10月22日(日)グラナドス「ゴイェスカス」~描かれたマハとマホ
~藝大プロジェクト2017「ビバ!エスパーニャ~グラナドスのスペイン」第3回~
東京藝術大学奏楽堂
【第1部 レクチャー】画家・ゴヤと《ゴイェスカス》
【講師】
Part1 雪山 行二(スペイン美術史・富山県美術館館長)
Part2 井澤 友香理(音楽学・本学博士後期課程)
♪グラナドス/組曲「ゴイェスカス」~第4曲「嘆き、またはマハと夜ウグイス」Pf:増田達斗
【第2部 コンサート】
♪グラナドス/歌劇「ゴイェスカス」(演奏会形式)
【配役】
ロサリオ:中須美喜(S)/フェルナンド:大平倍大(T)/パキーロ:藪内俊弥(Bar)/ペパ:小泉詠子(MS)
【管弦楽&合唱】
矢崎彦太郎 指揮 東京藝大学生・卒業生有志コーラス&オーケストラ
【演出】佐藤美晴
今年はグラナドス生誕150年のアニバーサリーだ。うちの図書館でやっている視聴覚コーナーでのアニバーサリー特集でグラナドスを紹介しようと思ったら、意外なほど所蔵が少ない。では少し新規で購入しようかと調べたが、市販されているCD自体が少ない。自分自身、グラナドスの作品で具体的なものが浮かばない。となると、今年はこの作曲家を知る良いチャンスと演奏会をチェックしていて、このオペラの公演に行き着いた。但し、公演チラシには「《ゴイェスカス》~描かれたマハとマホ」と書かれているだけで、ピアノ組曲をやるのかと思っていたら、直前になってオペラだと知った。
藝大が毎年シリーズで行っている「藝大プロジェクト」は、美術と音楽両面からひとつのテーマに迫る催しで、今回のテーマは画家のゴヤ。これに、ゴヤに心酔したグラナドスを抱き合わせた企画で、2つの講演とオペラ上演が行われた。
「ゴイェスカス」とは、「ゴヤ風」という意味で、ゴヤの作品に描かれた数々の粋な女と伊達男(マハとマホ)を題材にグラナドスが作曲したピアノ組曲を元に作られたのがこのオペラである。ゴヤの研究家でもある雪山氏による講演では、ゴヤと同時代の画家とを比較しつつ、ゴヤの作品の特異性や強いメッセージ性を、スライドを見ながら解き明かすもので、この画家についてほとんど知らなかった僕にとって、とても興味を引かれる内容だった。
続く藝大博士課程でグラナドスを研究する井澤さんの講演は、グラナドスのゴヤ作品との出会い、オペラの制作過程、オペラ上演とその評判など、「ゴイェスカス」についてユーモアも交えた話で興味深く聴いたが、持ち時間が短く、グラナドスがゴヤ作品をどんな音楽語法や特徴で描いたかということをもう少し知りたかった。
♪ ♪ ♪
増田さんの演奏で、ピアノ組曲の一番有名な曲が第1部から第2部へ繋ぎ、お待ちかねのオペラ上演は日本初演になるとのこと。演奏会形式ながら、ソリストは舞台衣裳を身に付け、振りを交えて歌い、ステージ後方では場面に合ったゴヤの絵を投影する演出で臨場感が増した。
約1時間のオペラは、音楽的にはピアノ組曲から選んだ曲をベースにオーケストレーションし、ソロと合唱を加えて1幕ものの作品に構成されたもの。民族色溢れる魅力的なメロディーの宝庫でもあるピアノ組曲から、更に選りすぐってオペラに仕立てただけあって、名旋律に溢れ、しかも継ぎ接ぎの感じは認められず、一つの作品として仕上がっているところは、グラナドスの作曲家としての手腕が発揮されたに違いない。
そして演奏がまた素晴らしかった。矢崎氏の指揮による学生中心で構成されたオーケストラの演奏は、瑞々しく、歌に溢れ、色彩や香りも伝わってきた。おいしいものを一番おいしく食べさせてもらったような気分。合唱も大変瑞々しく、輝かしく色彩感溢れる響きが耳を引き、オケと共にスペインの明るい陽光に溢れた空気を感じた。
