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検証「日本の常識」~エレベータ~

2009年07月30日 | ウィーン&ベルリン 音楽の旅 2009
まずはこの写真をご覧頂ください。これはウィーンの地下鉄駅構内にあるエレベータ内で撮影したのですが、何か気づくことはありませんか?

そう、[閉]のボタンがないのです。このエレベータは例外じゃないかって?いえいえ、ウィーンのエレベータもベルリンのエレベータも殆ど[開]のボタンはあっても[閉]のボタンは見当たりません。

僕はもともと数秒待てば自動的に閉じるエレベータのドアをわざわざボタンを押して閉めるのは、何だかせっかちみたいでいやだったのだが、[閉]のボタンを押して強制的にエレベータのドアを閉めるのは無駄な電力消費がとても多い、という話を耳にして以来、ますます自分では[閉]のボタンは押さないようになっていた。

でも、デパートとかでボタンの前に立っていながら[閉]を押さないと、他の人に舌打ちされそうで、エレベータに乗り込むとできるだけドア付近は避けて、奥に立つようにしていた。

日本でエレベータのドア付近に立っている人の行動を観察していると、まず間違いなく[閉]を押す。ドアがすぐに反応しないと何度もバシバシ押す人も多い。自分がエレベータを降りるとき、ご丁寧に自分で[閉]ボタンを押して出て行く人までいる。これが日本ではマナーなのかも知れない。


[閉]のボタンを意識するようになったせいで、ウィーンやベルリンのエレベータにこれがないことにすぐに気がついた。「そうだよ、[閉]ボタンなんてなくていいわけだ!」[閉]がなく[開]ボタンだけなら、誰かが遅れて乗ろうとして来たとき、親切でドアが閉まらないように[開]を押してあげるつもりで、[閉]を押してしまうという失敗もないし…

日本のエレベータでは多分いつも、もしかしたら独りで乗っているときさえちょっと感じていた、[閉]は押さないぞ!というプレッシャーから解放されてとても気持ちが楽になり、妙にこの[閉]ボタンのないエレベータ達に親近感を覚えた。

ベルリンで泊まった築110年以上のペンションのエレベータはまだまだ現役だ

このエレベータに[閉]がないというのは、ヨーロッパだから成り立つシステムなのだろう。ヨーロッパの人々は「待つ」ということに寛容だ。レストランに座っても日本のようにすぐに注文を訊きには来ないし、注文した料理だってなかなか来ない。日曜祝日は町の店は軒並み休業だから買い物は週明けまで待つしかない。電車が遅れてもお客はみんな平気な顔で落ち着き払っている。

以前、イタリアのソレントからアマルフィへ向かうバスに乗っていて海岸沿いの曲がりくねった道で、そのバスが対向車と接触して1時間もずーっと立ち往生していたときも、車内に状況説明は一切ないのにお客は「どうした?」とか「いつまで待たせるんだ?」なんてだーれも言わない。このときばかりは僕も人種の違いを痛感した。

朝から晩まで分単位で予定がぎっしり詰まっている人達が経済を辛うじて支えている日本では、そんな人達が一番効率よく動けるように世の中が回転するようになる。すると、予定がぎっしりあるわけでもない人までそのサイクルに乗って「待たされない」ことが当たり前になり、「待つ」ことへの苦痛が増大し、寛容さを失っていく。

日本で「スローライフ」がどんなに叫ばれ、実践されたとしても、それはぎっしり詰まった予定の中で何とかやりくりして無理やり作り出した時間のわけで、ゆとりを作ることが益々忙しさを助長してしまうだけ、という悪循環から脱することはできない。

残念なことに350万都市のベルリンでは[閉]ボタンのついたエレベータを時おり見かけたし、駅構内に出来た巨大なショッピングモールは日曜日なのにどのお店も開店していて、「休日閉店」の原則が崩れてきているようにも思えた。ドイツでそんな「日本化」に出合うと心穏やかならざるものを感じる。ベルリンの町が今後益々変貌を遂げても、エレベータに[閉]ボタンをつけるという発想を与えなかった健在な社会であり続けてほしい。

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