9月10日(木)ルートヴィヒ・シュミット(Org)
パッサウ聖シュテファン大聖堂
【曲目】
1. シュナイダー/オルガンシンフニー第3番「死の舞踏」~第4楽章
2. バッハ/プレリュード ホ短調 BWV.548
3. バッハ/オルガンソナタ第5番 ハ長調 BWV.529
4.ラインベルガー/オルガンソナタ第4番 イ短調 Op.98~第1楽章
5.レンナー/オルガンソナタ第1番 ト短調 Op.29~第1楽章
6.レーガー/30のコラール前奏小曲集 Op.135a~第28曲「ただ神にのみ委ねまつる者は」
7.レーガー/オルガンソナタ第2番 ニ短調 Op.60~第1楽章
【アンコール】
シュミット/(知人の旋律による自らのアレンジ)
メインオルガンの左右にもオルガンが見える
一日では移動が大変過ぎるドレスデンからウィーンという長い道のりの途中で、どの町に寄るかを考えていて、27年前に一度だけ短い時間立ち寄ったパッサウの大聖堂で聴いたオルガンをまた聴きたいと思い、前日にレーゲンスブルクに1泊した翌日、3つの川が合流するオーストリアと国境を接する町、パッサウに1泊することにした。パッサウの大聖堂には世界で3番目、カトリック教会のオルガンでは世界最大のオルガンがあり、5月から10月までのシーズン中、平日に30分のランチタイムコンサートが行われている。そして週に一度、木曜日には夜に1時間の長めのコンサートがある。今回パッサウに泊まったのがたまたま木曜日だったため、運よくこの夜のオルガンコンサートを聴くことができた。
泊まったホテルはドナウ川沿いの市庁舎のすぐ向かいにあるWilder Mann。大聖堂へも歩いて5分とかからない便利な場所にあったので、殆ど手ぶらでシュテファン大聖堂に出掛けた。大聖堂は旧市街のパステル調のかわいらしい街並みのなかで際立って大きな建築で、南ドイツらしいネギ坊主型の尖塔を備えた美しい教会。柔らかい光がこぼれる聖堂の天井は明るい色調のフレスコ画で彩られ、幸福感に溢れている。後方の壁面いっぱいに取りつけられた大オルガンにも美しい装飾が施され、教会の内装との一体感を作り出している。
今夜出演したルートヴィヒ・シュミットは2011年からレーゲンスブルクのヨーゼフ教会の専属オルガニストを務める若いオルガニスト。バッハ、ラインベルガー、レーガーといったオンガンの名曲を多く残した作曲家の作品に加え、シュナイダー、レンナーといった初めて名前を目にする近・現代の作曲家の作品まで多彩なプログラムを用意した。
最初に演奏したのが1950年生まれの現代作曲家、エンヨット・シュナイダーのオルガンシンフォニー。哀悼の気持ちが込められたという第4楽章は、ゆったりしたテンポながら激しい感情の高まりも表現されていて、さっそくここの大オルガンの威力が発揮された。一方、バッハの三声のソナタでは、スッキリとした透明で軽めの音色が選ばれ、3つの声部が楽しげに軽やかに戯れる様子が生き生きと描かれ、ポジティヴオルガンを聴いているような感覚を味わった。淀みなくリズムの冴えた演奏からはシュミットのセンスの良さも窺えた。
このオルガンがこのようにオールラウンドに適応できるのは、最大で長さ11メートル、重さ300キロというパイブから、最小は6ミリのパイプまで、人間の聴覚で感じ取れる限界の低音から高音までの音域を網羅した1万8千本近くのパイプを備えるオルガンならではのこと。規模が大きいというのは懐が深いということにもなるのだろうか。どの曲を聴いていても、音に余裕と品格が具わっていて、心地よく安心して身を委ねられる奥行きと広がりを感じた。
プログラム最後のレーガーのオルガンソナタでは、終盤で地響きとも山鳴りとも思えるような凄まじい大音響を轟かせて締め括り、更にアンコールではツィンベルシュテルンの響きも聴かせるサービスに集まったお客も大喜び。「楽器の王様」とも呼ばれるパイプオルガンの中でも最高位に君臨するパッサウのオルガンの音と音楽を心行くまで堪能することができた。
究極のサラウンド効果の秘密…
ところで、僕が座った場所は祭壇に向かって中央より少し前方(オルガン側から見れば後方)だったが、オルガンの音がいろいろな方向から聴こえてくる気がした。オルガンは後方にあるが、その左右からもステレオ効果的に聴こえてくる。これは、メインのオルガンの左右にあるオルガンも鳴っているためだろう。それだけでなく、オルガンとは反対の祭壇や天井の方からも聴こえてきた。場所的に音が理想的に反射してサラウンド効果を楽しめるのかと思っていたら、祭壇の方のバルコニーにも小規模なオルガンがあることに気づいた。
クリックで祭壇側のオルガンをクローズアップ