4人のソリスト達も上々の出来だった。小泉さんのペパは濃厚な色香を醸し出しながら、プライドや自信も感じられる名唱。ロサリオを歌った中須さんも美しい声と存在感で、幕切れの場面では迫真の歌を聴かせた。闘牛士パキーロ役の藪内さんは張りのある声で堂々とした貫禄を聴かせた。フェルナンド役の大内さんの艶のある芯の通った声の歌からは、育ちの良さと志の高さを感じた。
美味しい音楽をここまで楽しませてくれ、グラナドスの音楽の魅力を知ることができる上演だったが、こんな親しみやすく上演時間も短い手頃なオペラが、これまで日本で上演されなかった理由もわかってしまった感じ。井澤さんの講演で、このオペラの初演は、台本の稚拙さのせいであまり高い評価を得なかったということだが、状況設定や登場人物の心境、その変化などがわからないまま、事実だけが提示されて行ってしまう殆ど筋書がない脚本で、音楽と演奏がどんなに素晴らしくても、なかなかそこに感情移入できなかった。
しかし、この責を脚本家のペリケ一人に負わせるべきではない。井澤さんの講演では、脚本制作、作曲から上演に至るまで、十分な時間がなかったという話もあった。オペラで 名高い功績を残した作曲家達が、自ら脚本も手がけたケースを除けば、優れた台本作家を選び、その作家と継続的に緻密なやり取りを通してオペラを仕上げて行ったことを思えば、ゴヤの絵にこれほど惹かれ、それを自らの作曲活動の重要な要素として位置づけたグラナドスであれば、オペラという作曲活動の集大成にもなる仕事に於いては、全ての段階でもっと周到に準備を進めるべきではなかったか。これも作曲家としての一つの手腕なのかも知れないと思った。
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~ (MS:小泉詠子)
拡散希望記事!やめよう!エスカレーターの片側空け
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【第1部 レクチャー】画家・ゴヤと《ゴイェスカス》
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♪グラナドス/組曲「ゴイェスカス」~第4曲「嘆き、またはマハと夜ウグイス」Pf:増田達斗
【第2部 コンサート】
♪グラナドス/歌劇「ゴイェスカス」(演奏会形式)
【配役】
ロサリオ:中須美喜(S)/フェルナンド:大平倍大(T)/パキーロ:藪内俊弥(Bar)/ペパ:小泉詠子(MS)
【管弦楽&合唱】
矢崎彦太郎 指揮 東京藝大学生・卒業生有志コーラス&オーケストラ
【演出】佐藤美晴
今年はグラナドス生誕150年のアニバーサリーだ。うちの図書館でやっている視聴覚コーナーでのアニバーサリー特集でグラナドスを紹介しようと思ったら、意外なほど所蔵が少ない。では少し新規で購入しようかと調べたが、市販されているCD自体が少ない。自分自身、グラナドスの作品で具体的なものが浮かばない。となると、今年はこの作曲家を知る良いチャンスと演奏会をチェックしていて、このオペラの公演に行き着いた。但し、公演チラシには「《ゴイェスカス》~描かれたマハとマホ」と書かれているだけで、ピアノ組曲をやるのかと思っていたら、直前になってオペラだと知った。
藝大が毎年シリーズで行っている「藝大プロジェクト」は、美術と音楽両面からひとつのテーマに迫る催しで、今回のテーマは画家のゴヤ。これに、ゴヤに心酔したグラナドスを抱き合わせた企画で、2つの講演とオペラ上演が行われた。
