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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

庄司紗矢香&ジャンルカ・カシオーリ デュオ・リサイタル

2012年10月30日 | pocknのコンサート感想録2012
10月30日(火)庄司紗矢香(Vn)/ジャンルカ・カシオーリ(Pf)
サントリーホール
【曲目】
1.ヤナーチェク/ヴァイオリン・ソナタ
2.ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第10番ト長調 Op.96
3.ドビュッシー/ヴァイオリン・ソナタ ト短調
4.シューベルト/幻想曲 ハ長調 D934
【アンコール】
1.バッハ/音楽の捧げもの~第4曲
2.ストラヴィンスキー/ペトルーシュカ~ロシアの踊り

「スゴイ」という言葉しか見つからないようなリサイタルだった。庄司紗矢香とカシオーリならではと思える聴衆に媚びることのない、アンコールも含めて全てが真剣勝負の曲目。配られたパンフのプログラムノートの言葉を借りれば、ヤナーチェクは「東洋的」、ベートーヴェンは「瞑想的」、ドビュッシーは「フランス的」、シューベルトの幻想曲は「スラブ的なテイスト」といったキャラクターを具えた曲ということになるらしい。

こうした表現は音楽の特徴を掴む上で有効なことも多いし、実際そんな雰囲気を醸し出す演奏もあるが、庄司とカシオーリの演奏にこうした形容は不要。この二人は演奏に際して、例えば「ここはスラブ風にいこう」なんていう実体のない言葉を使うことは絶対にないだろう。彼らの演奏は、そうした言葉で置き換えるよりも、ひたすら「音楽そのもの」を表現している。僕も普段のコンサートの感想では様々な例えや形容詞を使って、感じたことを言葉にしようとするが、今夜の演奏はどんな言葉を選んでも的はずれになってしまう気がした。

選曲で客に媚びないのと同じく 、演奏でもパフォーマンス的な要素を極力排し、ごく小さな音の動きや音色、呼吸の変化で訴えてくる。 これが計り知れない力で聴き手に届いてくるのがスゴイ。二人は、それぞれの曲が身に纏っている装飾や香りや色彩などを全て剥がし、丸裸の状態になって初めて見えてくる真の美しさや、赤裸々な姿を引き出しているように思える。二人のアンサンブルには一瞬の隙もなく、全ての音が研ぎ澄まされ、それぞれの音楽の究極の姿を伝えてくる。どの曲でも、その曲のスピリットが呼び出され、結晶していくよう。

庄司のヴァイオリンは暗闇を真っ直ぐに貫く一条の光のよう。静謐な輝きを持って対象を的確に明るく照らし出す。その光は針の穴を通すような無比のコントロールで作品の細部にまで届き、そこに隠されていた真髄を明らかにする。これをいとも軽々と、自然な呼吸のなかでやってしまうのは驚異的。カシオーリのピアノも細部を明晰に透視したような透明感で各声部を明瞭に弾き分け、磨かれた美しい音色でくっきりと音像を浮かび上がらせる。ヴァイオリンのエスコートをするというより完全なコラボレーションを演じ、高次元の対話が実現する。

「高次元」という言葉こそ、このデュオにはふさわしいように思う。人々が普段感じる様々な感情、映画やドラマを観て受ける感動などの領域を越えた世界の、まさに高次元の非日常の感動を味わう稀有の体験で、身震いするほどの感動を味わった。とにかくスゴイ!

庄司紗矢香&ジャンルカ・カシオーリ デュオ・リサイタル (2010.11.8 サントリーホール)

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