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バッハ・コレギウム・ジャパン 第108回定期演奏会

2014年06月01日 | pocknのコンサート感想録2014
6月1日(日)バッハ・コレギウム・ジャパン 第108回定期演奏会
~J.S.バッハ:教会カンタータ・シリーズ Vol.68~
東京オペラシティコンサートホール
【曲目】
1.バッハ/コラール「来たれ、聖霊」にもとづくファンタジアBWV651、「来たれ、聖霊」BWV652
2.バッハ/カンタータ第20番「おお、永遠、汝、雷の言葉よ」BWV20
3.バッハ/カンタータ第39番「割いて与えよ、飢えた者たちにあなたのパンを」BWV39
4.バッハ/カンタータ第75番「貧しき者は、食して満ち足り」BWV75
【アンコール】
バッハ/カンタータ第75番~最終コラール

【演 奏】
S:松井亜希/カウンターT:青木洋也/櫻田亮/B:ドミニク・ヴェルナー
鈴木雅明指揮&Org(1) バッハ・コレギウム・ジャパン


4月にBCJの「マタイ」を聴いて、感想に「ウィーン・フィルやベルリン・フィルを現地で聴けるように、BCJを東京で聴ける幸せ」と書いた。それにしてはBCJのライフワークであり、定期演奏会での柱になっているカンタータの演奏会を聴いていない、ということにふと気づいた。折しも 先頃BISレーベルに全曲録音を成し遂げたこの演奏団体のカンタータを是非とも聴きたくなってチケットを購入した。

カンタータの演奏に先立ち、鈴木雅明氏のオルガンソロでバッハのコラール2曲が演奏された。どちらも今日演奏されるカンタータのコラールにも繋がり、鈴木氏の演奏会への揺るぎない確信が伝わってきた。

最初に演奏されたカンタータ第20番は、フランス風序曲の形式によるオーケストラの壮麗な開始に耳を奪われた。それに乗って合唱で歌われるコラール、やがてオケはフーガへと移行するが、合唱はコラール旋律を歌い続けるところに、強い信念のようなものを感じた。それが、最後に再び壮麗な開始部を呼び戻す。この第1曲には大いに引き付けられたが、このカンタータでは「罪を犯した者が背負う永遠の苦しみ」に焦点が置かれ、クリスチャンではない者にとっては共感することが難しかった。最後に置かれた終結コラールだけは、会衆のイエスに拠りどころを求める願いが強く伝わり、胸に迫ってきた。4月のマタイでも大きな共感へ導いてくれたコラールの役割がここでも明確に示されていた。

だが今日の演奏会でとりわけ感動したのは、このあと演奏された39番と75番の2曲のカンタータ。39番の冒頭合唱では、貧しいものへ注ぐ慈愛が歌われるが、ここで「惨めな境遇」を意味する”Elend”という言葉が、途切れ途切れの音型で開始した音楽から長いメリスマとなって、温かな血が通った憐れみとしてたっぷりと歌われ、ジーンと心に沁みてきた。それに続くフーガでは各声部が生き生きと「主の栄光」を歌い、これに息の長いオケが合わさって、音楽が一気に明るい光に照らされる光景は見事としか言いようがない。BCJの演奏からは、謙虚のなかにこそ本当の力があることを示してくれる。

75番の冒頭合唱では、いきなりオペラのオープニングのような劇的な音楽が始まってびっくりした。決然としたオケに、すがるようなオーボエの訴え、そして合唱が貧しい者への思いを言葉を噛みしめつつ歌い始める。こうした決然とした場面での迫真の表現力は鈴木/BCJ の真骨頂だ。一つ一つの音が胸に楔を打ち込むように深く突き刺さってくる。

その一方で、愛や慈しみの心を人間味溢れる温かな情感を伴って伝えてくれるのもこの演奏団体ならではの大きな持ち味で、これら2曲のカンタータからは、純粋に信じること、愛することの尊さがひしひしと伝わってきて、深い感動へ導いてくれた。これは歌も楽器も、ソロも合唱(合奏)も、全てのメンバーが、鈴木氏と共に、自らが信じるもの、大切なものへ、心からの共感と賛美を表明するために心を1つにしているからではないだろうか。それをとても感じた例として一つ挙げるなら、アリアで共演するオプリガートの雄弁さ。ソロ楽器であれ合奏であれ、常に歌に寄り添い、見守り、時に元気を与え、ソロの歌唱と共に存在していた。その表情がなんとも優しく、眼差しはどこまでも深淵で、淡い光を帯びているようにさえ感じた。ソロとオブリガート、そしてこれもまた豊かな表情を見せる通奏低音とのアンサンブルが作り出す調和の世界が、三位一体を思わせた。

ソリスト陣は、言葉の鋭さ・厳しさを生々しく訴えかけたドミニク・ヴェルナー氏のバス、艶やかな声で神々しくイエスを讃えた櫻田亮氏のテノール、温かな情感が込められた人間的な魅力を湛えていた青木洋也氏のカウンターテナー、そして、気高く、純粋にひたすら神をたたえる姿を美しく歌った松井亜希さんのソプラノ(75番のレシタティーヴォで「死に至る長き苦悩」 (lange Not zum Tod)から「恵みに満ち」(wohlgetan)へ見事に転じ、それが続くコラールの「恵みに満ち」へと繋がったところの感動!)、4人とも素晴らしい歌だった。

75番のカンタータで大変重要な役割を演じたコラールを、アンコールで再び聴くことができ、至福の気持ちで満たされた演奏会だった。また聴きに来たい。

バッハ/マタイ受難曲(バッハ・コレギウム・ジャパン)2014.4.18 東京オペラシティコンサートホール

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