6月18日(土)芸大「学長と語ろう」コンサート
~第9回奏楽堂トーク&コンサート~
東京藝術大学奏楽堂
■トーク
テーマ:食としての美
宮田亮平 (東京藝術大学学長)
ゲスト
片岡 護(リストランテ・アルポルト・オーナーシェフ)
■コンサート
~イタリアン・音楽ディナー~
【曲目】
1.ロッシーニ/歌劇「セビリアの理髪師」序曲
2.レスピーギ/リュートのための古風な舞曲とアリア 第1組曲
3.メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調Op.90 「イタリア」
【アンコール】
モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
【演 奏】
ダグラス・ボストック指揮 東京藝術大学音楽学部オーケストラ
芸大の宮田学長による「学長と語ろうこんさーと」に行くのは2009年秋、写真家の中村征夫さんのとき以来2回目。去年秋の鶴太郎は入場整理券をもらっていたのだが、既に買っていた内田光子とヴィヴィアン・ハーグナーのコンサートと時間が重なっていたことにその後気づき、僕は行けなかった。
今日のゲストは、イタ飯レストランシェフの片岡護さん。知らなかったが、著作やテレビ出演などでもかなり有名な人のようだ。「食としての美」というテーマで、「食」について、「美」について、そして「美食」の奥義について、宮田学長の巧みなフィーチャーで、料理のプロならではの興味深く、楽しい話が繰り広げられた。
片岡さんはコックを目指す前、美術の道を目指し、芸大受験に3度挑戦したという話にはビックリ。3度目の不合格を機に心機一転、コックの道へと人生の進路を変更し、イタリアのミラノへ修業のために旅立ったという。「受験に失敗して進路変更したことが、今日の成功をもたらした」という類の成功談は聞くことは多いが、話を聞いていると、今のシェフとしての成功は、美術のバックグラウンドがあってこそであったことが伝わってくる。
そんな受験生時代の話から、イタリアでの修業時代の話、帰国して店を持ってからの話など、どれも面白かったが、実際に料理の写真をスライドで見ながら聞いた話は垂涎もの。面白かったのは、コース料理には静かに始まり、クライマックスを経て、また静かに終わる、といった哲学のようなものがある、ということ。こう聞いただけでは当たり前のようにも思うが、コースで出される料理が全てひとつ残らず「最高の味」では、反ってコースの印象が薄れるから、全てに全力を尽すのではなく、物足りなさを感じてしまう料理も必要、という話は新鮮だった。こうした緊張と弛緩のリズムは料理だけでなく、音楽にも共通する、という話につながったが、これは音楽だけでなく、美術にも、文学にも共通するし、普段の生活にも言えることだと気づき、芸術に接して感動する仕組みについて、大切なヒントをもらった気がした。
それにしても、料理の写真はうまそうだったなぁ。宮田学長が誕生日に奥さんとここのコースを味わった話しは本当にそのおいしい感動が伝わってきて羨ましかった。いつか… いや、近いうちに是非このお店、Al Portoに行きたくなった。
♪♪♪
片岡シェフを音楽で引き継いだのはダグラス・ボストック指揮芸大学生オケ。ボストックさんはステージに登場するや、イギリス人だが流暢なイタリア語で挨拶。「みなさん、ようこそ。これからは音楽の演奏でディナーのコースをお楽しみください。まず前菜(アンティパスト)はロッシーニをどうぞ!」と前口上を述べると、「セビリアの理髪師」序曲が颯爽と始まった。前菜らしい軽めで爽やかな味付けが清々しい。弦の澄んだ音色、軽やかな木管の調べが耳に心地良い。アンサンブルの精度が良いせいか響きがとても瑞々しい。
「プリモビアットのパスタ」として届けられたレスピーギでも同様に澄んだ音色の美しさを堪能した。響きが軽くて明るく、タッチがしゃれている。このあたりのセンスの良さは、ボストックの味付けの巧さによるのだろう。彩りの良いソースとトッピングで見た目も鮮やかなおいしいパスタを味わった気分。木管、金管のソロもうまい。
「ドイツ人作曲家によるメインディッシュ」として演奏されたセコンドビアットの「イタリア」は、最初の2曲と比べるとちょっとつかみどころがハッキリしなかった。冴えや切れ味が少々後退し、それぞれの「素材の味」もはっきりしない。この曲の魅力の一つである、ここぞという時の推進力も物足りなかったが、「ドルチェ(デザート)」で演奏されたアンコールの「フィガロ」では、オケはまた息を吹き返したように活き活きとした演奏で楽しませてくれた。ボストックさんは小品の方が得意なのかも知れない。
学長と語ろうこんさ~と 宮田亮平×中村征夫 2009.11