これが本当に鳴っていたか知りたくて、終演後に演奏者のシュミット氏が下りてくるのを待って訊ねたところ、祭壇側のオルガンも使っていたとの返事。「どのあたりに座っていたんですか?」と尋ねられ、場所を説明すると「バランスとしては一番いい場所ですね」と言われた。そして驚いたのは「じゃあ天井にあるオルガンを使っていたのもわかりましたか?」と訊かれたこと。コンサート会場で天上から降り注ぐように音が聴こえて来ることはあるが、本当に「天井」から聴こえていたわけか!その後、首が痛くなるほどずっと天井を見上げて、オルガンがどこにあるのか探したが見つけることはできず、何だかモヤモヤ気分が残っていた。
帰国してからネットで調べたら、天井のオルガンは屋根裏に据えられていて、フレスコ画の中央にある「聖霊の穴」(Heiliggeistloch)と呼ばれるところから音が聴こえてくる仕組みになっていることがわかった。現地で撮った写真を確認したら、天井画の中にその「聖霊の穴」が写っていた。
ドイツ語版Wikipediaによれば、この「聖霊の穴」はパッサウ大聖堂以外でも例は多く、元々は通気孔として作られたものが、教会暦の大切な節目である聖霊降臨祭に聖霊の象徴としてここから鳩を放したり、花を落としたり、或いはキリスト昇天祭にキリストの像をワイヤでこの穴に向かって「昇天」させるなど、宗教行事の道具として使われていたという。ただ、オルガンの音が聴こえてくるのはパッサウ大聖堂のオリジナルのようだ。
クリックで「聖霊の穴」をクローズアップ
メインの演奏台に座ったオルガニストは、メインのオルガン、その左右のオルガン、祭壇側のオルガン、そして天井のオルガンという、合計5つのオルガンをコントロールして鳴らすことができるという。聖堂全体を巨大な楽器として扱う、これこそ究極のサラウンドではないか!特ににカトリック教会というのは、華美な装飾やステンドグラスもそうだが、教会を訪れた人達に神の啓示を感じさせようと様々な方法で神々しさを演出する。ここでオルガンの荘重な音がサラウンドで鳴り響けば、神々しさの効果は抜群というわけだ。
こんなすごいからくりがあることを後から知ったからには、それを意識してまた是非ともここのオルガン演奏を聴きたくなる。パッサウは町も美しいが、大聖堂のオルガンを聴くだけのためでも訪れる価値は高い。
記事を書くうえで参照したREGIOWIKIのページ(ドイツ語)
Wikipedia「聖霊の穴」について(ドイツ語)
ドレスデンのオルガンコンサート(2015.9.8~9)
パッサウ聖シュテファン大聖堂
【曲目】
1. シュナイダー/オルガンシンフニー第3番「死の舞踏」~第4楽章
2. バッハ/プレリュード ホ短調 BWV.548
3. バッハ/オルガンソナタ第5番 ハ長調 BWV.529
4.ラインベルガー/オルガンソナタ第4番 イ短調 Op.98~第1楽章
5.レンナー/オルガンソナタ第1番 ト短調 Op.29~第1楽章
6.レーガー/30のコラール前奏小曲集 Op.135a~第28曲「ただ神にのみ委ねまつる者は」
7.レーガー/オルガンソナタ第2番 ニ短調 Op.60~第1楽章
【アンコール】
シュミット/(知人の旋律による自らのアレンジ)
メインオルガンの左右にもオルガンが見える
一日では移動が大変過ぎるドレスデンからウィーンという長い道のりの途中で、どの町に寄るかを考えていて、27年前に一度だけ短い時間立ち寄ったパッサウの大聖堂で聴いたオルガンをまた聴きたいと思い、前日にレーゲンスブルクに1泊した翌日、3つの川が合流するオーストリアと国境を接する町、パッサウに1泊することにした。パッサウの大聖堂には世界で3番目、カトリック教会のオルガンでは世界最大のオルガンがあり、5月から10月までのシーズン中、平日に30分のランチタイムコンサートが行われている。そして週に一度、木曜日には夜に1時間の長めのコンサートがある。今回パッサウに泊まったのがたまたま木曜日だったため、運よくこの夜のオルガンコンサートを聴くことができた。
泊まったホテルはドナウ川沿いの市庁舎のすぐ向かいにあるWilder Mann。大聖堂へも歩いて5分とかからない便利な場所にあったので、殆ど手ぶらでシュテファン大聖堂に出掛けた。大聖堂は旧市街のパステル調のかわいらしい街並みのなかで際立って大きな建築で、南ドイツらしいネギ坊主型の尖塔を備えた美しい教会。柔らかい光がこぼれる聖堂の天井は明るい色調のフレスコ画で彩られ、幸福感に溢れている。後方の壁面いっぱいに取りつけられた大オルガンにも美しい装飾が施され、教会の内装との一体感を作り出している。
今夜出演したルートヴィヒ・シュミットは2011年からレーゲンスブルクのヨーゼフ教会の専属オルガニストを務める若いオルガニスト。バッハ、ラインベルガー、レーガーといったオンガンの名曲を多く残した作曲家の作品に加え、シュナイダー、レンナーといった初めて名前を目にする近・現代の作曲家の作品まで多彩なプログラムを用意した。
