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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

藝祭2014 3日目 9月7日(日)

2014年09月07日 | pocknのコンサート感想録2014

映像展示に呑まれ展示物と化す我が息子

藝祭2014 3日目 9月7日(日)

兵士の物語
~第1ホール~

ストラヴィンスキー/兵士の物語

ストラヴィンスキーの「兵士の物語」は藝祭で人気の演目だが、ここでの「語り」を高座でやったのは初めてでは。咄家の和服姿で登場した丸刈りの語り部さんが(この格好似合いすぎ。ここでお囃子があればムードは最高!)ステージに設えられた高座に上り、前奏に続いて語り始めた。これがチャキチャキの江戸弁でたちまち寄席の気分。手拭いと扇子を小道具に話すこの弁士さんの話がまた抜群にウマイ!

臨場感たっぷりの語りですっかり物語のシーンに入り込んだなかで入る音楽の演奏がまたウマイ!この音楽はクールさと諧謔とお茶目なものが入り交じったタッチで物語を絵巻物のように描いているが、ストラヴィンスキーのアンサンブルに対する要求レベルはかなりのもの。今日の7人のメンバーは難しいパッセージや変則的なリズムをキチンとこなすだけでなく、微妙なタイミングやニュアンス付けをうまく施しつつ、物語の情景や登場人物の感情をリアルに描くことにも成功していた。指揮者を置いたことも効を奏したようだ。更にコルネット(トランペット?)をはじめ、各パートに与えられたソロイスティックなパッセージをどれも鮮やかに決め、物語のシーンが空気感を伴って一層リアルに描写されていた。

終盤、兵士が王女を助ける感動の場面で、音楽が突然長三和音を奏で始めるが、この協和音の響きにも何やら怪しげで空虚な表情を感じさせ、この後の展開をうまく暗示していた。「幸福は1つだけ」という教訓めいた弁士さんの言葉が俄然現実味を帯びた。演奏者と語りが車の両輪のごとくバランスを保ちつつ物語を完結。素人離れした語りを1時間以上に渡って聞かせた弁士さん、素晴らしい演奏を繰り広げたプレイヤー達に喝采!残念ながら会場でチラシ類は配られず、出演者の名前はわからない。
アルケ藝祭演奏会
~第2ホール~

1.シューマン/ピアノ四重奏曲変ホ長調Op.47~第1楽章
2.石井智大/幼い記憶のfragments
3.ヒンデミット/ヴィオラとチェロのための二重奏曲
4.渡部真理子/デューラーの翼


ピアノ四重奏のメンバー内で可能な様々な楽器の組合わせで4曲を演奏した。一番のインパクトを受けたのが最初のシューマン。果敢な「攻め」の演奏で、アンサンブルが前へ進んで行く強い推進力が生まれ、聴いていて気分がよかった。弦楽器奏者達が頻繁にアイコンタクトを取りながらアンサンブルを作り上げていく様子も好ましく、これは是非全楽章を聴いてみたかった。

次のバイオリン独奏は石井智大さんの自作自演。静けさの中に熱いものがあり、バイオリンならではの「歌」があった。ヒンデミットを聴けたのも嬉しい。美間拓海さん(vla)とレネ・ヴァン・ムンステルさん(vc)のデュオは能動的なコミュニケーションで、彫りの深い明快な軌跡を描いていった。最後は作曲科の渡部真理子さんの新作初演。カナリアの羽をイメージしたというこの四重奏曲は、静謐でファンタジック。透明感と色彩感のある作品に仕上がっていた。デリケートなニュアンスを大切にした演奏も良かった。
東京藝術大学バッハカンタータクラブ
~第6ホール~

1.バッハ/カンタータ第187番「ものみなあなたを待ち望む」BWV187
2.バッハ/カンタータ第17番「感謝を捧げる者こそ私を称える」BWV17


藝祭で絶対外せないカンタータクラブの演奏会。奥さんと合流して6ホールへ。今回演奏された2曲は『ルードルシュタット詩華撰』によるカンタータで、 神への感謝を扱ったもの。187番の冒頭合唱が始まるや、優れた音楽が優れた演奏で届けられたときの、音楽の持つ説得力の強さを実感した。

バッハのカンタータでオーケストラの合奏や、アリアでのオブリガート楽器の活躍する様子を聴く度に思うのは、バッハの純粋な器楽曲は数が限られ、来日するバロックオーケストラなどは繰り返しブランデンブルク協奏曲を全曲やったりするが、カンタータには器楽曲としての魅力を含め、バッハの音楽の魅力がぎっしり詰まっているということ。躍動感に溢れ、生き生きした自然な息づかいで豊かな響きの音曲を紡ぐカンタータクラブの器楽パートの演奏を聴いていて、つくづくそれを感じた。

