2023年9月、ウィーンとベルリンを中心に巡った音楽と負の歴史に触れる旅のレポート
HAUS DES MEERES WIEN 海の館
2023年 9月11日(月)
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ウィーン市内でずっと気になっていた場所があり、今回の旅行で訪れることが出来ました。それは"Haus des Meeres(海の館)"という施設で、海の生態を中心に展示する水族館です。ウィーンに来てどうして水族館?と思うかも知れませんが、ここの建物が何ともユニークなんです。それは第2次世界大戦中、対空防衛と敵機撃墜のためにヒトラーの命令で建設された高射砲塔(Flakturm)が水族館としてリニューアルされ、利用されているんです。場所はユーゲントシュティール時代の名作が揃うレオポルド美術館や、やはりユーゲントシュティール様式の装飾が美しいアパート「マジョルカハウス」などから近いリングの少し外側のエステルハージ公園内にあります。
水族館を囲む塀には海の生き物の絵が描かれていて親しみやすい雰囲気。高射砲台の面影は感じられませんが・・・
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建物の側面へ回ると、無機質なコンクリートの打ちっぱなしの巨大な壁が現れました。上部にある妙な突起も何だか不気味です。コンクリートの部分が戦争当時のままのもので、そこにガラス張りのスペースが加わり、何とも不思議な雰囲気の建造物です。コンクリートの壁にはボルダリング用のホールドが埋め込まれています。
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館内にある展示パネルに、建設当時の様子を伝える高射砲塔の写真がありました。物々しい要塞状の建築が、リニューアルされて親しみやすい姿に変身したことがわかりますね。
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連合軍によるウィーン市内への空襲が激しさを増してきた1942年から1945年の間に、ウィーンの中心部(シュテファン大聖堂)を三角形状に取り囲むように市内の3カ所に、それぞれ2基ずつのペアで6基の高射砲塔が建造されました。エステルハージ公園内のこの塔は、1943年から1944年にかけて建設されたものです。
建設工事では、何千もの外国人労働者、強制労働者、強制収容所に収容されているユダヤ人らが動員され、ナチス独裁政権の非人道的な作業部隊に組み込まれて命を落とした人も相当数いました。そんな負の過去を持つ建物ですが、戦争が終わって撤去するには、近隣住宅地への被害が及ぶことなどが予想されたためにリニューアルされることになりました。アパート、学生寮、オフィスビル、ホテルなど、様々な案のなかから水族館プランが採用されました。
ヒトラーは戦後を見据え、高射砲塔としての役目を終えたあとは黒大理石で建物を覆い、「第三帝国」の象徴となるような不屈の戦勝記念塔とする構想を持っていたそうです。
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エントランスを入りチケットを買って、まずはエレベータで一気に最上階の12階(Ebene 11)へ。ここにはオープンテラスのあるレストランがあって、地上47メートルの高さのテラスからはウィーンの街を一望できます。
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遠くにはフンデルトヴァッサーが設計したごみ焼却場が異彩を放っています
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レオポルト美術館方面に目を遣ると巨大なコンクリートの物体が・・・
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これも高射砲塔では??
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テラス席にいたウエイターさんに「あそこに見えるのも高射砲塔ですか?」と尋ねると「そうですよ」。市内の3カ所に2基ずつ建造された高射砲塔、今いるエステルハージ公園内の塔とペアで作られた相方が、あの高射砲塔なのです。
後で調べたところによれば、2基ずつペアで設置されている高射砲塔はそれぞれ役目があり、ひとつは"Gefechtsturm"と呼ばれる戦闘用の高射砲塔、もう一つは"Leitturm"と呼ばれる指揮・司令用の高射砲塔。あちらに見えるのが戦闘用で、こちらはレーダーや距離測定装置を備えた司令用の塔です。
それにしても、戦闘用の高射砲塔が建つあの辺りは王宮やウィーン美術史博物館や、ミュージアムクォーターなどのすぐ近くで度々歩いているのに、あんな異様な建造物に今まで気づかなかったとは。ここはオーストリアの軍事施設として現在も使用されている極秘施設とのこと。秘密基地っぽさ漂っていますね。
屋上から眺めを楽しんだ後は、1フロアーずつ下りながら館内を巡りました。屋上テラス階の1つ下の11階(Ebene 10)に、水族館とは全く雰囲気の異なる遺構のようなスペースがありました。戦時中の指令室を使った常設の高射砲塔博物館「内側の記憶」(Flakturmmuseum "Erinnern im Innern")です。ここには、もう1フロア下から当時のままの階段が通じていて、壁には写真パネルが展示されていました。
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戦後に撮影された高射砲塔の屋上に残るパラボラレーダー
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「勝利」後の姿をイメージしたドイツの高射砲塔の図と、エステルハージ公園内高射砲塔の設計図
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敵機の位置と進行方向を素早く計測できる距離測定装置の説明図
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当時の指令室の様子が保存されている展示室には、戦時中に使われていた様々なオリジナルの物品を見ることができます。写真の中央上部に見える黒い傘のようなものは、元はこの塔の屋上に設置されていた空襲警報を伝えるサイレンです。
