ドイツの閉店法 Ladenschlussgesetz
ドイツでもオーストリアでも日曜日は飲食店以外のお店は原則として全てが閉店する。これは閉店法という法律が存在するため。学生時代の卒業旅行で初めてドイツに行ったときは、日曜日のみならず土曜日も午後になると早々にお店が閉まってしまうことに驚き、旅行者としては結構うろたえた。日本では週末の大きな楽しみのひとつともなっているショッピングが事実上できないわけで、しかも平日でもその当時は午後6時半になるとデパートを含め店はみんな閉まってしまうので、普通のサラリーマンは買い物する時間が殆んどないのでは? ドイツ人は買い物には随分不自由しているのでは? とも思った。
この閉店法は「認められた時間帯以外は店を開けてはならない」というもので、旅先のお店の店頭で商品を眺めていても、時間が来ると無言で片付けられてしまって「え~。。。!?」という目に遭ったのは一度や二度じゃない。またあるときは、陶器を買って、日本へ持ち帰るときに壊れないように「厳重に包装してください」と頼んだら「閉店時刻に間に合わなくなるので…」と断られたこともあるが、いくらなんでももう少し融通を利かせてくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。閉店が1分遅れたからといってペナルティを科されるなんてまさかないだろうに。このあたりの発想が「お客様一番」の日本とは根本的に違うので、こうした法律が厳格に守られるのかも知れない。
一方こうした法律のおかげで、ドイツ人がとりわけ大切にする家族との夕食や週末の時間が保障され、そうしたライフスタイルが確立されている。晩ご飯の席に父親が不在で「お父さんは仕事だからいなくても仕方ない」なんて発想がそもそもドイツ人にはないのだ。
日本ではサービスする側はお客の要求にとことん応えようとしてどんどんサービスを加熱させ、更に他社との競争まで加わり、24時間営業の店が増え続け、デバートからは定休日が消えた。コンビニの名ばかり店長の窮状をはじめ、そのしわ寄せは働く者に課せられる。元日まで営業するデパートやスーパーが現れたときはとうとうパンドラの箱が開かれてしまったなと思った。
こんな無茶ができるのは体力のある大規模店だけで、昔から続いていた町の小売店は店じまいに追い込まれ、その後にできるのはコンビニなどのチェーン店。やがて町の商店街は空き店舗かチェーン店ばかりという状況を生むのは周知の事実。
労働者の長時間労働を防ぎ、小規模店を守るために閉店法が施行されているドイツだが、それでも家族経営の小売店が消え、代わりにチェーン店が出現するという現象は起きているという。それを助長しているのが閉店法の例外的な扱いだろう。店を開けられる時間を厳しく定めている閉店法だが、中央駅構内など場所を限定して週末や時間外に店を開けることが認められているのだ。
巨大ショッピングセンターと化していたベルリン中央駅
ベルリン中央駅のファサード
しかも中央駅のみならず、他の繁華街にある駅中にも結構店があり休日も営業していた。これでは閉店法の趣旨なんてどこへやら、法律なんてあってないようなものだ。
3つのフロアからなる中央駅のショッピングモールは祝日でも賑わう
ショッピングフロアの下は列車ホームのフロアになっている
変わりゆく閉店法
実際には駅中の例外的な扱いに限らず、閉店法は時代と共に徐々に規制が緩和され、最近の閉店法について調べたところ、それまで全国一律だった開店許可時間が2006年には各州や特定の町が独自に決められるように変更され(ドイツは連邦制で本来国防や外交などの重要事項以外の行政は州政府に委ねられている)、ベルリンでは年10日の休日営業や、平日の24時間営業まで認められるようになっていた。
閉店法の緩和に待った!
