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東京二期会オペラ劇場「ルル」

2021年09月02日 |  pocknのコンサート感想録2021
8月31日(火)東京二期会オペラ劇場
新宿文化センター

【演目】
ベルク/「ルル」(全2幕)

【配役】
ルル:森谷真理/ゲシュヴィッツ伯爵令嬢:増田弥生/劇場の衣裳係、ギムナジウムの学生:郷家暁子/医事顧問:加賀清孝/画家:高野二郎/シェーン博士:加耒 徹/アルヴァ:前川健生/シゴルヒ:山下浩司/猛獣使い、力業師:北川辰彦/公爵、従僕:高田正人/劇場支配人:畠山 茂/ルルの魂の声:渡邊仁美/ソロダンサー:中村蓉
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】マキシム・パスカル

【演出】カロリーネ・グルーバー
装置:ロイ・スパーン/衣裳:メヒトヒルト・ザイペル/照明:喜多村貴/映像:上田大樹/振付:中村蓉/演出助手:太田麻衣子/舞台監督:村田健輔/公演監督:佐々木典子


昨年行われる予定だった東京二期会の「ルル」が1年延期され、会場も東京文化会館から変更になったが無事に開催され、昨年購入したチケットの振り替えで千秋楽公演を観た。平日の昼公演ながらほぼ満席。「ルル」は初体験。2時間半のオペラを観て、音楽と演奏は素晴らしかったがストーリーは難しかったというのが率直な感想。

性的な魅力で男たちを次々と魅了して翻弄し、死に追いやってしまう「魔性の女」のお話ということで、ストーリーは単純だと思っていたらとんでもない。セリフ(歌詞)が多く、登場人物も多く、場面は多層的に複雑に展開し、これをその場で理解するのは僕の頭では不可能。

ただ、公演のHPに上がっていた動画をいくつか事前に見て、これまで男の目線で描かれてきた「ルル」を、出生や内面に焦点を当てることで社会から抑圧された犠牲者として描こうというグルーバー演出のコンセプトは事前にわかった。公演を観て、ルルは強い信念を持った気高い女性だと感じたが、そのイメージはこのコンセプトからもたらされたのかも知れない。けれど、それだけではルルがこれほど男たちの心を虜にしてしまうワケが伝わらないのでは?ルルの性的な魅力を引き出す演技などが控え目な演出では、「魔性の女」という本来のルルの魅力が希薄になってしまう気がするなんて言ったら失笑を買うだけだろうか。

僕が感じたルルの気高さ、強さは、演出だけでなく、ルル役の森谷真理の驚異的とも云える名唱が伝えたとも云える。森谷の歌は、去年「ルル」が行われるはずだった日の二期会ガラコンサートで、「ルル」のごく一部を聴いたときも感銘を受けたが、今日はその次元を遥かに超えた圧倒的な歌唱だった。

どんなに高音でも潤いと輝きを失わない強靭な声は、ピアニッシモからフォルティッシモまで、どんな場面でも柔軟で豊かな表現力を持ち、しかも全幕を通じてほぼ出ずっぱりで歌いながら、最後まで疲れを微塵も感じさせないスタミナでタイトルロールを決定的に印象付けた。森谷のルルは、世界のどのオペラハウスでも大絶賛されるに違いない。

森谷だけでなく、この公演の歌手たちは皆が大活躍だった。登場人物が多すぎで役と歌手が結びつかないが、シェーン博士役、加耒徹の表現力、アルヴァ役、前川健生のこれまた強靭で輝かしい声の魅力に圧倒されるなど、どの歌い手の歌にも聴きホレた。

歌と同様に感銘を受けたのはベルクの音楽と、それを担ったマキシム・パスカル指揮東フィルの演奏。ベルクは、無調から12音技法に進んだ前衛作曲家というイメージがあるが、その根底には常にロマンチックなもの、人の温かな感情が流れていることを感じた。繊細で変幻自在に柔軟で、そこに熱い血が流れているベルクの音楽の特性が、演奏によって精巧でリアルに描かれていた。それにしても東フィルがピットに入ると、どんな公演でも本当に素晴らしい演奏をする。

自分の理解不足のせいで結局最後までストーリーに浸ることはできなかったが、ベルクが筆を折った2幕の後に演奏された組曲の音楽で、ルルの化身としてずっとステージで演技していたダンサーの中村蓉が、ルルにピタリと寄り添って演じるパフォーマンスに、具体的に何を表現しているのかはつかめずとも、その芸術性の高さにズンズンと引き込まれていった。そして幕となったときは、深い感動がじわっとこみ上げ、会場が大喝采に包まれるなか、僕も夢中で拍手を送っていた。この感動は帰り道でもまだ醒めなかった。

「感動した」という事実だけで十分なのかも知れないが、ストーリーや演出を理解したうえで得られる感動はまた1ステージ上のものなんだろうと思うと、ちょっと悔しい気持ちも残った。

東京二期会スペシャル・オペラ・ガラ・コンサート (2020.7.12 東京文化会館)

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