最初に演奏したのが1950年生まれの現代作曲家、エンヨット・シュナイダーのオルガンシンフォニー。哀悼の気持ちが込められたという第4楽章は、ゆったりしたテンポながら激しい感情の高まりも表現されていて、さっそくここの大オルガンの威力が発揮された。一方、バッハの三声のソナタでは、スッキリとした透明で軽めの音色が選ばれ、3つの声部が楽しげに軽やかに戯れる様子が生き生きと描かれ、ポジティヴオルガンを聴いているような感覚を味わった。淀みなくリズムの冴えた演奏からはシュミットのセンスの良さも窺えた。
このオルガンがこのようにオールラウンドに適応できるのは、最大で長さ11メートル、重さ300キロというパイブから、最小は6ミリのパイプまで、人間の聴覚で感じ取れる限界の低音から高音までの音域を網羅した1万8千本近くのパイプを備えるオルガンならではのこと。規模が大きいというのは懐が深いということにもなるのだろうか。どの曲を聴いていても、音に余裕と品格が具わっていて、心地よく安心して身を委ねられる奥行きと広がりを感じた。
プログラム最後のレーガーのオルガンソナタでは、終盤で地響きとも山鳴りとも思えるような凄まじい大音響を轟かせて締め括り、更にアンコールではツィンベルシュテルンの響きも聴かせるサービスに集まったお客も大喜び。「楽器の王様」とも呼ばれるパイプオルガンの中でも最高位に君臨するパッサウのオルガンの音と音楽を心行くまで堪能することができた。
究極のサラウンド効果の秘密…
ところで、僕が座った場所は祭壇に向かって中央より少し前方(オルガン側から見れば後方)だったが、オルガンの音がいろいろな方向から聴こえてくる気がした。オルガンは後方にあるが、その左右からもステレオ効果的に聴こえてくる。これは、メインのオルガンの左右にあるオルガンも鳴っているためだろう。それだけでなく、オルガンとは反対の祭壇や天井の方からも聴こえてきた。場所的に音が理想的に反射してサラウンド効果を楽しめるのかと思っていたら、祭壇の方のバルコニーにも小規模なオルガンがあることに気づいた。
クリックで祭壇側のオルガンをクローズアップ
これが本当に鳴っていたか知りたくて、終演後に演奏者のシュミット氏が下りてくるのを待って訊ねたところ、祭壇側のオルガンも使っていたとの返事。「どのあたりに座っていたんですか?」と尋ねられ、場所を説明すると「バランスとしては一番いい場所ですね」と言われた。そして驚いたのは「じゃあ天井にあるオルガンを使っていたのもわかりましたか?」と訊かれたこと。コンサート会場で天上から降り注ぐように音が聴こえて来ることはあるが、本当に「天井」から聴こえていたわけか!その後、首が痛くなるほどずっと天井を見上げて、オルガンがどこにあるのか探したが見つけることはできず、何だかモヤモヤ気分が残っていた。
帰国してからネットで調べたら、天井のオルガンは屋根裏に据えられていて、フレスコ画の中央にある「聖霊の穴」(Heiliggeistloch)と呼ばれるところから音が聴こえてくる仕組みになっていることがわかった。現地で撮った写真を確認したら、天井画の中にその「聖霊の穴」が写っていた。
ドイツ語版Wikipediaによれば、この「聖霊の穴」はパッサウ大聖堂以外でも例は多く、元々は通気孔として作られたものが、教会暦の大切な節目である聖霊降臨祭に聖霊の象徴としてここから鳩を放したり、花を落としたり、或いはキリスト昇天祭にキリストの像をワイヤでこの穴に向かって「昇天」させるなど、宗教行事の道具として使われていたという。ただ、オルガンの音が聴こえてくるのはパッサウ大聖堂のオリジナルのようだ。
クリックで「聖霊の穴」をクローズアップ
メインの演奏台に座ったオルガニストは、メインのオルガン、その左右のオルガン、祭壇側のオルガン、そして天井のオルガンという、合計5つのオルガンをコントロールして鳴らすことができるという。聖堂全体を巨大な楽器として扱う、これこそ究極のサラウンドではないか!特ににカトリック教会というのは、華美な装飾やステンドグラスもそうだが、教会を訪れた人達に神の啓示を感じさせようと様々な方法で神々しさを演出する。ここでオルガンの荘重な音がサラウンドで鳴り響けば、神々しさの効果は抜群というわけだ。
こんなすごいからくりがあることを後から知ったからには、それを意識してまた是非ともここのオルガン演奏を聴きたくなる。パッサウは町も美しいが、大聖堂のオルガンを聴くだけのためでも訪れる価値は高い。
記事を書くうえで参照したREGIOWIKIのページ(ドイツ語)
Wikipedia「聖霊の穴」について(ドイツ語)
ドレスデンのオルガンコンサート(2015.9.8~9)