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高射砲塔内には240名が常駐し、そのうち40名は女性でした。
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当時の指令室内の様子が伝わる展示品の数々
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第一次世界大戦では毒ガスを使った化学兵器が使われ、目や呼吸器官などに重大なダメージを与えました。市民を化学兵器から護るために、ガスマスクが開発されました。
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乳児用に開発されたガスマスクならぬ「ガスベッド」。木製の枠にリネンのカバーで覆われ、換気も出来る仕組みが施されています。手袋を差し入れて赤ちゃんの世話ができるようになっています。激化して行く戦闘に市民が巻き込まれていった状況を伝える展示品とも云えるでしょう。
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高射砲塔は、市民のための防空壕としての役目も持っていました。この塔の2階から4階には、3000人分の市民の避難場所が設けられていました。
ナチス時代の遺物である高射砲塔がどんな形で水族館に生まれ変わったかが見たくてここを訪れましたが、このように当時の様子が保存された広い展示スペースがあり、戦時下の状況を肌で感じることが出来たのは予想外の収穫でした。
ウィーン市内に建造された6基の高射砲塔は、破壊されることなく今でも全て残っていますが、改装して一般公開されているのは水族館になったここだけとのこと。負の歴史の生き証人としての役目を続けてもらいたいですね。決してこれがまた軍事目的で利用されることがないように!
ここの現在のメインの役目は水族館として来館者を楽しませてくれることです。僕も、最上階の屋上から1フロアずつ下りながら、海や水辺の生き物の生態を見学しました。
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「水族館」に巨大なコモドドラゴンが這いまわっていたり
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カメレオンが獲物を狙っていたり
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巨大水槽を所狭しと泳ぎ回るジンベエザメにコバンザメが張り付き・・・
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様々な水深に棲むお魚が泳ぎまわっていたりします。
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水槽にいるのは魚だけではありません・・・
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ハナウミシダ
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7階(Ebene 6)には「私たちと海」と題された展示会場があります。ここでは海洋廃棄物、特にプラスチック廃棄物が海に与える影響がわかります。ゴミが投棄された海をイメージした会場で、パネルやビデオ、ゲームなどを通して、大人と子供が一緒に、私たちにとって大切な海をどう守るかを考え、学ぶことができます。
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「海の館」を「水族館」と紹介しましたが、コモドドラゴンやカメレオンだけでなく、世界中の動物が集められ、動物園としてもかなりのスケールの施設と云えます。3階から5階までを使って「熱帯エリア」が設けられ、温室状の大きな空間のなかに付けられた通路を巡り、そこに放されている熱帯地方の100種類以上の動物や鳥たちと、檻やガラスケース越しではなく直接触れ合うことが出来ます。
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ツキノワテリムク
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ワタボウシパンシェ
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ゲルディモンキー
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シロガオサキ
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ソライロアルキバト
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セグロコサイチョウ
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アオノドナキシャクケイ
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マダガスカル、オーストラリア、ニューギニア、地中海など、エリアごとに展示が分けられ、それぞれの地域や気候ごとに生息する生き物の様子が観察できます。
2階(Ebene 1)には大小色んなヘビがいる展示スペースもありました。
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こいつはちょっと不気味。。
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12フロア全てを周って、高射砲塔博物館はじっくりと、水族館の方は少し足早だけれど一通り見学して、全部でかかった所要時間は約1時間半でした。ウィーンの街の真ん中の行き易い場所にある水族館は、高射砲塔博物館があることで、水族館目的で来た子供たちや観光客も、戦争でこの町に何が起こっていたのかを学ぶことができる貴重な史跡としての機能も備えています。ウィーンの歴史探訪スポットとしても、多くの人達に訪れてもらいたいと思いました。
音楽の旅 2023 レポート
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