そこに、「言葉」そのものを伝える合唱とソロが加わるわけだが、カンタータクラブの合唱やソリストは、歌詞の「心」を伝える最高のメッセンジャーだ。合唱もソリスト達も、愛情と誠意を込めて音楽に言葉を乗せているのが目からも耳からもありありと伝わってきて、それが聴く者の心にストレートに共鳴する。今回のソロでは子音の扱いなど、ドイツ語の発音に細かい心配りを感じることが多く、歌詞のメッセージ性をより明瞭にしていた。

そんなソリスト達のなかでもとりわけ心に訴えてきたのは、187番でレチタティーヴォを朗唱したソプラノの金成佳枝さん。彫りの深い表現と豊かな美声で、確信に満ちたメッセージを朗々と表明した歌唱は、聴き進むほどに引き込まれて行った。そして、それに続きコラールが呼応することの意味がより鮮明に浮かび上がった。同じ187番でアルトの前島眞奈美さんが歌ったアリアも、落ち着いた豊かな表情がとても印象に残った。17番では、カンタータクラブでおなじみ、圓谷俊貴さんの歌が、力強く朗々と響いていたのが印象的。

バッハを聴く喜びと幸せをまたもらった。カンタータクラブのメンバーに今回も心からの感謝を伝えたい。
アンサンブル ―純音の調和―
くちぶえーるすと
~第2ホール~

1.永井秀和編/Whistling's Medley
2.永井秀和/子供の夢想


奥さんと息子も一緒に聴いたこのコンサートの整理券はギリギリ滑り込みでゲットできた。口笛のコンサートってどんなだろう… 楽しい想像が膨らむ。ちぶえーるすとの青柳呂武さんは口笛の国際コンクールのグランドチャンピオンという本格派。

最初は室内アンサンブルをバックにお馴染みの名曲メドレー。青柳さんの口笛は「口笛は音量が小さく、音の変化をつけにくくいため、クラシックでは使われていなかった」という、配られた解説からは想像できないほどの存在感で耳に飛び込んできた。パガニーニの「カプリース」でのとりわけ高音域の音がピュアで美しく、室内アンサンブルの合奏からくっきりと浮き立って聴こえる。速いパッセージの滑らかな運びと音程の正確さにもビックリ。ドボルザークのユーモレスクになると、潤いのある詩情もたっぷりに聴かせてくれた。音程に段階がなく、自由に繋げたり揺らしたりできる口笛の特性をうまく活用している感じ。

そしてメドレー最後のチャールダッシュで驚いたのは、中間部で超高音のハーモニクスを見事に使いこなしたこと。口笛でこんなことまでできるなんて!ちゃんとした楽器として考えたことがなかった口笛をここまで操る、ということはもちろん驚きだが、それだけでなく、口笛の楽器としての魅力を堪能し、無条件で楽しめた。

2曲目は、口笛を室内アンサンブルの一つのパートとして扱い、アンサンブルとしての新しい響きを探求した永井さんの新作。曲は懐かしいシーンが見えてくるようで、その中で「音量が小さい」と言われている口笛が、ちゃんと存在感を主張していた。むしろ、他の楽器との異質性(聞き慣れていないせいもあるが)が気になり、アンサンブルの中で浮いている感じがした。1曲目のような口笛ならではの高音の魅力や自由闊達な動きでソロ的に扱った方がおもしろいかも知れない。

「くちぶえーるすと」のこれからにも注目したい。
あんこ~る
あんこ屋木管アンサンブル
~第2ホール~

1.モーツァルト/ファゴット二重奏曲
2.イベール/木管三重奏曲
3.ロッシーニ/「セビリアの理髪師」~「ごらん、空がしらみ」「今の歌声は」
4.A.スティーヴンソン/ディヴェルティメント
5.イベール/木管五重奏のための3つの小品
アンコール:だんご三兄弟


「あんこ~る!」というコンサートタイトルなのでアンコールピースをいろいろやると思いきや、なかなか凝った曲目が並んだ。ファゴット科の学生が中心となったコンサートで、ここではファゴットがメイン。

長閑なイメージが強いこの楽器は、主役の座についても和やかオーラを発して幸せムードを作り出す。リラックスしてちょっと夢見心地になりかけたスティーヴンソンの後半で「ん?」という場面があったおかげで目が冴え、おとぎ話のような楽しくてワクワクする音楽のなかに引き寄せられた。コントラストファゴットのリズムが腹に響く。最後のイベールは通常の木管五重奏。他の楽器に混ざってファゴットの音が聴こえてきたら何だか懐かしい気分になった。そんな人懐っこさ、親しみやすい存在感をファゴットという楽器が持っていることに気がついた。だんご三兄弟もおもろかった。

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