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F.P.ツィンマーマン/バッハのヴァイオリンソナタ全曲リサイタル

2013年10月07日 | pocknのコンサート感想録2013
10月7日(月)フランク・ペーター・ツィンマーマン(Vn)/エンリコ・パーチェ(Pf)
東京文化会館


【曲目】
バッハ/ヴァイオリン・ソナタ(全6曲)
1. ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第1番 ロ短調 BWV1014
2. ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第2番 イ長調 BWV1015
3. ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第3番 ホ長調 BWV1016
4. ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第4番 ハ短調 BWV1017
5. ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第5番 ヘ短調 BWV1018
6. ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第6番 ト長調 BWV1019
【アンコール】
バッハ/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 第6番 ト長調 BWV1019a(BWV1019の異稿)~第4楽章


バッハの伴奏付きのバイオリンソナタというと無伴奏と比べて馴染みは薄いが、フランク・ペーター・ツィンマーマンの演奏と聞けば、あの素晴らしいCDやDVDがすぐに思い浮かぶ。その録音と同じソナタ全曲を、同じパーチェのピアノとの共演で聴けるとなれば期待は高まる。

ソナタ全曲をツィンマーマンとパーチェの演奏で聴いてまず感じたことは、これら6曲のバイオリンとピアノのためのソナタが、何と豊かで奥深く、多彩な音楽世界を持っているかということ。この作品は無伴奏のバイオリンソナタやパルティータに勝るとも劣らないバッハの代表作だということを感じさせてくれた。

二人の演奏からは、バッハの音楽の魅力が網羅的に伝わってきた。親密なトリオソナタの世界、華やかな管弦楽曲の世界、鮮やかな技巧が飛び交うコンチェルトの世界、そして心に沁みる「歌」をオブリガートと共に聴かせるカンタータのアリアの世界。

たった二人の演奏から、これほど多彩で多様な音楽が聴こえてくるのは、二人の演奏が様々な演奏効果を駆使し、濃厚な感情表現や広いダイナミックレンジをフル活用したパフォーマンスたっぷりの演奏だったから、というわけではもちろんない。一見すると二人の演奏はむしろストイックな印象も与える。姿勢を崩すことなく弾くツィンマーマンのバイオリンは、自然な呼吸に逆らうことなく音を均等に刻み、淡々と弾いているように見えるが、実は音楽の密度の濃淡やテンションの配分などが、一分の隙もなく緻密に計算されて描かれ、しかもそれは実に自然に活きた音楽として行われていて、聴き手は知らず知らずのうちにバッハの深淵の世界へと引き込まれる。

パーチェのピアノも、一見すれば整然とした完成品の佇まいを呈しているが、実はライブ感に溢れたすごい芸当が行われている。通奏低音に当たる左手は、控え目ながら濃淡や緩急をつけて影のように常に右手やバイオリンに寄り添い、右手からは弦楽合奏のユニゾンが聴こえたり、複数の管楽器のアンサンブルが聴こえたりする。一人でやっているとは思えない豊かで奥行きのあるアンサンブルだ。

こうした研ぎ澄まされた匠の技が合わさり、二人はバッハの宇宙を表現していった。対位法を駆使した速いテンポの楽章での闊達な息遣いで繰り広げられるアンサンブルの妙は、自然と心を踊らせ、曲が進むほどにエキサイトしてくるし、ゆっくりした楽章では、宗教的ともいえる深淵で敬虔な空気が静かに迫ってくる。これほど心を深く大きく震わせて感動に導く演奏を、ツィンマーマンとパーチェはバッハの音楽の様式美を崩さないどころか、様式美を際立たせるアプローチでやってしまうのは奇跡的とも言える。

アンコールのゆったりとした音楽が半終止で終わったあとも、この後も曲が続くような期待を持たせる長い沈黙があった。本当にいつまでも聴いていたいと思った。

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