3月19日(木)アンドラーシュ・シフ(Pf)
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
1. シューマン/精霊の主題による変奏曲 WoO24
2.ブラームス/3つの間奏曲 Op.117
3.モーツァルト/ロンド イ短調 K.511
4.ブラームス/6つのピアノ小品 Op.118
♪ ♪ ♪ 5.バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻~第24番 ロ短調 BWV869
6.ブラームス/4つのピアノ小品 Op.119
7.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 Op.81a「告別」
【アンコール】
1.バッハ/ゴルトベルク変奏曲BWV988~アリア
2.モーツァルト/ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545~第1楽章
3.ブラームス/アルバムの小品
4. シューマン/アラベスク
5.シューマン/楽しい農夫
6.シューベルト/即興曲変ト長調Op.90-3/D899-3
新型コロナウイルスによる感染拡大でコンサートが軒並み中止されるなか、アンドラーシュ・シフは来日し、予定されていたリサイタルツアーの多くを行ってくれた。今夜はその最終日。主催のカジモトはこの状況に配慮してチケットの払い戻し対応もしていたが、会場はほぼ満席。今、こうしたコンサートがいかに求められているかがわかる。
「このリサイタルは、友人で最近亡くなったペーター・シュライアーとピーター・ゼルキンに捧げます」というシフのメッセージがアナウンスされてリサイタルが始まった。
最初のシューマンが始まって感じたのは静謐な透明感。澄んだ水を静かに湛える泉の深い底を覗き込むよう。邪念や世俗の感情から離れた達観の境地を思わせ、心を病んだ晩年のシューマンが奥底に持つ澄み切った精神を垣間見るよう。次のブラームスでもシフの表現にブレはない。しかし、あまりに淡々と弾かれるブラームスに、ブラームスにはもっとロマン臭というか、人間臭さや未練がましさのようなものが欲しいとも感じた。
そうした物足りなさは、後半の最初に置かれたバッハを聴いた途端に吹き飛んでしまった。宇宙を司るような絶対的な秩序によって奏でられるバッハだった。これを聴いたあとのブラームスは前半とは気持ちが違ってくる。ブラームスの魂の訴えを敏感に感じ取り、繊細に描いて行くシフの演奏には恣意的なものは皆無で、知覚できないほどの微風を受けて枝葉がわずかに揺れるような微細な世界が広がった。そんなミニマムな情景から、全体を司る大きな宇宙を感じさせるところにシフの真骨頂がある。
シフのアプローチは、バッハであろうとシューマンであろうとブラームスであろうと、決してブレることがない。それは、音楽の最もスピリチュアルなものを心眼とでも云える深く鋭く研ぎ澄まされた感性で掬い上げ、そのまま聴き手に優しく提示すること。ここぞというフレーズで唸り声を上げて気合十分に聴かせる演奏家もいるが、シフはそうした「力」とは無縁のやり方で音楽の持つ高い精神性を表現する。今読んでいるシフの著書「静寂から音楽が生まれる」というタイトルを具現した世界がある。本割最後の演目のベートーヴェンの告別ソナタも、力まず、慌てず、激さずにアポロ的世界を描き、終楽章では高らかな讃歌を謳い上げた。
この世を超越したようなシフの演奏は、そのままおなじみの「アンコールの部」へ突入する。浄化された彼岸の世界のバッハ、心洗われるモーツァルト、慈しみに満ちたアラベスク、ちょっとおどけた気分も見せた「楽しい農夫」では客席の笑いも誘った。これでおしまいと思った聴衆がいつまでも盛大な拍手とブラボーを送り続けると、シフはまたもやピアノの前に座り、客席のざわめきが収まらないうちにシューベルトの即興曲を奏で始めた。目を閉じて聴いていたら、日本が、そして世界が新型コロナウイルスによって置かれているこの窮状を神様が静かに眺め、救いをもたらしてくれるような気分になり、閉じた瞼の奥に涙が溢れた。
弾き終わると、それまでブラボーを叫んでいた人達も声を失い、熱い拍手だけが会場を包んだ。満場のスタンディングオベーション。もう言葉は必要ない。アンドラーシュ・シフに心からの感謝を捧げたい。
新型コロナウイルスによるコンサート中止に思う ~KAJIMOTOの英断~
アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2017.3.21 東京オペラシティコンサートホール
アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2014.3.19 東京オペラシティコンサートホール
