11月24日(火)フランチェスコ・トリスターノ(Pf)
王子ホール
【曲目】
1.バッハ/パルティータ第1番変ロ長調 BWV825
2.バッハ/パルティータ第2番ハ短調 BWV826
3.バッハ/パルティータ第3番イ短調BWV827
4.バッハ/パルティータ第4番ニ長調BWV828
5. バッハ/パルティータ第5番ト長調BWV829
6.バッハ/パルティータ第6番ホ短調BWV830
2013年に王子ホールでフランチェスコ・トリスターノのリサイタルを初めて聴いて、強烈で鮮烈な印象を受けて以来、このピアニストのリサイタルを繰り返し聴いている。4回目となる今回は、トリスターノが最も得意とするバッハの、しかも規模も内容も充実したパルティータ全曲演奏ということで、これまでに増して打ちのめされることを期待して、トリスターノの「本拠地」とも言える王子ホールに出かけた。
最初はパルティータ第1番。冒頭の和音を長めに溜め、「さあ皆さん、お聴きください!」みたいなメッセージが込められてプレリュードが始まった。そして、トリスターノらしいパリッとしたタッチで、粒立のいい音が次々と放たれて行く。アルマンド、コレンテと聴き進んで行けば、これもトリスターノならではの、綱の上を軽々と渡り歩くような絶妙なバランス感覚とリズム感が、聴き手の鼓動を刺激する。けれどちょっとあっけない。
トリスターノは、このアルマンドとコレンテで、本来行うはずのリピートをやらなかった。ところが次のゆったりとしたサラバンドでは、前半・後半どちらともリピートを行った。トリスターノのアルバム「 bachCage 」に収録されている1番の演奏では、リピートは全て行われている。今夜のリピートはどんな規準で行っているのかがよくわからない。
最後のジーグはリピート付きで、右手の分散和音の動きを跳び超えて左右に乱舞する左手の音が鋭く、くっきりと強調され、トリスターノの個性が如実に発揮された。これはとても印象的だったが、それまでの 5 つの楽曲がここまで個性的な演奏ではなかったため、最後のジーグだけが妙に突出した観があった。まとまった組曲でありながら、その中の構成楽曲が、リビートの有無だけでなく、演奏スタイルでもバランスを欠いている印象を受けた。
第2番も最後のカプリッチョがとりわけ目立つパフォーマンスを聴かせ、このアンバランスな印象はその後に演奏された他の曲でも同じだった。それだけではなく、トリスターノを初めて聴いたとき、「音を研ぎ澄ませ、磨きあげ、究極の美、真理といったものを追求しているようにも見えた」と感想に書いたような徹底した音へのこだわり、「これしかない!」という確信が、今夜の演奏からはもうひとつ伝わって来ない。
第5番での、即興的で遊び心にも溢れたアプローチや、転じて第6番で聴かせた緻密で厳しい表現など、共感を覚えるものもあったが、それでもこれまでにトリスターノが与えてくれた驚きや感動までには至らなかった。
最初にトリスターノを聴いて新鮮な驚きを受けたときの聴き手としての感覚が少し慣れてしまったというわけでは「絶対にない」と断言はできないし、今夜の演奏だって十分に素晴らしかったのかも知れない。けれど、今までは「十分に」という言葉を遥かに超えたすごいピアノを聴かせてくれていただけに、今夜のトリスターノにはやはり物足りなさを感じた。それと同時に、常に変わらず聴き手に「とびきりの」感動を与え続けて行くことの困難さも感じた。
フランチェスコ・トリスターノ ピアノリサイタル~2014.6.7 三鷹市芸術文化センター~
フランチェスコ・トリスターノ ~バッハ「フランス組曲」を弾く~~2013.12.3 王子ホール~
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2.バッハ/パルティータ第2番ハ短調 BWV826
3.バッハ/パルティータ第3番イ短調BWV827
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最初はパルティータ第1番。冒頭の和音を長めに溜め、「さあ皆さん、お聴きください!」みたいなメッセージが込められてプレリュードが始まった。そして、トリスターノらしいパリッとしたタッチで、粒立のいい音が次々と放たれて行く。アルマンド、コレンテと聴き進んで行けば、これもトリスターノならではの、綱の上を軽々と渡り歩くような絶妙なバランス感覚とリズム感が、聴き手の鼓動を刺激する。けれどちょっとあっけない。
トリスターノは、このアルマンドとコレンテで、本来行うはずのリピートをやらなかった。ところが次のゆったりとしたサラバンドでは、前半・後半どちらともリピートを行った。トリスターノのアルバム「 bachCage 」に収録されている1番の演奏では、リピートは全て行われている。今夜のリピートはどんな規準で行っているのかがよくわからない。
最後のジーグはリピート付きで、右手の分散和音の動きを跳び超えて左右に乱舞する左手の音が鋭く、くっきりと強調され、トリスターノの個性が如実に発揮された。これはとても印象的だったが、それまでの 5 つの楽曲がここまで個性的な演奏ではなかったため、最後のジーグだけが妙に突出した観があった。まとまった組曲でありながら、その中の構成楽曲が、リビートの有無だけでなく、演奏スタイルでもバランスを欠いている印象を受けた。
第2番も最後のカプリッチョがとりわけ目立つパフォーマンスを聴かせ、このアンバランスな印象はその後に演奏された他の曲でも同じだった。それだけではなく、トリスターノを初めて聴いたとき、「音を研ぎ澄ませ、磨きあげ、究極の美、真理といったものを追求しているようにも見えた」と感想に書いたような徹底した音へのこだわり、「これしかない!」という確信が、今夜の演奏からはもうひとつ伝わって来ない。
第5番での、即興的で遊び心にも溢れたアプローチや、転じて第6番で聴かせた緻密で厳しい表現など、共感を覚えるものもあったが、それでもこれまでにトリスターノが与えてくれた驚きや感動までには至らなかった。
最初にトリスターノを聴いて新鮮な驚きを受けたときの聴き手としての感覚が少し慣れてしまったというわけでは「絶対にない」と断言はできないし、今夜の演奏だって十分に素晴らしかったのかも知れない。けれど、今までは「十分に」という言葉を遥かに超えたすごいピアノを聴かせてくれていただけに、今夜のトリスターノにはやはり物足りなさを感じた。それと同時に、常に変わらず聴き手に「とびきりの」感動を与え続けて行くことの困難さも感じた。
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