facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ダン・タイソン(Pf) ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全曲演奏会1

2012年11月08日 | pocknのコンサート感想録2012
11月7日(水)Pf:ダン・タイソン/ クラウディオ・クルス指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
~ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全曲演奏会 第1回~
すみだトリフォニーホール

【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番ハ長調 Op.15
2.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op.19
3.ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37

先週に引き続きトリフォニーでのピアノコンチェルトの演奏会。今夜はダン・タイソンがソリストで曲目はベートーヴェン。先週、小菅優を聴いた1階ど真ん中の席は意外にも響きかデッドで席を移動してしまったが、今夜は3階1列目。最初のオーケストラの序奏から良い響きがした。

ダン・タイソンのピアノは爽やかで清々しい印象。澄んで伸びやかな音の美しさが何とも耳に心地よい。ただ、この第1番は何度聴いてもどうもピンと来ない。いつも第2楽章あたりで眠くなってしまうのだが、第1楽章の、オクターブ跳躍するモチーフが何度も単調に繰り返されるのは芸がないなぁ、なんて思っているうちに第1楽章から眠くなってしまった。元々トリフォニーではなぜか眠くなることが多いので、警戒してフリスクを多めに口に入れていたがダメだった。。

1番に比べると2番は共感度も高く、好きな曲なので、気合いを入れ直して演奏に集中した。タイソンのピアノはここでも端正で瑞々しく、音が美しい。表面的に美しいだけでなく中味も濃く、ミネラルなどの栄養を一杯含んだ美味しい山の清流の水のよう。けれど、好きなはずのこの曲があまり魅力的に感じないのはどうしてだろうか。自分は音楽に感動しなくなってしまったのだろうか、と心配になった。

休憩後の第3番も好きな曲だが、いつか図書館で借りた石井宏の本で、この曲をモーツァルトの同じハ短調のコンチェルトを引き合いに出してひどくこき下ろしていた。賛同したわけではないが、これを読んだあとでは曲を聴いた印象がネガティヴになるかとも思ったが、今夜改めてこの曲は素晴らしい!と実感することができた。モーツァルトのハ短調はもちろん名曲だが、ベートーヴェンがこれに影響を受けているにせよ、ベートーヴェンの曲はモーツァルトとは別物で、同じ目線で論じること自体意味がない。

前半の2曲ではダン・タイソンのピアノに感心はしたが、感動には至らなかった。自分の感性が鈍ってしまったのかとも思ったが、今度は素直に感動できた。ここでは、演奏から発せられる「気」と呼びたくなるようなもののパワーが明らかに違った。前半で聴かせてくれた、端正で流麗なピアニズムや透明な美音は十分に魅力的ではあるが、これだけなら少なからぬ他のピアニストでも聴ける。この3番では、もっと深い切り込み、熱いパッション、格調の高さなどが動員され、それが「気」となって迫ってきた。

ダン・タイソンは、音楽の美しいフォルムはいささかも崩すことなく、美しい音と明快なタッチで音楽を深く掘り下げて行き、聴く者の心の琴線を震わせる。厳しい緊張感に包まれ、熱気を帯びた第1楽章、内面から高貴さを漂わせた第2楽章、高みへと向かう明確な意思を感じた第3楽章、全曲を通して聴き手を唸らせ、納得させる力を備えていた。ダン・タイソンへのイメージから今夜の曲目がいいと思って選んだが、4番と5番では更に花開く可能性を感じた。

クルス指揮の新日フィルは、タイソンの洗練されたピアノと比べて少々バタ臭いというか、毛色が違うように感じるところがあったが、表情豊かで能動的な演奏を聴かせ、ピアノとよく対話していた。

こんな大物ピアニストが登場し、名曲が聴けるコンサートにしては客の入りの悪さが気になった。僕が座った3階席なんてガラガラ状態。演奏もとてもよかっただけに、もったいないなと思った。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 仲道郁代 ピアノリサイタル ... | トップ | ラドゥ・ルプー ピアノリサ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

pocknのコンサート感想録2012」カテゴリの最新記事