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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル2024 (8/27)

2024年09月01日 | pocknのコンサート感想録2024
8月27日(火)

草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバル2024、キルヒシュラーガーのリサイタルを聴いた翌日は、キルヒシュラーガーのマスタークラスを聴講し、その前の空いている時間にヒンターフーバーのマスタークラスも聴かせてもらった。午後はインデアミューレの公開レッスンと室内楽コンサートを聴き、音楽漬けの一日となった。

大学時代の恩師、関先生の別荘にお世話になっていた頃は、毎年こんな感じで音楽に浸っていたことを思い出した。関先生は去年までお一人で草津に通っていらっしゃったが、今年はご高齢のためにいらっしゃることができなかった。草津で先生にお目にかかれないのは寂しいけれど、草津でのこのような音楽の楽しみ方を教えてくださった先生に感謝しつつ、音楽三昧の一日をレポートします。


1991年に完成した草津音楽の森国際コンサートホール


客席数は608。ステージ後方の窓には森が広がる(開演時は閉じられる)

ポピュラー・コンサート/モーツァルトの室内楽の夕べ ~遠山慶子に捧ぐ
草津音楽の森国際コンサートホール

【曲目】
1.モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタホ短調 K.304
2.モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ変ロ長調 K.378
3.モーツァルト/ピアノ、クラリネット、ヴィオラのための三重奏曲変ホ長調 K.498「ケーゲルシュタット」
4.ベートーヴェン/「魔笛」の主題による12の変奏曲ヘ長調 Op.66
5.モーツァルト/ピアノ四重奏曲ト短調 K.478

【演 奏】
Cl:四戸世紀/Vn:カリーン・アダム/Vla:般若佳子/Vc:エンリコ・ブロンツィ/Pf:アントニー・シピリ(1,2,4,5)、ブルーノ・カニーノ(3)


夫の遠山一行氏と共に、長年草津夏期国際音楽祭の中心的存在であった遠山慶子さん(2021年に死去)を偲ぶメモリアルコンサート。慶子さんが好んでよく演奏したというモーツァルトの曲が並んだ。こうした様々な編成の曲をひとつのコンサートで出来るのは草津ならでは。ピアノはいつものベーゼンドルファーではなく、ヤマハのCFXが使われた。

最初はモーツァルトのヴァイオリン・ソナタが2つ。昨日に続いて登場したシピリのピアノが繊細で豊かな詩情を湛えていた。アダムのヴァイオリンは、飾らない素朴な音色で誠実な演奏を聴かせたが、詰めの甘さを感じた。続く「ケーゲルシュタットトリオ」は熟練の演奏。草津でおなじみの四戸さんのクラリネットは安定感抜群、この曲にだけ出演したカニーノのピアノは冴えのある硬質な響きが心地いい。般若さんの落ち着きのあるヴィオラとの3人のアンサンブルはバランスも良く、瑞々しさよりも味わい深さを感じさせる演奏だった。

続いてチェロのブロンツィが登場してシピリとのデュオによるベートーヴェン。ブロンツィのチェロはアクティブで朗々と歌い、熱く語り、臨場感あふれる演奏だった。シピリとのコンビネーションも快調で生き生きとした対話を繰り広げ、聴いていてワクワクした。

最後は大好きなモーツァルトのピアノカルテット。4人は攻めの姿勢で能動的な演奏を聴かせた。終始耳を引いたのはシピリのピアノ。自然な息遣いで、デリケートでエレガントにアンサンブルの要となって息づいている。チェロのブロンツィはここでも能動的にアンサンブルに働きかけ、アダムと般若も乗りのいいパフォーマンスでライブの醍醐味を伝えた。それぞれのパートにモーツァルトが与えた聴かせどころでも、各プレイヤーが持ち味を発揮していい歌を聴かせ、魅力溢れるアンサンブルが展開した。モーツァルトはなんて素敵な音楽を作ったのだろうかとつくづく感じることができる演奏だった。
マスタークラス(クリストファー・ヒンターフーバー)


ヒンターフーバーのマスタークラス会場


キルヒシュラーガーのマスタークラスが始まるまでの時間、ヒンターフーバーのマスタークラスを45分ほど聴講した。男性の受講生が弾いたのはリストのハンガリー狂詩曲第11番。

