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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

東京芸術大学芸術祭  2007年9月7日(金)/9日(日)

2007年09月09日 | pocknのコンサート感想録2007
台風直撃の影響で今年の芸祭は初日の模擬店や神輿パレード、午前の演奏等が中止になってしまいましたが、午後に行われた3年オペラは例年通り満員の盛況でした。7日と9日に芸大を訪れ、3年オペラを皮切りに色々と演奏を聴きました。以下はpocknが聴いた演奏会の感想です。


藝術祭3年オペラ「ドン・ジョヴァンニ」 ~新奏楽堂~
3年オペラ(もうE年オペラとは言わないらしい…)の公演は去年の「コジ」に続くモーツァルト。

道端大輝君の指揮で始まった「ドンジョバンニ」序曲は騎士長の亡霊のモチーフが聴き慣れた演奏の倍(半分と言う?)ぐらいの速さで駆け抜けて行くピリオド流の速さだが、弦が乗りきれていない感じ。全体のテンポは「小気味良い」程度の速さを基調に、歌うところはたっぷり歌わせ、音楽が自然に流れて行く。弦の瑞々しさ、表現の細やかさと比べると木管は少々粗いかな…ホルンは朝顔がこっちを向いているかのようなストレートな音が時々聴こえて来たりもしたが、限られた時間の中でここまでに仕上がった努力には拍手。

そんなオケに伴われて歌った歌手達はマゼットと騎士長以外は1幕と2幕で交代のダブルキャストだった。一大学の3年生だけでこれだけ粒揃いの歌手が集まってしまうのはさすが芸大。
中でもとりわけ素晴らしかったのは1幕でドン・ジョバンニを歌った上原理生君。芯のある堂々とした声とくっきりとした表現で貫禄あるドン・ジョヴァンニを歌い、演じた。ツェルリーナをナンパするデュエットでの男の色気は、沢村一樹扮する「セクスィー部長」張りの濃厚さ。20歳そこそこの学生がこんなに男の色気を出してしまっていいんだろうか… プロの舞台でもかなりの存在感を発揮しそう。

そんなドン・ジョバンニと対峙するドンナ・アンナを1幕で歌った平尾悠さんにも注目!容姿も歌もいい。父親殺しの犯人がドン・ジョヴァンニとわかった時の緊迫感やアリア「今こそお分かりでしょう」での気高き気丈さの表現など、どれも見事だった。
やはり1幕でのツェルリーナ、根之木里理さんの瑞々しいきゃぴきゃぴしたかわいらしさもいい。1幕のドン・オッタービオ、鹿野浩史君のつややかで柔かな美声はこれからが楽しみ。2幕でツェルリーナを歌った谷垣千沙さんの端正でふくよかな魅力は、パミーナとかスザンナを歌うと更に映えるかも。2幕のドン・ジョヴァンニ、井口達君も甘やかな歌い口や濃厚な表現が役に合っていて良かった。騎士長の菅谷公博君の太く逞しい声と表現も耳を引き付けた。

このオペラ特有の全体を貫く緊迫感がしっかり伝わり、クライマックスへ向かって行く迫力はこうした演奏に加え、照明効果なども含めた演出(柳澤佐和子さん)の功績もあろう。墓場の場面で登場したリアルな石像が、晩餐の場面に登場する時は象徴的な画像の投影で現れたのは、石像から抜け出した「霊」を表したかったのだろうか。それにしてはあの幾何学的な犬?のような画像は地獄落ちの時の動きのある映像に比べても意味がちょっと不明…

最終場への鮮やかな転換は舞台的にも音楽的にも良く、全体として大変楽しめる芸祭3年オペラ公演だった。


沖フィル ~第6ホール~
2年生中心の50名程度の小ぶりなオーケストラによってドビュッシーの「牧神」チャイコフスキーの「ロミオとジュリエッタ」が演奏された。指揮者は女子学生。

各パートがクリアに浮かび上がり全体としてもくっきりとした音の印象を持った。チャイコではもう一歩踏み込んだ明確な意思表示が伝わるとさらに印象は鮮やかになる気がした。