アンドラーシュ・シフのバッハⅡ 2011.2.13 紀尾井ホール
♪ブログ管理人の作曲♪
「星去りぬ」~フルートとギターのための~
Fl:佐々木真/G:岩永善信
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東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
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1. シューマン/精霊の主題による変奏曲 WoO24
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3.モーツァルト/ロンド イ短調 K.511
4.ブラームス/6つのピアノ小品 Op.118
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7.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 Op.81a「告別」
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1.バッハ/ゴルトベルク変奏曲BWV988~アリア
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4. シューマン/アラベスク
5.シューマン/楽しい農夫
6.シューベルト/即興曲変ト長調Op.90-3/D899-3
新型コロナウイルスによる感染拡大でコンサートが軒並み中止されるなか、アンドラーシュ・シフは来日し、予定されていたリサイタルツアーの多くを行ってくれた。今夜はその最終日。主催のカジモトはこの状況に配慮してチケットの払い戻し対応もしていたが、会場はほぼ満席。今、こうしたコンサートがいかに求められているかがわかる。
「このリサイタルは、友人で最近亡くなったペーター・シュライアーとピーター・ゼルキンに捧げます」というシフのメッセージがアナウンスされてリサイタルが始まった。
最初のシューマンが始まって感じたのは静謐な透明感。澄んだ水を静かに湛える泉の深い底を覗き込むよう。邪念や世俗の感情から離れた達観の境地を思わせ、心を病んだ晩年のシューマンが奥底に持つ澄み切った精神を垣間見るよう。次のブラームスでもシフの表現にブレはない。しかし、あまりに淡々と弾かれるブラームスに、ブラームスにはもっとロマン臭というか、人間臭さや未練がましさのようなものが欲しいとも感じた。
そうした物足りなさは、後半の最初に置かれたバッハを聴いた途端に吹き飛んでしまった。宇宙を司るような絶対的な秩序によって奏でられるバッハだった。これを聴いたあとのブラームスは前半とは気持ちが違ってくる。ブラームスの魂の訴えを敏感に感じ取り、繊細に描いて行くシフの演奏には恣意的なものは皆無で、知覚できないほどの微風を受けて枝葉がわずかに揺れるような微細な世界が広がった。そんなミニマムな情景から、全体を司る大きな宇宙を感じさせるところにシフの真骨頂がある。
シフのアプローチは、バッハであろうとシューマンであろうとブラームスであろうと、決してブレることがない。それは、音楽の最もスピリチュアルなものを心眼とでも云える深く鋭く研ぎ澄まされた感性で掬い上げ、そのまま聴き手に優しく提示すること。ここぞというフレーズで唸り声を上げて気合十分に聴かせる演奏家もいるが、シフはそうした「力」とは無縁のやり方で音楽の持つ高い精神性を表現する。今読んでいるシフの著書「静寂から音楽が生まれる」というタイトルを具現した世界がある。本割最後の演目のベートーヴェンの告別ソナタも、力まず、慌てず、激さずにアポロ的世界を描き、終楽章では高らかな讃歌を謳い上げた。
この世を超越したようなシフの演奏は、そのままおなじみの「アンコールの部」へ突入する。浄化された彼岸の世界のバッハ、心洗われるモーツァルト、慈しみに満ちたアラベスク、ちょっとおどけた気分も見せた「楽しい農夫」では客席の笑いも誘った。これでおしまいと思った聴衆がいつまでも盛大な拍手とブラボーを送り続けると、シフはまたもやピアノの前に座り、客席のざわめきが収まらないうちにシューベルトの即興曲を奏で始めた。目を閉じて聴いていたら、日本が、そして世界が新型コロナウイルスによって置かれているこの窮状を神様が静かに眺め、救いをもたらしてくれるような気分になり、閉じた瞼の奥に涙が溢れた。
弾き終わると、それまでブラボーを叫んでいた人達も声を失い、熱い拍手だけが会場を包んだ。満場のスタンディングオベーション。もう言葉は必要ない。アンドラーシュ・シフに心からの感謝を捧げたい。
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