facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

木下裕司リサイタルⅣ「昭和の万葉集」

2024年02月13日 | pocknのコンサート感想録2024
2月10日(土)木下裕司(Voc)/武部純子(Pf)
~昭和の万葉集 ♪昭和歌謡と日本歌曲の世界♬
K.a.スタジオ@吉祥寺

~第1部~
① 円舞曲『カルメン・シルヴァ』(ピアノ独奏)(明治25年)<作曲:J.Ivanovici>
②『恋の饗宴(Oh Rosalita)』(昭和11年・原曲:昭和6年)<訳詩:島田磬也・作曲:J.Llossa>
③『東京の屋根の下』(昭和23年)<作詩:佐伯孝夫・作曲:服部良一>
④『胸の振子』(明治22年)<作詞:サトウハチロー・作曲:服部良一>
⑤『Love's Gone(夢去りぬ)』(昭和14年)<作詩:奥山靉・作曲:服部良一(Reo Hatter)>
⑥『蘇州夜曲』(昭和15年)<作詩:西條八十・作曲:服部良一>
⑦『別れのブルース』(昭和12年)<作詩:藤浦洸・作曲:服部良一> 
⑧『新雪』(昭和17年)<作詩:佐伯孝夫・作曲:佐々木俊一>
⑨『純情二重奏』(昭和14年)<作詩:西條八十・作曲:万城目正>

~第2部~
①『メヌエット』(ピアノ独奏)(明治33年)
②『憾(うらみ)』(ピアノ独奏)(明治36年)<作曲:瀧廉太郎>
③『荒城の月』(明治33年)<作詩:土井晩翠・作曲:瀧廉太郎>
④『松島音頭』(昭和3年)<作詩:北原白秋・作曲:山田耕筰>
⑤『波浮の港』(昭和3年)<作詩:野口雨情・作曲:中山晋平>
⑥『鉾をおさめて』(昭和3年)<作詩:時雨音羽・作曲:中山晋平>
⑦『出船』(昭和3年)<作詩:勝田香月・作曲:杉山長谷夫>
⑧『丹澤の』(昭和11年)<作詩:清水重道・作曲:信時潔>
⑨『月のバルカローラ』(昭和14年)<作詩:服部龍太郎・作曲:古関裕而>
⑩『ALOHA OE』(明治11年)<作詩・作曲:リリオカラウニ>
《アンコール》
♪ 喫茶店の片隅で
♪ くちなし
♪ 青い山脈

大学の合唱部の後輩だった木下裕司さんは学生時代から昭和歌謡に心酔し、飲み会などで自慢の歌声で歌を聴かせてくれていた。その後も研鑽とキャリアを積み、アマチュアながら定期的にリサイタルを行う昭和歌謡の歌手に成長した。そんな木下さんの4回目となるソロリサイタルを聴いた。

前半は戦前に流行った歌がメインの昭和歌謡オンパレードで、後半は滝廉太郎、山田耕筰など、日本の西洋音楽受容黎明期を築いた作曲家の日本歌曲が中心のステージ。『昭和の万葉集」』というリサイタルのタイトルに相応しい、大きな時代のなかの様々な情景や人間模様が多彩に描かれた歌が散りばめられ、全体が音絵巻のような趣がある。

「恋の饗宴」と「喫茶店の片隅で」のピアノ譜作成をお受けした僕は、当時のSP盤の音源をYouTubeで何十回も繰り返し聴くうちに、曲や歌いまわし、バンドのリズム感に引き込まれ、この時代の流行歌が、昨今のどれも同じようなポップスとは違う実に豊かで深い世界を持っていることをつくづく感じ、リサイタルを心から楽しむことが出来た。木下さんは、無理なく自然に声を転がして、言葉を大切にしつつ柔らかな歌いまわしで歌を聴かせる。リサイタルのために入念に歌いこみ、何よりもどの歌にも深い愛情が込められていることが伝わって来た。

リサイタルでもう一つの大きな柱となったMCも歌の印象を強めた。木下さんのトークは、噺家のように調子のいい抑揚で言葉を運び、耳に心地よく入って来る。どの話も木下さんの昭和歌謡や日本歌曲への造詣の深さと愛情に溢れ、楽しいだけでなくとても勉強にもなった。新民謡運動がどのように興り、発展してきたかという話にはとりわけ興味をそそられたし、映画のストーリーの描写からは、情景が目に浮かぶようだった。

多彩な歌はどれもが個性を放って心に留まるものがあった。いくつか挙げれば、甘い語り口でくすぐるように歌った「恋の饗宴」や、朝ドラの『ブギウギ』のおかげでなじみが持てた「別れのブルース」、奥ゆかしさが増して聴こえた「荒城の月」は、滝廉太郎のオリジナルバージョンを採用したというMCの解説でそのワケがわかり、「松島音頭」では、張りのある声をビンビン響かせて勇ましく鼓舞する歌に心躍った。「出船」で、日本歌曲がお気に入りだった名テノール、エルンスト・ヘフリガーが歌ったドイツ語版を取り入れたのも面白かった。日本でも大ヒットしたという最後の「ALOHA OE」は、米国に併合される運命を前にしたハワイ王国への挽歌、という歌にまつわる哀しいエピソードが紹介されたこともあって胸にぐっと迫り、熱い余韻と共にプログラムを終えた。更にアンコールの最後の「青い山脈」では聴衆も手拍子で加わって盛り上がり、お開きとなった。

このリサイタルでは、全ての曲の伴奏に加えてピアノソロも披露した武部さんの存在も極めて大きかった。リサイタルの冒頭にソロで弾いた「カルメン・シルヴァ」は、演歌調の歌がリサイタルの前口上的役割を果たし、多種多彩な歌の伴奏では、それぞれのキャラクターを的確に捉えて歌を巧みにエスコートし、滝廉太郎のソロ楽曲「憾み」は、フレーズごとに深くて重い吐息が伝わってくる迫真の演奏だった。
僕がピアノパートを作ったアンコールの「喫茶店の片隅で」は、ショパンの曲を間奏に入れて欲しいという木下さんの要望で、ノクターン作品15の1と、プレリュード作品28の23の一部を間奏と後奏に挿入した。これを伴奏部分と見事に融和させた優美なピアノ演奏にも聴き惚れてしまった。
それにしても、これだけの充実したリサイタルで聴衆を魅了した木下さんの熱意と努力、博識、歌唱力にはあらためて脱帽の思いだ。

pocknのコンサート感想録について
♪ブログ管理人の作曲のYouTubeチャンネル♪
最新アップロード:「繭とお墓」(詩:金子みすゞ)

拡散希望記事!
コロナ禍とは何だったのか? ~徹底的な検証と総括を求める~
コロナ報道への意見に対する新聞社の残念な対応
やめよう!エスカレーターの片側空け

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 小澤征爾 指揮 新日本フィル... | トップ | 小澤征爾 指揮 新日本フィル... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2024」カテゴリの最新記事