11月18日(金)ピエール=ロラン・エマール(Pf)
トッパンホール
【曲目】
1.リスト/悲しみのゴンドラ(第1稿) S200/1
2.ワーグナー/ピアノ・ソナタ 変イ長調「M.W.夫人のためのアルバム」
3.リスト/灰色の雲 S199
4.ベルク/ピアノ・ソナタ Op.1
5.リスト/不運! S208
6.スクリャービン:ピアノ・ソナタ第9番「黒ミサ」
7.リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調 S178
昨年に続き聴くエマールのリサイタル。考え抜かれたプログラミンクの中に並ぶ作品は、聴き慣れた曲も、初めて聴く曲も、このピアニストでなければ得られない刺激をもたらし、ライブならではの、まさに今この場で音楽が生まれている、という感覚を届けてくれる。それに加えて今回は、昨日の試写会で見た飽くなき音へのこだわりを実演で確かめる楽しみも加わった。
最初のステージは、リストの晩年の作品に、リストが影響されたワーグナーと、リストが進んだ無調の世界を押し進めたスクリャービンとベルクの曲を組み合わせ、全体を一つの大きな音楽として聴かせた。
例によって途中で拍手をしないようにというアナウンスも入り、このステージのコンセプトを実現する意気込みは見事に実を結んだ。その中でクローズアップされたのは、リストの作品の斬新性だ。「トリスタン和声」によって曖昧な調性の世界をもたらした頃に書かれたワーグナーのソナタが、リストの曲に比べると何とも甘い響きがして、これが全体の間奏曲のような役割を演じ、また、リストの新しさを押し進めたはずのベルクの作品が、意外とロマンチックな詩情を帯びていて、むしろリストの曲の方が斬新に聴こえたのが印象的だった。このステージの最後に置かれたスクリャービンの特異性が、リスト晩年の神秘的な音楽と共振し合って聴こえたのも面白かった。ステージ全体は、深刻に何かを希求する重い空気に包まれたが、周辺では居眠りする人達も続出。こういう世界に浸りたくてコンサート会場にやってくる人は、そう大勢はいないかも知れない。
第2ステージのリストのロ短調ソナタは、こうした「新しい」音楽を聴いた後では、さぞやロマンチックに響くと思いきや、そうしないのがエマール。この曲にあるロマンチックな要素、贅肉や香りまで取り去り、一つ一つのパーツを赤裸々にあぶり出し、新たな魂を与えて再構築される。その姿は、未知の世界に突き進むような気迫と斬新性に満ちた音楽として提示された。書かれているはずの和声進行に抗って進んでいるような闘争的な凄みさえ感じられ、結果として、リストの中期の作品にも、新しさが満ち満ちていることを知らしめたと言える。
これには会場も熱気に包まれ、大きな拍手とブラボーが続いた。さあ、これから第3ステージの始まりだ! と、いつもの延々と弾き続けるアンコールステージを楽しみに拍手を続けたのだが、何度ステージに出てきてもエマールはピアノに向かおうとしない。表情もちょっとすぐれないような… 結局アンコールは1曲もなかった。
どうしたのだろうか?いつもは30分以上もアンコールをやってくれ、レコ芸のインタビューでも「聴衆が求めるなら、いくらでも弾きます」みたいなことを言っていたのに、今夜の聴衆からはそんな「求め」を感じなかったのだろうか。或いはピアノがお気に召さなかったのだろうか。それとも調子が悪かったのだろうか。アンコールがないことがこんなに気になる演奏会も珍しいが、長いアンコールに備えて聴くほうも余力を残しておいたところもある身としては、少々拍子抜けの幕切れとなった。
ピエール=ロラン・エマール リサイタル 2009.12.13 東京オペラシティ
ピエール=ロラン・エマール リサイタル 2008.7.15 東京オペラシティ
トッパンホール
【曲目】
1.リスト/悲しみのゴンドラ(第1稿) S200/1
2.ワーグナー/ピアノ・ソナタ 変イ長調「M.W.夫人のためのアルバム」
3.リスト/灰色の雲 S199
4.ベルク/ピアノ・ソナタ Op.1
5.リスト/不運! S208
6.スクリャービン:ピアノ・ソナタ第9番「黒ミサ」
7.リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調 S178
昨年に続き聴くエマールのリサイタル。考え抜かれたプログラミンクの中に並ぶ作品は、聴き慣れた曲も、初めて聴く曲も、このピアニストでなければ得られない刺激をもたらし、ライブならではの、まさに今この場で音楽が生まれている、という感覚を届けてくれる。それに加えて今回は、昨日の試写会で見た飽くなき音へのこだわりを実演で確かめる楽しみも加わった。
最初のステージは、リストの晩年の作品に、リストが影響されたワーグナーと、リストが進んだ無調の世界を押し進めたスクリャービンとベルクの曲を組み合わせ、全体を一つの大きな音楽として聴かせた。
例によって途中で拍手をしないようにというアナウンスも入り、このステージのコンセプトを実現する意気込みは見事に実を結んだ。その中でクローズアップされたのは、リストの作品の斬新性だ。「トリスタン和声」によって曖昧な調性の世界をもたらした頃に書かれたワーグナーのソナタが、リストの曲に比べると何とも甘い響きがして、これが全体の間奏曲のような役割を演じ、また、リストの新しさを押し進めたはずのベルクの作品が、意外とロマンチックな詩情を帯びていて、むしろリストの曲の方が斬新に聴こえたのが印象的だった。このステージの最後に置かれたスクリャービンの特異性が、リスト晩年の神秘的な音楽と共振し合って聴こえたのも面白かった。ステージ全体は、深刻に何かを希求する重い空気に包まれたが、周辺では居眠りする人達も続出。こういう世界に浸りたくてコンサート会場にやってくる人は、そう大勢はいないかも知れない。
第2ステージのリストのロ短調ソナタは、こうした「新しい」音楽を聴いた後では、さぞやロマンチックに響くと思いきや、そうしないのがエマール。この曲にあるロマンチックな要素、贅肉や香りまで取り去り、一つ一つのパーツを赤裸々にあぶり出し、新たな魂を与えて再構築される。その姿は、未知の世界に突き進むような気迫と斬新性に満ちた音楽として提示された。書かれているはずの和声進行に抗って進んでいるような闘争的な凄みさえ感じられ、結果として、リストの中期の作品にも、新しさが満ち満ちていることを知らしめたと言える。
これには会場も熱気に包まれ、大きな拍手とブラボーが続いた。さあ、これから第3ステージの始まりだ! と、いつもの延々と弾き続けるアンコールステージを楽しみに拍手を続けたのだが、何度ステージに出てきてもエマールはピアノに向かおうとしない。表情もちょっとすぐれないような… 結局アンコールは1曲もなかった。
どうしたのだろうか?いつもは30分以上もアンコールをやってくれ、レコ芸のインタビューでも「聴衆が求めるなら、いくらでも弾きます」みたいなことを言っていたのに、今夜の聴衆からはそんな「求め」を感じなかったのだろうか。或いはピアノがお気に召さなかったのだろうか。それとも調子が悪かったのだろうか。アンコールがないことがこんなに気になる演奏会も珍しいが、長いアンコールに備えて聴くほうも余力を残しておいたところもある身としては、少々拍子抜けの幕切れとなった。
ピエール=ロラン・エマール リサイタル 2009.12.13 東京オペラシティ
ピエール=ロラン・エマール リサイタル 2008.7.15 東京オペラシティ