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新作歌曲の会 第16回演奏会

2015年01月25日 | pocknのコンサート感想録2015
1月25日(日)新作歌曲の会 第16回演奏会
東京文化会館小ホール

【曲目】
1.高嶋みどり/『うた~谷川俊太郎詩集<こころ>によせて』
~シヴァ、心よ、ゆらゆら、遠くへ~(詩:谷川俊太郎)
T:横山和彦/Pf:小田切舞美
2.金田潮兒/女声とピアノの為の SACRIFICE・Ⅲ
~ヴォカリーズと愛の歌~(詩:小泉詠子)
T:小泉詠子/Pf:藤原亜美
3.篠原 真/テノールとピアノのための『星空奇譚』(詩:大倉マヤ)
T:小林大作/Pf:篠原 真
4.鈴木静哉/草に寝て… 
        六月の或る日曜日に(詩:立原道造)
S:平井香織/Pf:藤原亜美
5. 野澤啓子/『おおきな木』より
「三毛猫」「おおきな木」(詩:長田 弘)
Bar:鎌田直純/Pf:野澤啓子
6.高島 豊/みすゞ ふるさと仙崎をうたふ
~王子山、郵便局の椿、海の色、鯨法会~(詩:金子みすゞ)
MS:紙谷弘子/Pf:前田菜月
7.和泉耕二/『愛のうた』
~はんげしょう、あなたのほほえみは、みやこわすれ~(詩:野呂 昶)
Bar:石崎秀和/Pf:和泉真弓
8.大政直人/『四つの愛のうた』
~2枚目の鏡、愛の心の中で、午後のテーブル、愛のはじまりを予感する時(詩:銀色夏生)
S:森朱美/Pf:前田菜月

東京文化会館の改装工事のため通常よりも半年遅れで開催された「新作歌曲の会」へ今回もまた参加させて頂いた。拙作については最後に回し、まずは多彩な7作品とその演奏について、僭越ながら感想を記しておく。

高嶋みどりさんの『うた』からは、心の奥底に沈んだ思いを吐露する熱い独白から次第に解放されて行き、遠くへ遠くへと永遠の世界へ向かう長い時空の存在が感じられた。横山さんと小田切さんの演奏はとても濃密で、エモーショナルな情感を熱く伝えてきた。最後の高いA(?)の声が柔らかく美しく伸び、遥か遠くへと気持ちが導かれていった。

金田さんのSACRIFICE・Ⅲは、情念的な世界と静謐で透明な世界が同居する音楽。精巧に研ぎ澄まされた中に熱い情念がこもった小泉さんのヴォカリーズは聴く者の心を金縛り状態にし、小泉さん自作の言葉が発せられると、熱く籠った情念が一気に迸り出る。藤原さんのクリスタルな響きのピアノとのコラボで何とも言えないファンタジックな感覚をもたらした。

篠原さんの『星空奇譚』は、前回同様に詩人の大倉マヤ氏の書き下ろしによる作品。夜空に輝く星の世界を歌った音楽からは、壮大でキラキラとした華やかな気分を感じる一方で、篠原さんらしいコミカルな表情も欠いていない。これを表現する小林さんの歌の巧さは絶品。篠原さんのピアノを合いの手に、おどけたようなシーンも聴かせてくれ、星座の物語に親しみを覚えた。

立原道造の詩を、毎回繊細で官能的な歌で綴る鈴木先生の今回の作品からは、淡い芳香が漂う散文的・幻想的な情景から、情熱に満ちた一つの確信へと導かれるドラマが描かれているのを感じた。平井さんのソプラノは芳醇な魅力とエネルギーを湛え、藤原さんの変幻自在なピアノと共に、浄化されたような清々しさと幸福感をもたらしてくれた。

野澤さんは、前回に続いて詩集『おおきな木』から選ばれた詩への付曲。ハバネラやタンゴなどの親しみやすいリズムに乗って、ちょっぴりレトロ調なメロディーが紡がれてゆく。鎌田さんの歌いまわしが、そんな曲の特徴をうまく捉えていた。「三毛猫」での野澤さんのピアノからは、色んなやり方で猫を愛撫している愛情が伝わってきた。「おおきな木」での心の奥へ届く懐かしい声も素敵だった。

和泉さんの『愛のうた』は、一度読んだだけで温もりのある情景が浮かぶわかりやすい詩に作曲され、和泉さんならではの熱い情感がこめられた逸品。和泉さんの音楽には、無調であっても今回のような三和音が主体の調性音楽であっても、心の奥底から伝わる強いメッセージがある。石崎さんの丁寧でニュアンス豊かな歌唱と和泉真弓さんの信念がこもる温かなピアノは、そんな音楽に魂を入れる行為に思えた。

大政さんの「四つの歌」は、前回同様に歌心いっぱいの音楽。押しつけがましいところが全くなく、さり気なく親密に聴き手の心に寄り添ってくる。ソプラノの森さんは温かく包みこむようなしっとりとした声で語りかけ、前田さんのピアノがそれを慈しむように優しく受け取り、二人でタペストリーを紡いでいるような情景が伝わってきた。

個性豊かな作品を優れた演奏で聴くことができるのも毎年のこの演奏会の楽しみだが、今回は改めてその演奏会としてのレベルの高さを感じ、そんな中に参加させて頂いていることの責任も改めて認識したが、最後に拙作について。

「みすゞ ふるさと仙崎をうたふ」は、みすゞの詩から仙崎を詠ったものを集め、一昨年の夏に初めてみすゞの故郷、仙崎を訪れたときの印象を思い起こしつつ作曲した3曲に、既作の「鯨法会」を加えた4曲を、紙谷弘子さんのメゾソプラノと前田菜月さんのピアノで演奏して頂いた。

「王子山」では、前奏が柔らかく色彩豊かに始まったときから満面の微笑みを浮かべていた紙谷さんの表情がそのままに歌で表現され、前田さんの細やかなディナミークが施された柔らかいタッチのピアノとともに、全曲が淡い光と色彩に包まれた。「郵便局の椿」では、遠い幼少の日の途切れ途切れの記憶がつながり、そこから生まれた心のゆらぎまで印象的に伝えてくださった。「海の色」では一日の間に刻々と変わる海の様子が大きな抑揚で生き生きと表現され、ドラマチックな演奏が実現した。そして最後の「鯨法会」、心の奥へ分け入るような慈しみ深いピアノに導かれ、紙谷さんの格調ある凛とした歌がくっきりと浮かんだ前半から、死んだ親鯨を思う子鯨の思いを悲しくも熱く訴える後半へと繋げ、最後の一声が海の遥か彼方へと遠ざかって行く様子は見事としか言いようがない。

曲の印象の大部分は演奏で決まるということを思い知り、拙作をこんなに素敵な演奏に仕上げてくださった紙谷さんと前田さんに感謝と敬意を表したい。

演奏会にお越し頂いた皆さまや応援してくださった皆さまにも心から御礼申し上げます。

みすゞの故郷を歩く ~仙崎・青海島~

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