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バッハ/ヨハネ受難曲(バッハ・コレギウム・ジャパン)

2021年02月21日 |  pocknのコンサート感想録2021
2月19日(金)バッハ・コレギウム・ジャパン 第141回定期演奏会

サントリーホール


【曲目】
バッハ/ヨハネ受難曲 BWV245 (1739/49稿)


【演 奏】 
福音史家&T:櫻田 亮、T:谷口洋介/イエス&B:加耒 徹/S:松井亜希/A:久保法之 他
鈴木雅明指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン


2月と云えば、大好きな藝大バッハカンタータクラブ(バハカン)の定期演奏会があるはずの月だが、早々と中止が決まってしまった。寂しい限りだが、そのバハカンが昔やった「ヨハネ」の歌詞対訳付きプログラム(「カンタータクラブへ寄せる想い」と題した団員の寄稿に鈴木優人さんの名が!)を携え、バッハコレギウムジャパンの「ヨハネ」を聴きに行った。

BCJはまたもや忘れ得ぬ深い感動を届けてくれた。愛ゆえに人々の罪を一身に背負って十字架上での死を遂げるという使命を全うしたイエスの物語を、BCJは何とリアルに、悲しみと怒り、そして深い慈愛をもって表現したことか。冒頭の重々しい前奏に導かれて発せられる「Herr!(主よ)」の熱い呼びかけ。大げさではなく、揺るぎない確信に満ちたこの第一声から鈴木雅明/BCJは一大受難劇の世界へと厳かにいざなった。

「マタイ」と比べて時間的にコンパクトな「ヨハネ」では、歌詞を繰り返し歌う抒情的なアリアが少ない代わりに、受難劇を物語るエヴァンゲリストと合唱にかかるウエイトが大きい。20名ほどの今夜の合唱が伝える熱量は圧倒的で、変幻自在にそれぞれの役を演じた。ユダヤの民衆の声としての合唱は、生々しく非情にイエスを処刑へと追い詰めて行き、イエスの側に立つコラールでは、この理不尽に怒り、人の弱さを憐れみ、イエスの運命を嘆き悲しみ、イエスへの深い愛を歌う。一つのコラールのなかでも、内容に即した表情の変化は、燦々と降り注ぐ陽光がさっと雲に隠れて風景に影が差すように鮮やかだ。

このところ大活躍の櫻田亮のエヴァンゲリストは、「ヨハネ」でも信念を伴って熱く雄弁に聖句を伝えた。イエスを歌った加耒徹、「マタイ」での背後を彩る弦楽合奏がない分、赤裸々になるイエスの言葉を、使命を貫く気高い存在として伝えた。

これら3者が核となって繰り広げられる受難劇の、とりわけ第2部のイエスの裁きから処刑に至るシーンでは、現場に居合わせているような臨場感と緊迫感に包まれた。鈴木の楽曲の間の取り方の巧さにも感嘆。し・しかし・・・ イエスの最後の言葉「Es ist vollbracht(成し遂げられた)」の場面で、すぐ近くで大きなイビキが聴こえて動揺した。が、続くアルトの久保法之とガンバによるアリアでは、清澄な静けさと哀しみの表現が深く心を捉えた。

受難劇を彩るアリアもみんな見事だったが、今夜最も感銘を受けたのはソプラノの松井亜希が歌った2曲のアリア。「イエス様に従います」と、浮き立つ心と弾む歩みを表現する歌の瑞々しさ、転じてイエスの死を悼む受難曲最後のアリアでは、深い哀しみと愛を表現したかと思えば、イエスの死を歌うフレーズでは、「tot(死んだ)」という言葉が、何と動かしがたい真実として厳然と響いたことか。松井はこれまでも清澄で美しい歌を聴かせてきたが、今夜は歌に一層の潤いと深い情感が感じられた。

そして最終盤。「Ruht wohl(憩え、安らかに)」と、イエスの御霊を慰めるように悲しみと慈愛を合唱が歌ったあとの最後のコラールの素晴らしかったこと!光が差し込み、「成し遂げられた」という言葉通りの達成感と平安、希望と愛が確信に満ちてホールに響き渡り、これぞエピローグというエンディング。音が消えたあとの長い静寂・・・感動!
盛大な喝采は団員が去った後も弱まることなく、鈴木とソリスト達がステージに再登場。僕を含めた半数ほどはスタンディング。みんな立てばいいのに・・・

予定されていた外来組は来日できず、今回も日本人メンバーだけによる公演となったが、遜色ないという言葉を遥かに超えた最高レベルの演奏で、BCJの層の厚さと底力を見せつけた。来日予定だった通奏低音奏者の穴を埋めるべく、鈴木優人がチェンバロとオルガンを一人で担当し、時に2つの楽器を同時に演奏する離れ業が隠れた見せ場ともなった。

ところで苦言をひとつ。バッハの音楽ではテクストが重要な役割を持つ。歌詞がわからなければ作品の真価は絶対にわからない。BCJの演奏会では値の張るパンフレットを買わなければ歌詞がわからないのが不満だったが、去年の「マタイ」では字幕が入り、今後も続けてくれると期待したがこれがなかった。ライブ配信では字幕が出たそうだが。僕は持ってきたバハカンのプログラムの対訳を見ながら聴いたが、第19曲のバスのアリオーソの歌詞が一部違い、続く第20曲のテノールのアリアでは、手元の歌詞と全く異なる歌詞が歌われてうろたえてしまった。バハカンのプログラムの解説を読み返したら、第4稿ではこれらの楽曲の歌詞が変更されていると書かれていた。歌詞対訳の無料か安価での提供、或いは字幕投影を、これほど言葉が心に迫る演奏をするBCJに改めて求めたい。

BCJの第九 (2020.12.27 東京オペラシティコンサートホール)
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BCJのロ短調ミサ (2020.9.20 東京オペラシティコンサートホール)
BCJのマタイ (2020.8.3 東京オペラシティコンサートホール)

コロナ禍で演奏会の中止が続く欧米、やっている日本
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