9月8日(土)アンドレ・プレヴィン指揮(&Pfソロ) NHK交響楽団
《9月Aプロ》 NHKホール
【曲目】
1.モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
2.モーツァルト/ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491
3.モーツァルト/交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」
プレヴィンが目を患ってN響への客演がキャンセルされたのはもう何年前のことだろうか。その後活動を再開して久しいプレヴィンのN響への再来を待ち続け、それがとうとう実現した。またプレヴィンのあのモーツァルトが聴けたなんて、今夜は記念すべき幸せな日となった。
選ばれたモーツァルトのC音を主音とする3つの作品から、まずはN響の新しいシーズンの幕開けにふさわしい音楽、「フィガロ」の何とレッジェーロなこと!軽快なテンポを保ちつつも、単なる元気いっぱい、ただの「アッレーグロ allegro!」の音楽ではない陰影やふわりとした空気を内包したタッチが素敵だ!
続くピアノコンチェルトではプレヴィンの弾き振り。低弦の最初のCの音1つが鳴った瞬間から演奏に引き込まれてしまった。たった一つの音にも何とも言えない「色」がある。
プレヴィンの棒から引き出される弦のアンサンブルは本当に陰影に富んでいる。樹木が地面に映す影が、光の具合や葉の濃淡や、湿度などで微妙にその色合いを変えるかのように、デリケートに色合いを変化させながらささやき、歌い、綾を織り成す。
この曲で重要な役割を果たす木管アンサンブルの、何と優雅なハーモニーと歌!一人一人の素晴らしいソロがアンサンブルとして溶け合い、プレヴィンのピアノと天上で戯れ合うようにやり取りを交わす。
そのプレヴィンのピアノ独奏のデリケートなことと言ったらこの上ない。飲んだことはないが、長年寝かして熟成した極上のワインの香りが立ち上るような奥ゆかしさと気高さと、それに悲しくなるほどの「翳り」もはらんでいる。そうした香りや翳りをオーケストラも同様に放ち、彼岸の境地に連れて行かれるようだった。
そして「リンツ」。全体に落着いたテンポと音量で、この嬉々とした音楽の細部から、ささやきや吐息が漏れ聞こえてくるような演奏。水も滴るような瑞々しい弦が、書の大家が描くような見事な筆運びで、濃淡に富んだ味わいのある線が描かれて行く。
木管のオーボエとファゴットの歌や絡みも素晴らしい。そしてそれを金管が背後で弱音で色付けをするその絶妙さ。いくら指揮者が求めたからと言ってもこういう味付けは誰にでもできるわけではない。N響の隠れた「底力」をあちこちで見せつけられる。
聴き慣れた演奏ではもっとビンビンに音を出すところを弱音に抑えて、そこからこの上もない極上の響きと歌が引き出される。そんな弱音は、どんな大音響でも伝えられないようなメッセージを3階席までクリアーに運んでくる。そうした柔らかで優しくて優雅なニュアンスをたっぷり含んだ音楽を聴き続けていると、別世界に連れて行かれてしまう。
ああ… いくら言葉を連らねてみても、この極上のエッセンスに富んだ演奏を言い表すことは到底できはしない。
反論されることを覚悟で言ってしまえば、去年N響演奏会の人気投票1位になったノリントンのモーツァルトは、痛快で面白くて、踊りたくなるような、生気溢れる演奏に実際大いに共鳴したが、プレヴィンのモーツァルトはその演奏のはるか雲の上の天上界で鳴り響き、降り注いでくるような次元の違いを感じさせる。その天上界で鳴り響くのはただの至福さではなく、人間モーツァルトの温もりが悲しいほどに伝わって来る。こんなモーツァルトを聴けたことを本当に幸せに思う。
【開演前の室内楽】
1. ムーレ/ロンド
2. 作曲者不詳/いとしのトロンボーン
3. フィルモア/シャウティン・ライザ・トロンボーン
4. L.ヘンダソン編曲/聖者のハレルヤ
Tb:新田幹男/Tp:井川明彦、栃本浩規/Hrn:今井仁志/Tub:池田幸広
N響の金管名手達によるアンサンブルを開演前に楽しんだ。しなやかな息遣いで輝かしく、かつ柔らかな音色の金管アンサンブルが高らかに響いた。今月の室内楽シリーズの主役はトロンボーンの新田さん。曲の合間合間に新田さんのプロフィールが紹介され、2曲目以降は全てトロンボーンのソロが活躍した。その柔らかなスライドさばきや、ユーモアも交えた豊かな表現力に聴き入った。楽しい曲が揃っていて、聖者の行進では聴衆の手拍子が入って開演前からホールは盛り上がった。
《9月Aプロ》 NHKホール
【曲目】
1.モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
2.モーツァルト/ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491
3.モーツァルト/交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」
プレヴィンが目を患ってN響への客演がキャンセルされたのはもう何年前のことだろうか。その後活動を再開して久しいプレヴィンのN響への再来を待ち続け、それがとうとう実現した。またプレヴィンのあのモーツァルトが聴けたなんて、今夜は記念すべき幸せな日となった。
選ばれたモーツァルトのC音を主音とする3つの作品から、まずはN響の新しいシーズンの幕開けにふさわしい音楽、「フィガロ」の何とレッジェーロなこと!軽快なテンポを保ちつつも、単なる元気いっぱい、ただの「アッレーグロ allegro!」の音楽ではない陰影やふわりとした空気を内包したタッチが素敵だ!
