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東京二期会オペラ劇場「リゴレット」

2015年02月20日 | pocknのコンサート感想録2015
2月20日(金)東京二期会オペラ公演
~イタリア・パルマ王立歌劇場との提携公演~
東京文化会館
【演目】
ヴェルディ/「リゴレット」

【配役】
マントヴァ公爵:山本耕平/リゴレット: 成田博之/ジルダ:新垣有希子/スパラフチーレ: 伊藤 純/マッダレーナ:加藤のぞみ/ジョヴァンナ:小泉詠子/チェプラーノ伯爵:野村光洋/チェプラーノ伯爵夫人:成田伊美/モンテローネ伯爵:泉 良平/マルッロ:山口邦明/ マッテオ・ボルサ:渡邉公威/マントヴァ公爵夫人の小姓:宮澤彩子

【演出】 ピエール・ルイジ・サマリターニ/エリザベッタ・ブルーサ
【美術】 ピエール・ルイジ・サマリターニ 【照明】アンドレア・ボレッリ

【演奏】
アンドレア・バッティストーニ指揮 東京フィルハーモニー交響楽団/二期会合唱団


人気・実力共に沸騰中の気鋭の若きマエストロ、バッティストーニがタクトを取った東京二期会の「リゴレット」を観た。イタリアのパルマ王立歌劇場との提携公演ということだが、2012年に観た「ナブッコ」も同じ提携公演で指揮はバッティストーニだった。

その時のこの指揮者の印象を「濃淡のハッキリした、明快で熱い音楽を聴かせる」と書いたが、今回もキビキビとして、立ちはだかるものを情け容赦なく斬り倒して行く、決断と情熱の塊のようなドラマチックな音楽作りがこのオペラのテーマである「呪いに捕らわれた運命」をリアルに、衝撃的に描いた。

これは音量で圧倒するような激しい場面ばかりでなく、登場人物が焦燥や不安を歌うような場面で、オーケストラが実に雄弁にその感情を露わに描写するところでもドラマ作りの上手さを感じた。そして、それに見事に応えた東フィルの腕前にも舌を巻いた。

こうした最高のお膳立てが整ったなかで歌って演じた二期会の歌手たちは粒ぞろいで、高いレベルの公演を実現した。とりわけ素晴らしかったのが、タイトルロールのリゴレットを歌ったバリトンの成田博之。貫禄と存在感抜群の声で、運命に翻弄された男の怒りと悲哀を、凄みを伴ってくっきりと深く掘り下げて聴かせた。最後の最後、ジルダとの永遠の惜別の場面も泣かせてくれた。マントヴァ公爵役の山本耕平の、艶のある美声で聴かせた歌も素晴らしい。山本さんの歌には女心をくすぐり、惹きつける色気が具わっていて、あまたの女をモノにしてきたことも納得。テノールだが、ドン・ジョヴァンニも歌って欲しい。

ジルダを歌った新垣有希子は、クセのない真っ直ぐな歌唱で、特に後半での気丈さを印象付けたが、例えば有名なアリア「慕わしい人の名は」でもそうなのだが、面白味や香り、色っぽさがもっと欲しかった。スパラフチーレ役の伊藤純の歌は、筋金入りの殺し屋の迫力が出ていて役にぴったり。妹マッダレーナのそそのかしに「おれは筋は通す」という場面ではヤクザの仁義まで感じた。そのマッダレーナ役の加藤のぞみも濃いキャラクターを良く出して印象に残る。

出番は少なかったが、ジョヴァンナを歌った小泉詠子は、地味な衣装やメイクとはかけ離れた存在感が光っていて、誠実に仕える乳母というだけではない、ジルダに対する優しく気高い眼差しが感じられた。
ところで、このオペラでは、マントヴァ公爵を不誠実極まりない憎むべきプレイボーイとして、また、リゴレットはそんな男のために呪われた運命を背負わされる悲劇の主人公として設定されているが、今日の公演を観た限り、マントヴァ公爵は、そこまでの悪役とは感じられなかった。

多くの女を騙してきたかも知れないが、「遊び」だった他の女達とは違って、ジルダに対しては本気度が伝わってきた。ヴェルディがこの色男に与えたアリアは、「女心の歌」をはじめどれも魅力的で、侯爵の男前ぶりと自信が窺える。そんな常に光が当たる男と、自分の娘をいつまでも「生き甲斐」として世間から遠ざけ続ける日の当たらないリゴレットを対比し、そんな独りよがりな態度が、結局は娘を死なせるような呪われた運命を呼び寄せてしまったのだ、という教訓めいたものをヴェルディはこのオペラに託したのでは、なんて思ってしまった。

舞台は目新しさはなかったが、伝統的な格調の高さを感じる美しく壮麗なセットで、とりわけ第2幕の大階段のある広間をあしらった公爵の館の場面は目を見張った。また、第3幕では廃墟のような不気味な建物が、そこで起こる恐ろしい「事件」を暗示しているようだった。

個人的には、ジルダが哀れにも身代わりで死んで行く場面で、マントヴァ侯爵がそれに気づいて物陰から嘆き悲しんでいる姿を見たかったが、このプレイボーイにそんな誠実さを期待してしまった僕は、おめでたい善人だろうか。けれど、それほど今日の山本さんのマントヴァ侯爵は魅力的だった、ということかも知れない。

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