9月30日(金)宮田 大と仲間たち
~ウェールズ弦楽四重奏団と共に~
ヤマハホール
【曲目】
1.バッハ/無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調 BWV1009
2. シューベルト/弦楽五重奏曲 ハ長調 Op.163, D956
【アンコール】
♪ バッハ/コラール「イエスは我が喜び」
【演奏】
宮田 大(Vc)/ウェールズ弦楽四重奏団(Vn:崎谷直人、三原久遠/Vla:横溝 耕一/Vc:富岡廉太郎)
僕がずっと注目しているチェリストの宮田大と、ずっと気になっていながら聴いたことがなかったウェールズ弦楽四重奏団が、大好きなシューベルトのクインテットをやり、宮田のソロで大好きなバッハの無伴奏の3番も聴け、しかも会場が響きの良いヤマハホールという素敵なコンサート。これを知ったのはつい5日前だったが幸いチケットが取れた。そして本当に幸せな時間を過ごすことができた。
暗いステージの中央にスポットが当たり、宮田の演奏が始まった。2階の最後列の席まで朗々とした音が間近に迫ってきた。男性的で骨太なバッハだ。宮田は弓とチェロ本体のどちらも縦横無尽に使いきり、壮大なバラードのように雄弁に熱く語り、歌う。ダイナミックな表現だけでなく、ささやきや呟きといったデリケートな表現もリアルに生き生きと伝える。そうした多彩で幅広い表現が息づき、対話やダンスを聴かせ、ひとつの大きなイメージを造り上げて行った。
この難曲は腕利きの名手でも時おり音がかすれたり出なかったり、或いは音程が甘くなったりしてしまうことはままあるが、宮田はそうした技術的な困難も見事にクリアした極めて高い完成度で聴き手をバッハの壮大な世界へ引き込んで行った。ピリオドとは異なるアプローチのバッハは、今を生きる私たちの心をストレートに掴む熱いバッハだと感じた。これを聴いたら、宮田のチェロで全6作品を聴きたくなった。
後半はウェールズ弦楽四重奏団と宮田(第1チェロ)の共演でシューベルトの名作クインテット。ウェールズSQは2006年結成以来意欲的な活動を続けていてずっと聴いてみたいと思っていたが、今夜初めて聴くことになった。シューベルトの室内楽作品のなかでも僕にとって特に思い入れが強いこの曲には郷愁や切なさがあるが、ウェールズSQ+宮田はこの音楽からセンチメンタルな気分よりも、透明で普遍的な美しさを引き出し、音楽の核心に迫る演奏を聴かせた。情熱的な歌でその場を盛り上げるより、常に冷静さを保ち確信をもってそれぞれのパートを奏で、緻密なアンサンブルを築いて行く。
柔らかなハーモニーを奏でる内声を優しく繊細なタッチで装飾する外声パートを聴くと、これこそがシューベルトの詩情を醸し出す決め手であることに気づかされる。また、天上で奏でられるような優美な歌と、絶望の淵をさまようような感情の起伏も、生き生きとしたコントラストで鮮やかに表現され、作品の持つ劇的な要素が胸に迫ってきた。とりわけ最弱音で奏でるハーモニーの、空気が止まったような静謐さはハッと息を呑む美しさで、深淵な世界を見せてくれた。ブレのない、その場しのぎではない全体を常に見据えたアプローチから生み出されたのは、この音楽の真の「大きさ」と「深さ」だった。
アンコールのバッハの静かで深い祈りが、このシューベルトの大作の後奏のように演奏会全体を優しく穏やかに包み込んだ。
大野和士指揮 都響:ベートーヴェン/トリプルコンチェルト(Vc:宮田大) ~2020.9.16 サントリーホール~
ダニエル・スミス指揮 新日フィル:ドヴォルザーク/チェロ協奏曲(Vc:宮田大)~2015.2.11 東京芸術劇場~
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最新アップロード:第1行進曲「ジャンダルム」ほか
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1.バッハ/無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調 BWV1009
2. シューベルト/弦楽五重奏曲 ハ長調 Op.163, D956
【アンコール】
♪ バッハ/コラール「イエスは我が喜び」
【演奏】
宮田 大(Vc)/ウェールズ弦楽四重奏団(Vn:崎谷直人、三原久遠/Vla:横溝 耕一/Vc:富岡廉太郎)
僕がずっと注目しているチェリストの宮田大と、ずっと気になっていながら聴いたことがなかったウェールズ弦楽四重奏団が、大好きなシューベルトのクインテットをやり、宮田のソロで大好きなバッハの無伴奏の3番も聴け、しかも会場が響きの良いヤマハホールという素敵なコンサート。これを知ったのはつい5日前だったが幸いチケットが取れた。そして本当に幸せな時間を過ごすことができた。
暗いステージの中央にスポットが当たり、宮田の演奏が始まった。2階の最後列の席まで朗々とした音が間近に迫ってきた。男性的で骨太なバッハだ。宮田は弓とチェロ本体のどちらも縦横無尽に使いきり、壮大なバラードのように雄弁に熱く語り、歌う。ダイナミックな表現だけでなく、ささやきや呟きといったデリケートな表現もリアルに生き生きと伝える。そうした多彩で幅広い表現が息づき、対話やダンスを聴かせ、ひとつの大きなイメージを造り上げて行った。
この難曲は腕利きの名手でも時おり音がかすれたり出なかったり、或いは音程が甘くなったりしてしまうことはままあるが、宮田はそうした技術的な困難も見事にクリアした極めて高い完成度で聴き手をバッハの壮大な世界へ引き込んで行った。ピリオドとは異なるアプローチのバッハは、今を生きる私たちの心をストレートに掴む熱いバッハだと感じた。これを聴いたら、宮田のチェロで全6作品を聴きたくなった。
後半はウェールズ弦楽四重奏団と宮田(第1チェロ)の共演でシューベルトの名作クインテット。ウェールズSQは2006年結成以来意欲的な活動を続けていてずっと聴いてみたいと思っていたが、今夜初めて聴くことになった。シューベルトの室内楽作品のなかでも僕にとって特に思い入れが強いこの曲には郷愁や切なさがあるが、ウェールズSQ+宮田はこの音楽からセンチメンタルな気分よりも、透明で普遍的な美しさを引き出し、音楽の核心に迫る演奏を聴かせた。情熱的な歌でその場を盛り上げるより、常に冷静さを保ち確信をもってそれぞれのパートを奏で、緻密なアンサンブルを築いて行く。
柔らかなハーモニーを奏でる内声を優しく繊細なタッチで装飾する外声パートを聴くと、これこそがシューベルトの詩情を醸し出す決め手であることに気づかされる。また、天上で奏でられるような優美な歌と、絶望の淵をさまようような感情の起伏も、生き生きとしたコントラストで鮮やかに表現され、作品の持つ劇的な要素が胸に迫ってきた。とりわけ最弱音で奏でるハーモニーの、空気が止まったような静謐さはハッと息を呑む美しさで、深淵な世界を見せてくれた。ブレのない、その場しのぎではない全体を常に見据えたアプローチから生み出されたのは、この音楽の真の「大きさ」と「深さ」だった。
アンコールのバッハの静かで深い祈りが、このシューベルトの大作の後奏のように演奏会全体を優しく穏やかに包み込んだ。
大野和士指揮 都響:ベートーヴェン/トリプルコンチェルト(Vc:宮田大) ~2020.9.16 サントリーホール~
ダニエル・スミス指揮 新日フィル:ドヴォルザーク/チェロ協奏曲(Vc:宮田大)~2015.2.11 東京芸術劇場~
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