続くピアノコンチェルトではプレヴィンの弾き振り。低弦の最初のCの音1つが鳴った瞬間から演奏に引き込まれてしまった。たった一つの音にも何とも言えない「色」がある。
プレヴィンの棒から引き出される弦のアンサンブルは本当に陰影に富んでいる。樹木が地面に映す影が、光の具合や葉の濃淡や、湿度などで微妙にその色合いを変えるかのように、デリケートに色合いを変化させながらささやき、歌い、綾を織り成す。
この曲で重要な役割を果たす木管アンサンブルの、何と優雅なハーモニーと歌!一人一人の素晴らしいソロがアンサンブルとして溶け合い、プレヴィンのピアノと天上で戯れ合うようにやり取りを交わす。
そのプレヴィンのピアノ独奏のデリケートなことと言ったらこの上ない。飲んだことはないが、長年寝かして熟成した極上のワインの香りが立ち上るような奥ゆかしさと気高さと、それに悲しくなるほどの「翳り」もはらんでいる。そうした香りや翳りをオーケストラも同様に放ち、彼岸の境地に連れて行かれるようだった。
そして「リンツ」。全体に落着いたテンポと音量で、この嬉々とした音楽の細部から、ささやきや吐息が漏れ聞こえてくるような演奏。水も滴るような瑞々しい弦が、書の大家が描くような見事な筆運びで、濃淡に富んだ味わいのある線が描かれて行く。
木管のオーボエとファゴットの歌や絡みも素晴らしい。そしてそれを金管が背後で弱音で色付けをするその絶妙さ。いくら指揮者が求めたからと言ってもこういう味付けは誰にでもできるわけではない。N響の隠れた「底力」をあちこちで見せつけられる。
聴き慣れた演奏ではもっとビンビンに音を出すところを弱音に抑えて、そこからこの上もない極上の響きと歌が引き出される。そんな弱音は、どんな大音響でも伝えられないようなメッセージを3階席までクリアーに運んでくる。そうした柔らかで優しくて優雅なニュアンスをたっぷり含んだ音楽を聴き続けていると、別世界に連れて行かれてしまう。
ああ… いくら言葉を連らねてみても、この極上のエッセンスに富んだ演奏を言い表すことは到底できはしない。
反論されることを覚悟で言ってしまえば、去年N響演奏会の人気投票1位になったノリントンのモーツァルトは、痛快で面白くて、踊りたくなるような、生気溢れる演奏に実際大いに共鳴したが、プレヴィンのモーツァルトはその演奏のはるか雲の上の天上界で鳴り響き、降り注いでくるような次元の違いを感じさせる。その天上界で鳴り響くのはただの至福さではなく、人間モーツァルトの温もりが悲しいほどに伝わって来る。こんなモーツァルトを聴けたことを本当に幸せに思う。
【開演前の室内楽】
1. ムーレ/ロンド
2. 作曲者不詳/いとしのトロンボーン
3. フィルモア/シャウティン・ライザ・トロンボーン
4. L.ヘンダソン編曲/聖者のハレルヤ
Tb:新田幹男/Tp:井川明彦、栃本浩規/Hrn:今井仁志/Tub:池田幸広
N響の金管名手達によるアンサンブルを開演前に楽しんだ。しなやかな息遣いで輝かしく、かつ柔らかな音色の金管アンサンブルが高らかに響いた。今月の室内楽シリーズの主役はトロンボーンの新田さん。曲の合間合間に新田さんのプロフィールが紹介され、2曲目以降は全てトロンボーンのソロが活躍した。その柔らかなスライドさばきや、ユーモアも交えた豊かな表現力に聴き入った。楽しい曲が揃っていて、聖者の行進では聴衆の手拍子が入って開演前からホールは盛り上がった。
ルツェルンからはや1年。
またもや奇跡の名演の予感ですね。
私は日曜に聴きましたが、ほんとう、pocknさんが書かれているとおり、天上のモーツァルトでした!
アバドもプレヴィンも手の届きようもない高みに達しているのだと確信します。
それにしても、ラフマニノフいいですねぇ。
こちらは、チケットが手に届きませんです・・・・。
週末のラヴェルを楽しみましょう。
ほんとに、私も今回のモーツァルトにはプレヴィンに「神様」を見た思いがしました。それにyokochanさんがおっしゃっていた「ワルター」を実は私も感じてました。
いつかプレヴィンはN響とのモーツァルトがとても気に入って「モーツァルトのレコーディングをN響とやりたい」と言ったそうですが、もうレーベルの問題なんか取っ払って何としても実現してもらいたいものですね。