La fête galante ~華やかな宴~
 ~第1ホール~
「華やかな宴」と題して古楽器科の学生らにより、クープラン、ランベール、ラモー、ボワモルティエ、モンテクレール、ルベルといったベルサイユ王朝時代の優雅な音楽の数々が披露された。後半にはカンタータも配された2部構成で、曲の合間には解説が入り、1つの演奏会としてのまとまりもいい。普段余り耳にする機会の少ない素敵な音楽をいくつも聴けて幸せな気分を味わった。

つくづく思うのは、バッハの時代、テレマン、ヘンデルなどのドイツ系作曲家(ヘンデルは実はイギリスだが…)やヴィヴァルディやコレルリなどのイタリア系作曲家ばかりが注目されているが、それとほぼ同時代にこんな豊かで素晴らしい音楽の世界が他にもあるということを再認識した。

どの曲も良かったが、とりわけモンテクレールのソロ・カンタータ「ディドンの死」はその深みのある表現が胸に迫ってきて感動。ソロを歌った森有美子さんの滑らかで美しい声による表情豊かで木目の細やかな歌唱は素晴らしく、この悲劇の物語の語り部の叙事性とディドンの叙情性を見事に描き出していた。

その他感心したのは、既にあちこちで活躍しているというガンバ奏者の坂本龍右さんが見事なリュート(テオルボ)を弾いたり、声楽をやっているという司会・解説担当の学生がガンバで定旋律を弾いたりと、複数の楽器をこなすこと。かつては演奏家というのは複数の楽器をこなすのが常だったらしいが、それを勉強する今の学生も同様にこうして複数の楽器を聴かせることができるのはさすがだ。

古楽の演奏ではもうおなじみの鷲見明香さんのヴァイオリンをはじめ、1年生ながら端正で安定したヴァイオリンを聴かせてくれた廣海史帆さん、典雅な装飾音やアルペッジョで魅了したクラヴサンの石井庸子さん、リコーダーがこんな雄弁な楽器であることを聴かせてくれた青木明日香さん野崎剛右さんなどなど、アンサンブルとしてのレベルも素晴らしく、今度はどこかの宮殿の間で聴いてみたくなった。


バッハカンタータクラブ藝術祭演奏会 ~第6ホール~
芸祭で毎回一番楽しみにしているバッハカンタータクラブの演奏会、もうおなじみの渡辺祐介君の指揮の下、133番と70番のカンタータが採り上げられた。このアンサンブルは学生のサークルなので毎年入れ替わりがあるにもかかわらず長年の伝統が培ったものなのか、オーケストラも合唱も、温かく、端正で軟らかな光を放つ固有の響きを持っている。バッハを演奏することの喜びが、その表情からも演奏からも伝わってくる。そんな演奏に毎回癒される。

今回ソロで特に良かったのは、70番でソプラノを歌った小村朋代さん。艶やかな声で濃厚で凝縮された歌を聴かせてくれた。やはり70番の第8曲のアリアを歌ったテノールの竹吉史雄君の滑らかな美声も忘れ難い。また、作曲科でありながらレチタティーヴォを担当したテノールの金沢青児君もお見事。

今回の合唱のメンバーの大半は声楽科以外の学生(美校生も複数参加)から成っていたが、いつもと変わらぬ素敵なハーモニーを響かせてくれた。バッハとこのクラブの魅力が広く多くのメンバーを呼び集め、カンタータクラブが益々発展していることを嬉しく思う。


ピアノコンチェルトを室内楽で演奏するコンサート ~第1ホール~
ビアノの歴史をアンサンブルの中に位置づけて捉えながら学ぶ授業を履修している学部1年の学生によって2曲のコンチェルト(ベートーヴェンの4番とジョン・フィールドの5番)が室内楽バージョンで演奏された。

この授業を受け持っている講師がピアノコンチェルトが小編成の室内楽版で行われていたことについての背景や、演目についての分かりやすいミニレクチャー付き。芸祭に教員サイドからの参加があるのは極めて珍しい。