「ゴイェスカス」とは、「ゴヤ風」という意味で、ゴヤの作品に描かれた数々の粋な女と伊達男(マハとマホ)を題材にグラナドスが作曲したピアノ組曲を元に作られたのがこのオペラである。ゴヤの研究家でもある雪山氏による講演では、ゴヤと同時代の画家とを比較しつつ、ゴヤの作品の特異性や強いメッセージ性を、スライドを見ながら解き明かすもので、この画家についてほとんど知らなかった僕にとって、とても興味を引かれる内容だった。
続く藝大博士課程でグラナドスを研究する井澤さんの講演は、グラナドスのゴヤ作品との出会い、オペラの制作過程、オペラ上演とその評判など、「ゴイェスカス」についてユーモアも交えた話で興味深く聴いたが、持ち時間が短く、グラナドスがゴヤ作品をどんな音楽語法や特徴で描いたかということをもう少し知りたかった。
増田さんの演奏で、ピアノ組曲の一番有名な曲が第1部から第2部へ繋ぎ、お待ちかねのオペラ上演は日本初演になるとのこと。演奏会形式ながら、ソリストは舞台衣裳を身に付け、振りを交えて歌い、ステージ後方では場面に合ったゴヤの絵を投影する演出で臨場感が増した。
約1時間のオペラは、音楽的にはピアノ組曲から選んだ曲をベースにオーケストレーションし、ソロと合唱を加えて1幕ものの作品に構成されたもの。民族色溢れる魅力的なメロディーの宝庫でもあるピアノ組曲から、更に選りすぐってオペラに仕立てただけあって、名旋律に溢れ、しかも継ぎ接ぎの感じは認められず、一つの作品として仕上がっているところは、グラナドスの作曲家としての手腕が発揮されたに違いない。
そして演奏がまた素晴らしかった。矢崎氏の指揮による学生中心で構成されたオーケストラの演奏は、瑞々しく、歌に溢れ、色彩や香りも伝わってきた。おいしいものを一番おいしく食べさせてもらったような気分。合唱も大変瑞々しく、輝かしく色彩感溢れる響きが耳を引き、オケと共にスペインの明るい陽光に溢れた空気を感じた。
4人のソリスト達も上々の出来だった。小泉さんのペパは濃厚な色香を醸し出しながら、プライドや自信も感じられる名唱。ロサリオを歌った中須さんも美しい声と存在感で、幕切れの場面では迫真の歌を聴かせた。闘牛士パキーロ役の藪内さんは張りのある声で堂々とした貫禄を聴かせた。フェルナンド役の大内さんの艶のある芯の通った声の歌からは、育ちの良さと志の高さを感じた。
美味しい音楽をここまで楽しませてくれ、グラナドスの音楽の魅力を知ることができる上演だったが、こんな親しみやすく上演時間も短い手頃なオペラが、これまで日本で上演されなかった理由もわかってしまった感じ。井澤さんの講演で、このオペラの初演は、台本の稚拙さのせいであまり高い評価を得なかったということだが、状況設定や登場人物の心境、その変化などがわからないまま、事実だけが提示されて行ってしまう殆ど筋書がない脚本で、音楽と演奏がどんなに素晴らしくても、なかなかそこに感情移入できなかった。
しかし、この責を脚本家のペリケ一人に負わせるべきではない。井澤さんの講演では、脚本制作、作曲から上演に至るまで、十分な時間がなかったという話もあった。オペラで 名高い功績を残した作曲家達が、自ら脚本も手がけたケースを除けば、優れた台本作家を選び、その作家と継続的に緻密なやり取りを通してオペラを仕上げて行ったことを思えば、ゴヤの絵にこれほど惹かれ、それを自らの作曲活動の重要な要素として位置づけたグラナドスであれば、オペラという作曲活動の集大成にもなる仕事に於いては、全ての段階でもっと周到に準備を進めるべきではなかったか。これも作曲家としての一つの手腕なのかも知れないと思った。
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