的な深みや包容力が感じられる演奏。激流や激情をそのまま表現するのではなく、作品全体を俯瞰し、そこに刻まれた苦悩を一旦懐で受け止め、それに思いを寄せて包み込もうとする演奏者の思いが伝わってくる。明と暗の激しい対立や極限のテンションの表現ではない、むしろシューベルト的な寂寥や焦燥、憧憬がある。一見するとロマンチックな表現も、明確な意図の裏付けがある必然の表現だと感じた。
後半はショパンの作品25のエチュード集をメインに、シューマンの「アラベスク」を加えた構成。「アラベスク」は、恵さんのシューマンへの思いをリサイタルに添えたくてやるのかな、とも思ったが、「アラベスク」のあと、アタッカのようにショパンのエチュードを続け、アラベスクがショパンのエチュード集の一部のように演奏された。
その一方で、技巧が映えるショパンのエチュード集が、明晰で眩しい光よりも、柔らかな光と空気に包まれた春の情景を思わせる「アラベスク」色に染まり、全体が幻想小曲集とでも呼びたいシューマンの世界に通じるものを感じた。ダイナミズムは控え目に弾き進んできたが、最後の重量級の3曲では一気に緊迫度を高め、濃厚で熱く、苦悩する姿や闘う姿を強烈に印象付けた。終曲の豪放な「大洋」を聴き終わったとき、全体が一つの大きな絵巻物のように感じられた。そこには恵さんの音楽に対する熱く、大きく、深い愛が感じられ、恵さんならではのショパンが提示されていた。
伊藤 恵 ピアノ・リサイタル 2017.3.24 ヤマハホール
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