10月25日(火)ハンスイェルク・シェレンベルガー(Ob)/小菅 優(Pf) ![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/face_heart.gif)
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ヤマハホール
【曲目】
1.シューマン/3つのロマンスOp.94
2.シューマン/幻想小曲集Op.12~「飛翔」、「何故に」、「夜に」(pfソロ)
3.シューマン/幻想小曲集Op.73
4.サン=サーンス/オーボエ・ソナタOp.199
5.リスト/「詩的で宗教的な調べ」S.173~第3曲「孤独の中の神の祝福」(pfソロ)
6.プーランク/オーボエ・ソナタFP.185
【アンコール】
1.シューマン/君は花のように
2.シューマン/月夜
小菅優は、ソロのみならず、室内楽においても豊かな詩情を湛えて、アンサンブルの中で自然な呼吸で息づくピアノが素晴らしく、僕にとって最も注目すべきピアニストの一人。シェレンベルガーもこれまでソロや室内楽で何度も聴いて、卓越したテクニックと音楽性に惚れ込んでいるオーボエ奏者。そんな二人が共演すれば、またとない素晴らしいデュオを聴かせてくれるに違いない、と期待が膨らんだ。
会場は2010年春に新装オープンした銀座のヤマハホール。いい演奏会をよくやっているのは知っていたが、ここで聴く演奏会は初めて。銀座という立地にふさわしい、落ち着いた雰囲気のいいホールだ。冒頭でシェレンベルガーが、小菅さんを通訳に、英語で挨拶。「3月11日の残酷なシーンを見たら、一刻も早く日本に行って音楽を届けたいと思った」という、心のこもったメッセージを聞いたのがきっかけに、久しぶりに募金に協力した。今回の募金は被災地の子供たちを支援するために使うということだったが、被災地には息の長い、様々な分野での支援が必要で、こうしたチャリティーコンサートの意義は大きい。
そのチャリティーコンサートの1曲目、シューマンの3つのロマンス、オーボエの第一声を聴いて、ロマンチックな甘美さよりも、孤独な寂寥感がひしひしと迫ってきた。この夏、草津の音楽アカデミーで、インデアミューレのマスタークラスでこの曲のレッスンを聴いたが、その時インデアミューレが、「迷い」や「諦念」といったパッシヴな表現を弱音で表現することが大切、と言っていたことを思い出した。寂しさに、懐かしい温かさが加わり、しんみりと伝わってくるオーボエ。小菅のピアノは、そのオーボエの調べの淡い影を映すようにぴたりと寄り添っていた。
次は小菅のソロ。1曲目では終始影の役を演じていたが、一転して雄弁にシューマンの溢れる叙情を吐露する。濃厚で熱く、ウェットな情感が迫ってきた。小菅の表情はとても奥行きが深く、声部ごとにそれぞれ別の楽器がアンサンブルを奏でているよう。第3曲「何故に」での悩ましげに絡み合う歌や、第5曲「夜に」の、深い闇の中で悪夢に怯えるおののきの心像のリアルさなど、感情を揺さぶってくる。これこそシューマンの魅力。
続いて、作品73の幻想小曲集は、僕が多感な高校時代!に、シューマンの魅力に取りつかれるきっかけとなった曲。ここでは小菅は、影の役だけでなく、ピアノの聞かせどころではググッと前面に進出し、陰と陽を柔軟に変化させて、シェレンベルガーとのバトルを繰り広げた。バトルと言っても、小菅は常に楽しそうにシェレンベルガーと交感する余裕を見せる。オーボエ・ダモーレに持ち替えて、ふくよかな響きを聴かせた第1曲、第2曲も良かったが、二人のベクトルが合わさり、二人以上のエネルギーを発散した第3曲が、アンサンブルとしてとりわけ見事だった。
後半1曲目のサン=サーンスのソナタは、シェレンベルガーの柔らかく郷愁を誘うオーボエと、夕日に映された長い影を思わせる小菅のピアノが溶け合った、夕景の雰囲気が漂う第2楽章や、勢い弾ける活き活きとしたやり取りが繰り広げられた第3楽章がとりわけ印象深い。
再び小菅がソロで、リストの作品。この作品では、神様の有り難い恩寵、というより、おっかさんの抱擁のような、愛情ある肌の温もりが直に伝わってくるとてもプライベートな演奏。小菅はベートーヴェンの初期のソナタではカッチリした枠の中で、硬質な輝きを持ってしなやかな演奏を聴かせるし、モーツァルトを弾かせれば、極上の典雅な響きを聴かせてくれる。シューマンもそうだが、作品の時代様式と作曲家の持ち味を見事に体現する術を心得ている。
プログラム最後のプーランク、ここでも小菅とシェレンベルガーの鮮やかなバトルが弾ける。シェレンベルガーのオーボエは全盛期の切れ味そのまま、というわけにはいかないが、深い人間味が伝わってきた。そんな味わいをしんみりと残して曲を閉じた。