冒頭のトレモロはハンガリーの民族楽器、ツィンバロンをイメージして、と言葉で説明するだけでなく、ネットで演奏の様子まで見せてくれるところから始まり、5分足らずの作品が多くの要素から出来ていて、それぞれの性格付けと全体構成が大切であること、連続する同じ音型のフレーズでもそれぞれが固有の性格を持ちテンポや息遣いが異なること、いま演奏している音楽の先に何が起こるかを意識してディナミークやアゴーギクを付けるべきこと、押さえる音、解き放つ音への配慮など、様々な示唆に富む指導が行われた。ヒンターフーバーとリストというのはあまりイメージ出来なかったが、途中で退席するのが惜しいほど濃い内容のレッスンだった。
マスタークラス(アンゲリカ・キルヒシュラーガー)


キルヒシュラーガーのマスタークラスと公開レッスンの会場は天狗山レストハウス
音楽の森ホールが出来る前はここでコンサートも行われていた

4人の受講生へのレッスンを聴講した。J.シュトラウスⅡの「こうもり」のアリア「田舎娘を演じたら」で、活きが良く、瑞々しい素敵なアデーレを歌った受講生には、呼吸の大切さを熱く語った。歌う前のブレスから歌は始まっている、普段しゃべる時は、自然に息を吸って何を伝えようとしているかを準備するのと同じで、歌うイメージをはっきり見定めて自然な呼吸をすることの大切さを伝え、受講生の歌は益々映えた。

モーツァルトの歌曲「夢の姿」を歌ったのはカウンターテナーの男性。有節歌曲は同じメロディーをどう歌い分けるかが難しい、それぞれの節に何をイメージしてどう表現するか、それに応じて呼吸し、歌を作ること、歌と言葉は50%ずつでどちらもが大切で双方に配慮して表現することを説いた。背中へ息を溜めて歌うことについての指南もあった。

夜の女王の1幕のアリアを歌った受講生には、このアリアが単なる母親の愛情とは異なるザラストロへの敵心を表現すべきと説いた。コロラトゥーラの前の切々と歌う場面で「私の助けは弱すぎた(zu schwach)」という言葉には、ザラストロのような権力が自分にないことへの苛立ちや無念さが込められていることや、「ああ、助けて(Ach helft! )」というパミーナの嘆きは、パミーナになり切って歌うことなど、登場人物の言葉がどんな状況や感情から出ているかを深く追求することの大切さを説いた。モーツァルトの「すみれ」を歌った受講生には、ピアニストと共に音楽を作る気持ちを常に持って、相手と呼吸を感じ合うことで一人で歌うよりもずっと豊かな表現ができることを伝えた。

このレッスンを聴講したことで、昨日聴いたキルヒシュラーガーのリサイタルで感じた言葉を大切にしていることを益々強く感じ、納得することが出来た。このクラスでは、ピアノ伴奏の男性が通訳も担当していたが、キルヒシュラーガーの言葉を単に直訳で伝えるだけでなく、その背景なども適宜補足して伝えてとてもわかりやすかった。このことをキルヒシュラーガーさんも気づいて感謝していた。

★キルヒシュラーガーさんが歌ったアンコールについて教えてください
8/26のリサイタルのアンコール曲について、マスタークラスが始まる前に直接キルヒシュラーガーさんに伺い、「あれは「フィガロ」のスザンナのもう一つのアリアとも呼ばれている曲でアリア集にも入っていますよ」とのお話しでしたが、何という曲かはっきり確認しないままになってしまいました。わかる方がいらっしゃったら是非コメント欄でお知らせください。

公開レッスン(トーマス・インデアミューレ)
午後は、オーボエのインデアミューレによる公開レッスンを聴講した。モーツァルトのオーボエ協奏曲では、オケとの共演でオーボエがちゃんと聴こえるためには、楽器だけでなく体も鳴らさなければいけない、と、受講生の秋山泰輝さんの耳を塞いでオーボエを吹かせ、楽器の音が体の中でも鳴っていることが聴こえる吹き方を指南していた。

サン=サーンスのソナタのレッスンでは、受講生の桐生千晶さんに冒頭の語りかけのモチーフに柔らかな陰影でいかに音楽が表情を持つかを、デュティユーのソナタでは受講生の豊田悠華さんに、フランス音楽では音色の変化が大切であることを自らの演奏で聴かせてくれたのが印象的だった。

インデアミューレは、受講生と一緒に譜面を見ながら指導する場面が多く、譜面を指して「このフレーズは…してください」と聞いただけではわからないことがあった。公開レッスンという性格を考えると、通訳はそんなところを補足して伝えてくれたら、より指導の内容がわかってよかったと思った。

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