これではドイツもアメリカや日本のような商業至上主義国家になり果てるのも時間の問題と嘆いていたら、つい先週ドイツのニュースサイトで、規制がドイツでも極端にゆるいベルリンの閉店法に対し、ドイツの憲法裁判所が違憲判決を出したという記事を見つけた(12/1)。
内容は、クリスマス前の4回ある日曜日(待降節の日曜日)を全て営業可能日としたベルリンの閉店法は「日曜日の休息」を保障する憲法に反している、とキリスト教会が提訴し各労組がこれに同調、憲法裁判所が「日曜日の休息はキリスト教の教義のみならず、社会的に認められた「労働の休養日」として憲法で保障されている。」と、ベルリン市の日曜営業を違憲であるとみなしたというもの。
ドイツではクリスマスの4つ前の日曜日から次の日曜日が来るたびに、テーブルに飾った4本のキャンドルを1本ずつ灯していってクリスマスを待ちわびる。こんな待降節の4回の日曜日をクリスマス商戦の景気浮揚のために全てを営業可としたベルリン市に、キリスト教会が異を唱え、憲法裁判所がそれを追認した形となった。
閉店法で特に日曜日の営業が禁止された背景にはキリスト教の「安息日」という考えがある。休息を取って心静かにクリスマスを迎えるための、日曜日のなかでも特に大切な4日間全てが「金もうけ」のために利用されるというのは、教会にとってはもちろん容認し難いことだろうが、日曜日に買い物ができることを基本的には歓迎している消費者にとっても「そこまでしなくても…」という感覚があるのかも知れない。
日本のように年中無休への道を走り始めたかに見えたドイツだが、「イエス・キリストの啓示」によって取り合えずそれに歯止めがかかったわけだ。
日本では不況の煽りでデパートの定休日が復活するような話も聞くが、八百万の神々に年の初めに思いをいたすお正月ぐらい静寂のなかで心静かに迎えたいものだ。一昔前、街中が静まり返っていたお正月の風景やゆるりとした気分が懐かしいな…
検証「日本の常識」メニューへ
ドイツでもオーストリアでも日曜日は飲食店以外のお店は原則として全てが閉店する。これは閉店法という法律が存在するため。学生時代の卒業旅行で初めてドイツに行ったときは、日曜日のみならず土曜日も午後になると早々にお店が閉まってしまうことに驚き、旅行者としては結構うろたえた。日本では週末の大きな楽しみのひとつともなっているショッピングが事実上できないわけで、しかも平日でもその当時は午後6時半になるとデパートを含め店はみんな閉まってしまうので、普通のサラリーマンは買い物する時間が殆んどないのでは? ドイツ人は買い物には随分不自由しているのでは? とも思った。
この閉店法は「認められた時間帯以外は店を開けてはならない」というもので、旅先のお店の店頭で商品を眺めていても、時間が来ると無言で片付けられてしまって「え~。。。!?」という目に遭ったのは一度や二度じゃない。またあるときは、陶器を買って、日本へ持ち帰るときに壊れないように「厳重に包装してください」と頼んだら「閉店時刻に間に合わなくなるので…」と断られたこともあるが、いくらなんでももう少し融通を利かせてくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。閉店が1分遅れたからといってペナルティを科されるなんてまさかないだろうに。このあたりの発想が「お客様一番」の日本とは根本的に違うので、こうした法律が厳格に守られるのかも知れない。
一方こうした法律のおかげで、ドイツ人がとりわけ大切にする家族との夕食や週末の時間が保障され、そうしたライフスタイルが確立されている。晩ご飯の席に父親が不在で「お父さんは仕事だからいなくても仕方ない」なんて発想がそもそもドイツ人にはないのだ。
日本ではサービスする側はお客の要求にとことん応えようとしてどんどんサービスを加熱させ、更に他社との競争まで加わり、24時間営業の店が増え続け、デバートからは定休日が消えた。コンビニの名ばかり店長の窮状をはじめ、そのしわ寄せは働く者に課せられる。元日まで営業するデパートやスーパーが現れたときはとうとうパンドラの箱が開かれてしまったなと思った。
こんな無茶ができるのは体力のある大規模店だけで、昔から続いていた町の小売店は店じまいに追い込まれ、その後にできるのはコンビニなどのチェーン店。やがて町の商店街は空き店舗かチェーン店ばかりという状況を生むのは周知の事実。