まずベートーベンの4番のコンチェルトをピアノと5つの弦(Vn,Va各2,Vc)の版で聴いて感じたことは、オーケストラパートを室内楽にする利点は曲を小さな会場や少ない予算で楽しむという本来の目的以外にはあまり見い出せないということ。
オーケストラパートの動きや音域というのはやはり元々ソロ楽器による室内楽のために書かれた曲に比べるとソロイスティックな魅力に欠ける。それに本来の室内楽ではピアノとそれぞれの楽器との個人的で親密な対話が多くあるのに対し、コンチェルトではピアノとオケのトゥッティのやり取りが多い。こういう点も室内楽ならではの魅力という点で薄い。ただ、演奏が終わってから講師から「それぞれの楽器の良さが伝わってきませんでしたか?」と問いかけられ、それは確かに一理あるかも。

ピアノソロは三木蓉子さん(1楽章)と仲村真貴子さん(2,3楽章)がそれぞれ受け持ったが、三木さんの繊細で流麗な演奏、仲村さんの濃厚で熱い演奏と個性が違って(どちらも素晴らしかった)、同じピアノで同じ曲を弾いても、これだけ雰囲気が変わるということが面白かった。

2曲目のジョン・フィールドの曲は、弦バスとティンパニやベルなどが入ったことで伴奏の響きに厚みが出てオーケストラ的になったためか、こうした小編成での演奏がより楽しめた。或いは僕がこの曲のオケによるオリジナル版を知らないせいもあるかも知れない。ショパンが影響されたというジョン・フィールドの曲はとても美しく充実した音楽にちょっとびっくり。曲の魅力を垣間見るという意味で、こうした編成での演奏は確かに面白いかも知れない、と思った。こちらのピアノソロは縣佑基君


FMP(Find-Music-Project) ~第6ホール~

「新作の初演や過去の埋もれた作品を発見して活動する」FMPによる興味深い演奏会。前半は4人のメンバーの学生の新作(弦楽四重奏)発表、後半にはオスカー・シュトラウスの本邦初演曲シュニトケ等近現代の作品が演奏された。

前半の新曲の作曲者は4人とも弦楽科の学生。本専攻という気負いがないせいか、癒し系や楽しい音楽が続いた。それにファースト・ヴァイオリンの須山暢大君のしなやかで頼もしさを感じる雄弁な演奏を始め、どの曲でも熱く充実した演奏をして場を盛り上げる。このカルテットには2名作曲者が含まれていたこともあるかも知れないが、こうして仲間の曲を真面目に演奏する姿勢は素晴らしい。

後半の3曲(シチェドリン「3つのおかしな小品」、オスカー・シュトラウス「弦楽セレナーデ」、シュニトケ「ハイドン風モーツァルト」)はそれぞれ強烈な個性を発揮して耳も目も釘付けになった。

「練習不足で…」と開演前の「公開リハ」で謙遜していたが、最後の2曲の大きな編成の弦楽合奏においてもシャープな切れ味と活き活きとした息遣いが伝わる能動的な演奏に好感を持った。とりわけ、視覚的効果も演出されているシュニトケでは、ソロ・ヴァイオリンに美形の女子学生2名を配し見栄えも抜群。そのお二人のヴァイオリン演奏も瑞々しく颯爽としていて見事な腕前。大真面目な表情でユニークな音楽を演奏するのが似合う人を食ったようなシュニトケ独得の香辛料がピリリと効いていて、そのパフォーマンス効果も含めて終始引きつけられ鮮烈な印象を受けた。


藝祭での奏楽堂の解放3たび訴える!!
去年は工事のために特例で新奏楽堂が土曜日にも使えたが、今年は再び元の木阿弥。。。第6ホールをはじめ、芸祭で使われる「練習ホール」は立ち見客で溢れていた。しかも台風のために7日の午前中に予定されていたオルガン科のコンサートは中止にされたまま土日は奏楽堂は閉館、とあっては益々納得が行かない。もちろん事前の人の手配もいるだろうが、それも含め芸祭では奏楽堂を解放してもらえないのだろうか。
去年も
一昨年も書いたが、今年も懲りずに訴えます。このブログを読んで下さっている方は「しつこい」とお思いでしょうが、実現するまで言い続けます。芸祭は年に1度の学生達にとっての盛大なお祭りであり大切な発表の機会。お客も待ち望んでいます。硬いことは言わず、芸祭期間中の奏楽堂を全面開放して下さい!

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