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リュリ「アルミ―ド」~北とぴあ国際音楽祭2022公演~

2022年12月14日 | pocknのコンサート感想録2022
12月9日(金)
リュリ/歌劇「アルミ―ド」

~北とぴあ国際音楽祭2022~
北とぴあ・さくらホール

【配役】
アルミ―ド:クレール・ルフィリアートル/ルノー:フィリップ・タルボ/イドラオ&憎しみ:与那城敬/叡智&シドニー:波多野睦美/栄光&フェニス&メリッス:湯川亜也子/アロント&ウバルド:山本悠尋/デンマークの騎士:谷口洋介/アルテミドール&幸運な恋人:中嶋克彦/ニンフ:鈴木美紀子/勇敢な羊飼い&リュサンド:鈴木真衣
【ダンス】ピエール=フランソワ・ドレ、ニコレタ・ジャンカーキ、ダリウス・ブロジェク、松本更紗
【管弦楽&合唱】
寺神戸 亮 指揮レ・ボレアード

【演出】ロマナ・アニエル【振付】ピエール=フランソワ・ドレ【照明デザイン】加藤学【舞台監督/プロダクションマネージャー】大平久美【演出部】清水蘭子

2020年に予定されていた「アルミ―ド」の日本初の本格上演が去年に持ち越されたがこれも実現せず、今年ようやく実現を果たした。延期された期間が決して無駄な時間ではなかったと思える充実の極みの上演となった。

全幕を鑑賞して、何よりリュリの音楽の素晴らしさが伝わった。優美でエレガント、エモーショナルなものやウキウキする要素もふんだんにあり、実に多彩なアプローチで繰り広げられる。ソロ、重唱、合唱、オケそれぞれの聴かせどころが満載で、これらが一堂に会した華やかな饗宴もあり、アルミ―ドの心の葛藤が多角的に浮かび上がってくる。この音楽に4人のダンサーによる典雅で美しいバロックダンスがステージを彩り、照明効果も手伝って「本格上演」に相応しいステージとなった。

リュリは音楽史のなかで重要な作曲家という認識はあったが、ひとつも曲を思い浮かべることは出来ない程度の存在だった。このオペラが上演されたのはバッハが生まれた翌年。その時代にこんな素晴らしい作品が存在していたことを今さらながらに知ることとなった。

この感動は、優れたパフォーマンスがあったからこそ。まず称賛したいのは寺神戸亮指揮のレ・ボレアードの演奏だ。これまでの優れた上演で期待は大きかったが、今夜は改めてそのクオリティーの高さを実感した。アプローチはあくまで自然。常に歌い手や踊り手と一緒に無理なく呼吸し、細やかに丁寧に音楽を作りこんで行き、それを伸びやかに解き放つ。生気にあふれ、香りが立ち昇り、アグレッシブな熱気にも事欠かない。

シンプルなバス旋律が雄弁に生き生きと歌を息づかせ、華やかな管弦楽が歌との対話の妙を聴かせ、随所に散りばめられた多彩な舞曲では、ダンスと共に音楽が躍動し、歌い、踊る。第5幕の長大なパッサカイユは、永遠の楽園でまどろむような心地よさをもたらした。レ・ボレアードの合唱も素晴らしい。清澄で艶やかな響きがオペラに花を咲かせ、華やかさと芳香をもたらした。第2幕の「眠り」のファンタジックに漂う合唱の幻想的な美しさも極上ものだった。

歌手陣も誰もが申し分なし。先月の「レゼポペ」でも好印象だったルフィリアードルは、アルミ―ド役でも光っていた。感情のひだを多層的に重ねた柔らかく深い歌唱で、気丈なだけではなく、悩み、もがき、憧れを抱く一人の女の内面を見事に表現した。開演前に「コンディションがベストでない」とアナウンスが入り心配したが、そんな心配は吹き飛んだ。もしベストコンディションならどんな歌になったんだろうという思いは残るが。ルノー役のタルボは、艶やかで魅惑の美声とパワフルな歌唱で、アルミ―ドを魅了するに相応しい仕事を果たした。

日本勢も素晴らしかった。湯川の気高さと落ち着きのある歌、波多野の貫禄と奥行き、与那城の相手を威圧する存在感、更に、勇敢な羊飼いとリュサンドを歌った鈴木真衣の清澄な歌など、出番が少ない歌手も皆ハイレベルだった。

傑作にもかかわらず余り知られておらず上演の機会もなかった作品を、このような大規模な形で極めつけの上演で楽しませてくれたことに心からの称賛を送りたい。来年のラモーの「レ・ボレアード」が今から待ち遠しい!

レゼポペ Les Épopées ~北とぴあ国際音楽祭2022より~
ラモー「アナクレオン」ほか ~北とぴあ国際音楽祭2021より~
ヘンデル「リナルド」~北とぴあ国際音楽祭2019より~

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