労働者の長時間労働を防ぎ、小規模店を守るために閉店法が施行されているドイツだが、それでも家族経営の小売店が消え、代わりにチェーン店が出現するという現象は起きているという。それを助長しているのが閉店法の例外的な扱いだろう。店を開けられる時間を厳しく定めている閉店法だが、中央駅構内など場所を限定して週末や時間外に店を開けることが認められているのだ。
巨大ショッピングセンターと化していたベルリン中央駅
ベルリン中央駅のファサード
今回のベルリン滞在中にキリスト昇天祭(Christi Himmelfahrt)という祝日があり、その日はショッピングはできないと思っていたのだが、ベルリン中央駅(Hauptbahnhof)へ行ってみて驚いた。この駅は旧東ベルリン地区にあり、以前は中央駅とは名ばかりの寂れた感じの駅だったのだが、総ガラス張り吹き抜けの巨大でモダンな駅ビルに生まれ変わっていた。 駅ビルの中は巨大なショッピングモールになっていて、祝日だというのにどのお店も開いてる。駅中おなじみのドラッグストアはもちろん、ブティック、本屋、雑貨屋、宝飾店、花屋、CDショップ、靴屋、各種飲食店… とにかく何でも揃っていて、どのフロアもショッピングする人達でなかなか賑わっている。おかげで祝日なのにショッピングを十分に楽しめてしまった。 だけど駅中のお店の休日営業ってのは本来急場しのぎの買い物のために許可されたはずで、こんな大規模なショッピングセンターが祝日にここまで大々的にやっていていいのだろうか。 |
しかも中央駅のみならず、他の繁華街にある駅中にも結構店があり休日も営業していた。これでは閉店法の趣旨なんてどこへやら、法律なんてあってないようなものだ。
3つのフロアからなる中央駅のショッピングモールは祝日でも賑わう
ショッピングフロアの下は列車ホームのフロアになっている
変わりゆく閉店法
実際には駅中の例外的な扱いに限らず、閉店法は時代と共に徐々に規制が緩和され、最近の閉店法について調べたところ、それまで全国一律だった開店許可時間が2006年には各州や特定の町が独自に決められるように変更され(ドイツは連邦制で本来国防や外交などの重要事項以外の行政は州政府に委ねられている)、ベルリンでは年10日の休日営業や、平日の24時間営業まで認められるようになっていた。
閉店法の緩和に待った!
これではドイツもアメリカや日本のような商業至上主義国家になり果てるのも時間の問題と嘆いていたら、つい先週ドイツのニュースサイトで、規制がドイツでも極端にゆるいベルリンの閉店法に対し、ドイツの憲法裁判所が違憲判決を出したという記事を見つけた(12/1)。
内容は、クリスマス前の4回ある日曜日(待降節の日曜日)を全て営業可能日としたベルリンの閉店法は「日曜日の休息」を保障する憲法に反している、とキリスト教会が提訴し各労組がこれに同調、憲法裁判所が「日曜日の休息はキリスト教の教義のみならず、社会的に認められた「労働の休養日」として憲法で保障されている。」と、ベルリン市の日曜営業を違憲であるとみなしたというもの。
ドイツではクリスマスの4つ前の日曜日から次の日曜日が来るたびに、テーブルに飾った4本のキャンドルを1本ずつ灯していってクリスマスを待ちわびる。こんな待降節の4回の日曜日をクリスマス商戦の景気浮揚のために全てを営業可としたベルリン市に、キリスト教会が異を唱え、憲法裁判所がそれを追認した形となった。
閉店法で特に日曜日の営業が禁止された背景にはキリスト教の「安息日」という考えがある。休息を取って心静かにクリスマスを迎えるための、日曜日のなかでも特に大切な4日間全てが「金もうけ」のために利用されるというのは、教会にとってはもちろん容認し難いことだろうが、日曜日に買い物ができることを基本的には歓迎している消費者にとっても「そこまでしなくても…」という感覚があるのかも知れない。
日本のように年中無休への道を走り始めたかに見えたドイツだが、「イエス・キリストの啓示」によって取り合えずそれに歯止めがかかったわけだ。
日本では不況の煽りでデパートの定休日が復活するような話も聞くが、八百万の神々に年の初めに思いをいたすお正月ぐらい静寂のなかで心静かに迎えたいものだ。一昔前、街中が静まり返っていたお正月の風景やゆるりとした気分が懐かしいな…
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