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東京・春・音楽祭2022 パウル・ヒンデミット

2022年04月19日 | pocknのコンサート感想録2022
4月17日(日)東京春祭ディスカヴァリーシリーズ vol.8 パウル・ヒンデミット
~東京・・音楽祭 2022~
飛行船シアター


【曲目】
1.温泉地で朝7時に下手なサロンオーケストラが初見で演奏した「さまよえるオランダ人」序曲
2.ヴィオラ・ソナタ Op.11-4
3.瞑想曲
4.歌劇「画家マティス」~第6場1景
5.組曲「1922年」Op.26~「行進曲」、「夜曲」
6.歌曲集「マリアの生涯」Op.27~ 「キリストの降誕」、「カナの婚宴」
【演奏】
Vn:三又治彦、猶井悠樹/Vla:佐々木亮/Vc:小畠幸法/S:冨平安希子/Bar:小林啓倫/Pf:有吉亮治、冨平恭平
【レクチャー】中村 仁


東京・春・音楽祭は、近現代の作曲家にスポットを当てた企画が多くて嬉しい。今日の主役はヒンデミット。中村仁氏のパワポを使ったわかりやすい解説のおかげで、作曲家と作品の背景について理解を深めながら演奏を楽しむことができた。

レクチャーの前に前触れなく始まったのが、最初の「さまよえるオランダ人」。開演前に音出ししていたチェロの小畠さんがその場で寝込んでしまい、そこへヴァイオリンの2人が「オランダ人」の水夫の歌を歌いながら陽気に登場。小畠さんも起き上がり、佐々木さんも加わって演奏が始まった。この演出は今日のメンバーによるオリジナルとのこと。衣装も奇抜で、ヒンデミットがユーモアと遊び心で編んだ「オランダ人」に付いている副題のイメージが演出によって更に広がった。

副題には「下手なサロンオーケストラ」とあるが、単なる下手くそな演奏ではない。音程やリズムはヒンデミットの指示通り(?)外れていても、音楽を奏でる心意気やノリがハンパでなく、調子っぱずれなのに、抜群のアンサンブルとして聴こえてくるから流石だ。ワーグナーの原曲のエッセンスを見定めつつ、サロンに欠かせないウインナワルツなんかも聴こえてくる。サロンオーケストラというのは確かに上手いとは限らないけれど、独特の節回しやノリで楽しい演奏を聴かせることも多く、この演奏ではそんな空気もうまく伝えていた。ヒンデミットはこうした類の作品を他にも書いているそうで、是非それらも聴いてみたい。

これに続く演目も多彩で、ヒンデミットの純粋な芸術作品への真摯な取り組みや、戦争や信仰との向き合い方など、作曲家の様々な横顔に触れることが出来た。ヴィオラ・ソナタと瞑想曲では佐々木さんが歌心を丁寧に紡ぎ、オペラ「画家マティス」では、マティス役のバリトンの小林さんの、きちんと意味を伴って歌詞が伝わる明瞭なドイツ語での朗々とした歌唱が心を捉えた。

ピアノの組曲を演奏したのは2人のピアニストのどちらかわからなかったが、音楽の芯を捉えた生き生きとした演奏が印象に残った。歌曲を歌った冨平さんは、オペラのときと同様に瑞々しい美声がしなやかな歌によく映えていた。ドイツ語の発音が客席では不明瞭に聴こえ、言葉の持つメッセージがうまく伝わって来なかったのは残念。ドイツでの活動経験も豊富な冨平さんなら、言葉を極めて更に聴き手のハートを捉えることが出来るのでは。

多彩な作品を楽しんだコンサートだったが、最もインパクトがあったのは最初のカルテットで、終わってみるとどこか物足りなさが残った。オペラもピアノ曲も歌曲も、どれもがつまみ食い的な選曲で、じっくり味わうことができなかったことが一因かも。これでも2時間越えのコンサートだったので、ヒンデミットがいかに精力的に幅広い分野で作曲活動を行っていたかがわかる。

もう一つ残念だったのは、石橋メモリアルホールを大幅にリニューアルした「飛行船シアター」が、クラシック音楽には向かない空間になってしまったこと。佐々木さんのヴィオラの響きに広がりが失われてしまっていたことからそれを感じた。これについては別記事で報告したい。

(後日追記)
名ホール「上野学園石橋メモリアルホール」の運命

東京・春・音楽祭2022 ブリテン「ノアの洪水」ほか ~ 2022.4.1 東京文化会館
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