アンコールでは、本プログラムの余韻を大切に温めるような曲が選ばれ、詩情豊かなシューマンの歌の世界へと誘ってくれた。いいコンサートだった。
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ヤマハホール
【曲目】
1.シューマン/3つのロマンスOp.94
2.シューマン/幻想小曲集Op.12~「飛翔」、「何故に」、「夜に」(pfソロ)
3.シューマン/幻想小曲集Op.73
4.サン=サーンス/オーボエ・ソナタOp.199
5.リスト/「詩的で宗教的な調べ」S.173~第3曲「孤独の中の神の祝福」(pfソロ)
6.プーランク/オーボエ・ソナタFP.185
【アンコール】
1.シューマン/君は花のように
2.シューマン/月夜
小菅優は、ソロのみならず、室内楽においても豊かな詩情を湛えて、アンサンブルの中で自然な呼吸で息づくピアノが素晴らしく、僕にとって最も注目すべきピアニストの一人。シェレンベルガーもこれまでソロや室内楽で何度も聴いて、卓越したテクニックと音楽性に惚れ込んでいるオーボエ奏者。そんな二人が共演すれば、またとない素晴らしいデュオを聴かせてくれるに違いない、と期待が膨らんだ。
会場は2010年春に新装オープンした銀座のヤマハホール。いい演奏会をよくやっているのは知っていたが、ここで聴く演奏会は初めて。銀座という立地にふさわしい、落ち着いた雰囲気のいいホールだ。冒頭でシェレンベルガーが、小菅さんを通訳に、英語で挨拶。「3月11日の残酷なシーンを見たら、一刻も早く日本に行って音楽を届けたいと思った」という、心のこもったメッセージを聞いたのがきっかけに、久しぶりに募金に協力した。今回の募金は被災地の子供たちを支援するために使うということだったが、被災地には息の長い、様々な分野での支援が必要で、こうしたチャリティーコンサートの意義は大きい。
そのチャリティーコンサートの1曲目、シューマンの3つのロマンス、オーボエの第一声を聴いて、ロマンチックな甘美さよりも、孤独な寂寥感がひしひしと迫ってきた。この夏、草津の音楽アカデミーで、インデアミューレのマスタークラスでこの曲のレッスンを聴いたが、その時インデアミューレが、「迷い」や「諦念」といったパッシヴな表現を弱音で表現することが大切、と言っていたことを思い出した。寂しさに、懐かしい温かさが加わり、しんみりと伝わってくるオーボエ。小菅のピアノは、そのオーボエの調べの淡い影を映すようにぴたりと寄り添っていた。
次は小菅のソロ。1曲目では終始影の役を演じていたが、一転して雄弁にシューマンの溢れる叙情を吐露する。濃厚で熱く、ウェットな情感が迫ってきた。小菅の表情はとても奥行きが深く、声部ごとにそれぞれ別の楽器がアンサンブルを奏でているよう。第3曲「何故に」での悩ましげに絡み合う歌や、第5曲「夜に」の、深い闇の中で悪夢に怯えるおののきの心像のリアルさなど、感情を揺さぶってくる。これこそシューマンの魅力。
続いて、作品73の幻想小曲集は、僕が多感な高校時代!に、シューマンの魅力に取りつかれるきっかけとなった曲。ここでは小菅は、影の役だけでなく、ピアノの聞かせどころではググッと前面に進出し、陰と陽を柔軟に変化させて、シェレンベルガーとのバトルを繰り広げた。バトルと言っても、小菅は常に楽しそうにシェレンベルガーと交感する余裕を見せる。オーボエ・ダモーレに持ち替えて、ふくよかな響きを聴かせた第1曲、第2曲も良かったが、二人のベクトルが合わさり、二人以上のエネルギーを発散した第3曲が、アンサンブルとしてとりわけ見事だった。
後半1曲目のサン=サーンスのソナタは、シェレンベルガーの柔らかく郷愁を誘うオーボエと、夕日に映された長い影を思わせる小菅のピアノが溶け合った、夕景の雰囲気が漂う第2楽章や、勢い弾ける活き活きとしたやり取りが繰り広げられた第3楽章がとりわけ印象深い。
再び小菅がソロで、リストの作品。この作品では、神様の有り難い恩寵、というより、おっかさんの抱擁のような、愛情ある肌の温もりが直に伝わってくるとてもプライベートな演奏。小菅はベートーヴェンの初期のソナタではカッチリした枠の中で、硬質な輝きを持ってしなやかな演奏を聴かせるし、モーツァルトを弾かせれば、極上の典雅な響きを聴かせてくれる。シューマンもそうだが、作品の時代様式と作曲家の持ち味を見事に体現する術を心得ている。
プログラム最後のプーランク、ここでも小菅とシェレンベルガーの鮮やかなバトルが弾ける。シェレンベルガーのオーボエは全盛期の切れ味そのまま、というわけにはいかないが、深い人間味が伝わってきた。そんな味わいをしんみりと残して曲を閉じた。
アンコールでは、本プログラムの余韻を大切に温めるような曲が選ばれ、詩情豊かなシューマンの歌の世界へと誘ってくれた。いいコンサートだった。