~第9回奏楽堂トーク&コンサート~
東京藝術大学奏楽堂
■トーク
テーマ:食としての美
宮田亮平 (東京藝術大学学長)
ゲスト
片岡 護(リストランテ・アルポルト・オーナーシェフ)
■コンサート
~イタリアン・音楽ディナー~
【曲目】
1.ロッシーニ/歌劇「セビリアの理髪師」序曲
2.レスピーギ/リュートのための古風な舞曲とアリア 第1組曲
3.メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調Op.90 「イタリア」
【アンコール】
モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
【演 奏】
ダグラス・ボストック指揮 東京藝術大学音楽学部オーケストラ
芸大の宮田学長による「学長と語ろうこんさーと」に行くのは2009年秋、写真家の中村征夫さんのとき以来2回目。去年秋の鶴太郎は入場整理券をもらっていたのだが、既に買っていた内田光子とヴィヴィアン・ハーグナーのコンサートと時間が重なっていたことにその後気づき、僕は行けなかった。
今日のゲストは、イタ飯レストランシェフの片岡護さん。知らなかったが、著作やテレビ出演などでもかなり有名な人のようだ。「食としての美」というテーマで、「食」について、「美」について、そして「美食」の奥義について、宮田学長の巧みなフィーチャーで、料理のプロならではの興味深く、楽しい話が繰り広げられた。
片岡さんはコックを目指す前、美術の道を目指し、芸大受験に3度挑戦したという話にはビックリ。3度目の不合格を機に心機一転、コックの道へと人生の進路を変更し、イタリアのミラノへ修業のために旅立ったという。「受験に失敗して進路変更したことが、今日の成功をもたらした」という類の成功談は聞くことは多いが、話を聞いていると、今のシェフとしての成功は、美術のバックグラウンドがあってこそであったことが伝わってくる。
そんな受験生時代の話から、イタリアでの修業時代の話、帰国して店を持ってからの話など、どれも面白かったが、実際に料理の写真をスライドで見ながら聞いた話は垂涎もの。面白かったのは、コース料理には静かに始まり、クライマックスを経て、また静かに終わる、といった哲学のようなものがある、ということ。こう聞いただけでは当たり前のようにも思うが、コースで出される料理が全てひとつ残らず「最高の味」では、反ってコースの印象が薄れるから、全てに全力を尽すのではなく、物足りなさを感じてしまう料理も必要、という話は新鮮だった。こうした緊張と弛緩のリズムは料理だけでなく、音楽にも共通する、という話につながったが、これは音楽だけでなく、美術にも、文学にも共通するし、普段の生活にも言えることだと気づき、芸術に接して感動する仕組みについて、大切なヒントをもらった気がした。
それにしても、料理の写真はうまそうだったなぁ。宮田学長が誕生日に奥さんとここのコースを味わった話しは本当にそのおいしい感動が伝わってきて羨ましかった。いつか… いや、近いうちに是非このお店、Al Portoに行きたくなった。
片岡シェフを音楽で引き継いだのはダグラス・ボストック指揮芸大学生オケ。ボストックさんはステージに登場するや、イギリス人だが流暢なイタリア語で挨拶。「みなさん、ようこそ。これからは音楽の演奏でディナーのコースをお楽しみください。まず前菜(アンティパスト)はロッシーニをどうぞ!」と前口上を述べると、「セビリアの理髪師」序曲が颯爽と始まった。前菜らしい軽めで爽やかな味付けが清々しい。弦の澄んだ音色、軽やかな木管の調べが耳に心地良い。アンサンブルの精度が良いせいか響きがとても瑞々しい。
「プリモビアットのパスタ」として届けられたレスピーギでも同様に澄んだ音色の美しさを堪能した。響きが軽くて明るく、タッチがしゃれている。このあたりのセンスの良さは、ボストックの味付けの巧さによるのだろう。彩りの良いソースとトッピングで見た目も鮮やかなおいしいパスタを味わった気分。木管、金管のソロもうまい。
「ドイツ人作曲家によるメインディッシュ」として演奏されたセコンドビアットの「イタリア」は、最初の2曲と比べるとちょっとつかみどころがハッキリしなかった。冴えや切れ味が少々後退し、それぞれの「素材の味」もはっきりしない。この曲の魅力の一つである、ここぞという時の推進力も物足りなかったが、「ドルチェ(デザート)」で演奏されたアンコールの「フィガロ」では、オケはまた息を吹き返したように活き活きとした演奏で楽しませてくれた。ボストックさんは小品の方が得意なのかも知れない。
学長と語ろうこんさ~と 宮田亮平×中村征夫 2009.11